第22空間 無能な怠け者3
翌日の活動でも長茶髪達の態度は変わらなかった。
だが、さすがにまずいと思ったのかモンスターに向かっていくようにはなった。
へっぴり腰であるか、無謀すぎるかのどちらかでしかないそれは実に危ないものだった。
それでも前に向かっていく根性が出ただけマシというものだろうか。
止めはマキが刺したが、一応は彼等も前日よりは貢献度を手に入れた。
満足のいくものではなかったが。
それでも二度三度と戦闘をこなせば食事分にはなる。
それが貯まったところで、早速彼等は食事をし始めた。
モンスターを倒した直後、移動すらしてないというのに。
本来なら、危険を考えて戦闘のあった所から立ち去るようにしてる。
それは彼等にも言っている。
しかし、よほど空腹がこたえたのだろう、脇目もふらず食事を出現させて貪っていく。
あと少し移動すれば良いのにと思うが、こうなったらどうしようもない。
食べ終わるまで待つしかなかった。
「食い終わったら、ゴミを所持品に放り込め」
マキの声が飛ぶ。
不満を顔に浮かべるが、長茶髪達は言われた通りにする。
「入れたら、すぐに削除を選べ。
それでゴミが消える」
これがトモキ達の見つけたゴミの処分方法であった。
所有物として扱える物に限られるが、この方法で消し去る事が出来る。
とりあえずこれのおかげでゴミを片付ける事が出来るようになった。
消したゴミがどこにいくのかは謎であるが、そのあたりは深く考えないようにしてる。
考えても答えが見つかるわけではない。
それよりも先に片付けねばならない事もある。
害になるわけでも利益がもたらされるわけでもない事に頭を使ってるわけにもいかない。
いずれ考える余裕が出て来るかもしれないが、だったらその時考えれば良い。
なお、ゴミの片付けは割と切実な問題ではあった。
処分方法が見つかって皆が安心した。
景観の問題や衛生的な理由だけではない。
よくよく考えれば生死に関わってくるのでは、という危惧があった。
モンスターの知能がどの程度か分からないが、ゴミのある場所を辿ってくる可能性を否定出来なかった。
その為、可能な限りゴミは出さないようにしておきたかったのである。
処分方法というか、ステータス画面から展開出来る様々な画面とその機能に気づくまでは、かなり真剣に悩んでいた。
見つかって安心というのは、言葉の綾でも何でも無く、実際に危険に至る可能性を排除出来た事からだった。
気にしすぎかもしれないが、何が危険になるのか分からないので、気づいた事は可能な限り対処を考えている。
そういった事を踏まえ、更にモンスター退治を続行していく。
食事を終えた所で次のモンスターを探しに向かい、戦闘を行っていく。
相変わらず戦闘はトモキ・マキ・テルオの三人が主力で、新人達はほとんど役に立ってない。
だが、少しずつ動きがマシになってきてはいる。
この日は食事はどうにかなる位は稼いだようである。
「明日もその調子でがんばりな」
とマキは言い放つ。
長茶髪達は殺意を込めた目でにらみ返していた。
それでもどうにか戦闘をやるようになったのは喜ぶべきなのかもしれない。
なのだが、不穏な空気は益々色濃くなっていく。
さすがに対処を考えないといけないのではと思うが、打開策が見つからない。
(言う事を聞けとは言わないけど……)
トモキとしてはそういう事を望んでるわけではない。
嫌なら嫌で良いから、自分らで勝手にやっていってもらいたい。
最低限のやり方は教えるので、どこかに消えてくれないかと思う。
一緒にやっていくのが無理なら、袂を分かつしかない。
それがお互いが痛い目を見ない為の最善の手段であろう。
どうにかそうなってくれればと何度も思う。
(どうにかならないかな)
無理だろうと思うが、思ってもやはりそう願ってしまう。
そういう提案もしてみようかと本気で考える。
「ふざけんなよ。
面倒みろって言われたんだろ」
そんなに嫌なら、ここから出て自分達でやってみれば、と言った直後である。
トモキ達としてもこれ以上一緒にやっていく理由は無いし、彼等も一緒にいるのが結構苦痛なように思えた。
そうであるなら、頃合いをみて別の道に進んだ方が良いのでは、伝えたのだ。
しかし、どういうわけか彼等は怒鳴り声を返してきた。
「オメエ、あいつに言われて俺達の事よろしくすんだろ。
何ほざいてんだよ!」
「……は?」
意味がさっぱりわからなかった。
あいつが誰で、よろしくとはどういう事なのかと。
しばらくして、
「……あの仮面に言われた事か?」
と思い至る。
「それ以外何があんだよ、ばーか」
ふざけた態度と口が推測の正しさをみとめる。
腹が立つが、今はとりあえず我慢した。
今は、今だけは。
「で、それでお前らの面倒を見ろと?」
「ったりめーだろ。
お前らが頼まれてんだろうが」
「まあ、あいつにはそう言われたな」
言われたとてかなえる理由も義理も義務もない。
だが、目の前の者達はそうは思ってないようだった。
「言われたんだからちゃんとやれよ」
その後も罵倒としか思えない言葉が続くが、言いたい事の主旨はこれだった。
まあ、彼等からすればそういう認識なのだろう。
あくまで、彼等の認識でしかないのだが。
「まあ、言いたい事は分かった」
「なに調子こいて──」
「俺らにそんな事する義務はない」
相手の言ってる最中に声をはさんだ。
「あいつは俺らにああ言ったけど、俺らがあいつらの言う事を聞く義務なんてない」
そう言って長茶髪達を見渡す。
「嫌なら出ていけ。
出ていかなくても、俺らがお前らに何かしてやるなんて事は一切ない。
今のままならな」
「……脅迫してんじゃねえよ!」
「そういう態度なら、明日から自分でがんばれよ」
そう言うと長茶髪達は絶句した。
トモキが本気だというのが分かってるのだろう。
自分がはっきりと拒絶されたという事も。
そのせいか、彼は全身から怒気を発散させていく。
『発見/察知』の技術のおかげなのか、そういった気配が伝わってくる。
だが、だからなんだとしか思わない。
(モンスターに比べればなあ……)
どうにかなるだろうと思えた。
こいつらとのレベル差もある。
単純な戦闘力だけなら、おそらくトモキの方が上に思える。
なのだが、そういった実力差が必要な事態に陥るより先にトモキはその場を去った。
一緒に居るのも嫌だし、時間がもったいない。
それに、見張り当番もある。
無駄な事に時間を費やしていられなかった。
「面倒でござるな」
同じ見張りについてるカズアキからいたわりの言葉をもらった。
「あの手の連中はどうしようもないでござる」
「まったくだ」
腹が立つだけで何の役にも立たない。
生きていても気を遣う。
酸素消費の無駄でもある。
「いっそ消えてくれれば一番なんだけどな」
「出ていけばよいのでありますが」
「そのつもりはないんだと」
「……はい?」
「そう言ったらさ、俺らが世話するのが当たり前、ってな事を言ってきたよ」
「ちょっとそれは……いったいどういうつもりでござるのか?」
「仮面の奴の言ってた事を鵜呑みにしてるようだ」
「ああ、なるほど」
それでカズアキもある程度納得したらしい。
「救いようがないでござるな」
「ああ、そうだな。
救えないよ」
ああいう考えでいるというのが信じられない。
そして、あのままでいるなら人間として救えない。
連中が自らを救う事もないし、他者が手助けしても意味がないだろう。
本人が自分でどうにかしようとしなければ、何もどうにもならないのだ。
「ま、助けるつもりはないけどさ」
「それで正解だと思うであります」
カズアキもそれを理解していた。
「帰ってきてから、あいつらを見てるとうんざりするでござる」
「……おう」
「見てるだけでござるが、それでも嫌な気分になるでござる。
一緒に居るトモキ殿達の苦労がいかばかりかと思うと。
そこまで苦労する必要はないでござるよ」
「そういってくれて助かるわ」
解決にはならなくても気休めにはなる。
一日休んでがんばって続きを書いてました。
今日も21:00に続きを出せそうです。




