第39空間
「行ってきます」
「気をつけてな」
「もちろんであります」
「次は、一ヶ月後ですね」
悩みながらも出発の日になる。
2番地へ向かう者達は丘の縁を選んで歩いていく。
その背中をトモキ達は黙って見送る。
彼等とはこれからそう頻繁に会えなくなる。
片道2日や3日かかる距離は、そうそう簡単に行き来できるものではない。
一ヶ月に一度は会議も兼ねて合流する事にしたが、それまで互いに連絡は出来なくなる。
携帯電話が使えないこの空間では、遠距離の通信方法がない。
この世界に来る時に持っていた携帯電話も、今や電池切れで無用の長物となっている。
一度離れてしまえば、また会うまで連絡はとれない。
誰もあえて口にしなかったが、これが最後になるかもしれない。
そう思うと見送りの言葉もなかなか出せなかった。
また会おう、会えるだろうという期待をこめた言葉は、ここでは虚しい約束になりかねない。
だからだろうか、どうしても誰の口も重くなっていく。
かすかに浮かぶ感傷に浸ってるわけにもいかない。
カズアキ達を送り出したトモキ達も、自分達の食い扶持を稼がねばならない。
残った7人で複数のモンスターを倒して行く事になるのだから、危険と負担は以前とは比べものにならない。
最低限必要な人数と装備は手にしているが、果たして上手くいくかどうか。
不安はいつも以上につきまとう。
それでもトモキ達は、モンスターを引き込む為にトンネルへと向かっていく。
手順は既に決めてある。
今までのように人数をたのんで取り囲む事は出来なくなったが、物陰に隠れながらならばやりようはある。
全員のレベルが上がってる今なら、単に人数を頼むだけの時以上の事も出来る。
それでもかなりの危険が伴いはするが、ここに来た直後の頃よりは良い。
その頃だったら、数人で1体を相手にするのが限界だった。
地形を利用しても複数を相手にするなど考える事も出来ない。
今は、それをどうにかしてやり遂げる事が出来る可能性がある。
だから大丈夫……なんて事はないが、それでも可能性に賭けるしかなかった。
暫くしてトンネルからモンスターが出て来る。
数は4体。
今の状況ではかなり苦しい。
だが、やるしかない。
ボウガンで狙いを付け、引き金を引く。
狙い通りにモンスターにあたり、2体は少し衝撃を受けたようだ。
攻撃を仕掛けてからすぐに仲間は逃げ出す。
トモキだけその場に残り、モンスターを引きつける。
危険であるが、相手に自分達の存在をはっきりと示しておかねばならない。
でないと追ってきてくれれないかもしれない。
今までそんな事はなかったがこの先はどうなるか分からない。
ありがたい事に今回もモンスターはトモキを視界におさめてくれてるようである。
しっかりとトモキに向かってやってきている。
それを見てトモキも森の中に逃げ込む。
ここからが本番になる。
森に入ってすぐに周囲に潜伏する。
モンスターがやってくるのが見えて、なおかつ相手の注意を引かない場所に潜む。
そこからやってくるモンスターを見つめ、状況を確かめる。
(前と後ろで差があるな)
ボウガンの攻撃が当たったものとそうでないもので違いが出てるのだろう。
それを見てトモキは位置を少し変えていく。
相手の様子は見えなくなるが、攻撃がしやすい位置に入り、相手が来るのを待つ。
足音が大きくなり、接近を告げてくる。
そうしてるうちに目の前を2体のモンスターが駆け抜けようとする。
その2体目が前に来たところで、横から飛び出す。
ステータス画面から取り出した長剣を抱えて突撃し、無防備な横腹を貫く。
完全な奇襲になった攻撃に、モンスターは避ける事も守る事も出来ない。
刃を腹に無理矢理押し込まれていく。
それをモンスターが気づき、腹の痛みを知覚し、のたうち回るまでにトモキはそこから抜け出す。
後ろからやってくるモンスター達がそれに気づき、すぐに横の木陰に隠れようとするトモキに目を向ける。
剣を突き刺されたモンスターが絶叫をあげたのはその直後だった。
悲鳴によって前を走っていたモンスターも足を止める。
何事かと思って振り向いた先で、後ろを走っていた仲間がのたうち回ってるのが見えた。
何があったのかと思ったのか、先頭を走っていたモンスターが戻っていく。
その間に、彼等の後ろにいたものちが、のたうち回ってるモンスターの横の茂みに入っていく。
それを不思議そうに見つつも、先頭のモンスターは苦しげに動くものに近づく。
モンスターにも多少の知能はあるのだろう、苦しげに叫ぶ仲間を見つめ原因をさぐろうとする。
しかし、血液が腹から出てるのは理解してるらしいが、そこに突き刺さった剣までは理解出来ないようだった。
腹に何かあるなとは思ってるかもしれないが、それをどうすれば良いのかという考えには至ってない。
地面に手を付き苦痛の声をあげる仲間を助ける事も出来ずにうろたえている。
そうしてるうちにも苦痛をもらす仲間は更に苦しげに身をよじり、よじって更に苦痛をもらしていく。
どうする事も出来ずにいるうちに、今度は別方向から悲鳴があがった。
先ほど仲間が分け入った茂みの中からだ。
その方向に顔を向けたモンスターだが、そこからは何が起こってるのかは全く見えなかった。
後ろをついてきモンスター達を振り切ろうと木陰を利用して移動していく。
木を伝うように移動し、追跡の邪魔になるようにしていく。
そうしながらも仲間のいる方向に向かう。
やらねばならないのは逃げる事ではなく、誘導する事。
その甲斐あって、モンスターは仲間が潜んでいる場所についてきてくれる。
さっさと諦めて欲しいと思いつつ、そのしつこさがありがたくもある。
モンスターはそのまま目的地までついてきてくれて、目出度く他の者達の攻撃にさらされる事になった。
物陰から出て来たテルオともう一人が、ボウガンでモンスターの頭を狙う。
互いの距離が数メートルという近さである。
狙いを外す事は無い。
頭を矢が貫通し、モンスターがのけぞる。
そこから別の者達が接近し、足を切る。
頭を潰したとて油断は出来ない。
完全に息の根を止めねば、何らかの拍子で動き出すかもしれない。
絶命したと思って接近したら急に動いた、という事もありえる。
なので、動きを止めるのは最優先である。
例え急に行きを吹き返したとしても、一瞬だけ何らかの行動をとったとしても、動きが制限されていれば危険は減る。
嬲るようにも思えるが、そこまでしないとモンスターは危険である。
頭を潰す、首をはねる、心臓を突き刺す────それくらいしないと安心出来なかった。
足を切るくらい、まだまだ対処としては序の口でしかない。
それでも足を切られたモンスターはろくに抵抗も出来なくなる。
傾く体を前足を使って支え、攻撃をするのが難しくなる。
そこに、土を顔に投げかけられ視界も奪われる。
体に剣を突き刺され、命を急激に失っていく。
今まで他のモンスターがたどったのと同じ行程を経て、このモンスター達も死に向かっていく。
地面に伏せるほど頽れたそれらに一人が斧を持って接近する。
振り上げたそれは頭に打ち込まれた。
一度だけでなく、二度三度と。
それでモンスターはほぼ確実に絶命していく。
もう1体も同じように処理される。
まずはこれで2体の始末が終わった。
残った2体のうち、まだ無傷の1体に7人全員で向かっていく。
倒れた仲間の所にいたそいつに、ボウガンからの矢が飛んでいく。
一本は腰に、一本は背中に当たる。
それを受けてモンスターも悲鳴を上げた。
更にそこに身を隠しながら接近したトモキが腹に剣を突き刺していく。
倒れ伏している仲間と同様の状態になったモンスターは、これも同じように苦しげな悲鳴を始めた。
好機とばかりにトモキの仲間が接近し、モンスターに刃を振りおろしていく。
先にトモキから攻撃を受けて息も絶え絶えになっていたものは、そこで完全に止めを刺された。
無傷で残っていたものも、7人による同時攻撃で絶命した。
人数が減って不安のあった戦闘だが、とりあえず最初の一回は上手くこなす事が出来た。
この日、トモキ達は24体のモンスターを倒した。
今日はこっちも更新してる
「なんでか転生した異世界で出来るだけの事はしてみようと思うけどこれってチートですか?」
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