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謎怪書記  作者: 庚颯
5/5

ずぶ濡れの少年

※フィクションです。

 Sさんは結婚、妊娠を機に仕事を辞め、一時的に実家へと帰省している。安定期に入ったこともあり、週に何度かコンビニでアルバイトをすることにした。

 働き出してからというもの、雨が降ると決まってずぶ濡れの少年がお店に来ることに気が付いた。傘を差しているのにも関わらず、何故かびしょ濡れなのだ。身長からして小学生の低学年くらいの年齢だろうか。

「車に水でもかけられたの?」

 そう声を掛けるも、少年は首を横に振り「お兄ちゃんのところに行こうとすると濡れちゃうの」そう言うのだ。

 手に握られた駄菓子のお会計を済ませると「風邪引かない内に帰ってね」優しく声を掛ける。

 少年はにっこりと微笑んで手を降って帰っていく。

 店長の話では、雨の降る日の平日の15時半頃に決まって訪れるらしい。

 それから平日の雨の日にシフトに入ると必ず少年はずぶ濡れで現れた。その都度、雨に濡れないように気をつけてと伝えるも、来る度にずぶ濡れ姿は変わらなかった。

 ある時、レジをこなしながら世間話を一言二言交わしていると、お客さんから「近くに川があるでしょ?半年前に小さな男の子が溺れちゃってね〜、亡くなっちゃったのよ。雨が降ると思い出しちゃって悲しくなるわ〜」そんな話を聞いた。

 Sさんは否が応でもずぶ濡れの少年の姿を連想してしまう。

 まさかね……。そんなことないよね……。

 Sさんは、あの少年が幽霊ではないかということが頭をよぎり、すぐに否定をする。

 きちんと会話もしているし、足だってあったじゃない。ちょっと前にあった事故の話を聞いたからって、結び付けるのは良くないわね。

 次にあの少年が来たらもう少しだけ詳しく聞いてみよう、そう思い業務へと戻っていく。

 それからしばらくして、雨の平日が訪れた。

 いつものように15時半になるとずぶ濡れの少年が来店し、いつもの駄菓子を持ってレジまで来た。意を決して言葉を掛ける。

「ねえ、お兄さんを探すのってどんな所に行ってる?」

 少年はきょとんとした顔を向けると

「近くの川だよ。ちょっと前にね、お兄ちゃんが、雨の日に川に遊びに行ったの。それでね、まだお(うち)に帰って来ないんだ〜。お母さんがね、お兄ちゃんは遠くに行っちゃったから、しばらく会えないよ〜て言ってたの。僕、お兄ちゃんに会いたいし、お兄ちゃんと同じ所に行きたいの。雨の日に遊んでたら、お兄ちゃんが迎えに来てくれるかもしれないでしょ?だから僕、雨の日は川で遊ぶようにしてるの」

 その話を聞いてSさんの背中に冷たいものが走った。この少年をこれ以上川で遊ばせてはいけない。そう思うとレシートの裏に少年のお母さんに向けて手紙を書く。濡れないようにビニール袋の中に収めると、少年に「大事なお手紙書いたからお母さんに渡してね」言葉を添えてポケットの中に入れる。

 少年をぎゅっと抱きしめて

「お兄ちゃんとは絶対会えるから、川じゃなくてお(うち)で待ってようね。濡れて風邪引いちゃうと、一緒に遊べなくなっちゃうからね」

 そう伝えると、少年は「うぅん、遊べなくなるのは嫌だぁ…」不承不承納得し帰宅していく。

 それから、雨の日に少年を見かけることはなくなった。

 どうなったか気になっていると、後日母親に連れられ少年がお店にやってきた。

「お姉ちゃ〜ん」

 無邪気に手を振る少年を見て、Sさんはほっと胸を撫で下ろした。

 少年の母親からは非常に感謝された。

 手紙を読んで少年を怒り、川に近づかないように口酸っぱく言っているらしい。平日にしか現れなかった理由は、土日祝日は両親と過ごしていて川に行けなかったことにあるようだ。毎回買っていた駄菓子は、どうやらお兄ちゃんの好きなもので「帰ってきたらあげるんだ〜」そんな可愛らしい計画だったらしい。

 少年が無事でいてくれたことに、Sさんは心から感謝し、生まれてくる我が子を大切に育てようと心から思ったそうです。

雨の日の川で子供が遊んでいる姿を見かけるとヒヤヒヤしますね。身近で海川での事故は聞いたことはありませんが、流水プールで溺れ掛けたという話はちらほら聞いたことあるのでご注意を。

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