【第1話】恋愛物であってほしかった
見切り発車で始めました。
書き溜めてないので更新は不定期になります。
テーマは「異世界が来い!」
放課後の中学校、ボク、門倉 忍と彼女、神無木 偉緒以外誰もいない教室、年頃の男子であればだれもが羨むシチュエーション。
眼前の美少女は意を決した表情で口を開いた。
「良ければ、私と…、私と……世界を変革しませんか!!?」
予想の遥か斜めを越えた告白を、ボクは完全に聞き流していた。
―同日、昼休み。
ボクは所謂、陰気キャラだ。成績は悪く運動もできない。
背も低くてヒョロっちくて、目が隠れるほど長い前髪は誰が見てもオタクって感じだし、暇な時間は
専ら自分を主役に見立てた妄想で時間を潰している。
今日も窓際、隅に用意された自分の席で日常となった妄想空間を広げていた。
今のボクは巷で流行っているモンスターを狩猟して生活するゲームの住人だ。
〖険しい山脈の頂で待ち構えていた巨大な影、そいつは赤黒く巨大な龍、炎王ヴァルフレア。
ボクの姿をその血走った眼に捕らえると咆哮を上げ上空へ飛翔した
「偉大な龍がちっぽけな人間を敵と認識したか…。勝てるつもりなら挑んでみろ!!」
挑発に腹を立てたのかボク目掛け炎弾を吐いてくる。単純な攻撃だ。
華麗なローリングで回避しながらヤツの真下に潜り込み、
「EX'BURST!!!」
ゴウアァ!!!
轟音を鳴り響かせながら放たれた攻撃系最大魔術がヴァルフレアの柔らかい腹部に叩き込まれた。
たまらず地に落ちた龍は息も絶え絶えにその咢を開きボクを褒め称えるのだ。
「しのぶさーん! 門倉 忍さーん! もっしもーし、大丈夫ですかぁ~!!? 」〗
厳つい風貌から発せられたとても可愛らしいボイスがボクを現実に引き戻した。
ボクの名を呼んだのは勿論妄想の中のドラゴンなどではない。
二次元のキャラクターがそのまま飛び出してきたような容姿の美少女に思わず息をのむ。二つに結んだ薄い金髪に大きな碧色の瞳。
これで日本人だというから驚きな彼女はクラスどころか学校中で話題の…確か…、
「神無木 偉緒…さん?」
「あ、よかったぁ。半目でよだれ垂らしてるからて発作でも起こしてるんじゃないかと…それより、私の名前覚えててくれたんですか!? 感激ですっ!」
両手を広げて飛び跳ねる喜び方もまさしく二次元だ
「大袈裟だよ…。神無木さんだってボクなんかの名前覚えててくれたしお相子だよ。何か用があるんでしょ? 引き受けるよ」
入学してからボクへの用事は日直の代行、掃除の代行、諸々の代行、果てには代行の代行。
イジメと呼ぶには大袈裟だが、何かと損な役回り。どこの学校でも見かけるタイプ。つまり、パシリなんだ、ボクは。
彼女の用事というのもどうせパシリだろうと事前に承諾しておいた。
「ホントですか! で、でも…人の多い時間では恥ずかしいので放課後、教室に残っていてください…」
途端に教室中がざわめいた。当然だ。これは、そう、もしかして、もしらかして、こっこここここけーっこ、告白、なのでは…? 顔を真っ赤にして教室を飛び出した彼女の代わりに群がってくる男子一同。
これも当然だ。学校一の美少女がボクに告白しようというのだ。なのに、彼らの表情からは嫉妬や羨みの感情が見えない。なんというか、全員が憐れんでいるような…?
「…いやー、ついに門倉にもお声がかかってしまったかぁ」「ま、クラスで残ってたの門倉だけだしな…」「俺も気持ちはわからないでもないけどさ、リアルでそれはないっしょ……ってなるよなー」次々とよくわからないことを言う男子ABCDetcetc…。
何事かと問いただしても一同『行けばわかる』と言うだけで、頭上に暗雲浮かべたまま放課後を迎えた。
誰もいない教室。
騙されている、浮かれたボクを笑うお芝居だとは微塵も考えなかった。あの子の、神無木 偉緒の口から冷たい嘘を吐かれるとは思いたくなかった。あんな可愛い子がボクを騙すなんて信じたくなかった…。
ガラッ
教室の扉の開く音に思考が止まる。彼女がいた。心臓までも止まった気がした。
「すいません職員室に呼ばれて遅れてしまって…誰も、いないですよね…?」
キョロキョロと辺りを見回している、その仕草ベストだね。あぁ、なんだかあがってきた…。
よくよく考えたら14年生きてきてまともに会話したことある女性は母親だけ、主な話相手はゲーム画面。そんなボクが美少女と会話を成立させるなんて可能なのか?
こんな展開待ってるならもっと恋愛シミュレーションもプレイしておくんだった…。
大丈夫、落ち着け。用があるのは向こうなんだ。ボクは相槌を打てばいいだけ、大丈夫、できる。
「あ、あの、ここにいるのはボクだけなので安全、安全です」
若干ロボットのようにぎこちなくガクガクするボクの挙動を不審がらず、モジモジとしながら左右の指を絡めている神無木さん。可愛い。
意を決して口を開いた。くっ、来るのか、告白…?
「あの、突然ですけど、この世界はつまらないと感じたことはないですか?」
「アッ、ハイ」
「そうですよね!もっと世の中面白くできるのにイマの人達はわかってないんです! 誰かが…、誰かがこの世界を本来のカタチに変えなきゃいけないんです!」
「ソノトウリダトオモイマス」
「嬉しい…。こんな話しても『頭沸いてんの?』とか『中二病乙』とか酷い言葉ばかり言われて…賛同してくれたのは貴方が初めてです。だから…まだ二人きりですけど…」
「ハハ、ヒドイヒトモイタモノデス。ソノテン、ボクナライッショニイテモアンシン、オーケー」
何だろう、カルトの誘いみたいな無いようだけど、偉緒さんが何を言っているのかわからない。
ボクが何を言ってるのかも全くわからない。
視界が…歪む。意識が……
「良ければ、私と…、私と……世界を変革しませんか!!?」
「ボクデ…ヨケレバ、ハイ、ヨロコンデー……」
朦朧とする意識の中で交わした言葉の意味も理解しないまま、とりあえずオッケーだけは出しといた。
そのまま意識がドロップアウト。翌日、昨日のやり取りを思い出し頭を抱えるボクだった。
つまりどうやら、ボクは彼女と世界を変革することになったらしい。