第24空間 当然の結末
物陰から飛び出したトモキは、彼方をモンスターに突き刺していった。
いつも通りの感触が手から伝わる。
それから飛び退ってモンスターの攻撃範囲から外れる。
いつもならここで別の誰かが動き出すのだが、今回はそれを期待出来ない。
テルオ達がまだ残ってるが、接近戦では期待出来ない。
やるならトモキだけでやるしかない。
はっきり言って不利である。
勝つ見込みはかなり低い。
ボウガンによる攻撃と、トモキが突き刺した分があるとはいえ、一対一では勝つ見込みが見えない。
それでもやるしかなかった。
倒れてる連中の剣を手に入れようかと思うが、場所が悪い。
トモキの所からは離れてるし、モンスターに近い。
そこに踏み込んでいくのは無謀に思えた。
とりあえずモンスターの背後をとりながら移動し、ステータス画面を開く。
画面は半透明なので視界をそれほど妨げる事もない。
モンスターの動きを見ながら操作をするのは手間だが、目的の画面を表示させていく。
時間はかかるが確実に進んでいく画面に目的の物を見つけ、それを取り出す。
所持品一覧から選択されたそれは、狙い通りトモキの手の中にあらわれた。
左手で掴んだそれに右手を添えていく。
新品を購入してから所持品の中に保管していたかつての武器。
それを再び取り出し、鞘から抜く。
抜き身になった刀身を再び前に突き出し、モンスターに突進していく。
死角から飛び込まれたモンスターは、再び体に刃を埋め込まれた。
急所は外してるかもしれないが、体を二カ所も貫通させられてる。
いずれ、ほぼ確実に倒れる事だろう。
そうならないまでも、動きは鈍くなる。
その間にトモキは、倒れてる物から剣を取る。
モンスターに吹き飛ばされた長茶髪の仲間二人は、いまだにふらついていた。
そんな連中から武器を奪い、モンスターに突き刺していく。
都合四本の刀剣がモンスターに刺さっていく。
さすがにモンスターもこれはかなりの苦痛だったようで、動きはほとんどなくなっていく。
そこでもう一度ステータス画面を開き、もう一振りの刀を取り出す。
もうほとんど使ってないかつての武器である。
柄と刀身の固定部分がかなり弱っていて、ぐらつきが相当なものになっていた。
いずれ修繕が可能になるまで放置しておこうと思ったが、そんな事を言ってる場合でもない。
それを地に伏してのたうちまわるモンスターの頭に振りおろしていった。
ぐらつきがあるので威力はかなり落ちるが、まともに動く事が出来ない頭に打ち込むのはそれほど難しくはなかった。
頭を吹き飛ばされ、地面に崩れ落ちていくモンスターを見ながら、トモキは事をとりあえず終える事が出来たのを確信した。
それから核を取り、刀を回収してマキの方へと向かう。
既にテルオがマキに寄り添ってるが、表情が厳しい。
「まずいかもしれん」
絶望的な事を言ってくれる。
「呼びかけてるが意識が戻らん。
治療が必要だと思うんだが……」
それはこの世界では絶望的な状態である。
ここには医療知識や技術を持った者はいない。
治療薬や治療器具も当然ながら存在しない。
例えあったとしても、それを用いる事が出来る者がいなければ無用の長物だ。
実際、購入可能品の一覧の中には治療に使える道具や薬もあるが、この状況では何がどれくらい必要なのかも分からない。
打つ手がない状態だった。
「ねえ、貢献度は残ってない?
あるなら治療関係の技術を身につけて……」
「ごめん、今の俺にはそんな余裕はないよ」
「あの、私もそのようなものは……」
テルオと中年男が申し訳なさそうに首を横に振る。
分かっていた事だが、やるせなくなってくる。
いずれは必要になるだろうと思っていたが、そこまで身につけてる余裕がなく、後回しにしていた。
そのツケが今になって出てきてしまった。
「トモキ君は?」
「駄目です。
俺もこの前成長させて……」
それからまだ日がそれほど経ってない。
貢献度は成長には全然足りない程度しか無かった。
そうしてる間にもマキの状態は悪くなっていくようだった。
だが、どうする事も出来ない。
黙って見てるのが関の山だった。
「……痛ってえ」
鬱陶しい声が耳に入ってきた。
長茶髪とその仲間達は、ようやく立ち上がる事が出来た。
モンスターに突っ込み、今日は目に物見せてやろうと思っていた。
だが、結果は散々なもので、三人は最初の段階で吹き飛ばされていた。
貢献度を稼ごうと頑張ってみたが、結果は散々だった。
鬱陶しいマキやトモキ達にこれ以上デカイ顔をさせないためにも、やれる所を見せておかねばならない……と考えての事だった。
そして吹き飛ばされ、ほとんど何もしないままモンスターは倒れていた。
というか、トモキ一人で倒していた。
それを見て長茶髪達は背筋をふるわせていた。
彼等は今までとってきた言動や態度を思い出し、それを誰にぶつけていたのかを理解する。
彼等は与しやすいと思ってトモキ達をとらえていた。
いわゆる格下扱いという奴である。
人間関係を上下関係、支配者か奴隷というような形でしかとらえられない彼等は、上下の格付けに拘る。
それだけに、与しやすいと思った相手にはとことん居丈高になる。
もちろん、格上の相手に対しては逆らう事の危険さを承知はしてる。
そのあたりは彼等なりに考えてはいた。
だが、圧倒的に注意力がなく、慎重さなく、考えが無い。
そんな彼等に相手の実力を見極めるのは酷と言うしかない。
ここに至り、既に彼等に猶予など全く残ってない事を、彼等が知るのはこの直後である。
トモキが手にした刀を振った。
長茶髪の仲間の首から血飛沫が舞った。
マキの傍にいたトモキが彼等に近寄り、何も言わずに行動に出た。
最初それを見て誰もが何をしてるのか分からなかった。
ただ、起こった出来事を見つめてるだけだった。
それからトモキはもう一人の前に進んでいき、刀を同じように振った。
相手も逃げだそうと思っていたが、それを追うように刃は動き、相手の首を狙っていく。
切っ先は先ほどよりは浅く食い込んだが、それでも血管を切るのには成功した。
血液があふれてきて、首から下を汚していく。
それを見た長茶髪はすぐにその場から逃げ出した。
戦おうなんて思わない。
そう思わせないような何かを感じた。
あとは本能の警鐘に従ってひたすらその場から離れる事にした。
その背中をトモキは無言で見つめていた。
顔に表情はなく、感情が読み取れない。
ただ、逃げ出していった奴の背中を、見えなくなっても見つめていた。
一度そちらから目を外し、マキの所へとやってくる。
まだ起き上がってこれそうもないマキを見て、それから手から落ちた剣を持つ。
マキが使っていたそれを、一度所持品に放り込み、それから長茶髪が逃げていった方向へと向かっていく。
「トモキ君!」
呼び止めるテルオの声に一度足を止める。
かすかに振り返り、
「先に戻ってて」
とだけ告げて逃げた者を追っていく。
「トモキ君!」
もう一度呼びかけの声が上がるが、それを無視してトモキは進んでいった。
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