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第4話 ほのぼの王都ライフ

 

 初依頼を終えてから、3日。相変わらず借金は減らない。実際この3日間、一切の依頼を受けていないのだから、返すどころか、増えそうな勢いだ。

 まず、遠方へ行く手段がない。

 馬車を使うとしても、なかなかな値段だ。乗合馬車であろうと、簡単には乗れない。王都の中の移動には、実は国家の補助が出ているため、無料である。素晴らしいではないか。だが、都市間の移動となると、そうはいかない。距離に応じて、値段が変わるのだ。最低でも1000G以上はかかる。

 では、王都内で受けることの出来る依頼はどうか?

 大半が倉庫整理などの完全便利屋稼業。屋敷の掃除なんてものもある。これに関してはギルドを通さなくても依頼が出来る。僕らが屋敷に住み始めた時に掃除を頼んだのも、この手の業者だ。

 しかも、依頼料は案外安い。ギルドを通して依頼を受けても、金は貯まらないし、こんな依頼ばかりこなしても、ギルドランクが上がったとしても、信頼度は低い。他の町まで行く依頼は大体が商人の護衛などで、倉庫整理ばっかりしていても、盗賊や魔物とは戦えないのだから護衛を依頼する側も依頼しようとは思わないだろう。


 どうするかねえ? 僕はそんな事を考えながら、朝食を作っているところだ。

 味覚のほとんどない僕が朝食を作ってどうするかって? フィリアさんに食べてもらうのだよ。フィリアさんの味の好みはこの数日で大体理解した。ふふふ、まずは胃袋をゲットするのだよ。

 あれ? ゲットされるべきなのは僕の胃袋ではなかろうか? まあ、味覚のほとんどない僕の胃袋をゲットすることなど出来ないか。

 「またですか……」

 朝の挨拶より先にそんな事を言われた。ひでえ。

 「何故シンヤさんが私より先に起きて、しかも朝食を作っているんですか? 私の仕事を奪わないでください」

 そんな事を言われても……。

 「だいたい、これでも最初の日より1時間以上早く起きているんですよ。それでも、なんで余裕で朝食を作っているんです?」

 「まだまだ、俺の方が調理器具なんかの扱いは上だからね。俺が作った方が早く出来るんだし、いいじゃないですか」

 そうなんだよねえ。

 このファーガイア、剣と魔法のファンタジー世界っぽい、つまりは中世ヨーロッパに近いイメージなのだが、この屋敷だけはかなりの部分で現代日本ナイズされている。

 見よ、この台所を。あふれる家電製品たちを。

 冷蔵庫・電子レンジ・オーブントースター・IHコンロ・食器乾燥機・ゴ●ンなどなど。

 実際、僕ですら扱いに困る家電製品だってある。だが、まだフィリアさんよりは扱いはうまい。しかし、家電製品などまったく見たこともないフィリアさんが簡単に使い方を覚えていく様は僕にとっては脅威であった。


 それでも、今日は僕が朝食を作った。

 メニューは目玉焼きだ。他にウィンナー、サラダ。後はご飯に味噌汁。

 ご飯や味噌汁の材料は何処から持ってきたかというと、異空間の中に収めてある。

 このリリス特製の異空間はリリスが試行錯誤を重ねて作り上げたおかげで、摩訶不思議な空間になっている。この空間内では時間が止まるのだ。よって食材なども入れた瞬間に時が止まり、いつ出しても鮮度はいいままなのだ。賞味期限を気にしなくて済むんだぜ。

 目玉焼きには醤油だ。ソースは僕としては認めない。マヨネーズなどもってのほか。ただ、マヨネーズは色々な料理に合うんだよねえ。

 フィリアさんも目玉焼きには醤油派だ。なんか嬉しいねえ。


 朝食をとりながら、他愛のない会話をする。この頃は会話も結構スムーズになってきたように思う。彼女もまた、僕にとって“線”の内側に入ってきた証拠だろうか?


 食事をとり終わった後、一緒に市に行くことにした。

 この王都、城壁に囲まれた都市なのだが、外側にから内側に向かって、職人街・一般区画・貴族街・王宮となっている。貴族街と一般区画の間には広場があり、市が立つことも多い。店を出している者は流れの商人であったり、王都に店を構えるものであったり様々だ。

 食材を買いそろえたいのだそうだ。

 まあ、異空間から出す食材だけでは物足りないのかもしれない。それとも、得体が知れない食材を口にするのは抵抗があるのかもしれない。


 市へとやってきた。

 市ではフィリアさんは結構な数の人と顔馴染みらしく、よく声をかけられている。

 フィリアさんが食材を吟味している間、僕はとてつもなく暇であった。味覚のない僕が食材を吟味したところで、何の意味もない。

 僕は公園の噴水(どうやって水を噴き上げているんだ? 魔法か?)に腰かけギターをかき鳴らしてみることにした。

 ギターといえば、ギターケースの中に銃器類を入れた殺し屋の話を聞いたことがあるな。映画だったっけ? もちろん、僕のギターケースに銃器類は入っていないぜ。どこから取り出したかというと、もちろん異空間だ。

 オタク道というのは、案外いろんな影響を及ぼすもので、僕がギターなんてかき鳴らせるのも、数年前にアヤ姉が見たこともない綺麗な笑顔で、「バンドやろーぜ」って言ってきたことから始まるんだ。確か、なんとかってアニメにアヤ姉がハマったのがきっかけだったような。バンドメンバーは僕とアヤ姉、シェリーにリリスだ。


 いい気分でギターをかき鳴らしていると、コートを引かれた。7歳くらいの子供が目の前にいた。

 「どうした、ボウズ?」

 「それ、なんて楽器?」

 僕がかき鳴らしていたギターを指さし、質問してきた。

 「ギターっていうんだ。いい音出すだろ?」

 「うん」

 「ところで、俺はかっこいいかい?」

 「すげえダサイ」

 おおう、子供は純粋だ。分かってるんだよ、僕はイケメンとは程遠い人種さ。泣いてなんかいないよ、ホントだよ。


 そんな僕を遠くからフィリアさんが微笑みながら見ていた。僕は気付かないふりをした。子供にダサイなんて言われたところをしっかり見られていたなんて、恥ずかし過ぎるわ。

 子供が僕から離れて行った。僕は続けてギターをかき鳴らすことにした。ダサイなんて言われた恥ずかしさをかき消すように。


 いい気になってギターをかき鳴らしていると、いつの間にか僕を遠巻きに囲むように人だかりが出来ていた。

 おいおい、恥ずかしいんですけど。

 流石に恥ずかしさが勝って僕がギター演奏をやめた時だ。さっきの子供が僕に近づこうとした。

 軋む車輪の音。

 僕らの間を猛スピードで突っ切ろうとしていた馬車があり、子供が跳ねられてしまった。

 血まみれになる子供。

 馬車は止まることなく、貴族街へ入ろうとしていた。

 貴族街へと続くゲートに近づいた瞬間、何故か猛スピードのまま、馬が方向転換をした。

 荷台部分はその猛スピードのまま開門前のゲートにぶつかった。御者はというと、何故か両腕が切断されていた。


 馬車の惨状を見届けてから僕は子供に近づいた。

 酷い。普通の状態ならまず助からない。現代日本ですら、至急手術を始めても救えるかどうか分からない。

 腹が裂け、右足はズタズタだ。

 フィリアさんが彼を膝の上に抱え上げ、近くの人間に指示を出している。

 「誰かレキさんを、薬師を呼んでください!! 冒険者ギルドまで行って回復魔法を使える人間も呼べたら呼んできてください!!」

 さて、僕はどうするかね? 薬師の知り合いなんていないし、この子供も瀕死だ。流石に僕のギターを聞いていい音だって言ってくれた子供を見殺しにするなんて、したくない。

 

 救えるか? 僕に。

 やるしかないさ。僕は人を殺す技術には長けている。ならば、その技術を僕は今日は人を救うために使おう。

 フィリアさんに彼を抱えたままにしてもらい、彼の口を布で塞ぐ。舌を噛み切られたらかなわん。

 命は数日持たせることが出来ればいい。命さえ持てば、リリスに治してもらえる。

 だが、手をこまねいていると、命さえ持たせることが出来ない。

 まずは腹を塞がないとな。


 その時、例の馬車が爆発したかのように内側から弾け飛んだ。転がる数人の人間達。致命傷を負った人間はいないようで、その中にいた回復魔法を使える人間が仲間の治療にあたっているようだ。

 そして、その馬車から一匹の巨大な狼が躍り出た。

 白い毛並みの美しい狼であった。


 後半はほのぼのしていない。

 次回へ続く……か?

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