第30空間
壁の穴……というかトンネルが見える位置に陣取っての観察が始まっていく。
縁がしっかりとした素材で固められているので、自然に出来上がってるとは言い難い。
だから、穴という呼び方ではなく、トンネルという言い方に落ち着いた。
そのトンネルから何がどれくらい出て来るのかを確かめていく。
調べていて分かったのだが、意外と出て来る数が多い。
一度に何体かの集団で出て来て、それが幾つもやってくる。
一日で数十体ほど出て来て、あちこちに拡散していく。
空間がそこそこ広いからそれらで埋まる事はないようだが、これは意外だった。
モンスターが出てくるにしてももっと少ないと思っていたのだ。
倒しても倒しても消えないはずである。
「ですが、これは上手くいけば養殖が可能であります」
「養殖って……飼い慣らすのかよ」
「まあ、似たようなものでござりますな」
冗談と思いたいがどうも本気らしい。
カズアキの言葉に、他の何人かも頷いている。
「あいつらは結構な数でこちらにやってきてるであります。
ならば、倒せばそれなりの貢献度を手に入れる事が出来るであります」
「そりゃそうだが。
でも、倒すのも大変だぞ」
「もちろんであります。
まして連中は何体かでまとまって来るであります。
我々が一斉にとりかかっても倒せない可能性があります。
むしろ、危険ですらあります」
「じゃあ、どうする」
「正面から戦おうのは危険であるなら、直接当たらないようにするだけであります」
「出来るなら、それなりのものを作りたいでありますが、さすがにそれは無理でしょう」
モンスターの足を遮る堀や柵を作りたいという。
だが、そのためには材料が必要だし労力も必要だ。
時間だってかかる。
「この人数ではさすがに無理であります。
もっと人が多ければどうにかなるでありますが」
そこで事前の柵として、適当なところまでモンスターを誘導する事にする。
モンスターは人を見ると襲いかかってくるようだし、誘導する事はそれほど難しくもない。
「遠距離からボウガンで攻撃して注意を引き、森までおびき寄せるであります」
そうしたら、中でモンスターを取り囲んで倒す。
それでも複数のモンスターを倒すのは大変な事になるが、おびき寄せたところで奇襲をかければ勝算はある。
「機動力が必要なので大変ではありますが、これなら森の中でモンスターを分断する事も出来るでありましょう。
そこまで持ち込めればかなり有利に事を運べるかと」
もちろん簡単にいくとは限らない。
今までと違い、同時に複数のモンスターを相手にする事になる。
人数はこちらが多いにしても、それで優勢を確保出来るとは言い難い。
まして半数近くが女だ。
直接の戦力としては頼りない。
「まあ、そこは貢献度を稼いで改善するしかないであります」
ボウガンを追加購入して戦力を増強する。
それで女も戦闘が出来るようにするしかない。
「その為の初期投資として、出来るだけモンスターを倒さないとどうにもなりませぬ」
無理を承知でやるしかないという事である。
仕方ないがそれも事実である。
今の貢献度では便利な道具も手に入らない。
ここを打破するには、多少の無理はやむを得ない。
「分かった、なるべくがんばろう」
「もちろんであります」
考えに賛同した者達ばかりではないが、大半は納得して理解を示した。
今の状況ではジリ貧なのは明白だ。
今はどうにかしのいでいても、いずれどこかで行き詰まる。
そうなる前に、余裕のあるうちに行動しておく必要があった。
「まあ、食ってくだけじゃなくて、他にも色々道具は欲しいしね」
「技術も。
モレらが使ってる武器も痛みがありますし。
それを補修できるようになりたいであります」
「治療が出来る人も?」
「もちろんであります。
マキさんのような人を出さないためにも、そういう能力のある人が必要であります」
「だから貢献度稼ぎか。
まあ、確かにそうだよね。
今のままってわけにもいかないだろうし」
「その通りであります。
道具だって必要であります。
いつまでも、今のような野宿同然の状態でいたくもありませぬ。
家を造ったりして、この状況を改善したいであります」
「そうなると、かなり稼がないといけないね」
前途の多難さを想像して、テルオは苦笑する。
カズアキも同じような顔をしてため息を吐く。
「でも、やらないと駄目なんであります」
そんな二人のやりとりを聞くとはなしに聞いていく。
今の状態、先の事。
考えねばならない事ではあるが、どうしてもその事がお後回しになっている。
モンスターを倒す事で全てがいっぱいで、それ以外の事については考えてられない。
無視するわけにもいかないが、それどころではない状況が続いている。
どうしても先の事を考える事が出来なかった。
この状況を多少は改善したとして、その先に何があるのか?
この訳の分からない空間に放り込まれて、いったい何をどうすれば良いのか?
そもそも、何でこんな所に放り込まれてるのか?
考え出すとそんな事が浮かんでくる。
解決方法も見いだせない疑問ばかりが出て来る。
目の前の問題から発想が飛躍しすぎていた。
無視出来ない問題であるが、目先の打開には結びつかない。
それもまた今の状態や、先の事についてではあるだろう。
なのに二人の話している内容とは隔たりがある。
(なんだかねえ……)
こんなんでいいのかな、と思ってしまった。




