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捨て石同然で異世界に放り込まれたので生き残るために戦わざるえなくなった  作者: よぎそーと
二章

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25/102

第25空間 当然の結末2

(なんだなんだなんだ────)

 言葉に変換するならそうなるだろう。

 思考は全く形にならず、衝動が渦巻いてる状態である。

 ただ、目にしたものを理解出来ず、それでも危険を察知した本能が取り得る最善を選択していた。

 木々の間を抜け、草や枝をかきわけ、ただひたすら前へ進んでいく。

 とにかく前に進んでいく。

 今いる場所より遠くを求めて、何も考えずに。

 何処にいるのかとか、周囲の安全だとかは考えない。

 ここがモンスターのうろついてる危険地帯である事も忘れている。

 より明確ではっきりとした殺意への恐怖が上回った。

 長くはない長茶髪の人生であるが、あのようなものを見たのは始めてだった。

 怒り狂ってる者には何度か遭遇した事があるが、それとは決定的に何かが違う。

 理性を失って猛獣のようになってる者も怖い。

 目の前にいたらとりあえず避けておきたい。

 だが、怖いと言ってもそれはまだ人間の範疇だ。

 何かしらおさえが聞いている。

 もちろん力は全力で解放されてるだろうが、それでも大事な部分がしっかりと閉ざされている。

 今にして思えばという事であるが、何故か浮かび上がってくるこれまでの記憶を見ていてもそう感じられる。

 だが、先ほどのは違った。

 迷いや躊躇いがこれっぽっちも感じられなかた太刀筋。

 呆気なく振られた刀で切られた仲間(と言えるほどの仲でもなかったが)。

 目の前で行われたそれと、それを実行した者を見た時、長茶髪は根源的な恐怖を感じた。

(やばいやばいやばいやばい────)

 思考がひたすらに警報を鳴らしている。

 先程見たのは、あの時のトモキは、怒りや憤りといったものとは異次元の何かを放っていた。

 激情などこれっぽっちもなく、気配もほとんど感じない。

 圧迫感や威圧感もない。



 だが、とてつもなく冷めていた。



 体を通り抜けて心が、肝が冷えるのを感じた。

 やばい、まずい、という思いが形になる前に体が動いていた。

 この空間は特に暑いでも寒いでもないはずなのに冷や汗が止まらない。

 それほど底冷えするような何かを、あの時の男は放っていた。

(なんだよ、なんなんだよ)

 自分がいったい何をしたのか、なんであんなものを向けられるのかも分からない。

 原因など何にもない(と長茶髪は感じてる)のになぜあのような冷たい目を向けるのかも分からない。

 だが、それが自分に向けられているのは察したし、そのままそこにいたら危険なのも察知出来た。

 だから長茶髪は逃げていた。

 どこにいるのか分からないモンスターからではない。

 はっきりとした方向性を持って向かってくる恐怖から。



 向けられた冷たいものが殺意である事を、長茶髪は全く理解してなかった。



 追跡の足はなぜか酷く重かった。

 どうしてだかとても遅かった。

 草や枝が邪魔する、木々を迂回せねばならないなどの理由はある。

 しかし、それとは根本的に違う理由が足を鈍らせている。

 体は言うまでもない。

 視界や視野が狭くなるという事は無い。

 意識はすこぶる冴えていて、おそろしいほど集中している。

 逃げていった者の痕跡をはっきりととらえる事が出来るほどだった。

 それほどはっきりと出来上がってるわけでもないのにどうして分かるのか不思議なくらいである。

 それだけ神経が研ぎ澄まされているからだが、本人に自覚はない。

 また、研ぎ澄まされてると同時におそろしいほど落ち着いてもいる。

 集中しながらも気持ちや体が沈静化されている。

 余計な雑念がない。

 この不思議な状態のおかげか、痕跡の発見に苦労はなかった。

 ほとんど何も残ってないと言ってもよいのに、何故か目についてしまう。

 何かが吹っ切れていた。

 余計な思考が一切無い。

 何も考えないというわけではないが、不要な事は浮かんでこない。

 今必要な部分だけが働いていた。

 機能優先で体の全てが動いている。



 両者の距離は少しずつではあるが開いている。

 全力で逃げる長茶髪に対して、トモキは基本的に歩いてるのだから当然ではある。

 だが、決して極端な開きが出来ているわけではない。

 全力で逃げるが、その都度休みを入れてる長茶髪と、速くはないが着実に進むトモキには大きな差は無い。

 それでもやはり差は出ているのだが、やがてその差は全くといって良いほど無くなっていく。

 動き疲れた長茶髪の休み時間が長くなっていくからだ。

 何より長茶髪にとって分が悪いのは、トモキが足跡を確実に見つけていく事だった。

 どれほど急いでいようと、痕跡を残しながらでは意味がない。

 行き先が分かってるなら、急がなくても確実にたどり着ける。

 逃げ回るのは、掴まるまでの時間を引き延ばしてるだけでしかなかった。



 疲れ切った長茶髪は息を荒げてへたりこんだ。

 幸い、今のところモンスターには遭遇してない。

 どこをどう進んで来たのかも分からず、座り込んだのがどういった場所なのかも分からない。

 だが、とりあえず生きている。

 他の何かとも遭遇してない。

 上手くいっている。

 今のところは。

(このまま、どこかに……)

 どこに、とかすかに思うが、そんな事はどうでも良かった。

 ここではないどこかならば、それがどこであっても良い。

 強いていうならば、

(あいつがいない所に……)

 無意識にそんな事を考えていく。

 思考というほどはっきりとしない考えが長茶髪に目標を与えていた。

 とにかく危険なあれから、少しでも遠くへ逃げる。

 それしか考えてない。

 そうして向かった先でどうなるかなんて考えもしなかった。

 どのみち生きていくならモンスターを倒さなければならない。

 そうして貢献度を稼いで、最低でも食い扶持は確保せねばならない。

 ここで生きていくための最低限の活動であるそれを為さねばならない。

 なのだが、その事も考えてはいない。

 一人でモンスターを倒せるのか、という事についても考えてない。

 逃げるという一点のみを考えて行動してる。

 それほど頭を使う余裕がなかった。

 考えるのはトモキの事だけだった。

 あの恐ろしい存在から逃げねばならない……と思ってしまう。

 だから動いていた。

 しかし、さすがに限界がきていた。

 体が動かない。

 疲れていた。

 逃げ無いと、と思うがどうにもならない。

 ……ここに来てようやく休まなければならないと思い至る。

 また立ち上がってここから逃げねばならないが、その為の体力を回復させねばならない。

 少しだけでも、ちょっとだけでも。

(まだ、大丈夫だよな)

 どれくらい引き離したかは分からないが、まだ時間の余裕はあるはずだった。

 ちょっとだけ休むだけの時間はあるように思えた。

 さすがに見通しの良い所に座ってる気にはなれなかったので、身を隠せそうな所に移動はしておく。

 と言っても、気が少しは密集してるあたりに腰を落ち着けるくらいだ。

 他の所よりは良いが、体を隠せてるとは言い難い。

 だが、長茶髪はそこに腰をおろして、少しだけ落ち着く事が出来た。

 そこなら周りに見える事はないだろうと思って。



 接近していくトモキは足跡を追いながら着実に近づいていった。

 速度は決して速くはないが一定を保ち、決して落ちたりはしない。

 そして、はやり猛って先を急ぐ事も無い。

 消耗はあっても急激なものではなく、決して体がへたばるような事は無い。

 淡々とした動きには派手さは全く無い。

 しかし、静かに着実に結果を出していく着実さを示している。

 その動きは、長茶髪を確かに追い詰めていっていた。

 続きを22:00に公開予定

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