第20空間 無能な怠け者2
翌朝、一同はいくつかの塊に分かれていた。
カズアキのようなインドア系の者達。
テルオと同年代の者達。
ヒトミの所に集まってる女子勢。
そして、マキとトモキと、長茶髪達である。
「じゃ、こいう形でやっていくから」
マキが宣言すると一部を除いて誰もが頷いた。
そして、二組に分かれていく。
カズアキとヒトミの所が組み合わさり、マキ・トモキとテルオが同流する。
「戻ってくるのはこの場所。
日が暮れるまでに帰るように」
人数が増えた事による問題は、基本的には食料である。
現状の貢献度増加では全員分の食事を賄う事は難しくなる。
なので、まずは二手に分かれて行動する事にした。
それぞれが今まで通りの成果を上げることが出来れば負担は軽くなる。
『発見/察知』の能力のない方は稼ぎを減らす事になるが、それでも当面はこの組み合わせでやっていく事にした。
足りない分は稼いだ方が多少は融通する事にして。
やり方をおぼえるまで、出来るならレベルが上がるまでは当分この調子になる予定である。
「それでは、行ってくるであります」
カズアキはそう言って仲間を率いていく。
その後ろに、「それじゃ私たちも」とヒトミがついていく。
二人とも、不安な顔をしてる新人を引率していく事で不安を抱いているようだ。
こうやって人を統率するという事が初めてなのだろう。
だが、それでも二人はよくやっている。
他の者達も特に文句を言うことなく続いていく。
「上手くまとめてるなあ……」
トモキはそれを見て感心する。
これから戦闘にいくというのに逃げ出そうという者がいない。
それだけでも大したものに思えた。
野郎共に限った話でいえば、昨日よりやる気があるように見えた。
口々に、
「リアルで来た!」
「これで勝つ!」
「呼び込まれた世界で大活躍……俺の時代がついに……!」
といった声が聞こえてくる。
いったい何がどうなってんだと思ったが、それが彼等なりのやる気の出し方のようだ。
悪い事でなければそれらを否定する必要もないが、意味を知りたいのであとでカズアキに尋ねようと思った。
また、ヒトミと一緒にさせた女子もその後ろをついていく。
こちらは戦力としては厳しいものがあるが、だからと言って放置するわけにもいかない。
モンスターは危険であるが、男と一緒だと別の危険もある。
『特にあいつらはねえ……』
と昨夜マキも懸念していた。
だからこそ急いで組み分けをし、なるべく女子を切り離す事にした。
もちろん、長茶髪達からである。
『カズアキ達も危険って言えば危険なのかもしれないけどさ。
でも、あいつらよりはマシでしょ』
あくまで比較の上での話である。
だからこそ、カズアキとヒトミ達を一緒にいかせた。
その代わりにテルオ達をこちらに引き込んだ。
これによりカズアキとヒトミ達は合計11人。
マキ・トモキ・テルオ組は7人となる。
人数に大幅な偏りがあるが、分けた理由を考えればやむなきものがあった。
まず、長茶髪と同調してる者達が3人。
テルオと同年代の者が1人。
これの人数だけにどうしてもトモキ達は少なくなってしまう。
その代わりと言っては何だが、経験者が三人いるので戦力としての不安は少ない。
一方でカズアキ達の方は、カズアキの同類が5人に、ヒトミがまとめる女子が4人である。
人数は十分であるが、経験者が少ないのが懸念される。
また、実際に戦う事になる男子連中がどれだけ動けるかが分からない。
更にいえば、ヒトミ達女子は直接の戦力として期待が出来ない。
ボウガンを追加しない限り、彼女らが戦闘に出る事は難しいだろう。
残念ながら、マキのような人材は今回はいなかった。
(そうそういるわけないもんなあ)
頭もまわり、度胸があり、上手く皆をまとめている。
男達相手にも決して退かず、やるべき事をやり通す。
そんな人物はなかなかいるものではない。
大変残念な事実として、トモキ達を含めてもやはり希有な存在だった。
(こういう人がいてくれるってのはありがたい事なんだろうな)
なかなかお目にかかれない人材だけに、こうして遭遇できた事は感謝するべきなのかもしれない。
それがこんな所であるのは呪いたくなる程の不運であろうが。
道中は騒々しいものだった。
不平不満ばかり口にする者達が無駄に口を開いている。
周囲の確認や、隊列と役割なんてこれっぽっちも考えてない。
トモキがいるので接近されれば真っ先に気づけるが、それでも不用意というか注意がなさすぎる。
無駄に騒ぎ立てる事でモンスターを呼び込む可能性がある。
最初に注意をしてたのだが、守る気はなかったようだ。
(どうしようもないな)
そう思うも黙らせる術もない。
マキも何も言ってないので、とりあえず放置はしておく。
(けど、このままじゃなあ……)
新人達の態度の悪さはどうしようもない。
トモキは色々と諦めている。
テルオと一緒の男はどうなのか分からないが。
ただ、駄目なら駄目でどうにかしたい雰囲気であった。
(追い出せればいいんだけど)
そう思うも簡単にはいかないだろう。
居座る可能性がある。
しかもこんな場所だ。
モンスターの危険さは分かってるだろうし、それらがいる外に自ら出ていくほど馬鹿とも思えない。
なんだかんだ言って、人が集まってる所の方が有利である事くらいは分かってるはずだ。
出て行けと言われて素直に従うとも思えない。
(それになあ……)
下手に追い出したらそれはそれで厄介でもある。
いつ、どこで襲撃をかけてくるかも分からない。
そういう事をしでかす可能性もある。
だからこそ対処を誤るわけにはいかなかった。
だが、良い方法がなかなか思いつかない。
(いっそ……出来ればいいんだけど)
穏やかならざる手段は頭に浮かぶが、さすがに実行するのは躊躇われた。
そんなこんなでこなしていくモンスター退治は芳しい成果とは言えなかった。
トモキとマキ、テルオはいつも通りに仕事をこなしていった。
テルオと一緒の男も、特にこれという事もないがトモキ達と肩を並べて前に出た。
しかし、茶髪達はほとんど何もせずにいた。
前に出る姿勢くらいは見せても良いと思うのだが、そういった事もない。
モンスターが出れば後ろに下がり、戦闘が終われば戻ってくる。
移動中は使えた、どこまで行くんだとうるさく、作業の役に立つような所も見せない。
おかげで戦闘の方は、それ以外の四人でこなす羽目になった。
この日倒したモンスターは7体。
その七体を倒すにあたり、茶髪達の貢献はほとんどない。
当たり前だが、貢献度は彼等に1点も振り込まれなかった。
そしてこれも当然の結果だが、
「食べる物はあんたが自分で出しな」
マキは冷たくあしらった。
多少なりとも働いたというならともかく、そんなところはこれっぽっちもない。
そんな奴らに提供するものなど何一つ無かった。
「ふざけんなよ、あいつにはくれてやってるだろうが!」
「あの人はちゃんと仕事したじゃない。
貢献度は少ないけど、あんたらよりよっぽど役に立ったわ」
そう言ってテルオと一緒の男を褒める。
残念ながら攻撃はろくにあたらず、戦闘においては大して役に立ってない。
それでも前に出て戦っていたからわずかなりとも貢献度を手に入れている。
そういう者だからマキ達も自分達が出費してでも彼に食料を提供した。
長茶髪達はそれが気に入らなかったようだ。
それでもマキは、
「食べるつもりなら明日がんばるんだね。
あの化け物を倒せば、買えるようになるよ」
「無茶言ってんじゃねえ!」
「何が無茶なの?
あっちだって上手くやってきたじゃない」
そう言って示すのはカズアキ・ヒトミ達の一団だ。
彼等ほ本日5体のモンスターを倒したという。
探すのは手間取ったが、なんとかそれだけを倒したという。
食費を出したら手元に残るのはわずかになるが、それでも赤字にはならない。
それだけの成果をあげてきただけに、長茶髪達との差がはっきりとしていく。
もちろん全員が十分な貢献度を手に入れたわけではないが、足りない分は融通し合っている。
「明日は俺が前に出る」
「援護よろしく」
「後ろには俺が回り込むから」
といった前向きな声も聞こえてくる。
「ああやって頑張れば、モンスターは倒せるよ」
「簡単に言うんじゃねえよ」
「そう?
でも、あっちの新人もあんたらと同じ時期に来たんだよね?
そんな大きな差があるの?」
むしろカズアキ達の方にいる者達の方が戦闘には向かないように思える。
にも関わらず、結果は歴然としている。
「スタート地点はほぼ同じなんだし、それでこれだけ差がつくってどういうこと?」
才能や能力ではなく、やる気の問題としか言いようが無い。
少なくとも新人達の中で格別大きな差があるとは思えない。
あるとすれば、取り組む姿勢だろう。
今のところ一番大きな差はそこである。
「まあ、がんばってね。
明日の朝一で頑張れば食事にありつけるだろうから」
マキはそういって自分のところの新人を放置していった。
後にのこった三人は、恨みがましい目をマキに向けていく。
だが、それ以上の事はしなかった。
「あれ、放っておいていいのか?」
「良くは無いけど、すぐにどうにか出来るわけじゃないから。
まあ、やらなきゃ死ぬしかないって分かれば少しは変わるんじゃない?」
「だと良いけど」
とてもそうは思えない。
馬鹿な事をやらかさなきゃいいけどと思いながら、トモキは見張りについていく。
外から来るモンスターと、逆恨みを抱いてるような三人の両方に注意を向けながら。
21:00に続きを公開予定。




