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麻耶、仲間を殺したいのを我慢する。

 麻耶です。

 帰りのホームルームが終わりました。

 そろそろ心も落ち着きました。色々気色悪すぎて落ち着く要素とか皆無だけど、力づくで冷静になってみます。


「日野サン、大丈夫? まあ見てな、あのくそ虫シメてくるよ」


 生意気にぽんと私の頭を叩いて、誠司が呟いた瞬間に確信しました。

 あ、これ誠司死亡フラグ立てたな、と。

 とりあえず成り行きを眺めてみてはいたのですが、案の定さくらにあっさり撃退されてます。弱い。想定のさらに斜め下をいく弱さです。

 息巻いて喧嘩を売りにいったのに、取り合ってすらもらえず、うじ虫に辿り着く前にキモオタとブスたちとさくらに門前払いにされた感じでした。

 頭が痛い。教室内で私の名前を呼ばない気遣いができるなら、少しは現状認識の努力くらいしろと思います。予想されたこととはいえ、アホすぎます。

 死神のノート的なものがあれば、迷わずあのアホの名前を書いていたことでしょう。なくて良かったです。あんなアホでも現状唯一私の理解できる『仲間』です。


「ふんっ」


 喋りたくもないので鼻息で誠司を促し、私は一時戦線から撤退しました。



 私は普段優等生で通していますが、実はあまり図書館には縁がありません。

 益のはっきりしない読書に時間を費やすほど暇じゃないし、勉強してる姿を他人に見られるのも嫌いです。家で十分落ち着きますし。

 この学校の図書館は一度ちらっと様子を見に来て以来ですが、幸いなことにさほど変化はないようです。クラスの様子からするに、どこがどう変化しているか見当も付きませんからね。

 さて、麻耶ちゃん麻耶ちゃんと私に懐いてきて、同い年だけども可愛い妹分のように思っていたさくらでさえもあの変貌ぶり。情報収集するにも対人間では得体が知れず、危険すぎます。だからとりあえず、書物から当たろうと思ったのです。

 まさか本が襲ってきたりはしないでしょう。

 それにしてもこの図書館、漫画本やライトノベル等およそ勉強には関係なさそうな図書がやけに充実しています。別に否定をする気はありませんが、よくもまあ教育助成金でこんなものを買おうと思えるなあ、とある意味感心します。


「麻耶見てみろ、今月号のノンノ。おもしれーよ、ゲテモノ女装特集かよ!」


 私は大手新聞社の発行している、去年一年度の時事ニュースを纏めた百科事典をつらつら眺めておりました。

 そこへきて、唯一の仲間がこのアホ発言です。ノンノって、ファッション誌かよ。もはや呆れるだけ損な気がしてきました。

 目をやると、誠司は確かにノンノを持っていました。私も今月号は既に購読していたはずですが、覚えがある今月号とはだいぶ違います。

 表紙のモデルは綺麗なお姉さんではありません。うじ虫が三、四歳成長したような不細工な青年です。水色のワンピースをはためかせ、パーツバランスの悪さを余計に際立たせるキワモノのメイクを塗りたくった巨大な顔で満面の笑みを浮かべています。


「ノンノって、女性誌だったわよね」

「んー、確かに。これ男ばっかだな。ニューハーフは女性のカテゴリーなんじゃね」

「違うわよ、アホ。ここはこういう世界なのよ」


 私は誠司からファッション誌をむしり取ると、時事百科事典の芸能の頁を開いてみせます。

 去年のアカデミー主演男優賞。太ったバケモノ(オス)がドレスで写っています。

 去年のミスターワールド。背の高いバケモノ(オス)が女性用水着で写っています。

 アイドルグループの総選挙なんてのもありました。総選挙一位は、背の低いバケモノ(オス)です。こちらはセーラー服を着ています。男優やモデルよりは、小造りな分かろうじて正視できるでしょうか。

 続いてスポーツのコーナーです。

 ワールドカップの優勝国はブラジルだそうです。文面に性別は出ていませんが、ラテン美女がグラウンドの中央、上半身裸になって咆哮している写真が掲載されています。

 大相撲の記事なんかもあります。ふくよかなのにやけに色香のある女性力士が、回しだけのほとんど素っ裸の状態で取組を行っている写真が、堂々と掲載されています。

 八百長問題が記事の主眼のようでしたが、この写真のインパクトの前には、そんなもんどうでもいいと思います。この取組の勝敗なんて気になりますか?

 さらに社会面に移動します。

 こちらの頁はさすがにちょっと固めで、女性のヌード写真はなさそうです。

 ちょこちょこ載ってる政治家や経営者の顔写真は、ほとんど女性です。私の憧れるところの、有能そうなきりりとしたマダムの写真が多いです。

 男子少子化対策及び女男共同参画大臣が、大臣の中で唯一男性らしいです。この男性が、素敵です。御歳もう六十三らしいのですが、面差しがすごく知的で、瞳が凛々しいので実年齢より十は若々しいです。ちょっときゅんとしていまいました。

 おっと、オヤジにときめいている場合ではありません。残念なことに、大臣ドレス姿で写ってますし。本当に残念な世界です。

 記事としては、去年女子の新生児出生数が、ついに男子の五倍に達成したとのことらしいです。先ほど見たクラスの異様な男女比も、『社会の女性化』の過渡期だそうです。

 またそういった歪な社会構造に合わせて、法律の改定も進んでいるそうです。独身女性への夫の貸与奨励法が昨年成立。既婚女性が配偶者男性を独身女性に貸与することで、税金による奨励金を受け取れるとか。

 今年はその法律を前進させ、独身女性救済のため、多妻一夫制の可否が国会の争点になるそうです。

 政治家のほとんどが女性な分、なんとも女性本位な立法府です。

 希少人的資源として、男性への保護は大分手厚いようですが。

 男性優遇政策の抜粋に目を通してみたところ、とりあえず男性は身体を売れば、公的報酬だけで女性のサラリーウーマンの平均給与より贅沢な生活ができてしまいそうなほど充実しています。この世界には公的売春制度があるんですね。


「誠司、わかった?」

「ああ、なるほどな」


 私にしては懇切丁寧に説明してあげたところ、誠司が神妙な顔をしています。顔だけは絵になる男です。

 そして私は知っています。この顔をする誠司が、ろくなことを言った試しがないということを。

 怖いです。心を落ち着けるために煙草が欲しいです。ここは図書館です。ここで吸ったら、さすがにうじ虫になすり付けることができません。

 為す術もなく、私はぎゅっと目を瞑り、誠司の発言を待ってみました。こんな非常事態です、アホでも望外の意見が出るかもしれません。


「男が少なくて美女が冷遇されている。つまりここは、俺のハーレムというわけだ」


 はい、わかっていました。殺意が、殺意が止まりません。

 誰か、ニコチンの神様! 助けてください。

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