いつかくるその日まで
世界で毎秒何人死んで何人生まれるかご存じだろうか?
平均すれば、一秒で二人死に、四人は生まれていたらしい。
人口は増えるばかりで、戦争やテロが未だにあるのに増加の一歩を辿るのかと、人類の繁殖力には脱帽したものだ。
そんな中いつか起こるであろう資源の枯渇に対して、人はやれ地下だ、やれ深海だ、更には宇宙へと手を伸ばしたわけだ。
ただ、どうにも足らなかった。だから遂に人は此処とは違う世界にまで手を出した。
そう、まったく違うルールの適応される世界。
魔法の存在する世界だ。
質量保存の法則すら無視する世界を自分たちの地球に適合させたわけだ。
それが、どんな事態を招くとも知らないで――
――――
――
「くさい、くさいくさいくさいくさいくさい!!」
毎朝のことだが、起きて最初に感じるのはこの強烈な腐敗臭だ。
「ススムー、おきたの? だったら早く降りてきなさーい。」
「わかってるよ! たくっ!」
あーイライラする!
俺は取り敢えず制服のズボンだけ着替えて二階の自分の部屋からでる。
「~っ!!」
そして、この臭いだ。
別に我が家が汚いわけではない。それでも、どうしても臭いが外からここまでやって来てしまうのだ。
「ススム! ホントいい加減に降りてきなさい! 父さんももう机に着いてるのよ!」
はいはい、大体父さんがいたって意味ないだろ!
俺はドカドカと音を鳴らしながらリビングにつく。
そして、家族を見てやっぱり戦慄してしまうのだ。
「すぅうsむ! きぃいたわね、おそぉいかぁあらちょとかぁあさん崩れちゃたじゃない!」
「カタッカタっかたっ!」
そう、すっかりアンデットとして復活した家族に……
人口が増え続けて大変だ! でも減らすなんて倫理的にどうなの?
みたいにお偉いさんは考えてたんだろうな、それで手が届いてしまった異世界に望みを託しちまった。
そこは剣と魔法の世界で、そりゃもう皆がその神秘に胸をときめかせたもんさ!
未知との邂逅、陰謀や戦争の果てにお互いが和解なんてのがあったんだって。そんな事がたった一年で終わった。
どっかの主人公がうちの世界で目覚めて、どっかのヒロインが向こうの世界にいたって話さ。
ここまでは、別に良かった。問題はこいつらの都合で世界が繋がったままだったことだ。
向こうの世界ははっきりいって狭い。対してこちらは人間サイズじゃやっぱり広いんだよ。だから間に合わなかった。
なにがって? アンデット達のことだよ!!
ほんとーに早かった。一度感染したゾンビ族の菌はパンデミックとかいうのを起こし爆発的に広まった。
だが、これだけではなかった。
いいかい? 毎秒この世界は二体のアンデットが生まれる。けれど、死体はそもそも沢山あったし、ゴーストなんて存在がいるようになったらどうなると思う?
四人は生まれても、育てるのに何年かかる? 生まれるのと死ぬのがヨーイドン! で始めたらどっちが速いなんて誰だってわかるでしょ?
そう、地球は人で溢れるどころかアンデットで溢れてしまった。
追いやられた人間は異世界へと逃げるしかなかった。殺されればそれだけ増えるアンデット族。戦争ってやっぱり数だよね。
近代兵器で木っ端みじんにしても、それらはゴーストになり、バラバラの死体は寄り集まって新しいアンデットとして蘇る始末。
因みにこの現象を見てファンタジーの住人は、
「こんなの聞いてないんだけど……」
とドン引きしたらしい。
そう、ここがもう一つの厄介な所だった。
ファンタジーにこちらの価値観が融合してしまっていたのだ。
例えば、ゴーストに聖なる魔法をかけても、
「あっ! うち仏教何で。」
みたいに宗教の違いで通じなかったり。ゾンビに火属性魔法をかけても、
「むしろ、熱くなって来たぜええええ!!」
なんて、その炎を身に纏って新たなフレイムゾンビとなったり。
「ス、スケルトンの近代兵器部隊だと……」
みたいな己を魔改造する輩まで出てくる始末。
ふふふ、だいたいわかってきた方もいるかもしれないが敢えて言わせてもらおう。
この世界のアンデットはよりにもよって、元の人間の人格を保持したまま存在しやがったのだ!!
知恵のある不滅の存在に、どちらの世界も打開策を打ち出せなかった。
だったらお前はどうなのかって?
「ススム、ほとんどあんたの為の食事なんだからさっさとしなさい。もう、いつまでも人間に拘るんだから。」
「……うっせ。」
そう、俺は未だに人間のままだ。
俺以外の人間なんてのはほとんどが向こうの世界で暮らしてる。図らずとも人類の総数は激減したということだ。
アンデットに何かを生む能力はない。だから現在はもう増えることはないだろうとされている。
どういうことかわかるかい? 増える人がいないってことさ。
現在地球は人型アンデットだけでも総数七十億を超えるとされている。
まさに死の星地球、といいたいが実際はアンデットは省エネで地球は昔よりも自然豊かな星になっている。
「ああ、そうだススム。こんなのきてたわよ?」
「ん? なんだそれ?」
「向こうの世界への勧誘みたいね。どうする?」
「どうするって……」
いっておくが、この世界でも未だに公的機関は存在している。俺だって学校に行っているしな。ただこうやって向こうの世界から人に向けて勧誘や誘致をしているとは聞いていた。
「カタカタカタ」
「いや、わかんねえよ……」
父さん骸骨だからなぁ……
「ススム! 父さんはね、あたしらと一緒にいるよりちゃんと人間の元で暮らした方がいいんじゃないかって、言っているのよ。」
「と、父さん……」
「……たぶん?」
おい。
「……いや、やめておくよ。」
ああ、確かに向こうは快適だろうさ。
毎朝臭くないだろし、日に一回以上グロ映像を見なくていいし、骸骨みたいな意思の疎通が難しいのや、スケスケのゴーストに痴漢扱いとか、ゾンビの腕ひろって泥棒扱いもされないだろうさ……
「いいの?」
……いつかは俺にも来る。そんなのはわかってる。
「カタ……カタ……」
それでもだ、一つこの世界になって良かったと思う事があるなら、
「ここには、母さんと父さんがいるからな。」
毎朝こんな思いはするが、両親が生き返ってくれたことだろう。