今人気の、悪役令嬢について考察する
小説家になろう、通称なろうでは既に31万以上の作品がユーザーの手によって投稿されている。
その作品の中には長期延期されている作品、エッセイや短編、設定資料などがありますが、多くの読者から人気を集めている作品にはある一定の傾向が存在します。
人気がある作品は、たいてい同じキーワードであると言う事です。人気のあるキーワードはそれだけ多くの読者が求めているものであり、同時に多くの作者がそのキーワードを考慮しています。
なろうで人気のあるキーワードの一つが、「チート」と呼ばれているものです。
「仲間チート」や「経済チート」とか様々な派生があり、「主人公最強」とかの呼び方もされますが、概ね「物凄い力で無双する」、「他者を圧倒する絶対的な力を持つ強者」というのがその作品群の大きな特徴です。
これは非常に似通った王道的作品になりやすい代わりに、読みやすくて書きやすいという特徴から、多くの作家と読者に好まれています。
勿論、その中にはチートを嫌う読者や、敢えて「チートなし」と題売って作品を作ってる作家などもいますが、なろうにおいて「チート」とは多くの読者や作家とはきってもきれない関係にある事は事実でしょう。
他にも「異世界転生」や「落ちこぼれ」、「成り上がり」といったのも人気ですが、今回はそれの考察ではありません。
「チート」、「異世界転生」などのキーワードが人気のなろう内において、恋愛やコメディーなどのジャンルで最近上昇傾向にあるキーワードこそが「悪役令嬢」です。
「悪役令嬢」とは乙女ゲームなどで主人公にちょっかいを出す主人公にイベントという形で攻撃してくる悪役で、最終的には主人公に逆転されてどん底まで叩き落とされるのが本来の「悪役令嬢」。
しかし、なろうで最近流行っている「悪役令嬢」作品の多くは「実は悪役令嬢よりもヒロインの方が悪だった」、「悪役令嬢だったけどなんらかのきっかけで真っ当になった」とかです。開き直って「悪役令嬢で婚約破棄されたけど大丈夫」という作品もあります。
これは「ヒロインザマァ! 主人公良くやった!」とか「主人公頑張ったな」とかの感想が送られ、多くの読者からの指示も集められる、「チート」、「異世界転生」に並ぶ新たなジャンルですが、果たして今なろうで人気の「悪役令嬢」ってなんなんでしょう?
「悪役令嬢」とは字の通り、「悪役」と「令嬢」の2つを組み合わせた言葉でありますが、まずそれぞれの単語を定義しましょう。
「悪役」とは文字通り主役と敵対する悪人の事を指し、「令嬢」とは貴人の娘を指し示す言葉であるため、この2つを合せた「悪役令嬢」とはつまり、主役と敵対する貴人の娘の事です。「悪役」は主役と敵対する事によって主役を引き立てる存在なので、主人公と同じくらい重要になってきます。
つまりこれから分かるのは、「悪役令嬢」とは主役を引き立てる貴人の娘の事です。
さて、ここで最近のなろうでの、「悪役令嬢」を扱った作品について挙げたいと思います。なろうで挙げられてるのは「実は悪役令嬢よりもヒロインの方が悪だった」、「悪役令嬢だったけどなんらかのきっかけで真っ当になった」、「悪役令嬢で婚約破棄されたけど大丈夫」という作品ばかりです。
「悪役令嬢」とは主役を引き立てる貴人の娘であって、悪役であり、なおかつ令嬢なのです。悪役令嬢よりもヒロインが悪だとか、真っ当になったとかは、もう既に悪役とは何も関係ないものになっていると思います。婚約破棄されても大丈夫だとかは、もう既に主役を引き立てようともしてませんよね? 悪役じゃなくしているといっても過言ではありません。
こう考えると、「主役を引き立てるはずの悪役令嬢を悪役ではなくす」ことで人気が出るというのはちょっと可笑しいと思いますね。
「チート」も最初の意味の、「反則的な強さ」という一面から離れているような感じもしますし、「悪役令嬢」も本来の意味でなくても良いと思うんですが、ちょっとは悪役らしさも出して欲しいと思います。
【2015年5月25日 考察委員会より】