第2話 主人公、ぶちギレる
ついにやってきたぞ、冒険者ギルド。
ああ、胸の高鳴りよ。オタク道に浸かっている僕にとっての憧れの一つが、冒険者稼業なのだ。他? 他は、ほら、美少女メイドとか。美少女メイドさんは昨日手に入れたもんね。その他についてはいつの日か話す日が来るさ、きっと、たぶん。伏線が絶対に回収されるべきなんて、誰が決めたんだ?
僕は一緒に付いてきたフィリアさん(何故かメイド服のまま)の案内に従い、受付のところにやってきた。
簡単な説明をしてくれるらしいが、実はこのフィリアさん、学生時代から冒険者稼業をやっており、今ではCランクまで上がってきているそうだ。なので、簡単な説明は後々フィリアさんから聞けばいいだろう。
僕は説明書は見ないでゲームは進める主義なのだよ。
さっさと登録を済ませて、依頼を受けるべきなのだ。
受付のおっさん(何故だ? こういう時、受付は美女もしくは美少女がお約束の筈だ!!)の案内に従い、ある球体に手を乗せる。もちろん、乗せるのは右腕だ。左腕を乗せた日には何が起こるか分からん。
この球体、個人情報を登録できるらしい。
指先に軽い痛みが走る。血液を採取されたようだ。おいおい、この球体に危険はないだろうな? 僕自身には何ともないがね。
手を離してもいいというおっさんの指示に従い、手を離す。
待つこと約一分、僕用のギルドカードが出来上がった。早いな。
ギルドカードに記載された情報はこうだ。
『名前:シンヤ・クドウ
性別:男
ギルドランク:F
所持金:0G』
所持金ゼロ。ハハッ、笑えるな。
ちなみにこのギルドカード、キャッシュカードのような働きもするらしく、ギルドの提携店ならば、手持ちの金がなくても、ギルドカードの中に所持金の情報があれば、買い物が出来るとのこと。剣と魔法のファンタジー世界の筈なのに、こういうところだけ、異様にハイテクなんだ。しかも、登録された本人しか絶対に使えないらしい。くそう、ハイテクめ。
所持金に関しては、ギルドでも取扱いが出来るらしい。僕は早速、昨日国王から貰った10万Gのうち、残った3万Gをギルドカードに入金した。ちなみに、昨日のうち7万Gも使ったかと言うと、そうではない。5万Gはフィリアさんに預かってもらった。無駄に使う必要はない。と思ったら、その5万Gは、フィリアさんが自分のギルドカードに入金していた。どうするつもりだろ、あれ。
彼女の給料は王宮から出ることになっているので、僕は気にしていないのだが、実は彼女の給料も冒険者として稼ぐ、なんてことはないよね?
まあいい、依頼を受けるとしよう。
僕のギルドランクはF、フィリアさんのギルドランクはCだ。ちなみに、Dランクになるとようやく1人前の冒険者として認められるらしい。Fなんぞ、ゴミみたいなものだ。念のため言っておくが、誰かがゴミみたいなものだと言ったわけではない。
せっかくなので、フィリアさんとパーティー申請をしておいた。パーティーを組んでおくと、メンバー内の一番高いランクの依頼まで受けられるらしい。この場合、僕もCランクの依頼まで受けられる(ら抜き言葉以外も使うんだぜ)ことになる。
依頼は壁に貼られている。もちろん、受付をしたばかりの依頼では、まだ貼られていない。ここら辺はアナログである。
フィリアさんとともに壁に向かった。
手頃な依頼を探すとしますかね。
「初依頼なら、何がいいですかね?」
「王都近辺で受けられる依頼がいいかと思います。王都内で受けられる依頼になると、荷物の運搬だとか、倉庫整理などになりますね。そちら方面でもベテランと呼ばれる人たちもいますので、馬鹿には出来ない仕事です。そういうのが得意なら、そちらをお勧めしますが」
異世界に来てまでそんな事やっていられるか? 否、断じて否だ。
「王都近辺で探しましょう」
「王都近辺ならば、薬草採取かゴブリン退治などがよろしいかと。薬草採取は採取した種類、量や質にもよって報酬が変化することがあります。また、ゴブリンなどの魔物を退治すると、素材の採取や魔石のドロップなどで報酬を得ることが出来ます。ゴブリンクラスですと、王都近辺にも出没するので、強くはない魔物です。冒険者を始めてすぐの方でも退治することが可能なのですが、集団で現れるため、注意が必要な魔物ですね」
「依頼は同時に2つ受けるのは出来ない?」
「そうですね。2つ同時に受けることは出来ません。それぞれ期限がありますから。期限のない依頼なら同時に受けることも可能ですが、そういうものは大抵弱い魔物を退治する依頼か、かなり難しい依頼かのどちらかです。そして、かなり難しい依頼の場合は、報酬は早い者勝ちです。同じ依頼を何組でも受けることが可能ですので」
色々あるんだねえ。
王都近辺で出来る依頼となると、薬草採取などが手頃か。
「魔物は依頼がないと退治しても無意味ですか?」
「いえ、素材や魔石の買い取りは行ってくれるので、退治するのは自由です」
ならば、薬草採取の依頼をこなして、ついでに魔物退治をしますかね。
僕は壁に貼られた王都近辺の薬草採取の依頼票を剥がして、受付のおっさんに依頼承諾をする事を伝えようとした。
そんな時、僕を嘲るような笑い声がした。
「おいおい、僕ちゃん、Cランクの可愛い女の子と薬草採取のピクニックですかぁ? ガキは帰ってママのミルクでも飲んでな。このお姉ちゃんには俺達と付き合ってもらうからよ」
この男、今何て言った?
僕を嘲笑しながら声をかけてきたのは、筋骨隆々のスキンヘッドだ。おそらく力自慢が取り柄の冒険者の一人だろう。取り巻きも笑っていやがる。
「今、なんて言った?」
「あん、聞えなかったのかい、ボウズ? 耳が悪いなら、おうちで布団をカブってガタガタ震えてな。おっと、お姉ちゃんはおいてけよ? 俺達とお楽しみだあ」
「さっき、なんて言ったんだ?」
「ああ?」
「さっき、なんて言ったんだ? 聞えなかったよ、もう一度、言ってくれないか?」
僕の怒りが理解できたのか、スキンヘッド君は、顔が蒼褪め始めた。
スキンヘッド君は謝ることなく、ギルドを取り巻きともども出て行った。最後に僕の方を睨みつけるのを忘れない。
今は許してやろう。実力差というものが分かってよかったね。
依頼承諾の件をおっさんに告げ、僕とフィリアさんはギルドを後にした。
回復薬などを念のためフィリアさんに買ってきてもらうことにした。
僕はまだ所持金がないので、買う事は出来ない。
フィリアさんが買い物に向かったのを確認後、僕は近くの路地裏へと向かった。何故向かったかというと、そこに漆黒の闇が浮かんでいたからである。
そんなわけないだろう?
複数の足音が聞こえてくる。つかず離れず、適切な距離を保って追いかけてくる。
僕は路地裏の奥深くまで来たところで、足を止める。
「へへへ、怖気づいたのかい、坊っちゃん?」
スキンヘッドとその取り巻きだ。
「待ちくたびれたよ、ここなら、フィリアさんにもギルドにも迷惑がかからない。君達を排除するのに、何の障害もない」
「あ? 何言ってるの? それとも、逝っちゃってんの? 坊っちゃん」
スキンヘッド君は先ほどから一言も喋らない。何故なら彼は僕との実力差を感じているからだ。
「君達、ギルドランクは何だい?」
「BとCだよ。Fの坊っちゃんが敵う事のない実力差だよ?」
なるほど、自分の実力を少し知ることの出来るいい機会かもしれないな。
「かかってきたまえ、雑魚共」
「あん?」
「それとも、帰ってママのミルクでも飲んでおくかね?」
僕の嘲笑にスキンヘッド君以外がぶちギレた。そう言えば昔、ぶち●レ●剛というクソゲーがあってね、キャラクターがブチギレるゲームだったはずが、プレイヤーが先にぶちギレるというゲームだ。もちろん、僕はプレイした事がない。
そんなくだらないことを考えてしまったのは、彼らの動きがあまりにも遅かったからに違いない。クソゲーをやり続けるとね、ディスクを投げ捨てたくなってしまうものなんだぜ?
彼らには地獄を見せてやった。僕の見てきた地獄に比べれば、腕や足の数本ブチ折られたとしても、大したことはない。ああ、ディスクの代わりにこいつらを投げ捨てちまいそうだぜ? ぶち●レ金●を思い出してしまったせいか、変な表現をしてしまったな。
スキンヘッド君はその地獄を見せつけられるだけだった。実力差を理解するというのも、考えものかもしれないね。
路地裏で手足をへし折られた人間が転がっている場合、まあ、いい結末は迎えられないわな。でも、僕は放置プレイを行った。もちろん、スキンヘッド君の手足もへし折ったうえでだ。まあ、こういうタイプはピザでも食って回復するだろ。しないか、ブンシチさんじゃあるまいし。
僕は両親の事を言われると、昔の経験から、どうも見境付かなくなるんだよねえ。
路地裏から出てきた僕を心配そうな顔でフィリアさんが迎えてくれた。
心配してくれる人がいるというのは、案外嬉しいものだね。
さて、初依頼をこなしに行こう。
作者がやった事のあるクソゲーはシ●プル2000シリーズの「THE 武●道~辻●り●代~」です。
あれはクソゲーだった。