第17空間 新人たち
<ここまであらすじ>
原因・理由が不明なまま異なる空間に呼び込まれる。
わけの分からぬままに戦うことを余儀なくされる。
ろくに説明もされないまま、接近してきたモンスターと戦うことに。
一緒に来た者達のうちの半数以上が逃亡。
主人公のトモキと、一緒に来た女のマキだけがモンスターと戦い、どうにか勝利をおさめる。
それからその場に残っていた(逃げそこなった)カズアキ・テルオ・ヒトミたちとともに行動を開始する。
全てが手探り状態であったが、モンスターを倒し、それによって手に入る貢献度という点数を用いての生活が始まる。
そんなことが半年ほど経過したあたりで、この空間に彼らを引き込んだ(と思われる)仮面の男が再び現れる。
<以上、大雑把なあらすじでした>
「元気そうで何よりだ」
再びその声を聞いたのは、二度目のレベルアップを迎えて程なくといった頃だった。
仮面にシルクハットにマント。
それを身につけた男が五人の前にあらわれる。
「生き残ってるようで何よりです。
前回の連中よりは頑張ってるようだな」
その声に反感を抱く。
「何しに来たんだ」
マキがすわった目で睨みつけながら尋ねた。
「何、とは随分だな」
「黙れ」
苛立ちよりも怒気が籠もった声が投げかけられる。
無理もないだろう。
トモキとて嫌悪感を抱く。
何せ相手は、この世界に来た時に最初に出会い、そしてこんな状況に放り込んだ者なのだから。
「まあまあ、そういきり立たずに。
別に喧嘩をしに来たのではないのだから」
「じゃあ、なんだってのよ。
こんな所に放り込んでおいて」
「そこは少しばかり違うのだが、まあ、本題とは関係がないな。
今日は君らに引き合わせたい連中がいる」
そう言った直後、仮面男の背後に十人くらいの人間があらわれた。
「こいつらは君らと同じだ。
この世界、この空間で敵と戦ってもらう事になる。
先輩として彼等に色々教えこんでやれ」
いきなり言われてトモキ達は戸惑った。
「なんで、急に……」
「特におかしな事ではないぞ。
君らとて、先に来てた者達に預けようと思っていたのだしな」
まさかの事実である。
「おい、じゃあ何で俺達をそいつらの所に連れていかなかったんだ」
「いなかったからだよ、とっくに」
「え?」
「先に来てた者達は全員全滅した。
だから引きあわせようがなかった。
それだけだ」
その言葉に背筋が凍えた。
いなかった、全滅。
言葉の意味を理解して恐怖をおぼえた。
以前見た骸を思い出す。
「まあ、そんなわけでこいつらは君らに引き合わせる事が出来た。
では、あとは頼むぞ」
「おい、待てよ」
呼び止めるも仮面の男はそれを無視する。
後には、地面の上に散らばった武器や防具が残るだけである。
「で、なんなんだよあんたらは」
最初に声をかけてきたのは、長い茶髪をのばした若い男だった。
どこかだどう見ても粋がってるようにしか思えない。
そんな奴を前にして、マキが前に出て睨みつける。
「黙んな」
最初に仮面男の前に呼ばれた時もそうだったが、こういう所で度胸がすわってる。
相手も負けじと、「ああ!」と威嚇してくるが、怯みもしない。
そのままにらみ合い。
それが何秒か経ってから男の方が叫びはじめる。
内容は罵声と怒声であり、聞くに堪えないものである。
だが、マキはそんなものどこ吹く風と受け流し、相手を睨みつける。
相手はそのまま十数秒ほど叫んでいたが、さすがに疲れたのか声を止める。
「調子のってんじゃねえぞ!」
捨て台詞を吐いてその場から立ち去ろうとした。
その鼻先にマキが抜いた剣の切っ先を突きつける。
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ」
突きつけるどころか、本当に鼻先に当てている。
力もこもってるのか、皮膚に食い込んだ切っ先のあたりから血が流れ出した。
「ここは娑婆と違うんだよ。
つまんねえ粋がりしてると死ぬぞ」
その気勢と切っ先の圧力に怯んだの、長茶髪の男は後ろに引き下がろうとした。
だが、マキはそんな男に向けて遠慮無く進んで行く。
後退よりも前進の方が当然早く、男はすぐに足をもつれさせる。
そのまま尻をついて倒れ、マキを見上げる格好になる。
マキの手にした剣は、男の首筋あたり、刃がかすかに肌に食い込んだ。
切ってはいないが、そのまま引くなり押すなりすれば、簡単に皮一枚は裂くだろう。
「おい、冗談はやめろよ」
「誰が冗談だって言った?」
冷めた声が男の耳を打つ。
ここに至り長茶髪は相手が本気である事を悟ったらしい。
「……悪かったよ、調子にのりすぎた」
「だからなんだ」
相手の言葉をマキは一蹴する。
「ふざけた態度とって、御免で許してもらおうってのか?
舐めんのも程があるぞ」
そこに一切の妥協は見られない。
切っ先を首に当てたまま、マキは相手を冷めた目で見つめ続けている。
「今からそれを見せてやる。
さっさとそこに転がってるのを取れ」
顎で地面に散らばってる武器や防具を示した。
そちらを見た長茶髪は不満そうにしてるが、
「早くしろ」
というマキの声に、渋々ながら従っていく。
それを見てマキは他の者にも告げる。
「お前らもだ。
死にたくないなら武器を持ちな」
あわてて他の者達がそれに従った。
間違っても友好的とは言えない出会い方をしてから、一行はぞろぞろと動き出した。
今回やってきた新人は全部で十三人。
そのほとんどが武器や防具を身につけている。
それを見てトモキは羨ましくなった。
(俺達も本当はこうだったんだろうなあ)
逃げ出した連中が武器や防具を持っていかなければ、最初から全員がこんな状態だったはずだ。
それがそうなってないのが悔やまれる。
初動において何週間分の遅れを出してしまった。
武器や防具の購入が多くなったために、貢献度がその分減ってしまったのは痛い。
それがなければ、もう少し早く成長も出来ただろう。
今更どうしようもないが、最初に逃げた連中には腹が立つ。
そして、それが無い今回の新人達が素直に羨ましいと思う。
全員がまともに装備をしている。
剣に刀に槍に斧に弓。
様々な武器を持ってるのが信じられない。
トモキ達が同じ状態になるまで、一ヶ月ほどの時間を費やしたというのに。
(上手くいってるとこうなるんだな)
なにかしら失敗がおこるとどうなるかをまざまざと見せつけられる。
最初でヘマが一ヶ月分の差となってあらわれるのだから。
それが無いだけでも、彼等が羨ましい。
ただし、人間性などについては別問題である。
「ったく、ざけんじゃねえよ、あのブス」
先ほどから長茶髪が呟いている。
余程腹が立ったのだろう。
元はといえば彼自身の態度のせいであるのだから、逆恨みも良い所であるが。
そんな彼に同調するような者も何人か出てきている。
そいつらは一塊になって文句を繰り返している。
もう少し生産的な事をすれば良いのに、と思うのだが言っても聞くような性質でもない。
なのでトモキ達も放置していた。
もとよりそいつらの相手をしてる余裕などない。
トモキは更に一段階あげた『発見/察知』の能力を使ってモンスターをたどっていく。
以前よりも簡単に痕跡などが見つかっていくため、かなり楽に作業をする事が出来る。
おかげで奇襲するのも、襲撃を未然に防ぐ事も簡単にできるようになっていた。
今もこの能力のおかげでモンスターに近づいていっている。
レベルが上がったおかげか、接近するごとに向かう先から気配を感じるほどだ。
相手との接触がまもなくだと分かる。
それを他の者達にも伝える。
「ついてきな」
マキが長茶髪に命令する。
それを聞いて「ああ?」と反発する相手には切っ先を向ける。
それで長茶髪は渋々ながらついていく事になった。
「お前らもだよ」
その場に残ろうとした長茶髪に同調してた連中にも命じる。
なんでだ、というような反論はなかった。
全員、いやいやながらではあるがマキについていく。
どうするつもりなのだろうと思いながらトモキはそれを見ているが、そろそろ前に出ないと、と思って先に向かおうとする。
だが、それをマキが止めた。
「今日はこいつらにやらせるから」
そう言って長茶髪達を前に出す。
怒り心頭と言った顔をする彼等だが、逆らう者はいない。
全員言われるままにモンスターの方へと進まされていく。
そして一分もしないうちに悲鳴が上がる事となった。
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「29歳ブラック企業の社員は別会社や異業種への転職ではなく異世界に転移した」
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