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 枝の合間から注ぐ月明かりを頼りに、土を掘る。何度も掘り起こし、何度も埋めた場所を。ただ、ひたすらに掘る。

 リサの罪の証。共犯の拠り所を、確認するために。

 軍手をめた手で土を掻く。冷たく凍る土の中を。僕たちの日課。罪の共有。唯一見ることの適う、絆の形を確かめるために。

「……優、あった?」

「指先は当たってるんだけど。もうちょっとかな?」

 かじかみ、感覚を失った指先で。懸命に。夜の世界に於ける、ただひとつの真実を。

「代わる?」

 麦藁よりも確かなもの。鮮烈な、罪の証を。

「大丈夫。一応、僕は男だし」

 周囲より若干柔らかい土を掘り進め、絆に手を伸ばす。地中深くに埋められたそれは、僕たちを繋ぐ唯一の。白く、黒い。

「あった。……リサ、バケツ用意して」

 何の変哲もないビニール袋に包まれ、土を纏った姿を現す。

「もうだいぶ変質しちゃってるわね」

 軽く土を払い、薄汚れた袋の口を開き。

「仕方ないよ。冷凍してるわけじゃないしさ」

 中に溜まった液体をバケツの中に捨てた。強烈な腐臭が辺りを包む。

「冷凍庫があったら良かったのにね」

 片手で持つには大きな中身を、リサの足元にそっと横たえた。月明かりが優しく絆を照らしている。

「ここに? 無理だよそんなの」

「知ってるわよ、そのくらいは」

 かつては息をしていたはずの、それ。毛が抜け落ち、変色し、所々が液状に変化している。黄ばんだ白の骨組。柔らかく、不自然な感触。

 赤黒く染まった絆は、ポチという名で呼ばれていた。

「でもさ、虫とか湧いたら大変かな、と思って」

 愛おしそうに腕を伸ばし、リサがそれに手を触れる。

「骨だけにしてあげた方が良いかな、なんて。優、どう思う?」

 腐った肉を潰すように、ゆっくりと力を込め。にっこりと、微笑む。

 初めのころは、湧き上がる吐き気を抑えられなかった。腐った臭いと血の匂い、それに、リサの恍惚の表情。全てが非現実的で、全てが嘘臭く。それなのに、目を逸らせないほどの圧倒的な存在感を誇っていて。

「……まだ、しばらくは大丈夫じゃない?」

 止めなかったのが、僕の罪。繋がりを求め、夜の世界に留めようとしたことが、何よりの。

「うん。でも、ポチも虫が湧いたら痒がる気がするのよね」

 リサはまるでただ眠っているだけのように扱う。どう見ても生きているはずのない、腐れた塊のことを。

「可哀想じゃない? 自分じゃ掻けないんだし」

 僕は肯定とも否定ともつかない曖昧な表情を浮かべ、リサの隣にしゃがみ込んだ。絆に手を伸ばし、そっと触れる。柔らかな表面が指先に触れ、いびつに変形した。

「……リサ」

 罪の色は白く、黒く。月明かりに包まれた偽りの世界は、ポチと共に存在している。

「何? 優」

 真夜中、誰の目にも付かない場所での逢瀬。恋に似た感情を抱き、リサと共に過ごす時間。

 僕はきっと、取り憑かれている。この世界に。

 この、偽りの天国に。

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