第14空間 世知辛い点数計算
更に一週間。
どうにかこうにか予備の武器を手に入れ、全員が胸をなで下ろす事が出来た。
多少がたついてるとはいえ、まだ武器は利用可能ではある。
しかし、不安は出来るだけ少なくしておきたかった。
少しずつ武器や防具などもまともに揃ってきている。
とはいえ、最初の段階で武器や防具を持ち逃げされなければこんな事にはなってない。
そう考えると、ようやく最初の段階に戻ったとも言える。
初動における躓きは思いの外大きいものにだった。
それでも過去の事はとりあえず横に置き、モンスターとの戦闘に臨んでいく。
危なげなく戦闘をこなし、一日一日の成果を積み重ねていく。
休みを入れてもそれほど負担にならないくらいに貢献度を稼ぎ、疲れを抜いて新たな戦闘に挑んでいく。
戦闘をこなす三人の装備に不安がないはやはり大きい。
また、ここに留まらずテルオとヒトミの分の装備も早く揃えたいところだった。
直接戦闘に参加しないにしても、やはり身を守る道具くらいは身につけておいてもらいたかった。
それもまた大きな出費になるが、命にはかえられない。
安全性を確実に確保するためにも、全員が最低限の装備を身につける事は急務だった。
その一方で気になってきてる事もある。
成長についてだった。
最初にこの世界にやってきた時に聞いた事を全員が思いだしてきていた。
この世界でやるべき事を説明した仮面の男によれば、貢献度を用いた成長が可能であるという。
それがどの程度のものなのか、どういった効果があるのかは分かってない。
だが、もし出来るというならば少しでも成長をしておきたかった。
戦闘などが楽にこなせるようになればこれほどありがたいものはない。
ただ、それがどれくらいの貢献度を必要としてるのかがまだ分からない。
「品物を手に入れるのと同じように、必要な点数に到達すれば表示されるのでござろう」
推測をカズアキが述べていく。
「もしそうなら、かなりの点数が必要になるのでありましょう。
1000点では足りないのは明白ですし」
「だろうな」
もしそれでどうにかなるなら、武器の購入時に示されてるはずである。
「残念ながら必要経験値についてはマニュアルにものっておりませぬ。
なのでこれ以上の事は分かりませぬが」
「それだけでも分かれば十分だよ」
他に何のヒントも無いのである。
正解を求める事はさすがにできない。
「となると、どんだけ経験値が必要なんだか」
「これがゲームなら、そろそろレベルアップしても良いと思うのでござるが」
現実はそこまで甘くはないという事だろう。
幾らか落ち着く事が出来るようにはなってきたが、まだまだ不安材料も多い。
分からない事が多いというのが何よりも一番の不安だった。
とにかく手探りで様々な事を調べてる最中である。
ちょっとした事であっても、今まで知り得なかった事ならばそれは貴重な情報となりえた。
今回の事も、確かに正解には辿りついてないが、確認出来る事をあらためてはっきりさせた。
ただそれだけでも、今の五人には大事な事だった。
何でも良いからはっきりさせておけば、それを土台にして一段上ることが出来る。
あるいは、それが道しるべになる事もある。
小さな事であっても決して疎かにしたり無視したりはしない。
そんな小さな事があとで重要になってくる事もあるのだから。
むしろ、小さな事ほど大事に扱わねばならないとすら彼等は思っていた。
日々の小さな事を大事にして、どうにかこの一ヶ月を乗り切ってきたのだから。
「そういえば」
とヒトミもそんな小さな事を示す。
「これ見てください……」
語尾を小さくしていきながらもステータス画面を表示する。
善に見えるようにしたその画面には、貢献度が表示されていた。
「ほんの少しですけど、ちゃんと入ってますよね」
「そうね、300点くらいあるわね」
マキが画面を皆が数値を読み上げる。
「私、戦ったりしてないけど、こうやって貢献度があがってるんです」
そう言われて皆が「あっ」と声をあげた。
確かにヒトミは戦闘をしてない。
モンスターを倒してない。
にも関わらず、貢献度が上がっている。
「どういう事だ?」
貢献度を得るにはモンスターを倒さねばならないはずだ。
なのになんでヒトミに貢献度が入ってるのか?
「……となると、テルオさんも?」
何かに気づいたカズアキがテルオに尋ねる。
「そういえば……」
言いながらテルオも自分のステータス画面を表示した。
確かに彼の貢献度も上がっていた。
ヒトミよりは若干多い。
「420点か」
「さすがですね」
自分より多い事にヒトミが感動をしている。
「あまり見なかったから気づかなかったな」
その言葉が本当かどうかは分からないが、意外そうに言ってるのは嘘ではないと思えた。
何にしても、戦闘とは本当に無縁に行動してた二人の貢献度増加は間違いない。
「何があったんだ?」
疑問をトモキが口にする。
それほど目立った何かをしてたわけではないはずである。
「でも、結構色々とやってくれてたよね」
マキが思い出すように口をひらいていく。
「道具を作ったり、周りを見てもらってたり。
そういうのが貢献度になったんじゃないかな?」
「なるほど……ありかもしれませぬな」
カズアキもその言葉に納得したようだった。
「日常的な行動でも、多少は貢献度が入るようになってるかもしれませぬ。
そうであるならば、お二人の貢献度増加も納得でござる」
増加量はモンスターを倒した時ほどではないが、これは仕方が無いだろう。
「おそらく、やる事の難しさや危険さによって得られる点数が変わるものと思われ」
「そりゃ、戦ってる人よりこっちが多くもらった申し訳ないしね」
そのあたりの配分は妥当と思われた。
「小さな積み重ねではあるだろうし」
「それでも少しずつ入ってくるってのは大きいわよ」
「わたし、これからも番張ろうと思います」
貢献度入手の新たな方法も見つかり、ヒトミはやる気を出したようだった。
それに戦闘以外でも貢献度が手に入るというのは大きな利点である。
食料などを手に入れれば簡単に吹き飛ぶほどの入手量であろうが、消耗を幾らか緩和させる事が出来る。
消費に対していくらか増加する事によって相殺していく事になる。
どうしても貢献度の消耗が激しいだけに、これはありがたいものだった。
ただ、そうは言っても戦闘の方が圧倒的に多くの貢献度を手に入れられる。
一ヶ月でおよそ300点から400点を手に入れたのは確かだが、それはモンスターを5体ほど倒して手に入れる貢献度とほぼ同額である。
実際にはモンスターを倒した者達で分配されるので一人当たりの入手量は落ちる。
だが、そうであっても二日三日もあれば手に入るくらいの点数である。
生活や成長を考えるなら、やはり戦闘は欠かす事が出来ない。
(そのうち二人にもやってもらわないといけないかも)
これから先の事を考えれば、成長というのは必須であるだろうからだ。
五人しかいないというのは様々な制約が発生する事になる。
何をやるにしても、人手はこの五人しかいない。
人数の増加があるのかどうかは分からないが、それが見込めない現状では、五人で努力をしていくしかない。
そうなると一人当たりの能力が高くなっていかないとどうしようもなくなる。
成長とやらでどれだけ能力が上がるのか分からないが、それを積み重ねて一人一人の作業の質をあげねばならない。
やれる事も増やさねばならない。
今のままでは、何かを作る事も出来ないし、怪我や病気を治す事も出来ない。
材料は貢献度を使って手に入れる事が出来ても、それを使って新しい何かを創作する事は出来ない。
治療をする場合も同じだ。
技術がないから当然であるが、こういった問題を解消するためにも成長は必要不可欠である。
何はともあれ、ここで生きていかねばならない以上そうするしかない。
いずれ脱出出来る時まで。