第十一話 ロークのダンジョン前編
まだ日は高く、人々は忙しなく動き回っている。
少し先では、上層から水が滝となって流れ落ちていた。
地表にできた小さな滝つぼには水飛沫が上がり、清涼な空気が満ちている。
だが、その場所に人影はない。
不自然に思い目を凝らすと、薄い膜のような揺らぎが見えた。
――結界だ。
よく見ると他にも同じような場所がある。
商人が言っていた、コアオーナーしか入れない場所なのかもしれない。
扉横に新しい神官が立ち、次の訪問者に備えていた。
さっきと同じく女性の神官だ。
これは意図しての配置なのだろう。どちらも物腰が柔らかく、優しげな雰囲気をまとっている。
そんな往来を眺めながら、ビビは小さくリズムを刻み、踊りだす。
そのリズムに合わせ俺も声を乗せた。
この地に再び人が集い、明りが灯り、人々の笑い声が響く、そんな未来の情景を歌った。
踊るビビの目は金色の光の筋を引きながらキラキラと輝き、
刻むステップにも金の星が散るように煌めく。
俺の声は光を帯びだし、四方に細い糸のように煌めきながら広がっていく。
この地に眠る夢半ばに潰えた者たちよ――静かに眠れ。
新しき者たちに未来を託し、静かに眠ろう。
二人で歌い、踊った。
ついビビに乗せられ歌ってしまったが、ワッと歓声と拍手が起こった。
そんな人たちの中にロークもいて、拍手をしている。
そんなロークに駆け寄り、お疲れさまと声を掛ける。
「いやー、良いじゃないか! 格好良かった!」
「そっか、ありがとう」
「ありがと」
拍手も止み人々は元の作業に戻ると、その場にはロークと神官の二人になった。
「あの子はどうしたの?」
「祭壇の奥には、コアオーナーと神官だけが使える通路があるらしくて、そこから上層に行ったよ」
神官はロークの話を、斜め後ろに立って静かに聞いている。
「一緒に行かなかったんだ」
「知り合いでも無い奴と一緒に行くはずないだろ。行くなら三人でだろ」
「そうだな」
「三人!」
すると、神官がお話がありますと一歩前に出てきた。
「お連れ様もコアオーナー様とお聞きしまして、確認をさせて頂けますか?」
「あいつが言ったんだよ」
ロークの口振りに少し驚いた神官は、ちらりと俺たちの顔を伺った。
「俺たち三人ともコア持ちですが、今日は起動せずに明日以降にします」
「理由をお聞きしても?」
「神様がそうしろって……」
神様というビビの言葉に、神官は勢いよく一歩下がって頭を下げた。
「言うと思って」
話は最後まで落ち着いて聞くようにと思ったが、小さい種族三人が三人ともコアオーナーなんて普通では無い上に、神様なんて言われたらこの反応も分からなくもない。
「コアオーナー様用通路も使えますが、いかがされますか?」
ビビの続きの言葉は聞こえてなかったのか、普通に接してきた。
「一般の階段を使うので大丈夫です」
かしこまりましたとと神官は下がったので、二人を連れて上層へ向かった。
あの子はもう上層なのだろうかと――ふと、思った。
「神殿の中はどうだった?」
「フクロウがいたぜ。ウィスラ様の神使って言ってたな」
「ウィスラ様は知恵の神様だな」
話したんだ凄いなと、ビビと話している。
「ダンジョンはどうなったんだ?」
「フハハハ。おれは大地の神ガイア様に願ったからな、東端の斜面の鉱石ダンジョンだ!」
「おー。ロークすごい!」
「願い通りだし、ロークにぴったりじゃないか」
胸を張り自慢げなロークを先頭に、階段を上り東へ向かう。
馬車を使おうかとも思ったが、ちょうど出発したところだったので、歩くことになった。
「そういえば、あの子のダンジョンは何だった?」
「なんか深淵のダンジョンって言ってたな。色んなドロップのあるダンジョンみたいだ」
「何かに特化したものばかりじゃないんだな」
「じゃあ、クリームダンジョンはないかー」
ないだろうなと笑いながら俺たちは東へと進む。
「あの斜面に三つ区画が並んでるだろ? その真ん中がおれのダンジョンだ!」
それを聞き、俺たちの歩む速度は上がった。
「この入り口を塞ぐ壁に施された封印は、掌を当てると解除されるらしい」
そう言ってロークは掌で壁を触った。
壁は白く輝きを放ち、スーッと消えてしまった。
現れたのは大きな門で隔絶された大きな区画で、大きな建物が三つに、二つの建物に広い停車場だった。
「鉱石の流通を考えたものになってるんだな」
つまり、ロークの区画は“鉱石の流通を前提にした大きな拠点”というわけだ。
「すごいねー」
「許可した者しか入れない建物があって、そこを自宅兼事務所にどうぞって言ってたな……」
不満そうにそう言うロークだった。
「そこの斜面に後々家を作れば?」
「そうだな、それまではその建物に住めば良いさ」
「そうか、そうだよな。家を作るにも時間が掛かるしな」
その後は自宅に入り、俺たちも許可をもらった。
そして大きい倉庫や宿屋などの建物の他に、ダンジョンの入り口を見て回った。
「ダンジョンの運用は五日後ぐらいかな」
神使などから話を聞いたところ、試験運用をしてから解放することが多いらしく、五日から十日で解放されているみたいだ。
「おれのダンジョンの深さは未知数で、大陸にある鉱山で産出する物は、何でもドロップの可能性があるらしい」
「キャッツアイでたらいいね」
「緑と金を二個づつほしいな。出るまで籠るしかないな」
「そうだね」
ビビの金の目がキランと輝いた。
「おれが出たら二人にプレゼントする! 金は特に珍しいが、出ないという事も無いだろ」
深い緑も珍しいが金は本当に希少だと力説している。
「よし! 明日はダンジョンにはいる!」
「準備を万端にするんだぞ」
「探索に必要な物は、街の中心に行けば手に入るそうだ」
神官に色々聞いていたロークが早速行こうと言い出した。
「今なら暗くなる前に辿り着けるだろう」
俺たちは急ぐぞと言って斜面を駆け下りた。
もちろん素早さのケットシーダンスも使ってだ。
こんな楽しい一時でもふと感じるときがある。
街が夕焼けに染まる光景が、どこか懐かしく寂しく感じてしまうのは、俺の前世の記憶かはたまたこの地の悲しい記憶か……。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
少しでも『面白いな』『続きが気になる!』と思ってくださったら、ブックマークと下にある
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると、執筆の励みになります!
では、次話で!




