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第一章 第一節:構築(1)

第一章 第一節:構築(1)


SIDE:VAN


 けたたましく鳴る非常ベル。それに伴って、隊員たちが動く。特別に訓練を受けた精鋭部隊だというが、その割には遅い。足が速くなくても、もっと素早く動く方法はある。身についていないのだろう。隊列を乱すと問題のようなので、合わせて動く。装甲車に乗り込むと、ブウンと足下で音がした。起動した反重力エンジンが車体を空高く浮かべて、動き出した。オレたちは整列して、隊長職に就いているクレイグの言葉を聞いた。


「現場ではメカノイドが暴走している。到着次第制圧、場合によっては殲滅すること」


 いつも通りのえらい言い草だ。暴走といっても、権利を認められて間もないAI式メカノイドはもともと扱いが悪い。事件をひっくり返せば、言い合いになって怒ったなどという誰が悪いのかわからない話ばかり、それでも人間は自分たちは悪くないと言い張って秘密裏に終わらせる。まあどこの世界もそんなものだ。いちいち不平を言っていたら人生を使い果たしてしまう。オレはメカノイドを見て優越感に浸るほど恵まれてはいないので、そんなものだろうと思うばかりだ。少なくともオレは、誰が悪いとは思わない。誰も皆そんなものだ。クレイグは、オレの横を通って肩に手を置いた。


「ヴァン。今度は輪を乱さないように」


 周りの連中が笑い出す。人間だからといって扱いがいいわけではないのだ。オレは身にしみて知っている。もう怒るのもバカらしいので、はい、と小さく返事をした。装甲車は現場に着陸した。


 外に出ると、メカノイドが暴れていた。おそらく車両解体用の、黄色と黒の縞を持ったパワーリフター。その辺の反重力車両を持ち上げて投げつけている。ドスン、と音がするが、反重力車両はたいてい軽量化されているのでさほど重くはない。まあだからといってパワーリフターが弱いかというとそういうわけではなく、作業用なので頑丈で最大出力は大きめになっている。こういうのは近づいて止めるのではなく中距離掃射で片付けるのがマニュアルだ。その例に漏れず同僚たちは電磁ライフルを構えた。


 かけ声とともに放たれた一斉射撃。オレは、端っこに陣取って構えただけ。たぶんダメだろう。それより二の矢を用意した方がいい。案の定、反重力車両を投げつけられて隊列が崩れた。作業用なのだから簡単に壊れないなんて当たり前だ。オレはとっとと離脱して後ろに回り込んだ。同僚たちはポジションを変えて陣形を組み直そうとしているが、やっぱり遅いので待っていられない。その辺のがれきの上に陣取って、片手で鉄骨をつかんで体勢を保ち片手で電磁ライフルを構えた。両手で撃てが基本だが、これくらいはできる。少しばかり角度が悪かったので、おい!と叫んだ。パワーリフターが反応して振り向く、そのタイミングで首筋を撃った。電磁ライフルがパラライザーモードなので破壊には至らず、ビシリと震えてパワーリフターが倒れた。とりあえず現場の仕事は終わりだ。山ほど来ることでもないだろうに、政府部隊もヒマなものだ。


 現場を別部隊が処理する間、パワーリフターの身元を聞いた。もともと過酷な環境で酷使されて、さらに劣悪な条件が湧いて出た。ストレスの多い職場なのに、上司以外の人間と会う機会が激減するとかなんとか。もうたまらずにケンカになって、後は覚えていないという。同情はするが、暴れたらこうなる。処理速度が多少速くったって、行き着く結論はみんな同じだからトラブルになるのだ。オレは聞かなくてもいいような法制度の事情とともに、クレイグの説教を聞いていた。やはり隊列を離れたのは、クレイグからすればまずかったらしい。あんなのについていってケガをするのはゴメンだが、クレイグは長期的に見ればその方がいいという。長期的に見れば大損こくと思うが、どうせ言ってもわからない。そんなことではいずれオレもあのパワーリフターのようになる、というのが向こうの言い分だ。多分もうなっているので、特に反論もしなかった。政府部隊はまあいつも通りの感じで本部に戻った。


 隊列を守った連中は何人かケガをした。名誉の負傷とでも言いたげだが、しなくていいケガはしない方がいい、名誉とも思わない。オレたちの控え室に来たのは、医療部隊。 最近は医学が発達しすぎて何をどう考えているのか誰も理解できなくなり、現場にいるのはせいぜい消毒して麻酔薬を打つ連中ばかり、頼りにならないと経験的に知っているので遠巻きに見ていた。よくもまああんなのに自分の体を任せるものだ。隅っこであきれていたら、あーあ、と隣から聞こえてくる。今の間違ってるよな、と一人言のように言うと、だなあ、とそいつが相づちを打つ。人の体をプラレールの線路と間違っているんじゃないか、なんて二人して訳知り顔で言っていた。話し相手がつけてる腕章には、運搬の文字。通称「郵便屋」と呼ばれる資材運搬係のイズミ屋だ。運送業者の社名みたいだが泉谷というのは本名なのでいつもごっちゃにし、いつの間にか「イズミ屋」扱いするのが普通になった。高度な専門職の間を必要な情報を持って行き来する、政府部隊用の郵便局みたいな部署。下っ端中の下っ端だ。最近は情報技術が発達して民間でもプロがいる、というかアマチュアの方が腕が立つ時代、大事な情報は足で持っていく。無論イズミ屋がスパイだとまずいので中を見ることはできず、何のディスクだろうと不思議に思っても持っていくだけだと聞く。控え室の隅っこがオレとイズミ屋の指定席で、座り込んで居合わせて愚痴を垂れるのがいつものことだった。


「どこの部署もさ、見てないみたいなんだよ」


 話はイズミ屋の仕事の愚痴になり始めた。あっちの連中が言っていたこととこっちの連中が言っていたことが全然違う。世の中それが普通らしく、それでは仕事にならないだろうと思っていたらやっぱりなっていない。間違ってるんじゃないか、なんて専門職に言える立場ではなく、口出しできずにいると責任だけはときどき回ってくる。自分が疲れているのにイズミ屋はオレを見て驚いていた。腕からドクドクと血が流れ、手の甲から指先にしたたっている。たぶんさっきの現場でどこか切ったのだろう、パワーリフターの後ろに回ったあたり。オレも要領が悪い、動いていないものはあまり見えないのだ。痛いとは思わなかったから放っておこうとしたが、イズミ屋は血を見慣れていないらしく真っ青になった。がさつなことすんな、拭いとけ!とハンカチをポケットから取り出してオレの血を拭った。そのうちに医療部隊は引き上げていき、下っ端のイズミ屋は資材の後片付け。下っ端すぎて「運ぶから」という大雑把な括りでどうでもいい仕事まで回ってくるらしい。どこも大変なものだ。オレは自分の右手の傷を見た。思ったより深く、見ているとうずいてきた。自分の手を押さえ、とりあえず止血。傷口が残るだろうが、気にしないでおこう。




SIDE:LAY


 私が開発室にこもって、どれくらい経つだろう。夢中になるとかかりきりになるのはいつものことで、空腹に耐えられなくなるとようやく手が止まる。この仕事癖のせいで、世の中の女性という女性が悩んでいるはずのダイエット問題に、私は直面したことがない。甘いものは大好きだし、思い立ったら食べずにいられないが、どうやら思い立つ回数が人よりだいぶ少ないらしい。一度に食べる量はその分多く、一緒に食事をすると同僚から食べるのに細いとうらやましがられる。みんなの方がよほど食べているのでお門違いだと思うが、とにかく補給と消費がここで釣り合っているのであまり心配しなくていいようだ。


 私の仕事は、メーカーの開発。政府御用達の大手メーカーで、医療機器の一端を作っている。医療機器といっても実はグレーゾーンで、かつて使われていた義手や義足の延長線は、もう工業技術に近いものになっている。そこに到達したのは最近なのでメーカーもノウハウがない。だから医療工業と一般工業、両方をカバーできる人物が欲しい、と私が引き抜かれたという。どちらかのスペシャリストはいるが両方こなせる人は少なく、重宝されているらしい。重宝というか、体裁よく使われている気もするが、私は私でやりたいことをやっているのでそこは構わない。今日は取引先が発注した品を見に、視察に来た。


 向こうのえらい人だというクレイグ氏は、私にいろいろ聞いてきた。彼が頼んだのは、義手や義足の大規模なもの。物が大きいのではなく、人体と置き換える割合が大きい。仕様書を見たとき、こんなに入れ替えたらいわゆるサイボーグになってしまうと思ったが、必要だという。事故で身体を失った人が社会復帰するには、代替四肢が機械として優れていれば話が早い。単純な話、力持ちなら力仕事ができる、とかそういう話らしい。部分で切り離されていて、腕だけ、腰から下だけ、などの互換ができるので、一揃い作ろうというのだ。腑に落ちる話ではないが、私は技術はわかるけど何が売れるかはわからない。その辺は他人に任せて、私はいい物を作ろう。そう思って取りかかった。クレイグ氏は、ええと……と言葉を詰まらせた。二階堂レイ、という私の名前を伝えると、話が続いた。


「二階堂君、強度をもっと上げられるかい?」


 すでに十分な強度を持っていると思うが、最大の物がほしいらしい。事故に遭った人が使うことを想定しているので、頑丈なのは大事だという。それもそうか、と思って理論限界を示すと、素晴らしい、と喜んだ。予算は考えなくていいから実現してくれと頼まれた。お金が使えるのは私にも喜ばしい。驚かないでくださいね、と言って一度持ち帰る。楽しみにしているよ、とクレイグ氏は言い残した。顧客の度肝を抜くような物ができそうだ。私は浮ついていた。


「強化骨格か……」


 私はいつも思うのだ、なぜもう少し考えなかったのか。私は着々と開発を進めていた。




SIDE:VAN


 政府部隊の仕事は現場に限らない。基地に戻れば多かれ少なかれ雑務があり、必要な書類も書く。デスクワークをするのは実働部隊も同じで、面倒くさいと言いながら手抜きで終わらせる。オレだって真面目にするわけじゃない。どう考えたって何の役に立つかわからない書類が相当数あり、いらないと断定できる物は精度が必要ないので、必要な物を真面目にやればいいだろうと考えている。そんなことなので叩こうと思えばいくらでも文句が言えて、どうでもいい書類を突きつけて怒りに来るヤツは後を絶たない。今日もクレイグが何かを怒鳴りに来た。


「ヴァン!何度言ったらわかるんだ、書類には全て目を通せ!」


 目を通したからといって大事なことは書いていないと判断できる程度には通したが、もっと真面目にやれと言う。政府部隊に限らず、どこに行っても無駄な労力を使うヤツが素晴らしいとされているので、ため息が出る。クレイグはここぞとばかりにまくし立てて、たぶん何か嫌なことでもあったのだろうと思う。夜の街で素行が悪い、という噂が立っているらしい。もっとも食堂で背後から聞こえてきた話なので本当かどうかは知らない。


「そんなことだから部隊で浮いているんだ。この仕事はちゃんとしろ」


 そう言ってまた何か書類を置いていった。この態度をやめたらそりゃあ多少はなじむだろう。ちょうどいい使いっ走りだからいつも呼ばれて仕事の山を渡される。それでいいというヤツに文句はないが、オレは気が進まないのでいつも後回しにして結局やらない。だからこの場所にいるのだというなら、もう仕方がないのでそれにも文句はない。ただ、新しく渡された書類がどうでもいいかどうかは知らないので目を通す。どうでもいいことはなさそうだ。面倒くさくて実りのない、嫌な仕事。だから渡しに来たのだろう。これをやれと言われて、腹を立てていたらしい。オレは上着をつかんで基地を出ていった。




「グリーンボギーの話を」


 オレは聞き込みが好きではない。なんでかって、できないことをさせられて好きになるヤツはいない。知らないヤツに自分から話しかけるなんてもう吐き気がしそうで、事実話を聞こうとするとバカにして相手にしないというヤツがほとんどだ。そんなオレに聞き込みをさせるから周辺での政府部隊の印象は悪く、印象が悪い責任がオレに回ってくる。世界はどこかが歪んでいるので、必然どこかに歪みが集まる。要するにそれがオレで、大変な思いをいつもして、しかもわかってもらえない、というのが日常だ。大変だね、なんて言われるヤツは人生が恵まれている。本当に大変なヤツは誰にもその認識がない。だから大変なのだ。


 数カ所で聞き込めば、多少なり情報は集まる。一人で聞いたら相手にしないヤツでも相手にせざるを得ない状況がある。例えば客商売の真っ最中は、ウソでも愛想をまかないといけないので少しは教えてくる。全員が自分側の人間というならともかく、数人でも知らないヤツがいたら噂が立っても困る、そう考えて一応答えるようだ。


 この辺には、グリーンボギーとかいう過激派がいるらしい。最近ようやく権利を認められたAIたち……いわゆるメカノイドたちは、社会進出を始めている。それを見た人間は、一定数が思うらしい。「メカノイドごときが生意気な」と。グリーンボギーはそんな連中で、人間はすごいのだからメカノイドを追い出せ!と高らかに叫んでいる。こいつらがいなければ人間はすごいと胸を張って言えるだろう、とあまり考えていない連中でもどこか思っている節がある。さすがにここまで極端だと治安維持の名目上警戒対象となり、必要があるなら政府部隊が呼ばれる。正直に言うと、考えと行動が一致しているという意味では一致していないヤツらよりは幾分まともな気もするが、そもそも嫌な考えをしているのでオレも近寄るのはごめんだった。


 どうやらグリーンボギーは昨日のパワーリフターと接触があったらしい。接触と言ってもネットワーク上なので証拠が残りにくく、端末の使用履歴とかそういうところからあぶり出すには現場の人間の足が必要になるのだ。こんなことをいつもしていると、上手くもないのに情報の整理ができるようになる。まあこれは当てにならないだろうとか、こういう噂が立つからには適当なことを言うヤツがいるのだろうとか。実地でやって検挙されたときに答え合わせがあるので「やっぱりな」と思うことが多い。推測の段階では実証できず、多分そうだと思うなどとオレが言っても誰も聞かないので、義務として連絡したら後は押しつけない。自分のことはつつがなく終わらせて問題が起きる場所をずらす。ケタクソの悪い仕事の仕方だが、これができなかったときはもっとつらかった。できたからと言って責任が回ってくることはザラなので、もっといい方法があれば、というのはいつも思っている。


 グリーンボギーと接触したパワーリフターは翌日暴れ出した。調べていくと、なんだかメーカーの親会社ともつながりがあって、どこだかの圧力団体とつるんで経営方針に口出しというか、扇動していた節がある。その結果職場環境が悪くなった。パワーリフターの職場について、何が悪くて暴れたというのをたどっていくと「グリーンボギーは何がしたかったのか」につながっていく。もちろん疑問だが、これ以上はわからない。聞きに行ったとて正直に答えるわけもなく、オレにだってこれ以上の推測はできない。オレの仕事はここまでで、この後はいつも別の部署が引き継ぐ。報告書の備考欄に「こうではないか」くらいは書くのだが読まれている様子はない。なのに問題になってから備考欄を根拠に呼び出されることがあるので、いっそ書かずに黙っていた方が得なのだろうと思う。いつも思う割には、いつも報告だけはする。得な生き方というヤツが、オレは苦手なのだ。


 そんなことは口に出すこともできず、翌日の午前中に報告書をまとめて提出した。昼休みも、こういう仕事の後は食事が進まない。納得していないからではない、仕事に納得行かないなんて理由で飯を食わなかったら一月経たずに死んでしまう。もうこういう場所なのだということはわかっているので飯は食う。だが、もう少し考えればわかるだろうと思うと気になって考えることがある。いつのまにか時間が経ち、昼休みの終わり間際にかきこんで仕事に戻るのがいつものことだった。そんで、これも。


「よう。浮かねえな」


 現れたのはイズミ屋、いつも浮かないのでこう言っていれば当たる。挨拶代わりにこう言って隣に座るイズミ屋はいつも通りの日本伝統食の細麺、一枚、二枚、今何時だい?なんて無駄なことを言う時間は職場にはないので12時45分までにかっこんで戻る。昼休みだからその辺の時間だと決まっている。せめてトッピングすればいいのに、油揚げとか、と気になったから一度言ってみたことがあるが、「乗せたからって大してうまくない」と言われたらぐうの音も出なかった。ここでは金を使わず週末になると豪遊、と称してファミレスで二品頼むのがギリギリの生活水準。贅沢とは?なんて経験がないから誰にもわからない。少なくともオレとイズミ屋はわかっていない。


 イズミ屋は、手当はしなかったのかと聞いてきた。右手の甲には、こないだの傷が跡になって残っている。痛くねえの?と聞かれて、さほど、と答えておいた。今さら傷跡を気にすると美容整形とかそんな話になる。ケガをするのも仕事のうち、損をするのは給料のうち。二人してずるずると麺をすすってため息をついた。向こうは向こうで何かあるらしい。


 イズミ屋はこの基地を中心としたエリア担当、出入りの機関で顔なじみになってくるとこき使う奴が出るし周辺施設に足自体は運ぶから案内させられることが多い。関係機関の一つの、そのまた向こうの組織に怪しい連中がいて、現場にいると気味が悪いからすぐに仕事を終わらせて帰るようにしていたのに、その連中に頼まれて別のメーカーと引き合わせた。案の定というかやっぱりというか、トラブルを起こしたから仲裁に入ると、自分が怒られた。先方は顔見知りの方が気軽に怒るもので、イズミ屋に怒っても向こうの会社には話が通らないという厳然たる事実はどうでもいいらしい。


「ドライアードは怖いってみんな言ってるのに。リザードホルンは現場を知らないから」


 リザードホルン。どこででも聞く名前だ。何かにつけて口を出してくる国際機関で、慈善団体だと思っている奴が多いが正直面倒臭いヤツらだ。現場の迷惑顧みずああしろこうしろと言いつけて責任は現場持ち、自分たちは聖人君子になったつもりで大きな顔をする。一緒に仕事をしているヤツらの中には、あれでも仕事はしているんだろうと思っている奴もいるが一応は真面目に働いているオレから見ればそういう態度ではない。イズミ屋がその連中に連れて行かされたドライアードという企業は、聞き覚えがあった。さっきの報告書の備考欄に、おまけのように付け加えた中に、自分で書いた。グリーンボギーとつるんでいるコンサルタント企業、要するに圧力団体だ。何があったのかと聞けば、あるメーカーに乗り込んで技術提供を頼み責任者に断られ、しつこく頼んでいたらだんだん脅迫じみてきて裁判沙汰になりかけた。あわや全面抗争となる直前でなりを潜めたが要するに強引なヤツらで、直接付き合っている者から見たら一目瞭然なのだという。そんな連中に板挟みにされて、終わったら報告と上司の小言が待っているのが確定的。男泣きしながらもそもそ食っていたので、昼飯のおまけについていた乳酸飲料をやった。さすがに慰めどころか足しにもならないかと思えば泣いて喜んでいる。そうとうつらかったのだろう、オレも就職したての頃はそんな気持ちだった。それよりも、とイズミ屋相手に話を聞いた。ドライアードで何があったのか。リザードホルン、グリーンボギーとはどういう関係なのか。イズミ屋は、傍から見ていた範囲のことしか知らないというが、それでいい。調べたらわかる範囲のことを調べないから誰もわからないのだ。情報と意思があれば何かわかるかもしれない。オレはイズミ屋に根掘り葉掘り話を聞いた。




SIDE:LAY


「違うわよ、インストールに必要なのはプログラムじゃない。別の要素で感情を成立させているの」


 何度教えても、現場の人間はわからないようだ。まあ技術者でもほとんど理解できないような話なので、現場作業員には無理からぬことかもしれない。最低限の知識は持っていないと行き違いがあると困るので何度も教えているが、やはりコンピュータにプログラム以外の動作要素を持たせるとなれば、今までの常識では理解が進まないのだ。現場作業員は、わかりました、と困り顔だったのでまずわかっていない。ここはできてもまた呼ばれるだろう。帰り際に、同僚に話しかけられた。神宮司ミソラ。私と違っていつも工場とパソコンの前を行き来して、フットワークがいいことに感心する。調子がよくて、世間の流行にも人並みに乗れる、一般的な女性。工業機関の工場でメカノイドを作っているから、どこから見ても一般的とは言いづらいが、私からしたらうらやましいくらい人生を謳歌している。


「レイ、また来たの?工場は嫌いなんでしょ」


 現場の工場というのはたいてい環境が悪い。今までに見たことがないものを開発するとなると設備はあり合わせ、良くしようがない。ときどき空調もないところがあって、みんな汗まみれだ。現場で実際に働いている人たちだって工場は嫌いだから、私も嫌いなんて当たり前だと思う。そう伝えると、ミソラは笑っていた。


「奇遇ね。私もそうなの」


 工場は嫌いだが、工場で作る物は好きなので入り浸っているそうだ。ミソラが配線チェックをしているのは大型のメカノイド。なんでもミソラが設計したらしく、わかっている人がやった方が早いからと顔を出しているらしい。メカノイドはまだ外装もなく、骨組みの周りをモーターとか配線とか、制御機器が飾っていた。そろそろ動かせるから見てほしいと言われて、遠巻きに眺めているとミソラが端末を操作した。その途端にメカノイドは腕を振り上げて、天井近くの鉄骨が派手に曲がった。ああ、やらかした。そう思ったのにミソラは自慢げで、どう?すごいでしょ?なんて聞いてくる。当たるかもしれない、とわかった上で動かしたのだろうか。設備が壊れると修理が必要になって予算が圧迫される。慎んでほしいが、ミソラはいつもこの調子なので流しておいた。


「レイは、またあの装置?ずっと作ってるわね」


 あの装置、というのは前にいた部署で作っていたコンピュータだ。正確にはコンピュータを作っていたわけではなく、その上で稼働するシステムの一種が開発対象。大型の設備が必要になるのでいったん専用の素体の上に作るのだが、その素体が専用であるがゆえに現場のセオリーと全然違う。部署が変わって強化骨格を作り始めても適切な指示ができるのは私だけで、いつも教えに来るのだ。ほとんど掛け持ちと同じ。そんなに必要なら部署を変更しなくていいのに、強化骨格計画側が強引に異動したらしい。なぜそんなにエンジニアの需要が高いのか、私はよく知らない。


 さっき指示していたのは、後発的感情導入装置、ファントムシステム。本来心を持たずに作られたメカノイドに、成長する感情を萌芽させる一種の試みだ。前世紀あたりに理論はできていたが、誰も実現できなかった。聞いたことがあったので考えていたら、やりがいがあったのでどんどん進んで、職場で提案してみたら感心された。いくら感心したからってすぐに開発に取りかからなくてもよさそうだが、私が思っているよりもすごいものらしい。確かに聞いたことのない理屈を使ったが、科学の世界は聞いたことのないものを考える場所だから進展してきたので、私は続きをやっただけだ。


 ファントムシステムを使えば、物言わぬメカノイドは人間と同等の思考を持ち、自分の考えでモラルに従うことができる。現行のメカノイドは生まれながらに知能を持たされないとそうはならないが、このシステムは容量さえ足りれば後から感情を与えられる。ただ、人間もそうなので当たり前だが、与えた感情はこちらでは制御できない。金属とセラミックの仮面の下には、愛情と憎悪が同時に渦巻くことだっていくらでもある。ゆえにファントム。大昔に語られた美しく悲しい寓話から名前がつけられた。


 ファントムシステムは今までに存在しないものなので基本的に誰も理解していない。その割にはみんな大騒ぎで、これを開発できれば、権利だとか特許だとかGDPが増えるとか……まあそこは興味がないのであまり聞いていない。好きでやっていることだし。


 工場の中はどこも蒸し暑いので、ご安全に、と工場の決まり文句を残して帰ろうとすると、ミソラが聞いてきた。この前の人たちはどうしたのか、って誰のことかと思ったらドライアードだという。ああ、視察だか見学に来て揉めたあの人たち。私はあんまりいい気がしなくて、好きでもない職場の肩を持ってしまった。ああいうヤツらは開き直られると手が付けられないし。喧嘩になりかけたとき、向こうの現場だか、提携先だか……付き合いで来たみたいな男性が間に入ってなだめていた。ドライアードが帰るとき、一人だけバツが悪そうだったので、普段から苦労しているのだろう。他の上司たちは怒れる相手を見つけると怒りたがるけど、そこはこっちの問題として私がなだめた。私は全然偉い役職じゃないのになぜか発言力があって、止まらざるを得ないようだ。ともかく、ドライアードとはできるだけ関わらないように今度から距離を取ろう、ということで話がまとまった。工場にはいろんな製品があるし、パワーリフターの設計書とか盗まれたら大変だし。設計書の原紙を見られて写真一つ取られたらアウト。まさかそんなことはしないだろうが、盗まれてからでは遅い。そんなことされたら細工をして妙なイタズラができるかもしれない。そんなことがないように、あなたも気をつけてと伝えると、はーいとミソラはひょうきんに鼻をこすった。オイルで真っ黒よと教えると、げ、と鏡を見に行った。私にはない感性だが、正直うらやましい。たまには、めかしてみようか。ミソラに教えてもらうと、変に少女趣味になるからしないけど。




SIDE:VAN


 飯を食うのも忘れてイズミ屋の話を聞いた。ドライアードが出入りしていた取引先は、パワーリフターのメーカーの関連会社だったという。イズミ屋曰くかなり険悪な雰囲気になり引き返したが、その後動きを見せていない。まさか揉めるために行ったわけでもあるまいに、何がしたかったのかわからないという。オレは経験的に知っている。何をするでもなく、揉めるために出向いていくヤツというのは案外多い。そしてたいてい、くだらない裏があるのだ。


 ドライアードの裏には、リザードホルンがいる。ドライアードがこいつらの機嫌を取ろうとしているなら、他のことはどうでもいいと考えて従うかもしれない。だから、ドライアードが揉めるために現地に行ったとして、ありえないと言い切る材料はない。ドライアードの目的はトラブルを起こすこと。そして、リザードホルンの目的はまた別にあるとすれば、不思議な話ではない。


 もちろん推測の範囲を出ない話なので他の連中には言えない。言えないのだがイズミ屋と一緒に「たぶんこうだ」「仮にそうだとして」とどんどん話を進めた。この話は「悪意を持ってトラブルを起こすヤツはいる」という点から考えれば割と簡単にたどりつき、苦労の多い奴ほどすぐに連想する。もっとも、そういう現実をひたすら見ずに生きてきたヤツは想像できないので、わかるヤツは限られる。イズミ屋がどれくらいわかっているかわからないが、話だけは進んだ。他人との会話がこれだけ続くことはオレには珍しい。昼休みの終わりが近づき、持ち場に戻るギリギリの時間まで二人で話し込んだ。


 何とは言わないが、珍しく収穫を感じた。昼休みを挟んでわずかににじり寄ったのだろうが、そこまで。報告書の備考欄に書き足してファイルを再提出くらいはするが、おそらく意味がないだろう。ただ、これを足がかりに次の憶測が生まれるかもしれない。今は静観するが、覚えておくことにした。




 それから数日、特に動きもないと思っていたら、緊急出動のベルが鳴った。政府部隊の隊員が乗り込んだ装甲車が都市航路を飛び、オレはその中でいつも通りくそったれどもに囲まれてクレイグの指令を聞いていた。今日訪れるのはサムズアップ株式会社。政府御用達のテクノロジーを持つ上場企業。そして、パワーリフターのメーカーでもある。


「工場にて過激派組織が乱入、破壊活動を行っている。全員がメカノイドだ。やむを得ない場合は破壊しろ」


 人間と平等な権利などとよく言ったものだ。メカノイドはトラブルを起こせば平然と壊される。世論が多少騒いだってすぐに沈静化して風化、そこから進まない。だから現場の人間は汚れ仕事を続けるのだが、政府部隊はそれが日常化して疑問を持つヤツがいないときている。潰しが利くならすぐにやめたい職場だが、利かないのだからそうも行かずにオレはここで働いている。自分の無神経さにも、嫌気がさしてくる。そして、今回かなりの被害が出ているのでもうGOサインを出されていて、黙って従うヤツはまだいい方、張り切るヤツまでいる始末。もっとも、破壊活動自体は止めた方がいいので出動はする。それは確かだが、気が重い仕事だ。


 現場に急行する間、昨日の話を思い出した。パワーリフターのメーカーで、もしかしたら故意に起こされたかもしれないドライアードのトラブル。パワーリフターは不自然な暴走を起こし、ネットワーク上にアクセス記録がある。そして、今起きている襲撃。表向きになっているものはメカノイドのトラブルだが、このすべてにおいてリザードホルンが糸を引いているとしたら……オレの考えが上手くまとまる前に現場に到着して、思考はストップした。


 着陸した装甲車から隊列を組んで出た一隊は、技術隊員が操作して開くシャッターの前で構えた。オレは……明らかに出遅れた。動けなかった。ドライアード、つまり外部の人間が中を知っているのだ。情報があれば準備ができ、作戦が立てられる。ならば、こんなところに陣取れば格好の餌食だ。いくら命令されたって、撃たれるとわかっている場所に立っているなんて、オレにはできなかった。他の連中はわかっているのだろうか。そういうわけではないと、すぐにわかった。開くが早いか投げ込まれた閃光弾による目くらまし、そして大量のラバー弾でほとんどの連中が叩きのめされた。情報がないとはいえ、あまりにも迂闊だ。自分で考えずに命令に従えば死ぬ、という好例だろう。どいつも死にまではしていないが、主導権は完全に奪われた。


「来たな。だがオレたちは止まらん。サムズアップ社の目論見は、我々が阻止する!」


 現れた数体のメカノイド。金属骨格を持つ者から、姿だけは人間に似せられた者、中には不格好な作業用メカノイドもいた。政府部隊でまだ役に立ちそうなのは、オレだけ。装甲車に残ったクレイグなんて当てにもならないので、しぶしぶ自分で意思疎通を図る。まったく、一般人相手だって意思疎通できないのに、過激派かよ。四の五の言っても仕方がないので、とりあえず始めた。


「何が目的だ?」

「当然、メカノイドの権利を守ることだ!」


 連中の言い分では、サムズアップ社には陰謀があり、メカノイドの権利を剥奪して都合のいい商品に戻そうと準備を進めている。阻止しなければ、メカノイドは今持っている権利を失うというのだ。


「ウソよ!そんなものないわ!」


 開いたシャッターの奥、工場の壁際に数人の現場作業員が集められていた。ほとんどが男性だが、真ん中に女性が二人。金髪と黒髪。設計のエンジニアなら女性も相当数いるので、現場に来たところを巻き込まれた、とでもいうところか。メカノイドたちは聞く耳を持たず、不格好な作業用メカノイドがオレに近寄ってきた。


「オレが作られたのは海辺の工場だった。そこの連中は愛想良くしていたと思えば、サムズアップとつながっているじゃないか。オレをだまして、売り払うつもりだったんだ。オレはそんなのはごめんだ!」


 熱くなったメカノイドが、まくしたてる。海辺の工場といえば、知っている場所があった。


「マツオカ精機か?」


 背中を向けていたメカノイドは、動きを止めて振り返った。知っているのか、と問われたので答えておいた。


「ひどい場所だ。機械を作ろうというのに、海風が強くてすぐに部品がさびるんだ」

「そうだ、そこの親父がオレを……」


 オレは手元のレーザーライフルを地面に撃ち込んだ。爆炎が上がり相手が黙ったので、続けた。


「あの会社は小さくてな。資本がほとんどないから、土地が使えない。工場の維持には普通より手間がかかる」


 好きでもない聞き込みを続けていると、本来用事がない場所まで出向いて話を聞く。マツオカ精機は、茶の一杯も出してくる珍しい企業だった。拒否する権利があって、来たのがオレだってのに。


「サムズアップに技術提供を受けて、メカノイドを作った。素直で聞き分けがいいとたいそう自慢していたが、そいつはどこかに消えて、探したが見つからないまま問題化して潰れた。お前か?」


「……あの親父は、ウソをついてるんだ。使えない商品を探すわけが……」

「お前かと聞いている。違うならそう言え」


 まったく、何がわからないというのか。こいつのいないところでも、親父はいつも通り。ならば、自分がそのメカノイドかどうかなんて、すぐにわかる。自分のことなのだ。しかし、メカノイドはまるで自分の考えていることがわからないとでも言うように黙り込んだ。周りのメカノイドが顔を見合わせる。


「だまされるな!オレたちはメカノイドの未来のために……!」

「いや、でも……!何かおかしくないか?」


 マツオカ精機産、ディオド・N・インガリュー。こいつはなぜか疑心暗鬼で、勝手なことを言い出した。確かにオレたちの扱いは悪くて、サムズアップに原因があるように見える。でも、こんな大企業ならどう伝ってもどこにでもつながっている。もしサムズアップにそんなつもりがないなら、オレたちは自分の首を絞めてしまう。サムズアップが何かを隠していると、確かな証拠を誰か持っているか?そんなことを言い出して、メカノイドは全員言葉をなくした。静かだが、メカノイドたちの足並みが確かに乱れたのをその場の全員が感じ取った。その隙に、人質の一人、黒髪の女性が走り出した。


 女性が端末に飛びついてキーを叩くと、脇にあった開発中のメカノイドの骨格が腕を振り上げた。近くにあったコンテナをなぎ倒し、メカノイドたちの頭上に崩れ落ちていく。メカノイドたちは数台が下敷きになり、数台は慌てて飛びのいた。これで形勢が変わり、話し合いになるかもしれない。そうよぎった瞬間、オレの背後から電磁弾が飛んできた。いつのまにか小規模な隊列を復帰させた政府部隊の一部が掃射を始め、メカノイドを撃ち倒していく。ほぼすべてのメカノイドが倒れたとき、一台だけ逃げていくのが見えた。コンテナの直撃でダメージを負った足を引きずって、ディオドが工場を出ていった。


「追え!」


 都合良く出てきたクレイグが号令をかけると、政府部隊が追いかけた。広いと言っても工場の敷地は知れている、すぐに見つかるだろう。ただ、相変わらず政府部隊は要領が悪く、貨物の裏とか天井の梁の上とか、そんなところを探しても仕方ないという場所から手を付ける。オレは一人、並んだ倉庫の端にある掘っ立て小屋に足を運んだ。


 掘っ立て小屋は、電源室として作られたものだった。もちろん逃げるとなればこんなところには来ない。入ってしまえば袋の鼠だ。だが、ディオドは戸惑っていた。自分を信じられなくなり、とんでもないことをしていたのではないか、たくさんの人を裏切ったのではないか……そんなことを考えたヤツの物言いに思えた。そして考えはまとまらず、結論も出ないまま逃げ出さざるを得なかった。おそらくだが……捕まるよりも、壊されるよりも、恐ろしいことがあるのではないか。ならば、探すのは逃げ道ではない。落ち着く場所。それはたいてい、狭くて暗くて涼しい場所と相場が決まっている。一番手頃なのは、このあたりだろう。


 案の定ディオドは、逃げることを考えられずここに駆け込んだらしい。こちらが把握していたより損傷が激しい。よくここまで動けたものだ。しかしもう限界のようで、ただでも壊れていたのに無理に動いたのが致命的で停止しかけている。電子頭脳のデータくらいは維持できるだろうか。……すぐに協力してくれるエンジニアが、ここにはいないだろう。見つけはしたが、オレは特にやることもできることもなく、ディオドに歩み寄った。


「立てるか。最低限の修理は保証されて……」


 待ってくれ、とオレの言葉を遮って、ディオドは話し始めた。おそらく、自分には時間がない。このまま放置されれば停止し、政府部隊に囲まれれば破壊される。こんなことを言える立場ではないが、最後の数十秒を、オレに使わせてほしい。突然そう頼んできた。何に使うのかと問えば、一瞬考えるように黙り、答えた。


「……思い出したいんだ」


 ディオドは言った。きっとおかしいだろう。そしたら何だというのだ。何か変わるというのか。誰もがそう思うだろう。何も変わらない。オレだってそう思うのだ。親父を疑い人を裏切り、もう何も変わらない。だが……死ぬ前に一度だけ、思い出したいんだ。親父がどんなヤツだったか。このまま死ぬのは、死ぬよりも悲しい。逃げなどしない、意味がない。親父をどう思って死ぬか、オレに選ばせてほしい。そんなことを言い出した。


 まったく、バカバカしい。オレは何も考えず、電源室の扉に内側から鍵をかけた。入れないわけではないが、20秒やそこらなら見つかっても持つだろう。レーザーライフルを立てかけて、壁に背を預ける。遠くから政府部隊の足音が近づいてくる。もう見つかるだろう。ディオドを見ると、動きが止まっていた。声をかけても返事がなく、動く様子もない。オレはディオドに近寄って、コードを一本引き抜いた。


 遅れてやってきた他の連中と、それを押しのけて入ってきたクレイグ。まったく、安全だとわかってから先陣を切るか。この部屋には壊れたメカノイド以外は、どこにでもある工場の電源しかない。メカノイドを壊したのは、オレだ。片付けは政府部隊の管轄外なので、報告をすませて部屋を出ようとした。すると、クレイグがオレをにらみつけた。


「お前がやったのか?」


「……ええ」

「暴れるメカノイドの電源線を、指で引き抜いたと?」


 まあ、状況を見ればそうだ。襲撃犯の要求を飲んだとなればオレも立場が悪い。形だけ破壊したことにして立ち去ろうとしたが、致命傷がコード一本となれば銃器は使わず引きちぎったと誰もが考える。メカノイド相手に、人間が出来ることではない。


「……訓練していますので」


 苦しい言い分を残して立ち去った。最初はクレイグに止められたが、右手の傷が開いてまた血が出ているのを見ると青くなって黙った。たぶんコンテナが倒れたときだ。オレもいい加減要領が悪い。




SIDE:VAN at everyday scenery


「間違ってるよな」


オレがその話をしたのは、やはりイズミ屋だった。他に話し相手もいないのだからこいつにしか話すことはなく、手当を受ける同僚たちを遠巻きに見ながらディオドの最期を聞かせた。リザードホルンもグリーンボギーも、今はどうでもいい。特に大事だとは、思わなかった。


「……神様ってのは、怠け者でさ。何も見てないし適当ばかりするんだ」


 イズミ屋は何もない手元を見て、こんなひどいものばかり作る、と恨めしそうに言った。オレも自分の開いた傷口、その上から自分で巻いたガーゼを眺めた。マツオカ精機はだいぶ前に潰れて、もう関係者の連絡先もわからず、ディオドがどんなヤツだったか、最後に何を言っていたか、伝えることもできない。だがイズミ屋は、心配するなと言っていた。たぶん大丈夫だと。


 関係施設の間を回っていると、なんとなく思うそうだ。裏と表なんて、そんなに難しくない。傍から見てればすぐわかる。わからない奴は言ってもわからないし、わかる奴は言わなくてもわかる。そーいう親父はそーいうガキを、疑わないもんだ。よく知ってるからな。イズミ屋はしばらく黙っていたが、もうすぐ終業だというのに次の荷物を受け取って下請けのメーカーに向かうらしい。


 運送用のバギーに小包を積み、モーターエンジンをかけるイズミ屋。もう日が暮れかけている。大変だな。ああ、じゃあな、とやる気なく言い合った。イズミ屋は、出て行く前に言っていた。きっとそんなに、ひどいことばかりじゃないんだ。何が言いたいのかわからなかったが……いいことでもあったのだろう。オレの知らないところで。誰も皆大変だ。大変だななんて言ってもらえる奴は人生が恵まれている。恨み節を吐いてもどうなるものではない。オレも報告書を書いて残業といこう。夕陽が沈んでいき、もうすぐ暗くなりそうだ。



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