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第100空間 不穏分子4

 居住地に戻ったトモキ達は、カズアキ達に出迎えられた。

 食堂に通され、それぞれがどんな事をしていたのかを伝え合っていく。

 トモキは問題を起こした連中を処分した事を。

 カズアキはその後の食堂の片付けと、全員への説明をした事を。

 自分達の知らない所で何を行っていたのかを語っていく。

「さすがに全員が納得してるわけではないでござるが」

 懸念するべき部分をカズアキは口にする。

「連中、耳触りの良い事を並べていたでありますから。

 それになびく者も出て来るでありますよ」

「当分、反発とかは出てくるだろうね」

 こればかりは避けようがない事だった。

 問題を起こしていた連中が口にしていたのは、ある意味民主的な事だったのだから。



 全員の意見を聞こう。

 話合おう。

 意見をまとめていこう。

 ……確かに一見正論に見える。

 しかし、実態としてそれらは嘘八百にまみれてるといえる。

 民主制度とはたいていの場合、声の大きなものや口が上手いものが他を言いくるめて従わせるものである。

 話し合いとは丸め込みや言いくるめの言い換えでしかない。

 それぞれの意見を提示してよりよいところを探っていく……などという麗しい建前が機能する事は無い。

 また、本当に全員の意見を尊重していくとなると、参加者全員が賛同しなければ何もする事が出来なくなる。

 全員参加を基本とするのが民主という制度であるなら、これは決して蔑ろに出来ない。

 そして全員の意見が一致する事などありはしない。

 参加者には一人一人の都合があり思惑がある。

 それらの調整を完璧に為しえる事など不可能だからだ。

 だからこそ、多数決という次善の策を取るしかなくなる。

 全員は無理でも、過半数以上の賛同があればそれを実行する事になる。

 それですら一致を賛同に至るのは難しいが、全会一致よりはまだしも可決の可能性が高くなる。

 だが、そうなると様々な意見の妥協案にしかならず、求める最善などにはほど遠い結果に落ち着いてしまう。

 酷い場合だと、進むべき方向を逆転させたような成果を採択する羽目になる。

 更に問題なのは、そもそも多数決であろうと何であろうと、結局は言いくるめの上手い者が話の主導権を握っていく。

 あるいは統率力のある者、カリスマ性の高い者などが主導していく。

 その結果あらわれるのは独裁者でしかない。

 意見の一致をみて今後の行動を決定するとなると、どうしてもカリスマ性のある独裁者の誕生を阻止できない。

 今回、居住地が陥りそうになったのはこれである。



 問題を起こしていた者は口が上手かった。

 それだけでも大きな問題であったが、なおかつこの集団の主導権を握ろうとしていた。

 よりよい方向に導いていくならそれでも良かったかもしれないが、そうなる可能性は低いと言わざるえなかった。

 居住地における彼等の態度は酷いもので、話し合いを求めながらも他者の意見は徹底的に排除していた。

 自分のやりたい事を押し通しはするが、他の者達のやり方は否定していった。

 皆の話を聞くべきだと言いつつ、その実態は自分のやりたい事を押しつけるだけだった。

 だからこそ、話し合いなど出来る訳がなかった。

 だからこそ切り捨てるしかなかった。

 多少なりとも妥協をして話し合いの場を設ければ、そこからなし崩しで居住地を乗っ取られていたかもしれない。

 それは避けねばならなかった。

 だからこそ、実力で排除する事になった。

 終わらない、あるいは向こう側の都合だけを押し通すだけの話し合いを話合いとは言わない。

 そんなものを、それでも話し合いと言い張って押しつけてくる者もいらない。

 害悪でしかないそんなものはさっさと切り捨てるしかなかった。



「まあ、最悪の事態は防ぐ事は出来たから良いけど」

 テルオがため息を漏らしながらぼやく。

「もっと遅かったら取り返しがつかなくなっていたかもね」

「トモキ殿が帰ってきてくれて助かったであります」

 それがなかったらどうなっていたのか、想像するだけでも恐ろしい。

 何はともあれ、一区切りを付ける事が出来てカズアキ達はほっとしている。

「でも、このままという訳にもいかないであります」

 問題が完全に消えたわけでないのが頭の痛いところだった。

 何にせよ話し合いの場を求める者はいる。

 確かに各自の言いたい事をどこかでまとめておく必要もあるだろう。

 だが、居住地の運営に差し障りのあるような事は避けねばならない。

 その為に誰かの意志や考えを否定する事になってもだ。

 いまだギリギリの所で運営をしているこの居住地では、ちょっとした失敗が大きな惨事になりかねない。

 今回の出来事でも、結局十数人の人間が死んでいる。

 人口200人余りの居住地においては大きな損失になる。

 何せ、一気に人口の一割近くが減ったのだから。

 これだけで、今後のモンスター退治などに支障が出てくる。

 展開出来る人数が減るので、稼ぎも減少する。

 当然ながら資材や道具の購入が滞る事になる。

 それでもこのまま問題を野放しにしていけば、賛同する者も増加していっただろう。

 そうなれば被害は更に拡大する事になる。

 ここで食い止める事が出来て良かった、というべきなのかもしれない。

 だからこそ、ここで下手に内紛になるような事を認めるわけにはいかなかった。

 例え強権を発動するような仕打ちになろうとも、問題を鎮圧していくしかない。

 下手に各自の言いたい事ややりたい事を紛糾させて内部分裂にでもなったら洒落にならない。

 弱々しいこの集団が更に細かく分裂してしまったら、モンスターの脅威に対抗しにくくなる。

 その為、話し合いの場を儲ける事すら簡単にはできなかった。

 分裂の原因をそこで作り出す可能性があるのだから。



「それに、今回の措置に不満を持ってるのもいるしね」

 多少は沈静化したとしても、問題はそこにもある。

 最も大きな問題かもしれない。

「変に他人を大事にしてる連中はどこにでもいるでありますからな」

 だからこそ問題を拡大していく。

 一人一人の意見や考えを尊重していきたい気持ちは分かるのだが、その為に他の者の負担を増大させて良いわけがない。

 だが、そういった者達は今回処分んした連中に対しても、「あそこまでする必要があったのか」と同情的な事を言っている。

 放置していったらどんな悲惨な事になるのかを考えてない。

 また、ならば意見をどこで折衷させるのかも考えてない。

 相反する意見や考えをどうやって妥協させるのか、あるいは控えさせるのかなど全く考えてない。

 そういった事については「それらは話しあって決めるものだ」の一点張りである。

 ようするに、何も考えてないのである。

 ただ話合う、それぞれの意見を尊重しよう、というところで頭が止まっている。

 必要なのは話し合いではなく、よりよい方策や施策である。

 次に何をすれば良いのか、当面何が必要なのか、この先どうしていくのか、そもそも現状はどうなってるのか……。

 これらを考えていかねばならない。

 にも関わらず、ただ話合って決めよう、で終わる。

 しかも、どう考えてもろくでもない考えであっても、それらすらすくい上げようという事を言い出す。

 入り込む余地のない、どうあっても反発しあうものを混合しようとする。

 そんな事をすれば空中分解をおこして全てが消え去っていくだけでしかないのに。

「あいつらが出て来たのも、そういう連中がいたからだしねえ」

 テルオが再びため息を吐いていく。

 実際、そういった連中が今回の騒動の原因となった者達を生み出した。

 問題がはぐくまれるの土壌になったと言える。

「そいつらもどうにかするしかないでありますな」

 それらを手動してる者達も、人数にして十数人ほどいる。

 先日、少しばかり切ったので多少は減ってるが、まだまだあちこちに分散している。

 放置しておいたら、第二第三の事件を起こすだろう。

「やるしかないか」

 話を聞いてトモキはもう少しばかり働く事にした。



 それから数日、居住区と周辺の空間で血なまぐさい出来事が続いた。

 あちこちに分散してる者を見つけて始末していったので、どうしても行動範囲が広くなってしまった。

 一カ所に集めて一網打尽に出来れば良かったのだが、そうする手立てがない。

 なので、しらみつぶしに一人ずつ見つけて片付けていくしかなかった。

 幸いな事に、大勢の住人達はトモキ達に協力的だった。

 彼等も今回の問題については思うところがあったようだ。

「確かに話し合いは大事だとは思うけど」

「あんなのまで取り上げなくてもいいだろうに」

「何考えてんだか」

 そういった声が存外に多かった。

 それだけ問題が大きかったという事なのだろう。

 逃げ出した者達も当然いるが、追跡は思いのほか楽に進んでいった。

 探知技術もあいまって、方向が分かれば追い詰めるのもそれほど苦ではなかった。

 何より機動力が違う。

 車輌を保有してる者はおらず、移動にそれほど手間がかからない。

 徒歩で行くしかない逃亡者達の背中をとらえるのは雑作もなかった。

 ましてトモキの追跡能力を振り切る事が出来る者はそう多くはない。

 直接的な戦闘能力や生活に関わる技術を成長させていた者達に、トモキを振り切るだけの潜伏能力を持つ者はいなかった。

 短い逃亡の果てに、射貫かれるか切り捨てられていく。

 その後はモンスターの所にもっていき、最後の処分をしていった。

 これのおかげで更に人数は減ってしまった。

 最終的に処分された数は26人に及ぶ。

 それでも、放置しておくよりは良いと思いトモキ達は納得する事にした。

 今後の展開が多少は遅れるだろうが、衰退や停滞をもたらすほどではない。

 起こっていたかもしれない無駄な争乱の被害を考えれば、これはまだ少ない損害であろうとも考えられた。

 争乱や内紛はそれ程までに大きな問題を残す。

 意見の衝突では済まない程に悲惨な事になっていたかもしれない。

 また全てを一からやり直すよりは、この方が良かったと思いたかった。



「でも、やらなくちゃならない事もあるでござる」

 物事を終わらせてからカズアキは次にやるべき事に目を向けていった。

「強力なモンスターへの対策を進めねばならないでありますし」

「そっちの方も大きな問題だよね」

 今後の人間関係に色々な影響を与えていくであろう今回の出来事も、まずはそちらを片付けてからになる。

 幸いな事に、今回の一連の動きについては誰もが「やむをえない」と割り切ってくれていた。

 問題としてとらえそうな者達を片付けたからではあるが、あまりにもあっさりと事態を受け入れていて、トモキ達はそちらに方に驚いた。

 共に行動していたマサタカ達も「どんだけ嫌われてたんだ?」と不思議がらせた程である。

 何せ直接の被害にあってないから、そこに至る経緯の検討がつかない。

「まあ、こうやって対策を立てようとすると、決まって文句を言ってきた──ってところかな」

「なんにしても話を頓挫させる名人でありました」

 浮かぬ顔をしながらそう漏らすテルオとカズアキに、トモキは顔を覆いたくなった。

「こんな大事な事にまで何か言ってくるのかよ」

「はい、それはもう鬱陶しいくらいに」

「何を考えてるのか分からなかったねえ」

「あれが議論だと思ってたんでありましょうか。

 話を阻害してるだけにしか思えなかったでござるが」

「もの凄く前向きにとらえれば、そうなのかもしれないね。

 反対意見を出すことが議論だと勘違いしてるって事だけど」

「なんとまあ……」

 呆れてものが言えなかった。

 様々な対策を考えるのではなく、ただ否定をしていくだけという事だったのが伺える。

 そんなのでどうやって話を進めるのか分からなかった。

「まあ、邪魔をする奴らが消えた事ですし、ここはもう少し前向きにいくであります」

「ようやく前の雰囲気に戻ってきたねえ」

 幾らか明るい調子を取り戻した二人の声に、トモキは再び顔を手でおおった。

 そこまで言わせるほど話の邪魔をしてたのかと思うと頭が痛くなる。

「……片付けて正解だったんだな」

「然り然り」

「まったくだね」

 カズアキとテルオが神妙な顔で頷いた。

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