第16空間 成長というささやかな希望と可能性
同じ事の繰り返しが続く。
寝て起きて、モンスターを倒して貢献度を手に入れ、食料を得る。
代わり映えのない繰り返しが続き、だんだんと飽きが訪れていった。
それが気持ちのだれに繋がり、危うい場面を呼び込む事もある。
その都度、ここえは気を引き締めないといけないと思い直していく。
変わっていくのは貢献度の数だけ。
それが次の段階に移行する目印だとして、五人はそれの獲得に励んでいった。
それ以外にやる気を維持する方法もない。
そんな調子で二ヶ月目が終わり、三ヶ月目も超えていく。
待ちに待ったものがあらわれたのは、そこを超えて四ヶ月目に突入した頃だった。
「おい、これ」
ステータス画面を皆に見せていく。
そこには、確かにそれが記載されていた。
「成長ですか?」
「ああ、ようやく出て来たよ」
表示されてるのは『成長』の画面。
そこは確かに成長出来る能力の一覧が表示されていた。
「ようやくね」
「いっぱいあります……」
「こりゃ、選ぶだけで大変だ」
喜びながら皆がその画面を見つめていた。
ヒトミが言うようにいっぱいあり、何をどれくらい成長させるのか考えねばならない。
だが、苦労がようやく実を結んだ事を彼等は喜んでいった。
「これだけ成長の可能性があるというのは凄いですな」
カズアキが膨大な、本当に膨大な数の成長可能能力の数に圧倒されている。
いわゆる技術的なものから、身体・精神能力関係のものまでかなりの数だ。
その中から必要なものを絞り込むのは難しいと思える。
「トモキ殿は何か考えがあるのでござるか?
これを成長させたいというような」
「まあ、考えてるものはあるよ」
前からこれが出来たら良いんじゃないかと考えていたものはある」
「何でござるか?」
「これだよ、これ」
そういって画面を動かし、目的の能力を指す。
「『発見/察知』……でござるか?」
「なんでまた?」
のぞき込んでいたマキも疑問を抱いた。
戦闘関係の能力や技術を伸ばせば、その方が戦闘が楽になる。
三人で取り囲んでから戦ってるので一人当たりの負担はそれほど大きくはないが、それでもレベルがあがればもっと楽が出来るはずである。
しかし、あえて戦闘を外してこれを得るというのが分からない。
「なんか考えがあるのかな?」
テルオが意見を求めてくる。
横でヒトミもうんうん頷いている。
疑問ももっともだろうなと思いながら、トモキは説明をしていく。
「モンスターがそこらをうろついてるのは確かだけど、見つけようと思ってもなかなか見つからないだろ」
「まあ、確かに」
「それはそうでござるな」
トモキ達もそうだが、モンスターだって動いているのだ。
そうそう簡単に遭遇できるものではない。
「けど、それを見つける事が出来たらどうなるかな。
多分だけど、少しは倒せる数も増やせると思うんだ」
積極的に会いに行きたい存在ではないが、倒さなければ貢献度が手に入らない。
その為、可能ならば相手を数多く発見したいとは思っていた。
今の段階でも、食っていけないほど困窮してるわけではないが、余裕があると言える程でもない。
どうにかして稼ぎを増やしたいというのは五人が望んでる事だった。
「だから、発見する可能性をあげる事が出切ればって思ったんだ。
モンスターが移動した痕跡とかを見つけて、それを追っていけば探す手間を省けると思うんだ」
「なるほどね」
「そういう事でござったか」
言われて他の者達も納得した。
確かに戦闘技術は大事だ。
しかし、敵に遭遇しなければ意味が無い。
事前に発見出来るなら、その方がありがたい。
「それに、見つけるだけじゃない。
近づいて来る奴らに気づく事も出来るかもしれない。
それなら不意打ちを受ける可能性も減るだろ」
これも大きな問題だった。
今の所はそこまで酷い事は起こってないが、敵から襲撃を受ける可能性は常にある。
その危険性を減らす為に、鳴子などを用いて周辺の警戒を常に行ってるくらいだ。
それでも完全にモンスターの接近を感知出来るとは限らない。
「これで多少は見つける可能性を上げられるかもしれない。
そうすりゃ、生き残れる可能性も高くなるだろ?」
もっともな話だった。
「でも、もっと後でというわけにはいかないの?
今回は戦うのとかを上げて、次で発見とかにするとか」
「それも考えたんだけどね」
そう言ってトモキは貢献度を表示する。
「ここまで頑張って、ようやく成長が出来るってくらいなんだ。
次の機会を待ってたら、かなり後になっちまうよ」
そういって示した数値は一万をかすかに超えたあたりである。
また、成長に必要な貢献度は、レベル1につき一万であるらしい。
確かにこうなると、次の機会というのもかなり後になる。
「その時まで今のまま稼いでいたんじゃ、また二ヶ月三ヶ月先になる。
さすがにそこまで時間をかけるのもどうかと思ってね」
「でも、見つけても戦えなくちゃ意味ないんだよ」
マキはこれももっともな事を言う。
それはそうである。
見つけても倒せないのでは意味が無い。
しかしトモキは首を横に振った。
「今回は俺が先に成長出来るようになったけど、二人もそろそろなんじゃない?」
言われてマキとカズアキは「あっ」と驚いた顔をした。
慌てて貢献度を表示させる。
そこには、九千点台の後半に突入した数値がある。
「たぶんあと何日かで二人はレベルアップ出来る。
そうなったら、戦闘にかかわるのを上げてくれ。
それで戦闘の方はどうにかなるはずだ」
「そういう事でござったか。
確かにそうなれば、モンスターを見つけても倒す事が簡単になるでござる」
「モンスターを見つける数が増えれば、その分貢献度も上がりやすいし、レベルアップも早くなるはずだ」
先に発見能力を高めておく利点はそこにもあった。
「それなら、発見を上げてもらった方がいいかもな」
テルオも賛同してくれた。
他の者も同じように頷いてくれる。
「じゃあ、こいつを上げるよ」
トモキは『発見/察知』と書かれたものを選んで貢献度を支払った。
一気に貢献度が消えていき、代わりにレベル1に上昇する。
さすがにすぐに効果を実感する事はなかったが、翌日からのモンスター退治で活かしてみようと思っていった。
効果はなかなかのものだった。
今まで見てきていた森や平原の中に、モンスターの通った跡などが見つかっていく。
それほどはっきりとしたものではないが、周囲に比べて不自然な部分が幾つかある。
それを辿っていくと、かなり高い確率でモンスターに遭遇する事が出来た。
発見が早いし、だいたいにおいて相手より先に見つける事が出来たので奇襲もかけやすい。
戦闘になってもだいたい最初の優位性を確保出来る。
その為、戦いはかなり有利に進める事が出来た。
また、モンスターの足跡というか、存在していた痕跡からある程度の行動も読めるようになった。
近くにいれば何となく感じ取る事も出来るようになり、接近してくるのを待ち伏せる事もあった。
その為、今までにない行動として、伏兵という手段を用いる事が出来るようにもなった。
これらの組み合わせにより、一日に倒せるモンスターは5体から8体にまで増加した。
二倍近い増加である。
おかげで貢献度の増加が跳ね上がり、マキとカズアキのレベルアップも早まった。
二人は予定通りに戦闘技術を上げていく。
これとトモキの発見能力が組み合わさり、戦闘は一気に楽なものへと変わっていった。
さすがに一撃でモンスターを倒せるほどではないが、かかっていた時間が減っている。
与える一撃に鋭さが増していっているからだろう。
レベル1だけではやはり極端に大きな違いはあらわれない。
それでも、モンスターにかかる手間は確実に減っていった。
テルオとヒトミによる援護も大きい。
クロスボウを与えてもらっていた二人は、それを用いて事前の攻撃を仕掛けるようになっていた。
これのおかげでモンスターは手負いの状態でトモキ達と戦う事になる。
急所に当たらなければ目に見えた効果はないが、先手をうてるのは大きい。
これにより二人の貢献度も以前よりは貯まりやすくなり、成長の機会が増えていった。
なお、現時点での貢献度獲得比率は、概ね次のようになっている。
マキ3:カズアキ3:トモキ2:ヒトミ1:テルオ1
以前はカズアキとトモキが逆だったのだが、レベルの上昇によりこれが逆転してる。
それでもまずまずの貢献度を稼ぐ事は出来ている。
また、ヒトミとテルオはこれでも以前よりは貢献度の増加が増えている。
そもそも戦闘に参加する事が出来なかった二人は、モンスターを倒す事による貢献度増加が無かったのだ。
それが、他の者達に比べて少ないとはいえ貢献度を手に入れる事が出来るようになったのは大きい。
レベルアップはまだ先になるだろうが、二人の成長もいずはやってくるものとしてとらえられていた。
更に戦闘以外での貢献度上昇もある。
ヒトミやテルオなどがやってる日常的な作業が今までは目立っていたが、発見能力を得るようになったトモキもこれを手に入れるよういになった。
事前にモンスターの痕跡を発見したり、接近を察知する度に貢献度が手に入る。
一度に入手出来るのは2点3点といった程度だが、一日に数回ほどこれがあるとちょっとしたものになる。
戦闘による貢献度入手の減少はあったが、それをほんの少し補うようになっている。
これもまたありがたいものだった。
かくて五人は次のレベルアップを目指していく。
技術や能力を手に入れる事の効果は十分に理解出来た。
更に成長すれば、生き残るのも難しくはないだろう。
まだ何ヶ月か先になるが、その日を楽しみに今日を生き抜いていく。