第44空間
仮面があらわれたのは前回から半年ほど経ってから。
トモキ達がカズアキの所に赴いた時にやってきた。
よくこんな時期にと驚いた。
そして、やはり十数人の人間を連れてきていた。
どうも半年間隔で、そして人数も概ねそれくらいは連れてくるらしい。
今までの経験からおそらくそうなのだろうと思われた。
本人に聞いても、
「まあ、そういう事になるな」
と言っている。
明確に肯定してるとは言い難いが、否定もしていない。
だが、目安にはなりえた。
「けど、なんで俺らをこんな所に連れてきてるんだ?
何が目的だ?」
答えが出るとは限らないが、念のために聞いてみる。
「不要品だ」
「ん?」
「いらないから、ここに放り込んでいる。
それだけだ」
それを聞いていたテルオが、
「俺達はゴミってことか?」
と口を挟む。
仮面は短く、
「廃物利用だ」
とだけ答え、姿を消していった。
聞いてた者達が憤りをおぼえていく。
不要品、廃物利用。
仮面にとって自分らはその程度の価値しかないのだと。
何かに利用出来るならそれで十分だと。
そう言われたのだ。
腹が立たないほうがおかしいだろう。
だが、テルオはそれを聞いて考え込んでいく。
「たぶん、俺らを簡単には切り捨てられないだろうね」
推測ではあるが、テルオはそう考えた。
「本当にどうでもいいなら、わざわざ俺達の所に新人を連れて来ないだろうし。
何かしら教えろって言うのは、何かしらやらせようとしてる事があるからだろうね」
本当に殺すつもりなら、合流などさせないだろう。
新人の教育というか世話をさせたりもしない。
もちろん、それらが重石になりはする。
何も出来ない者を教育するのは手間がかかる。
中にはマキが死亡した原因になったような屑もいる。
それらをまとめて引き受けるとなると、いらぬ手間をかけねばならなくなる。
だが、その中から使える人間を抽出し、手塩にかけて育てていけば、先々の展望に繋がっていく。
「どうしてそうするのか分からないけど、そうしたい理由があるとは思う」
死んでも構わないというのは事実だとは思うが、無惨に死なせるのが目的ではないはずである。
使い捨てではあるかもしれないが、利用しようとしてるように思える。
「予想でしかないけど、たぶんあの仮面は何か思惑があるんだよ。
でなければ、こんな事するとは思えない」
都合良く考えてるだけかもしれないが、そういう可能性もあるとは思えた。
ただ、テルオのように考える者だけではない。
「モレらが右往左往してるのを見て楽しんでるだけ、というのも考えられるでござる」
カズアキは悲観的な考えも抱いている。
「何者かは分からぬでござるが、あれだけ訳の分からぬ事をしでかす連中でござる。
そういう事をしててもおかしくないでありましょう」
「高みの見物か」
「あくまで予想でありますが」
「いや、何だってありえるだろうね。
何が正しいかは分からないけど、何でもありえると思っておいた方が良いだろうさ」
「事実を突き止めるまでは、ありとあらゆる可能性がありえるか……」
まだ何が真相なのか分からない。
だから、思いつく全ての可能性を否定せずに考慮していく。
思い込みや常識で、これはないだろうと切り捨てるわけにはいかない。
思いも寄らない事が事実である事もあるのだから。
「ま、それよりもこっちだな」
差し迫った問題として新人達の方に目を向ける。
今回も十人以上の人間がやってきて、右往左往している。
手近な人間に説明を求めてる者や、苛立たしげにしてる者、不安を抱えて青くなってる者。
反応はだいたい同じである。
動じてない者も中にはいるが、そんなの一人くらいである。
ほとんどが今までの大半が示したような行動をとっている。
それらに声をかけ、状況を説明していく。
自分らが知ってる事を、ここにはまだ知らない事が多い事を、戦わねば死ぬ事を。
今後の予定として、まずはカズアキ達の所でモンスターと戦ってもらう事も。
それから改めてトモキ達の所にも向かってもらう事を。
「強制はしない。
俺らと一緒が嫌なら抜け出すのは自由だ」
あまり得策とは言えないが、そういう選択もあるとは伝えておく。
「ただ、このあたりはさっきも言ったようにモンスターが出る。
そいつらと遭遇すると危険だ。
たぶん、俺達と一緒に行動してる方が危険は少ない」
そう忠告もしておく。
信じるかどうかは分からないが、伝えておかねばならない事は伝えておいた。
しかし、大半はその言葉に懐疑的で、どこまで本当なのかはかりかねていた。
否定的にとらえてる者もいる。
とはいえ、いきなり訳の分からない場所にやってきた事もあり、完璧に否定出来る者もいない。
ありえないという思いは誰もが抱くが、ありえない状況に放り込まれてるのである。
嘘だと思えるような事が事実であってもおかしくはない、そう考える者がほとんどだ。
もちろん例外もいる。
「ほざいてんじゃねえよ」
そう言って否定する者もいる。
自分の目で見ない限りは信じないという性格の者だ。
頑なというか自分の考えに妙に固執してるというか。
そういった者も少なからずいる。
(そりゃ、すぐに信じられるわけねえだろうな)
それらの考えを解きほぐそうなどとは思わない。
信じないならそれで構わなかった。
事実はいずれ自分の目で確かめる事になる。
その時にどうするか本人が決めれば良い。
それよりも大事なのは、新人達がとってる態度である。
(だいたいあのあたりかな)
邪魔になりそうな連中にあたりをつけ、それとなく観察していく。
問題を起こしそうな連中は、早めに始末しないといけない。
数日は様子を見るが、容疑者的な者は早めに処理をしておきたい。
今回の処分はカズアキが行う事になっているので、トモキはその控えにまわる事になる。
いずれはやらねばならない事とカズアキも腹をくくっている。
(やってかなくちゃならないしな)
トモキの手が届く範囲で全てが起こるわけではない。
離れた所で起こる事については、その場にいる者が片付けるしかない。
いつかやらねばならない事を、これから、おそらくそれ程遠くはない時点で行う。
トモキはその手助けであり、取り漏らしの始末をする。
それが今回の役割分担であった。
一週間後。
問題を起こしてる者達を始末する。
斧を手にしたカズアキは、5人の新人を片付けた。
これで新人は10人に数を減らす。
合計31人による活動があらためて始まる。
トモキ達がこの空間にやってきて二年目もまた開始されていく。




