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捨て石同然で異世界に放り込まれたので生き残るために戦わざるえなくなった  作者: よぎそーと
二章

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第26空間 当然の結末3

 そろそろ動こうと思った長茶髪は、思った以上に足も体も強ばってるのを感じた。

 急いで逃げた結果が出ている。

 足はつま先から膨れあがってる気がする。

 動こうにも膝に力が入らない。

 歩く事は出来るが、とてもゆっくりしたものになってしまう。

 追跡を振り切るのは難しい。

 だが、こんな状況でも彼は何とかなると思っていた。

 事前にかなり走り込んでいたことで大きく引き離したと思ってる。

 それからとった長い休み時間も、間に存在する距離を考えれば大したものではないとも思っていた。

 疲れて体はなかなか動かないが、それでもどうにかなるだろうとタカをくくっている。

 そこに、彼我の能力差などを考慮したところはない。

 実際にどれだけ動き、どれだけ休んで、どれだけ移動したのかを考えてもいない。

 もしかしたら相手はすぐそこまで迫ってるかもという危機感もない。

 総じて、自分に都合の良いことしか考えてない。

 自分以外の事について全く何も考えてはいないし、考えるという発想がそもそも無い。

 だからこそ、迫って来る危機に対して適切な対応などとれるわけもない。

 自分がどれほど危機的な状況に陥ってるのか全く分かってない。



 なんとか足を動かし、休み休みながらも進んでいる長茶髪の背後からトモキは迫っていた。

 追いついたと分かってからのトモキは慎重である。

 草や枝を揺らさないよう注意しながら進み、相手の姿を確実にとらえつづける。

 距離はなかなか縮まらないが、慌てて事をしくじるような事もしない。

 少しずつ大きくなっていく姿を見ながら、物陰を伝ってじっくりと進んでいく。

 周囲がそろそろ暗くなっていくが、そんな事もはや気にする必要もない。

 相手の姿は見えてるのだから、見逃さなければ追い詰める事は出来る。

 この場合、暗くなるのも都合が良い。

 相手に見つからずに接近出来る可能性が増える。

 機会があるなら日があるうちに片付けてしまうが、そうでなければそれでも構わない。

 見た所、かなり疲れているようなので、追い込みもそれほど難しくはないように思える。

 今は少しずつでも距離を縮める事が出来れば良かった。



 長茶髪の疲労は極限に達していた。

 全力で走ったツケがまわってきてる。

 少しでも動こうと思うが、体が言う事をきかない。

 体力にはそれなりに自身があったが、野道を進むのはそれほど簡単ではない。

 舗装された道路を進むより簡単に疲労が積み重なっていく。

 適当な木にもたれかかったところで完全に限界がきた。

 足はもう動かない。

 立ってるのもやっとだ。

 このまま座り込んで休みたかった。

 そうしないのは、記憶に焼き付いたトモキの姿だった。

 止まるわけにはいかないと、何とか動こうとする。

 だが、もう無理だった。

 さすがにしばらく休まねばならない。

 仕方なく、その場に座り込もうと思った。

 その瞬間、足の感覚がなくなった。



 接近しても自分に気づきもしない相手の後ろ姿を見ながら刀を構える。

 それを斜めに切り下ろし、相手の足を切る。

 骨ごととは行かなかったが、太ももを大きく切断する。

 衝撃で足がもつれ、長茶髪は横に倒れていく。

 その体を踏みつけて、腕に刀を向ける。

 刃がぶつかると同時に、接触面が切り裂かれた。

 二カ所の切断箇所から血液が盛大にあふれていく。

「あ…………ああああああああああああああ!」

 絶叫がようやく響き出すが、気にせずトモキは刃を振るっていく。

 残った手足も切れ目を入れ、動けなくしていく。

「な、が……」

 うめき声をあげる相手に、ステータス画面の所持品におさめていた剣を取り出す。

 足下にいる男が使っていた物だ。

 それの切っ先を下に向け、腹に向かって突き刺す。

 それは胴体を貫通し、地面にもめり込んだ。

 下の土壌が柔らかかったせいか、刀身が結構めりこんだ。

「うあ…………」

 地面に縫い付けられた長茶髪は、苦しげな声を短くもらしたが、それ以上の声はあがらなくなった。

 腹を貫通されてそれどころではなくなったかもしれない。

 そんな相手にトモキは、

「返しとくわ、これ、お前のだし」

とだけ伝えた。

「まあ、あとは頑張ってくれ。

 お前とはここまでだ」

 長茶髪はトモキを見つめる。

 睨みつけようと思ったが、相手の表情をみてそれも出来なかった。

 トモキの、睨んでるでも恨んでるでもない無表情に、吐き出そうと思っていた言葉が引っ込んだ。

 そんな長茶髪に、

「なんでお前なんかのために、あの人がああなっちまうんだよ」

と述べる。

 それがマキの事だと分からず、長茶髪は疑問を抱いた。

「ま、時間もないようだしここで。

 じゃあな」

 そう言ってトモキはその場を後にした。

 残された長茶髪は、痛みと、急激に失われていく血液と体温と意識に、本格的な生命の危機をおぼえた。

 このままでは自分の命は確実になくなると嫌でも実感する。

「やだあああああ……」

 死にたくない、助けてくれ、と思った。

「なんで、死ぬ、やだ……」

 迫って来る死への拒絶を口走る。

「なんでこんな……」

 どうしてこうなったのかも全く分からなかった。

 ここに至っても彼は、何がどう悪かったのか理解もしていない。

 そんな風に泣いてわめいてたからだろうか、接近してくるものにも全く気づかなかった。



 少し離れたところでトモキは、地面に突き刺された長茶髪にモンスターが迫っていくのを眺めていた。

 事前に技術でモンスターが近くにいる事を、その気配が接近してる事を感じて長茶髪から離れた。

 最後の止めを自分で刺せないのは悔しいが、それはモンスターに譲る事にした。

 この手の事ならうってつけの相手だ。

 長茶髪もより大きな絶望を感じてくれるだろう。

 そうでなくても与えた傷で長くは生きられなかっただろう。

 死ぬまでの猶予を得る事で、確実に死ぬという恐怖を味わってもらうためではあった。

 それが保険となってくれるのはありがたい。

 モンスターが手を出さずとも、いずれは確実に死んでくれる。

 やらかした事を考えればこんなもので済ませたくはなかったが、さすがにこれ以上はどうしようもない。

 本当に間近に近づくまで全く気づいていなかったらしい長茶髪の、それが目の前にきてようやくあげた絶叫を聞いた溜飲を下げる事にした。



 絶叫ごときでモンスターが消えるわけもない。

 モンスターもそんな長茶髪に遠慮するわけでもない。

 ただ、振り上げた前足で長茶髪をひっかくようにぶったたいていく。

 猫が前足でネズミを転がすように、縫い付けられた長茶髪は地面をころがっていった。

 腹に剣を突き刺したままで。

 当然悲鳴もあがるが、だからと言って結果が変わるわけもない。

 手足がおかしな方向に流れながら地面の上を転がる。

 そんな長茶髪を追っていったモンスターは、接近すると再び前足で長茶髪を吹き飛ばす。

 軽く何メートルか宙を舞った体は、地面にぶつかって転がっていく。

 それが何度か繰り返されるなかで、うめき声も聞こえなくなり、かすかに残っていた体の動きも消えた。

 最後にモンスターが、振り上げた腕で長茶髪の体をひっかき始めたあたりでトモキはその場を立ち去った。

 頑丈な爪で体が四散していくのを見れば、十分だった。

 そこまでやられれば普通の人間は生きていない。

 あとはモンスターが向かってこないうちにこの場を離れる事を優先した。



 暗くなっていくので、適当な所を見つけて野営をしていく。

 今からでは戻るのも大変だし、夜中移動するのも危険だった。

 自分の足跡を辿って戻るのもあり、何も見えないとどうしようもない。

 明るくなるまでは大人しくしてるしかない。

 それに、なんだかんだ言って疲れた。

 それほど激しく動いたわけではないが、長距離を移動した事に変わりはない。

 少しは休んでおきたかった。

 腹も減っている。

 貢献度を使って食事を手に入れ、それを食べていく。

 意外と空腹だったようで、食事はどんどん進んでいった。



(そういや)

 とある事実に思い当たる。

(あいつの名前、知らなかったな)

 長髪の茶髪、略して長茶髪。

 そうとしか認識してなかった。

 それ以外の事など知ろうとも思わなかった。

 知りたいとも思わなかったし、知る必要性がなかった。

 ただ、それだけの存在だった。

 それだけの奴に、ここまでの事をされた。

 許す事など出来なかった。

 許す必要もないと思った。

 散々やらかしておいて、更に戦闘までひっかき回した。

 マキも酷い事になっている。

(大丈夫かな)

 その後のマキがどうなったか知らないが、どうか無事であってもらいたいと思う。

 最後に見た時の様子から、容態は絶望的ではないかと感じてはいるが。

 それでも何とかなっているのではと期待したかった。

 そこまでの状態にさせた連中である。

 どうなろうと知った事ではない……そんな程度で済ますつもりにはなれなかった。

 むしろ、こうなる前にかたをつけておくべきだったとすら思う。

(あいつらのせいで……)

 3人の無謀な行動のせいで、トモキ達全員が死ぬ可能性があった。

 実際にマキが悲惨な事になった。

 長茶髪達3人もモンスターにやられた。

 もっと運が悪ければ本当に全滅してただろう。

 最初に3人を片付けておけば、トモキ達7人が危機にさらされる事はなかった。

 わずかな人数の連中のために、他の多くが危険にさらされて良いのか?

 冗談ではなかった。

 そんな危険を抱え込む理由などない。

 先に何らかの形で始末しておけばこんな事にはならなかっただろう。

 そもそも上手くやっていけない兆候は初めて会った時から発生していた。

 それをなんだかんだで受容してたのが間違いだった。

(どうするよ……)

 これからも似たような事は起こるかもしれない。

 その時にどう対応するか、どんな対処をするか。

 その事も考えてしまう。

 二度と同じような事態に陥りたくはない。

 だとすれば何をどうすれば良いのか。

 暗い夜の中、ただその事だけを考えていく。

 結論はとっくに出てはいたが、それしかないのかと自問自答が続いていった。

明日の19:00に続きを公開予定

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