第一章 第二節:構築(2)
第一章 第二節:構築(2)
SIDE:LAY
「みなさん、お集まりいただきありがとうございます。この製品は当社にて開発された強化型警備システムの中核をなすのは自律運転型の大型メカノイドであり、今までのノウハウを利用した最新モデルで……」
ミソラのプレゼンテーションは、まあヘタクソだった。本来現場の人間だから上手いわけはないんだけど、ちゃんと理解している人がやるようにと言われたら他にいなかったらしい。理解できることと説明できることは全然別物なので、わかってなくてもそれらしく伝えられる人がやった方が会社のイメージがいいだろう。まあどこの企業でいつ見てもプレゼンなんてそんなものだから大して問題ないが。
顧客が普段通りのつまらなさそうな顔をしているのはミソラが話している間だけで、その後は目を輝かせた。大型メカノイド、サイクロンの実機のデモンストレーションだ。どうせこんなものだろう、と思っていた水準を遙かに上回ったらしく、素晴らしい!と言いまくっている。ミソラは機械機構を作らせたらそれはもう上手いから、そうなるだろう。たまに魔が差して「ミソラはすごいわね」って言ったら嫌味だと言って怒るので、あまり言わないけど。専門分野が全然違うんだから怒られたって困る。
サイクロンの基本構造はもう完璧に近く、出力、実用性もそこまでしなくていいのにというくらい作り込んでいる。惜しむらくはデザインが無骨だ。ミソラに任せたらファンシーな代物になるので、ここだけは別の人間が噛んで、問題ないレベルに打ち合わせて作っている。他の人間がやっているから余計なものは付けられなくて、シンプルイズベスト。ミソラが作るとシンプルどころかテディベアになりかねないのでその仕事は絶対に回ってこない。
機能は見る限りかなりの高水準だ。自律運転のプログラムは未完成だから、決まった動きしかできなくて評価はそこで止まるが、電子頭脳のクオリティ如何では会社が始まって以来のものになるかもしれない。まあどこの世界でも仕事でやる人よりマニアの方が上手く、マニアが仕事でやると大成する。人生の成功パターンに乗った、うらやましい話だ。
ここから先は別の部署の仕事で、電子頭脳に大きな問題がない限り試作機が実用化されて量産に入るだろう。私はこの成功を素直に喜べる。エンジニアといっても、機械と電子は壁一つ挟んだ別物なので、お隣さんの結婚におめでとうという感じだ。
ミソラは説明を終えて一息つこうとして、上司はわかっていないからまた顧客に捕まって質問攻めに遭って、昼過ぎになってようやく食堂に現れた。もう時間がないから急いで食べるという。ミソラは小食なわけではないが昼食は少ししか食べない。もっと食べたら? と言うと、あなたとは違うの! と怒る。人生の成功者は、一日三回ちゃんと食べるらしい。
「みんなすごく喜んでるわ。こないだまでのは危なっかしいからね」
こないだまで警備用の主戦力だったパワードスーツは、人間が着込んで大出力を出す。人間はパワードスーツを動かす制御母体みたいなもので、力はほとんどスーツが出し、こう動きたいと身体を動かせばスーパーマンみたいな力が出るヤツだ。電子頭脳があればメカノイドにできるのに、とみんな言っていた。
メカノイドにしようと思えばできないことはないんだけど、一つ問題がある。メカノイドが暴れたらどうするの? というもので、自律思考するメカノイドは基本的にモラル任せで制御を振り切ることがある。じゃあ自律思考できないメカノイドにするのかというと、きょうびメカノイドは当たり前に無線を搭載してネットワークにつながっているので、腕のいいハッカーなら簡単に乗っ取ってしまう。自律思考ができればハッカーにたぶらかされても断れるが、本人がその気になってしまったらその前の話に戻る。危なくて使えない、ということになるが、何か別の部署がいい方法を思いついて、試しに実機を作ってみようとなったらしい。
実機を作るミソラは、時間も予算も使える! と大喜びでかかりきり、周りがあきれるくらい高性能なものを作った。メーカーなんだから高性能すぎてあきれられることなんてまずないはずなのに、どこまでやってるんだとみんな口をそろえるからそこそこおかしい話なのだろう。
まあサムズアップはその昔軍需産業を結構やっていたので、ノウハウとか資材とか記録とかいろいろある。そこにミソラみたいなのが放り込まれたら、どんどん進むのだ。この会社はすごい人が少ないのに運用は要領がいい。会社ってこういうのが大事なのだろう。
※
SIDE:VAN
「パワードスーツ?」
オレはイズミ屋の話を聞きながら飯を食っていた。日本伝統食の麺類、できるだけ安くとなるとシンプルな具の入っていないヤツになる。他の連中は精のつくものをと言って結構食べるのだが、下手に筋肉をつけると体重が増えるし関節の可動域も変化するので、現場で役に立つかどうかは別問題。オレは筋肉なんて、増やしもせずに落としもしないくらいに保っている。使い方次第で十分足りて、むしろこれくらいがいいと思っている。
郵便屋などと言いつつ荷物運びエリア担当とでも言うような役回りのイズミ屋は、とりあえずこいつに押しつければいいと思われている節がある。急ぎのケガ人を押しつけられて、いつも医療器具の台車を押しているだけで手当なんてできないのになんとかしろ!と怒られる。赤チンを塗って絆創膏を貼って……その程度のことはできるが基本わかっていない。こないだAEDの使い方に口を出したから詳しいと思われている、と嘆いていた。AEDというのは誰にでも使えるように作ってあるのでもちろん詳しくはない。
イズミ屋が押しつけられた負傷者は、パワードスーツを使っていたらしい。せめてメーカーの説明通りに使えばいいものを、この方がいいからなどという素人了見で改造するものだから身体を壊す。無理がないように見えてもメーカーはしない方がいいからできなくしているので、脱いだときにはそこら中痛いらしい。そんな何やってんだと言いたくなるヤツを手当てして、オレじゃわからねえから医者に行けと送り出した。関節痛だから総合病院じゃなくて接骨院だ、と伝えたが聞いていたかどうか怪しいという。
「無理に使うくらいなら、時間と手間をかけた方が壊れないのにな。身体が」
イズミ屋は雑用ばかりの小間使いみたいなもんなのでこういうことを言う。現場にいると、時間と手間なんてもう使い果たして残っていないので、無理に進めたくなる。進めたくなる、というのは表現が少し違って、実際は進めないとどうにもならないのでもうやってしまう。これはほとんど日常で、やってないヤツの方が少ない。だから相当数が身体を壊して、イズミ屋の時間と手間が食われて昼飯に影響する。
しかし、今回の問題はそこではないらしい。パワードスーツが改造されるのはよくあることだが、どうも改造しすぎだという。学生時代に就活でパワードスーツのメーカーを考えて調べたことのあるイズミ屋だが、商品の制御系がデリケートでこんなもん改造するヤツがいるのかと疑問に思い、事例を調べるとハード系がいじくられている。そんなことしたら人体と整合が取れなくなって、ああでこうで……自分でイジって大ケガしたクレーマーがわんさといるのがわかっている会社に行きたいとは思わず、めぐりめぐって下働きをしている。だから別に興味もないのにパワードスーツの改造例を知っているのだが、おかしいという。今回の事例は、整合を取ろうとした感じがある。制御系で。
パワードスーツを改造すれば人体に対して負荷がかかり、ものすごく器用に動かさないと体を痛める。メーカーでもなければ普通はそんなことできないから改造マニアですらプログラムには手をつけないのに、半日とかの長時間稼働していて調整してあったとしか思えないらしい。そこそこ知識と技術があって、相当がんばらないとこうはならない。あるいは、めちゃくちゃ頭のいいヤツがやったか。どちらにしてもやりすぎで、負担を軽くする工夫自体はしてあったが使ったヤツはスーツを脱ぐとそこいら中が痛くて動けない。現場から担ぎ込まれてきたのは、そんなヤツだったという。
どうやら改造されたものを試しに着ていたようなのだが、コイツ自身は何が起こったかわかっておらず何も知らずに着ていたらしい。なんでこんなことになっているのかというと、改造したから試したいというマニアは水面下にたくさんいるのかもしれない。案外みんなやっているのかもしれない。だからマニア同士のネットワークをたどれば、そういう技術があるのかもしれない。どんどん話がぼやけてどうでもよくなり投げっぱなし、真面目に考えるヤツがどこにもいないと来たものだ。実にいいかげんな放り投げ方だが、もうこんな感じで処理しないと日々の仕事が進まない。しかし無茶な改造は、下手すると体がちぎれるヤツが出るかもしれない。さすがにどうかと思ったイズミ屋は関連部署に報告したが、話はちゃんと進むだろうか。不安そうだったので、賭けるかと聞くと「進まないに10ドル」。……1ドルくらいにするつもりだったので、それ以上言えなかった。
昼からの仕事は、演習。部隊全体の動きをならす基礎訓練が多いが、正直やっていてやきもきする鈍臭さだ。待ってられないので自分から進めたことが何度かあるが、進まない原因はオレが隊列を乱すからだ、というところに落ち着き、今日も話は進まない。それ以来オレは大人しくしているので、やっぱり遅いのは違うところに問題があると思うのだが、誰もそうは思わないようだ。
現場用に調整したパワードスーツを着ればもっと進むだろう、と言いに来る上司はよくいるが、あんなものを無理に使うと使ったヤツは身体を壊して戦線離脱、人手が足りなくなってもっとたくさん倒れていく。政府部隊は乱暴なのに自分の身はかわいいのでさすがにゴネて先送り、上司はそのうち諦めるのがいつものパターンだ。何か代替手段があれば、というヤツもいるが、代替手段があれば政府部隊は全員リストラ、潰しが利くとは思えないので路頭に迷って途方に暮れる。そこで話は終わってしまい、もう少し考えてからこうすればいいと言えばいいのに、まず自分が見えていないのでこうなるようだ。聞く限りどこの仕事もそんなものなので、変えようとは思わないが。
演習の後にクレイグが話しかけてきた。珍しい。こっちから内線をかけても出ないのに。なんでも訓練中に隊員の状態をモニターしていたらしく、オレの動きが気になったという。いつも感じが悪い男が急になれなれしくしてきたので気持ち悪く、適当に聞き流して距離を取った。クレイグが言うには、オレの動きは理に適っているのでケガの後にリハビリしても速いだろう、とか。まずリハビリをする状態になりたくないので、あまり相手にしなかった。
SIDE:IZUMIーYA
ようやく仕事が終わると思ったら、医務室から呼び出しを食らった。なんでも総合病院から電話がかかってきたらしい。接骨院だと言ったのに。なんで患者に指示しないんだと怒られても、言ったものを聞いていないのだからオレに言われても困る。向こうが嫌々対応したらしく、そんなことを言われたら頭が上がらない。頭を下げるべきは病院に行ったヤツでオレが下げる必要がまずない気がするが、向こうは迷惑したのだから仕方ない。次から気をつけます、と言うと余計に怒られた。最初から気をつけろ、という意見はもっともなので、今日そっちに行ったヤツに伝えておいてほしい。
すみませんでした、と電話を切ろうとすると、電話の相手が変わった。どっかのメーカーの機器担当らしい。似たような患者がたくさんいて、病院もメーカーの窓口も大忙し、今日病院に行ったヤツもその手のものだという。外傷はなく、関節や腱に大きな負担がかかった形跡がある。たいてい力仕事で、専門の器具を使うヤツ。大ケガのヤツは減ってきているが、最初の頃はもっとひどく、もしかしたら使う機器の制御系をいじったんじゃないかという。政府機関からもそういう患者が来たので、お前たちは人体実験でもしているのか?と半ばキレ気味に勘ぐられた。
んなわけないだろう、とさすがに言い返し電話を切る。オレの知る限りでそんなことをしている部署はない。やっていたら、さすがに他の部署に怒られて問題化する。どこかのヤバい連中がネットワーク上で操作しているなら知らないが、そんなこと言われてもオレだって知らない。言うならせめてタレコミをするべきだが、そんなことを言い出しても電話の受付担当が相手にしないだろう。だから伝えるべき場所はなく、伝えられてもオレだって困る。一応記録は残して報告するが、表だって問題にするときっと口喧嘩していたことを怒られてこちらは流される。職場というのは、人間関係が土台にないと何をやっても成立しない。悲しいかな、オレの職場は成立していない。
SIDE:LAY
私のプロジェクトは大詰めだった。強化骨格はほぼすべての部位を試作品として完成させ、信号さえ送れば動かすことができる。ただ、人間が出す信号、それも脳からの電気信号を感知して動かすことが想定されているので、入出力が正常でも各所が連動するかどうかはチェックに限界がある。一番いいのは信号を入れてみて動かすことなので、首回りに電極のついたコントローラーをつけて、直結させずに動かしてみたがこれが至難。どうすれば思ったように動くかイメージがつかず、立つことすら難しい。怪我した人は神経をつないだ後がんばってリハビリに励むのでその延長線だが、それが全身と来ればおいそれとはできない。機構が壊れているわけではないので動くことは動く。もうここは慣れとか、適正の範囲だろうか。ソフトを使って補正するために、もう少し時間がいる。まあここは得意分野なので割と速いけど、個人差が大きいので誰でもすぐに動かせるとはいかないだろう。その旨をクレイグ氏に説明したが、あまり聞いておらずスペックをしきりに気にしている。誰かが使うものだからこの辺は大事な話のはずなのだが。
「二階堂君、性能試験は行えるか?」
各ユニットの機能はすでに完成しており、問題は連動なのでできないことはない。でも、そのためにコントローラーに補正プログラムを入れなければいけないので、週末くらいになる。クレイグ氏は、また来るよ、と言って帰って行った。また来られてもコントローラーができていなかったら同じ物しか見せれない。今度現場に持ち込むらしいが、そんなに無理やり動かすこともできないので、どうするのだろう。あまり考えていないのかもしれない、聞いていなさそうだし。物はいいのに顧客があまり良くないことをミソラにこぼした。私たちは意識して集まっているわけではないのに、何をしているかわかってくれる人が少ないので、何か言いたいときはほとんど選択肢がなくお互い目につく。仲良しだと思われている節もあるが、二人ともそんなつもりはない。そう言うと、だいたいの人が「そういうところだ」と言う。私にはわからない。周りのみんなはわかるらしいけど。
ミソラは比較的顧客対応が多いので、そういう取引先はある、と言っていた。よくわかっていないので無茶を言い、理論的に無理だったりする。それも、技術どうこうではなく「その大きさでは部屋に入らない」とかそんなことなので、本当は仕事を持ってくる前に打ち合わせで気がついてほしい。ミソラが必要な要素を集めて考えているとなんだかおかしいので、問い合わせたらやっぱり間違えている。珍しい話ではなく、かなり頻繁に起こる。なかったらラッキー、今回はいいお客だとかそんな話だ。だから、客先は何を考えているかわからないし、何を言い出すかわからない。一番厄介なのは、こちらがわかっていないばかりか本人たちがわかっていないことがままあるので、非常に気を遣い取り越し苦労が多いのだそうだ。話を聞くほど、クレイグ氏はそういう人だと思えてくるのでなんだか腑に落ちた。ありがとう、と言って携帯を取り出し、ミソラにメールを送る。コーヒーチェーンのクーポン、少しいいヤツ。やったあ!と喜ぶミソラはきゃいきゃいはしゃいでいる。自分で買えるのに。さて、どうしたものか。制御装置は後付けだし、梱包しておこうかと考えて視線を外すと、みんながこっちを見て微笑んでいる。何よ、仲良しじゃないって言ってるでしょ。
SIDE:VAN
もういいかげんにしてほしい、とイズミ屋がうなだれた。残業の上に外部からのクレーム、さらには何を残ってるんだと上司に怒られて帰り、タイムカードを押し忘れた。おかげで残業した事実自体記録されておらず、昨日のことなのでなんとかなるかと思ったら後にしろと言われた。三日も経ったらもうみんなわからなくなるのでたぶんもう残業なんてつかない。食欲もないらしく手元にあるのはオレと同じような日本発祥の細麺。そもそも食欲がないので具も入っておらず、それもほとんど手についていない。食べたほうがいい。体調は知らないが細い分早く伸びる。
オレだって疲れているといえば疲れている。どこぞのエアリエルという企業は、警備用と謳って危なっかしい物を売っていて、スタンガンとかはもちろんもっと技術的に高い物も扱っている。制御機構のノウハウこそあるが、好き好んで法定基準のギリギリを狙っている節がある。たぶん法が緩ければもっと攻める。そんな会社に視察に行くと、これはまずいだろうというものが散見される。理屈では合法だが考え方が危ない。死なない程度の電気ショックで警備されたら怖くて歩けないはずなのに、そんなものがちらほらある。もっと問題になるかと思ったら政府部隊は杓子定規なのでわかっておらず、ほとんどスルー。いいのだろうかと思ってたまらず言い出したらいつも通り吊し上げられ、何もしていないのにやたら疲れた。いつものことなのになんで慣れないのだろう。我ながら不思議だ。
イズミ屋曰く、方々で聞いてみると現場用機器の改造が流行っているらしく、どこもかしこも暴走だらけ。幸いまだ死んだヤツや再起不能のヤツはいないようだが、そのうち出るのではないかという。政府部隊の調整したパワードスーツでも着ているとつらいのに、素人の改造なんて怖くて見ていられないだろう。むしろ、まだ死んだヤツがいないのが不思議だ。下手すると身体がちぎれる代物なのに。人体の負担を無視して壊れる寸前で稼働させようなんて考えていればそこに寄せれるかもしれないが、さすがに危うすぎてそんなことするヤツいないだろうと思う。世の中みんな無茶苦茶なので、バカをするヤツも無理を言うヤツも、両方同時にやるというウルトラCをするヤツもいる。そういうのをいつも見ているオレでもさすがにいないだろうと思うので、いたらよほどだ。
そんなの気にしてメシを食わないと余計に身体を壊す。イズミ屋もいいかげん割り切って食えばいいのに、箸が動かない。オレは食い終わって、トレイの横にあった小袋に手を出した。何かの祝日が近いのでついたらしい。豆の周りに、申し訳程度に砂糖のついたヤツ。甘い物は食べないことはないが好きなわけではなく、今はそういう気分ではなかった。顔色の悪いイズミ屋に、ほら、と渡すと、イズミ屋は意外なほど喜んで、ようやくメシを食い始めた。甘い物が好きなヤツはそうなのかもしれない。オレなら、こんなもの渡されて喜ぶのは低血糖のときくらいだが。
それから、一週間も経っただろうか。上官からの特別出動命令が出た。なんでも、ある企業において違法機材が発見されて、摘発するという。もしかしたらと思って聞いていると、エアリエル。軍事転用も可能な攻撃手段があるという。どこか別の組織とのつながりも露見し、ガサ入れのために政府部隊も現場に向かうことになった。ほぼわかっていたのだからとっとと進めればよかったのに、今さらだ。まあいちいち言っていたらキリがないし、口に出してクビになったらいちいち言うこともできない。だからもうこういう組織なのだと割り切っていた。俺たちを乗せた装甲車は、エアリエル本社工場に着陸した。
エアリエルでは、ちょうど客先の視察が入っており、機材を披露していた。その客先というのが……まあ、絵に描いたような危ない連中。そういう相手に売り払うために何か作っていたらしい。手につけたリングがバチバチいって電撃を投げつけるような、手軽に人をケガさせるための機械だ。こういうのが好きそうだとは、どことなく思っていた。
エアリエルの社員は慌てた様子を見せたが、問題は取引先。こいつらはそもそも表に出ない外部のヤツらなので、ここさえしのげれば雲隠れすればよく、申し開きさえしなくていい。いつも通りクレイグが装甲車のスピーカーから警告を出し、政府部隊が前に出る。装甲車のスピーカーは、突然火を噴いた。エアリエルの製品を手に取った取引先のヤツが投げつけた電撃がスピーカーを破壊し、政府部隊がうろたえた。実戦経験となれば修羅場をくぐってきたであろう敵に対抗できるはずもない。オレが見たって相手の方が段取りがいい。隊列を乱した他の連中につきあうと痛かったではすまないケガになるので緊急避難だ。相手はこちらが逃げると考えているので、一気に走り込むのが上策。相手が狙った場所をこまめに避ければ電撃の発射には至らず、距離を詰められる。至近距離まで来て一瞬の攻防。わずか2、3秒の手合わせだったが確かに強い。相手を殴り飛ばしてリングを奪い、とりあえず制圧した。政府部隊が辛うじて隊列を組み直し、エアリエルの社員は大慌てで何かを言っていた。
「こ、これはその、コンサルタント企業の斡旋で……!」
政府部隊の連中が社員に詰め寄る。ここだけは得意な連中だから、オレはとりあえず出番が終わり、お役御免……と思ったら、頭の上を何かが飛んでいった。人だ。政府部隊の同僚。何があればこんな飛距離が出る? 落ちるまで外傷はなかったようなので、誰かにふん捕まえられて投げられた? そんなわけない、と思い振り返ると、パワードスーツを着込んだ取引相手。もうやる気満々といった風情だ。
パワードスーツなんて、本来作業用で戦闘には使わない。危なっかしいから安全装置が入っているし、専用にチューニングしなければ戦場では使えない。操作だってそこそこ難しい。その辺を全部いじってクリアしているらしく、オレの知っているパワードスーツと動きが全然違う。身軽で機能的、負荷も少ない。いくらなんでも人間で制御系のデータを取らなければこうはならない。無理に取ったのか?最近頻発していたというパワードスーツによる故障者のことが頭によぎるが、そんなことは言っていられない。頭が露出しているから本気でぶん殴れば倒せるかもしれないが、一か八かでやっていいリスクではない。失敗すれば殴り返されて再起不能になるのが自然だ。政府部隊は距離を取った。ライフルによる掃射攻撃を仕掛けようとしたのだろうが、相手はコイツだけではないのでリングの出す電撃やそもそも外から持ち込んだ銃器で散らされ、まず反撃に至らない。政府直下特殊部隊が聞いてあきれる、なんて嫌味は後で言うことにしてオレも退避した。さすがに死んでしまう。
装甲車の後ろで敵の銃弾から身を守る。様子をうかがうとそれこそ撃たれるので耐えることしかできず、このままならまず逃げられる。最悪の場合、相手はここまで優勢なら逃げる必要もなくこちらが全滅となっても、不思議なことは何もない。なんとか反撃しようと隙をうかがっていると、装甲車の扉が開いた。中から現れたクレイグは、オレを呼びつけた。手に持っているのは……白い輪っか。一部が開いた、便座みたいなヤツ。何だろうと思っていたら、クレイグはオレにその輪っかを差し出した。
「ヴァン。やってみろ」
※
SIDE:LAY
まったく、冗談じゃない!頼むよ二階堂君、なんて上司がゴネるからやってきたエアリエルという取引先は、営業の会議室以外はろくなものじゃなかった。こんなことしてはいけないとエンジニアなら一目でわかる内容がてんこもり、よくここまで成長していたものだ。少し前までまだまともな企業だったはずだが、ここ数年でその体質が大きく変化し今に至る。誰かに変なことを吹き込まれたとか、上役がだんだん外部の人に変わっているとか適当な噂が立っているが、どのみち関係者が止めるとかみんなで無視して企業として成り立たなくするとかそういうことをしていないから何の意味もない。この企業には、サムズアップと似たような商品が結構あって、混同されると迷惑極まりない。下手したら摘発されるんじゃないかと思うが、見た事実はそのまま報告しよう。
そう思っていたのに、帰る前に政府のマークの入った装甲車が前庭に降りていくのが見えた。そりゃあそうなるよね、と思っていたら、爆発。さらには銃声ではないかという音が鳴り響き止まらない。驚いて窓から見ると、もう大乱闘。見たことのないような機材もあれば、ウチの商品と似たようなパワードスーツもある。政府部隊は為す術なく、追い詰められているようにも見えるが、まさかね……と思っていたら、装甲車から何かが飛び出した。黒いボディは見たことがある。ありすぎる。こないだ取引先が、何か向こうで試してみると言って持っていった強化骨格。私が作ったヤツだ。頭についた信号制御装置はまだ試作段階、正直言うと難しくて動かせっこない。でも政府部隊は何をしたのか、ほとんど問題なく動いていてわずかなブレもどんどん補正されていく。強化骨格は、パワードスーツを着ていた人を相手に取っ組み合いを展開、相手は思った通りに動けてこちらは遠隔操作、というビハインドをスペックと格闘術で跳ね返している。
どうやっているの……? コントローラーからの指令以外は絶対に受け付けない。そして、今まさに戦っている以上操作している人は強化骨格が見える範囲にいる。庭全体に目を走らせると、装甲車の後ろだ。動きこそ小さいが、随時体を同じように動かしている人がいる。どう見ても強化骨格と連動していて、首には白いリング。コントローラーだ。私はビルを駆け下りて前庭に向かった。
降りたときには終わっていた。暴れていたと思われる相手は完全に鎮圧、もう誰も立っていない。それは政府部隊も似たようなもので、大ダメージ。唯一戦っていたと思われるのは、強化骨格と……それを操っていた人だ。駆け寄ると、その人と、車から出てきたクレイグ氏が私に気がついた。
「クレイグさん!」
「二階堂君か。君の開発した機体は、素晴らしいよ。君は帰っていい」
そんなことを言ってクレイグ氏は、操縦者の首からコントローラーを回収して引っ込んだ。操縦者と私は、顔を見合わせたが言葉は交わさず、各々に立ち去った。まったく、君は帰っていいなんて言われても別にクレイグ氏に呼ばれたわけじゃない。上司が、はっきりした理由もよくわからないのに送り込んだのだ。今日だって、特に何をするわけじゃなかった。この戦いで強化骨格が壊れたなんてなったら緊急でやることがあったかもしれないが、そもそも居合わせたのが偶然だから想定しないはずだ。……ふと私の脳裏に、すべてを作為的に仕込めばそのために呼ぶかも知れない、とよぎったが、いくらなんでも悪く取りすぎだ。私は人を悪く考えすぎる。そんな風に見えることが多いから思ってしまうが、そういう行動が普通らしい。私には難しくて、よくわからない話だ。
SIDE:VAN
イズミ屋がオレの首を見て、肩こりかと聞いてきた。コントローラーの電極の跡は赤く残っていて、市販の貼り薬でかぶれたみたいに見えた。肩こりなんて起こしていたら現場で役に立たないので、その辺は気をつけている。違う、と言ったがじゃあ何かという点は説明はできなかった。
あのとき渡された機械と、それで動かしたメカノイドみたいな機体が何だったのかは説明がなく、聞いたところで流されるのはいつものことなので最初から諦めていた。電極が強すぎて使ってるときからジンジンしていて、皮膚越しに信号を捕まえるために少し強くした、とだけは聞いた。まさか電極を背骨に刺すわけにはいかないからそうなるのだろうが、乱暴な機械だ。パワードスーツと大して変わらない。実用化されても現場とケンカになるだろう。それ以前に、あんな制御機構だと見えない場所まで行けないので大して役には立たない。向こうからの情報が入るとか、あれ自体メカノイドにするとか、あるいは、使うヤツをサイボーグにしてしまうとか……どれ一つとっても理に適っていない。上役に考えそうなことだ。
オレは不満げにしていたのだろう、イズミ屋が豆の袋を渡してきた。こないだもらったからだという。祝日は過ぎているので砂糖もついておらず、物として釣り合っていない。何を思って渡してきたのかと思えば、「物よりタイミングだよ」。腑に落ちない。でも不思議と突き返すことはなく、受け取ってポケットにしまった。午後の仕事は、豆の袋をポケットの中で握っているはめになった。




