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【第2話】ここまでプロローグだったのかも

眼を開いたら知らない天井だった。

当然、寝ているベッドも壁も家具も見覚えはない。

(ドラマで見た高級マンションがこんな雰囲気だったな)

もぞっという物音に身体が硬直する。なにかが、いる…。身体を起こし恐る恐る視線を床にやれば、この部屋で唯一つの、見知った顔が小さな寝息を立てていた。

ボクが気づいたことが合図だったように彼女、神無木かんなぎ 偉緒いおは眠たそうに眼を開き、数秒の間を置いた後、ゆっくりと口を開いた

「んにゃ…おはよーございます…」

んにゃはあざとすぎる。だが、実際女子の口から聞くとこれほどのご褒美はない。

「おはようございます…。

それでは、おやすみなさい…」

あ、駄目だ、完全に二度寝に入った。「後5分…」と寝言を呟きつつ時計の針が6から8に進むまでキッチリ眠り続ける偉緒さんの寝顔を見つめ続けたまま、ボクは意識を失うまでのやり取りを思い返して頭を抱える他なかった…。

(告白じゃ、なかったんだよな…)

それだけが、何よりもボクを落胆させた。

何をしてきたでもないのに。なんであんなに期待できたというのか。



完全に目が覚めた偉緒さんは、倒れたボクを介抱してくれたこと、付き人に自分のマンションまで運ばせたことを説明してくれた。(情けない上に申し訳ない)

『神無木は黒塗りの高級車で執事に送り迎えされてるお嬢様だ』と噂している奴らがいた覚えがある。

どうやら事実であったようだ。その事実がなおさらボクを怪訝な表情にさせた。

成績優秀、スポーツ万能、家は金持ちのパーフェクト超人3点セットを備えた

神無木 偉緒が『世界の変革』を望んでいるのだ。

一概に本人に非の打ち所がないからと言って世の中に不満がないとは言えないのかもしれないが、正反対のボクには理解できないことだ。

(ボクが変革を望んでるのは世界じゃなく僕自身だから…)



気づけば偉緒さんが朝食の準備をしてくれていた。何度も声を掛けてくれたらしいのだが、考え事に没頭すると人の話が耳に入らないことがある

「悪い癖です…」

とボクは申し訳なさそうに頭を掻いた。

朝食の内容は予想に反してシンプルで、ちょっと焼けすぎたトースト、黄身が割れた目玉焼きに申し訳程度の拙いサラダが添えられていた。

一見してわかる。彼女は料理経験がない。実家では親…もしかしたらお抱えのシェフが作っていたのかもしれない。

味はいたって見た目通りのはずなのだが、偉緒さんが作ったという補正が強かったのだろう。三ツ星シェフの料理を食べた様に一口ごとに美味しいと声を上げていた。

浮かれてますよ、コイツ。



朝食を終えて程なく

「学校に行きましょう!」

と連れだされた。今日は土曜休日なのだが、この部屋ではダメだというのだ。

休日は付き人が来ないから車を出せないと謝られたが、平民のボクからすれば、大した理由もなく高級車に乗せられる方が緊張するので内心安堵した。

「部屋の修繕費は自腹ですから…」

ポツリとつぶやいた偉緒さんの独り言に不安を煽られたが、道すがら聞いておかなくてはいけないこともある。

言いたいことを十二分にまとめた後で、ボクは昨日からの疑問を口にした。

「世界を変革するって言ってたけど、アレってどういう意味なのかな…?」

ウッカリ同意してしまったものの、ボクは彼女の言う変革について何も知らされていない。歴史で齧った昭和の学生運動のような過激な思想をこの無垢な顔した美少女が抱えてるとは到底思えないが、メルヘン過ぎてもボクがついていけない。早めに問いただしておく必要があった…しかし、彼女の答えはメルヘンどころかどっぷりファンタジー思想だったのだ

「そのままの意味です。忍さん、ゲームやったことあります? 特にRPG。ラノベでもいいです。あんな世界のように人が魔法を使えたり、妖精とか精霊と交流できたり、魔王の眷属と激しく死闘したりっ! そんなVRを越えたリアルファンタジー、プレイしたいと思いませんか!!? ドラ■■クエ■■とかファイ■■ファン■■■みたいな! 特にあのシーン、主人公の父親が息子を守るシーン…最高だなって!」

徐々にヒートアップし、鼻息を荒くしながら力説する偉緒さんの姿を見て、ボクは確信した。神無木 偉緒はゲームオタクだ! それも現実と混同するタイプの!

本筋からそれてゲームのプレイ感想を早口で語る偉緒さんを横目に見て額を抑えた。頭痛がした気がする。

なんてこった。つまり、ボクはお嬢様のごっこ遊びに付き合う事を承諾してしまったわけだ。

ゲームやラノベ、二次元物ならボクも大好きだ。でも、なりきるような遊びはごめんだ。お互い14歳、そういうのはもう卒業する年だろ?

妄想の中だけで夢見てればいいんだ。現実では成りえないモノなんて、表に出した途端に理想は嘲笑の種に変わるのだから…。

ボクの不快感を自分一人で喋り過ぎたせいだと感じたのか、偉緒さんは話題を切り替えてきた

「私がゲーム好きなのは伝わったとして、忍さんは何が好きなんですか? できればゲームのタイトルで」

「…名前で呼ぶのやめてくれないかな。あんまり好きじゃないんだ忍んでるって影が薄そうで…」

不機嫌なのを表に出してしまったろうか? 偉緒さんの顔色を伺うが気にした様子はない。…聞こえないように小さく安堵した

「私は好きですよ! 忍者の忍! 派手です! 影薄くないですむしろ濃いです!!」(ニンニンと印を結んでいる)

それは、近代忍者でゴザルな…? 彼女の常識はゲームで構成されてるに違いない。

「それに、忍さんが私を名前で呼んでくれないと、私が忍さんを名前で呼び辛いじゃないですか」

やめてくれ、それはボクに効く

「ふぅん、神無木さんは自分の名前好きなんだ?」(ボクと違って)

「好きは好きです。攻撃呪文っぽい所とか…。名字で呼ばれたくないって方が大きいかな…。あ、これじゃ忍さんと一緒ですね」

申し訳なさそうに笑う偉緒さんにボクは心の中で降参の証に両手をあげた。頑なに名字で呼ばない頑固さと、自分と同じという口説き文句に、だ。

「……忍でいいよ。ボクも偉緒さんって呼ぶから…」

「さん付けいらないです!」

「偉緒…ちゃん?」

「はいっ、なんですか忍君っ!」

「ボクが好きなのは、クリーチャーハンティング、略して栗飯ってゲームだよ、偉緒ちゃん。小刀の二刀流スタイルが得意なんだ」

「俗に言う忍者スタイルですね!」

この時、ボクは彼女の変革ごっこに本気で付き合おうと決心したんだ。

初めて身近に感じた人だったから。

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