第21空間 比較対象
「やはり、動きを知ってるでござる」
新人達について聞いたところ、カズアキはそう評していた。
「もともとネトゲで役割については分かっていたでござる。
それは皆も同じでありました。
だから、誰が前に出て、誰が周りを監視するか。
誰が背後に回るかを決めるのも早かったし、そういう動きをしようとしてました」
とはいえゲームと現実では違う。
自分の体を動かさなくてはならないし、モンスターに向かっていかなければならない。
死んでも復活はしないし、怪我をしても即座に治す手段もない。
そういう意味ではどうしても慎重になっていく。
また、時間もかかる。
なにより、モンスターへの攻撃がなかなか決まらないし、当たっても威力が伴わない。
ゲームのキャラクターほど自分が強くないのも大きい。
「なかなかに踏んだり蹴ったりではありました」
とにかく相手に近づくのが難しい。
向こうも攻撃してくるから、というのもある。
だが、それ以上に度胸がいる。
あるいは、相手の動きを見極める目が求められる。
「FPSとは似て非なるものでありますからな」
それでも確実に一体ずつ仕留めていっていた。
「もう少し慣れればもっと確実に倒していけると確信するものであります」
「うーん、やっぱりボウガンが一つというのがきついですね」
ヒトミの意見は後方からの攻撃についてだった。
「私ら、戦闘は出来ないから周りに気を配る事にしてたんです。
でも、それだけだと何ですから、後ろから攻撃してるじゃないですか。
その為の道具が、今はこれしかなくて」
どうしてもやれる事が限られてしまうという。
「弓はテルオさんが言ってた通り、固くてとても引けません。
でも、ボウガンならどうにか引っ張る事も出来るし、一旦弦を引いておけば、射撃までの手間はかからない。
女でも何とか扱える射撃武器として結構便利だった。
「これをもっと増やせれば活躍出来ると思うんです。
今のままじゃ、ほとんど何もできませんし」
貢献度を稼ぐのにもこのままでは無理が生じる。
何とか数を揃えられないかというが目下の悩みであった。
ただ、それはそれとして、行動についてはそれほど問題はなかったという。
皆、危険を承知してるからか余計な事はしない。
戦闘の時も野郎共の後ろに控えて前には出ないようにしている。
カズアキ達がモンスターの前に出てくれるから直接の脅威にさらされる事も無い。
上手く分担されてるからこそ、今の状況を上手く利用出来るようにしたい。
その為にもボウガンを増やしたいとの事だった。
「まあ、それ以外の部分で出来る事があるならやりますけどね」
今までのヒトミがそうしていたように、新人女子達にもやれる事をやってもらう。
そうやって協力体制を作っていくとの事だった。
概ね上手くやってるのを聞いて安心する。
この調子なら上手くやっていけるだろう。
いずれカズアキやヒトミがいなくてもやっていけるようになるかもしれない。
そうでなくては困る事も有る。
貢献度の増加を考えると、今の人数で動き回るというわけにもいかない。
食っていくだけなら今の状態でもどうにかなるだろうが、成長に回す貢献度がないのが今の状態だ。
このままというわけにはいかない。
ただ、それらはまだまだ先の事であり、今はまずここのでやり方に慣れる事が先である。
そうなれば、更に人数を分けていく事も考えられる。
成長の事も考えるとなると、だいたい5人前後で戦闘した方が丁度良いように思える。
トモキ達も5人で行動してたし、それでどうにかなっていた。
能力にもよるだろうがそれくらいであれば、毎日の食事を手に入れて貢献度を残す事も出来る。
どうしても必要になる細々とした物も手に入れなくてはならないので、その分の消費もあるが十分に賄っていける。
安全性の確保は難しくなるが、それも考慮しておきたかった。
また、ボウガンの追加も考慮しておきたい。
接近して戦闘する前に攻撃が出来る事がどれだけ有利なのかは既に分かっている。
今は成長直後で貢献度が足りないが、貯まったら購入しようと思った。
(あっちは上手くやってるようだな)
話を聞いて安心する。
同時に羨ましくも思う。
無駄な諍いは無いようだし、モンスターとの戦闘もしっかりとこなしている。
それに比べて、となっていってしまう。
(あいつら、どうにかならないのかな)
自分達の所にいる連中の使え無さときたら、呆れるやら泣けるやらである。
大口叩く割には何もしない。
不平不満だけは一生懸命。
本当に力の入れる所を間違えている。
どう対処してやれば良いのか頭を抱えてしまう。
(いっそモンスターに殺されてくれないかねえ)
一番穏便な解決手段はそれではないかと思えてきた。
それでも何の問題もない。
死んでも損失になるような事は無い。
人数が減るが、それならカズアキやヒトミの方から人数を割いてもらえばよい。
それで十分な人数になる。
むしろその方が良いように思えてきた。
そもそも戦ってないので戦力にはなってないし、無駄な苛立ちをおぼえなくてよいから精神的にも良い。
(いっそ逃げてくれれば)
それもまた現状の解決を促す事になるだろう。
消えてくれればこれほどありがたいものはない。
余計な手間をかけずに済む。
(やっぱり、最初に逃げ出した連中は偉かったな……)
武器を持っていった事を除けば、自ら消えてくれた分だけマシである。
一緒にいたらとてつもなく面倒な事になっていたであろう。
そして翌日。
食事にありつけなかった連中はさすがに自らモンスターに突っ込んでいった。
まず、そこは評価するべきなのかもしれないと思えた。
とはいえ、攻撃が届かない場所で剣を振り回したり、モンスターが近寄ってきたら大げさなまでに後退したりと散々であった。
有効打になったのはテルオのボウガンとトモキ・マキの攻撃くらいだった。
戦闘後の貢献度入手からもそれは明らかである。
新人達の中で言えば、テルオと同年代の男の方が上なくらいだった。
彼は動きは鈍いが、一応モンスターに当たるような攻撃をしている。
トモキ達に比べればかする程度であったが。
一日を通してそんな調子だったから、結局新人達がまともな貢献度を稼ぐ事もなかった。
食事抜きは二日に及んでいこうとしていた。
在庫が切れた。
運がよければ明日の19:00に更新できるのだが。
そうでなければ、明日明後日はお休みになる矢もしれぬ。




