第19空間 無能な怠け者
「──食べる物を手に入れる方法は、今言った通りだ」
そう言ってマキは、ステータス画面から食料を購入する方法を説明し終えた。
それを聞いてる者達は黙って顔をマキに向けている。
話を聞いてるというよりは、疲れてそれしか出来ないでいると言うべきだが。
「今日は私らが稼いだ分で弁当は出す。
でも、明日からは自分達で稼げ。
でないと死ぬよ」
その言葉に居合わせた者達の顔が更に強ばっていった。
モンスター退治が終わり、落ち着ける場所に移動してから、生活関係の話がなされていた。
ステータス画面の呼び出し方などは仮面の男に説明されていたようだが、具体的な使い方などは何も聞いてないとの事だった。
それで、実演がてらマキは実際のやり方を説明していた。
威勢の良かった連中は大人しく、もとよりあまり喋らなかった者達はそのまま黙々と。
ひたすら聞く事に徹してるおかげで話は頓挫する事無く進んでいく。
聞いてるはずの者達が理解してるかどうかは分からないが。
それでもマキは、一通り言い終わったところで話を切り上げた。
それからトモキ達は食事を出していったのだが、それで愕然とする。
人数が増えれば当然だが食事量が増える。
それはそのまま消耗の早さにつながっていく。
ひとりあたり貢献度10点として、今回13人増えたから一回の食事で130点を失う事になる。
一日5体から8体を倒し、500点から800点を稼いでる今の状態では、差し引きでマイナスになりかねない。
黒字を出すには、新人達にも稼いでもらわねばならない。
人手が増えたのは良いが、負担も一気に増大していった。
その為、どうしても新人達にも仕事をしてもらわばならなくなる。
「でも、全員にモンスター退治をさせるのもな」
「いきなりは難しいでござるな」
「でも、やっていかない事にはねえ」
男三人は額を突きつけ合うようにして今後について話あっていく。
「それに、今回の連中で言う事聞かないやつもいそうだし」
「ああ、あの連中でござるな」
「元気の出し方を間違っちゃってるね。
どうしたもんだか」
長茶髪とそれに同調してる連中である。
今のところマキがおさえてるが、今後はどうなるか分からない。
「マキ殿が悪いわけではないのでござるが」
「あいつらがああいう態度でいる限り、改善はないだろうね」
身内びいきというか、一緒に行動してるからどうしてもマキの肩を持ちたくなる。
だが、それを差し引いて考えても、最初から喧嘩腰だった長茶髪らの態度は最悪であった。
あれで仲良くやっていこうというの無理が有りすぎる。
もうどうしようもない。
「なんか、あいつらを思い出すよ」
「あいつら?」
「俺達と一緒に来た連中。
そこにもいたじゃん、ああいうのが」
言われて二人も思い出した。
「逃げ出した連中でござるか」
「まあ、タイプは同じかもしれないね」
見た目もさる事ながらとってる態度も似ていた。
モンスターを前にした場合の態度もどこか似ている。
無理矢理放り込まれたからモンスターの前まではいったが、そこからは逃げ腰になっていた。
そこはトモキやマキとは違う。
威勢は良いが、根本的な度胸が欠けている。
弱い者には強いが、強い者には弱いのだろう。
そのくせ無駄に自尊心が強いから主導権を握ろうとする。
周囲を威圧していくのはその為だろう。
絶対にのさばらせてはいけないタイプであった。
上に立っても横柄な態度は変わらないし、黙らせるためには力尽くでおさえつけねばならない。
そうやって大人しくさせても、いつか寝首をかいてくる。
「本当に面倒な連中だな」
いっそ、さっさと逃げ出してくれた方がまだマシであったかもしれない。
「こうしてみると、最初に逃げ出してくれた連中はかなり良心的だったんだろうねえ」
「なぜでありますか?」
「自分から消えてくれたから、俺達は余計な面倒を抱えずに済んだだろう?」
「確かに……」
「ごもっともでござる……」
いやというほどの説得力を感じてしまった。
一緒に来た他の者達も戦力として期待出来るものではなかった。
もとより戦闘の訓練を受けた人間などそう多くはないだろう。
軍人か警察官などでも無い限り。
そういった者は含まれておらず、威勢が良いだけの連中以外は逆に大人しすぎて行動しない者がほとんどだった。
「同じ臭いを感じるでござる」
親近感を感じるのか、カズアキはそんな事を言っている。
「たぶん、この状況にもそれほど動揺してないと思われるでござる。
モレと同様、色々なものでこういった状況は慣れてるはずであります」
「同類ってことか?」
「左様」
言われてみればどことなく似たような雰囲気があるように思える。
内向的というか、あまり話をしないというか。
分類するならインドア系。
体を動かすような事はしないタイプに見える。
だからこそ不安もある。
「なあ、同類だってんならさ、あいつらも戦闘とかに参加してくれるのか?」
「そこは何とも……。
気が向けばやると思われるのでありますが、そうでなければ何もしない可能性が……」
「それじゃ、あいつらと大差なくなっちまうな」
もとよりインドア系なら行動してくれる可能性については期待出来ない。
カズアキが例外な方だろう。
「まあ、そこは何とか説得してみるであります」
「出来るのか?」
「確実とは言い難いでありますが、なんとか。
ツボをつく事が出来れば、可能性は無限大」
「じゃあ、ここはカズ君に任せるか」
テルオの言葉で大人しそう(控えめな表現)な者達の対応は一任する事にした。
「まあ、あいつらはどうしようもないね」
もう一方の方はどうしようかという事で、一番接点のあるマキに尋ねてみた。
予想通り返答は芳しいものではない。
「口先だけで根性ないし。
まあ、やらなきゃ死ぬって分かればどうにかなるかもしれないけど」
「あまり期待出来ない?」
「あんたくらい根性があれば良かったんだけどね」
ため息を吐き出していく。
彼女からの新人達への評価は思ったよりも低いものだった。
「まあ、やるだけやらせてはみるけど、多分駄目だろうね」
「どうにもならないか……」
「やらせてはみるけど、多分無理と思う。
こういうのに慣れてないから」
「喧嘩とか慣れてるように見えるけどなあ」
そこが意外だった。
「ま、そういうのは慣れてるでしょうね。
でも、命がけでやりあった事なんてないでしょうし」
単に喧嘩に強いだけでは駄目らしい。
「今日も見たでしょ、あいつらが全然戦ってないところ。
最初に方だけだったらまだ良かったけど、結局一日中やってみて、一度も戦いに出向こうとしなかったし」
「まあ、確かに」
「そのくせ移動中とかは文句ばっかり。
それでストレス解消してるだけならいいけど、それで結局何にもしなかったしね」
「本当に口だけって事ですか」
「今の所はそうとしか言えないわね」
「こえれから変わっていくかもしれないと?」
「多分無理だろうけど。
でも、もしかしたらって思うじゃない」
「それって、奇跡って言いません?」
「そういう事」
つまりは、まずもって不可能という事であろう。
確率としては皆無に等しい程少ない。
「多分、駄目だと思う」
「じゃあ、あまり期待しないでおきます」
「そうしておいて。
で、それはそれとしてね」
そこでマキは声を潜めた。
「……さすがにこのままじゃまずいからさ」
そう言いながら今後についてとりあえずやるべき事を耳打ちしてくる。
話を聞いてトモキも頷いた。
「すぐにやりますよ」
仲間の所へと向かっていく。
それを見てマキも、該当する者達の方へと向かっていった。
明日の19:00に続きを
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「29歳ブラック企業の社員は別会社や異業種への転職ではなく異世界に転移した」
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