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謎怪書記  作者: 庚颯
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隣人トラブル

 Kさんは交際する男性と同棲する為に、手頃な家賃の3階建てのマンションの2階に引っ越しました。駅まで歩いて30分ほどはかかるものの、近所にはコンビニもドラッグストアもある。何より、広くて明るい道路に面していることもあり、女性が住むには安全な立地でした。

 引っ越して1年が経ったある日、23時頃にチャイムが連打され、ドンドンドンドンッ!!激しく玄関の扉が叩かれた。深夜に差し掛かろうという時間帯ということもあり、不審者が来たのではないかと震えあがった。

 恐る恐る恋人がリビングにある玄関モニターで外の様子を窺うと、下の階に住む30代半ばの男性だった。

 あれだけ激しく扉を叩くのだから、うちに何か文句を言いに来たのだとすぐに察した。

 二人して玄関まで向かい、ドアガードをしっかりと確認してから扉を開けた。

 その瞬間、怒気を含んだ男の声が響き渡った。

「おいッ!!いい加減にしろよッ!!この1年、我慢に我慢を重ねたが、もう無理だッ!!夜くらい静かにしろッ!!」

 二人は顔を見合わせる。何を言っているのかわかりませんでした。

 と言うのも、二人はいつも23時過ぎには寝るようにしていた。近所迷惑にならないようにと、20時以降は音の出る作業を控えているのだ。

 男性の話を聞く所によると、23時過ぎ、今正にこの時間帯になるとガタガタガタッと椅子を引きずる音が数分鳴り響くと言うのだ。

 そんなことありえない。何故なら、彼女の部屋には椅子など1つもない。ソファーはあるものの、移動させることなどなかった。

 他の家からではないかと思ったが、この家の左右と真上の家は今は空き家。音が鳴るとするなら、うち以外にはありえないのだと言う。

「すみません、気を付けます」とよくもわからず謝罪をし、その場を収め、翌日も早い為、納得できないまま眠りに着いた。

 それから男性が文句を言いに来ることは無くなったものの、代わりに毎日毎日罵詈雑言の書かれた紙が郵便受けに届くようになった。直接話し合いの場を設ければ早い話なのだが、感情的になった男性の凄んだ顔を見た以上、刺激するのは憚られた。身の危険があるかもしれない、そう思うと、手紙で釈明するという消極的な方法を取らざるを得ない。

 3日ほどやり取りを続けたが、改善が見られなかったことに、恋人は我慢できず、管理人に仲裁に入ってもらうようお願いする羽目になってしまった。

 それ以降、直接的なやり取りは控えるも、相変わらず文句の書かれた紙は届き続ける。ほとほと困り果てたある日、仕事から帰って来ると、マンションの前にパトカーと救急車が停まっていた。

 事件でも起きた?と身構えながらエントランスに入っていくと、青い顔をした管理人が身体をぶるぶると震わせ立ち尽くしていた。

「管理人さん……?なにかあったんですか……?」

 恐る恐る聞いてみれば、

「く、首吊りが―――」

 管理人の声を全部拾うことができなかった。首吊りというあまりにも聞き馴染みのない言葉に、頭が真っ白になる。

 いつの間にか帰って来ていた恋人に支えられ、管理人から詳しい話を伺う。

「ほら、Kさん、下の家の人と揉めてたでしょう?亡くなったのはその人だよ……。直接話をして諍いを収めようとしたんだけどね、まったく反応がなかったんだ。あまりに連絡が取れないものだから、親族の方に連絡して一緒に部屋の中に入ってもらったら―――彼はすでに事切れていた。死後、一週間は経っているらしい……」

「えっ……?それって……」

 体中に鳥肌が立った。

「Kさんのとこに文句を言いに行った日にはもう……」

 あの日、文句を言いに来た男性は本当に生きた人間だったのか、それ以降届いた罵詈雑言の書かれた紙はなんだったのか、そもそも、うちから聞こえていたという椅子を引きずる音がなんだったのか。

 Kさんは考えることを止め、直後に引っ越しを決めたそうです。

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