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 反倫理的・反社会的な内容を含んでおります。

 風が揺れる音が聞こえた。さわさわと、僕の心を掻き乱す。

 怖くないと言えば嘘になる。悪いことだという自覚もある。けれども。彼女に逆らう気にはなれないと、確信していた。

 月明かりが優しく照らし出す夜道。沿道の木々が揺れている。吐き出す息の白さは鮮烈で、夜闇の中に溶け消えた今も、僕の脳裏に焼き付いている。

 これはきっと、罪の色。真白な、偽りの罪。僕とリサとの、繋がりの証。

「……優、どうしたの?」

 口振りとは裏腹な笑顔を浮かべ、リサが顔を覗き込む。長い髪が月明かりを反射していた。つやつやと、美しく。

「え? ああ」

 長い睫毛が頬に影を落とし、寒さで色付いたリサの頬をより一層鮮やかに魅せる。思わず見惚れてしまうほどに。

「うん、寒いなって思って」

 本心のような偽りのような答えを返し、リサと同種の笑顔を浮かべた。僕たちの間には偽りの絆しかない。溺れ縋るわらのような、力ない絆しか。

 僕たちは共犯者だ。けれども、信頼関係はない。いつ壊れるかも判らない。脆く、儚く。

「なーんだ。私、てっきり辞めたいって言い出すのかと思ったよ」

 甘く、魅力的な絆しか。

「辞めるわけないじゃん」

 あはは、と、心の籠っていない笑い声を上げ、リサの手が伸びた。僕の首筋に。

「……裏切らないでよ?」

 ひんやりとしたリサの指。力を込められ、食い込んだ。

「裏切らないよ」

 突き刺さる爪。離れてもきっと、跡になる。けれども。

「……僕は、裏切らない」

 首筋に浮かんだ赤い傷は、いつか必ず消えてしまう。彼女の指が離れれば、自然と。消えない痕は、僕の。

 いや。そう思いたいだけなのだ、恐らくは。

「リサ。……僕たち、共犯者だろ?」

 笑顔を浮かべ腹の探り合いをしているような間柄でさえも、愛おしく。脆いはずの絆に雁字搦めにされ、僕は本心を見失う。偽りの感情を植え付けられ、護らなければいけないと。

 冷たい風が、頬に触れた。もう戻れない場所なのだと、僕をたしなめるように。

「そうね。裏切りを許さない関係を共犯って言うんなら、私たち、共犯者だわ」

 いくら季節を巡ろうが、いくら時間が過ぎようが。

「共犯が優って、ちょっと頼りないけどね」

 いくら罪だと知ろうが、いくら絶ち切った方が良いと判っていようが。

「ひとりよりマシだろ?」

「まあ、ね。本当はちょっと心強いかな?」

 吐き出す息の色より白く。見上げた空に浮かぶ月より明るく。艶やかなリサの髪より美しく、滑らかなリサの肌より魅惑的な。

 ふたりの秘密。罪の色。

 僕のこの感情はきっと、正しいものではないだろう。けれども、逆らいようがないのは事実だった。

「……ねえ、優」

 リサの囁きは無感情で、甘い。

「何?」

 僕を酔いれさせるには充分なほどに。

「優はさ、ずうっと一緒にいてくれる?」

「もちろん、いるよ。……ずっと」

 ああ。この感情は偽りだ。凍てつくような夜の空気に酔っているだけだ。判っている。判っては、いるのに。

「……ありがと」

 脆く弱い藁を束ね、僕を締め付ける。仄暗い夜の街。全てが嘘で出来ているこの世界に於いて、リサだけが確かにそこにいて。そこに存在し、僕を捕らえ続けている。

 囚われた僕には逆らいようがなく、リサという名の看守に従い続けるしか術がない。自覚ばかりで認める気の起きない感情と共に。囚われ、偽りの中に。

 薄闇の世界、僕たちの罪。昼とは違う顔を見せる街、昼とは違う顔を見せるリサ。認めざるを得ない感情。それでも、偽りだと信じている。

 これは恋などではないと。それでも僕は、信じている。

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