第13空間 入手可能品の増加と、選別の難しさ
「長かったなあ」
「感無量でありますな」
トモキとカズアキがうんうんと頷きながら成果を確かめる。
この世界(というか空間というか)にやってきて二週間になろうとしていた。
ようやく規定の点数に到達したトモキ達は、商品欄に武器や防具を表示させる事が出来るようになった。
おそらく、陳列されてる商品の中では最低品質であろう。
性能はあまり期待出来ない。
それでもようやく予備の武器などが手に入ると思うと、感動がこみ上げてくる。
「じゃあ、買いますぞ」
そう言ってカズアキは自分の所持する貢献度のほとんどを用いて防具を購入する。
剣道の防具のように胴体の前面だけを守るもの。
おそらく材質もそれほど良くはないだろう。
それでも十分だった。
これで継続的に戦闘に参加出来る。
まだ手足などは完全ではないが、防御力はこれで大きく跳ね上がる。
「これもどうぞ」
トモキが手にした物を差し出す。
「兜でござるか?」
「ああ。
無いと危険だからな」
「でも、これは……」
「俺の点数で買ったんだよ」
「……申し訳ござらん」
受け取りながら頭を下げる。
兜は簡素なもので、トモキ達と同じように材質も木製だ。
それなりの防御力はあるだろうが、モンスターの攻撃を受けたら一撃で吹き飛ぶかもしれない。
しかし、そうであったとしても攻撃をある程度遮ってくれる。
あれば死ぬ可能性が格段に下がるだろう。
早速装着し、具合を確かめる。
「やはり、重い物ですな。
ちょっと頭を動かすだけで傾きそうになりもうす」
「そのうち慣れるさ」
経験談である。
実際、動いてるうちに何となくコツが掴めてくる。
それまでは大変だろうが、そこは頑張ってもらうしかない。
このほか、マキも予備の剣を購入した。
直接の戦闘力向上には繋がらないが、何かあった場合の保険になる。
続く戦闘の中で、彼等が使ってる武器にも綻びが見えてきた。
切れ味などは汚れを拭ったり、簡単な研ぎ道具でどうにか保っている。
しかし、刀剣ならば柄の部分などがゆるんできている。
斧も、柄をはめてる部分がぐらついている。
まだ気にする必要も無いのかもしれないが、不安でしょうがない。
どうにかしてなおしたいのだが、残念ながらやり方が分からない。
なので、予備の武器がどうしても必要になる。
しかしこれが簡単に買えるものではない。
武器も鎧も、最低限のものであってもおおむね1000点ほど必要だった。
ものによって多少の上下はあるが、だいたいそれくらいは覚悟せねばならない。
それだけの点数を稼ぐのに、頑張っても一週間はかかってしまう。
倒したモンスターの数次第ではもっとかかるだろう。
おいそれと買い換えるわけにもいかない。
何時壊れるか分からない恐怖と隣合わせであるが、騙し騙し使っていくしかなかった。
幸いにしてこの日は武器が壊れる事もなく進んでいく。
昼を下がった頃までにモンスターを三体倒す事が出来たし、まずまず順調と言える。
それでも神経をすり減らす事に変わりはない。
タダでさえ命がけである。
武器の破損の恐怖もあって、色々と気になってしょうがない。
この状況から脱却するためにも、急いで点数を稼ぎ装備を新調せねばならなかった。
なお、武器の追加にあわせて出て来た話がある。
購入出来る装備の一覧の中に弓があったのが発端だった。
それを見てカズアキが「これを買ったらどうだろう」と提案した。
「弓なら離れた所からでも攻撃できるでござる」
その優位性をカズアキは、かつてのゲームを元に説明していく。
「遠くから攻撃出来れば、接近してくるまで攻撃を受ける事はありませぬ。
その間更に攻撃を加える事が出来れば、接近した時でも有利に戦えるかもしれませぬ」
ゲームでも、接近してくるまで全くの無傷でいたのを思い出したらしい。
そして、レベルが上がれば、雑魚など接触してくる前に倒す事が出来るようになる。
「矢の消費は痛かったでござるが、一人で大量のモンスターを寄せ付けずにいたのであります。
さすがにゲームと同じよう事が出来るとは思えませぬが、離れた所から攻撃出来るのは確実です」
「なるほど」
言われて誰もが納得していく。
今のところ、遠距離攻撃を仕掛けてくるモンスターはいない。
だから、弓を使えばかなり有利な状況で戦闘を始める事が出来る。
「下手に防具を買うより、こちらを手に入れた方が良いかもしれませぬ」
そう言ってカズアキは表示してもらってる商品一覧にある弓を見つめていた。
なのだが、これはテルオの発言によって見送りになっていく。
「確かにその通りだろうけど、止めた方がいいと思うよ」
「なんでです?」
「いやね、弓は確かに使えれば有利なんだろうけど、そもそも引っ張る事が出来るかどうかが問題だから」
学生の頃なんだけどね、と言って説明が続いていく。
弓は、弦を引っ張って矢を飛ばす物である。
当然ながら、両腕を使って弦を引っ張り、弓を引かねばならない。
当たり前の事だが、これにどれだけの力が必要かを忘れてはならない。
人力を用いるしかない弓は、使用者にそれなりの筋力を要求する。
戦国時代などで用いられていた弓は、およそ40キロから50キロの張力だったと言われている。
もし購入可能品に出て来た弓がこれくらいの張力を持っていたとしたら、手に入れても無駄になるだけである。
両腕を使っても40キロから50キロもの硬さの弓を引く事が出来る者がいないのである。
「学生の頃に弓道をやってたから言うけど、そんな重さの弓を使える人なんてまずいないから。
俺はそんなに強くもなかったら張力14キロの弓が限界だったし。
強いのを引いてる人でも、20キロまでいく人はいなかったから」
昔の武士はその倍以上の張力を引いていた。
どれほどの鍛錬を積んでいたのか想像も出来ない。
さすがにそこまで強力な弓が、購入最低線あたりの値段で置いてあるとは思えない。
張力などは、今のトモキ達でも引けるくらいの強さかもしれない。
「でも、それだと殺傷力とかがあるかどうかって事になるから」
戦争で用いていた弓の張力を考えると、引く力がそれくらいでないと用を為さない可能性がある。
だとすれば、ここで弓を勝手も無駄になる可能性が高くなる。
張力の強い弓では引く事もままらないし、引けるくらい弱い弓では戦闘の役に立たない。
「だから、無駄になる可能性が大きいと思うんだ」
その言葉を聞いて、トモキ達は弓の導入を諦める事にした。
使えないのでは意味が無い。
でも、とテルオは続ける。
「飛び道具は欲しいから、何とか手に入れたい」
「でも、弓じゃ難しいんですよね」
「まあね」
とはいえ、それだけが遠距離攻撃手段ではない。
「ボウガンとかがあるならそれを手に入れたいね。
出来れば拳銃とか猟銃とか散弾銃とかがいいんだろうけど」
表示されてないだけで、購入手段はあるのではないかとテルオは考えていた。
入手するのにどれだけ点数が必要なのか分からないので、今の所は現実的ではないが。
なのだが、ボウガンならば比較的簡単に入手できるかもしれないと考えていた。
「それでも、1000点じゃ足りなかったみたいだし、もっと稼がないといけないだろうけど」
だとしても手に入れる価値はあるという。
「腕を使って弦を引くわけじゃないから、もう少し扱いが簡単だと思うんだ。
連射はさすがに難しいだろうけど」
だが、最初の一発だけ、モンスターに多少なりとも手傷を負わせるなら十分であろう。
上手く急所に当たって一撃で倒せたら儲けものである。
「まずは予備の武器を手に入れるのが先だけどね」
そう言ってテルオは考えを述べるのを締め括った。
こうして弓の導入は見送る事になった。
カズアキはさすがに残念そうではあった。
だが、遠距離攻撃という発想は間違ってない。
用いる道具を間違わなければ有効な手段だ。
可能な限り早く導入したいほどである。
その為にも、まずは目の前の敵を倒して稼がねばならない。
騙し騙し武器を用いながら、トモキ達は新しい武器の調達を目指していく。
それが安物であってもこの際かまわなかった。