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五話

この小説には一部残虐描写があります。また、そこに比重を置いた作品でもないので過激な残虐描写をお好みの方の需要も満たしてはおりません。


ハチャメチャ鮫映画愛好家の方々に楽しんでいただければ幸いです。


 蓮と結愛は再び非常階段へと向かった、その道のりは険しかった、床には人の血と肉片、臓器が散乱し悪臭を放っていた。結愛はハンカチを取り出し顔を覆った。


 蓮は匂いをそれほど気にしなかった。少し前に友達に誘われて一日だけ手伝ったアルバイトは漁場での作業だった。その仕事の中に魚の廃棄のも含まれていた。魚をさばいて取り出した内臓の山を運ぶと手に匂いが染みついて数日取れなかった。その時の経験が今この場の匂いへの耐性になっているようだった。


 非常階段へと向かう途中にも鮫が襲ってきた。その度にホホジロザメは玉から出てきて、鮫を喰いつくした。襲ってきたのはすべて最初に襲ってきた鮫と同じ種類で、ホホジロザメのように宙を泳ぐ鮫には出くわさなかった。


 この鮫達はどこから出てきたのだろう、ホホジロザメと同じように玉から出てきたのだろうか。この疑問はきっと拓也と会えば解消さるだろう。しかし、今はそれよりも外に出ることを目指していた。


 蓮は鮫に襲われてる人を助けることもあったが、ホホジロザメを見て恐怖で逃げだす人ばかりで、蓮にお礼を言う人はいなかった。そういったことが何度かあると、次第に蓮と結愛はホホジロザメに慣れてきた。


「蓮の玉から出てくる鮫って、よく鮫映画とかで出てくるホホジロザメってやつだよね?」


「そうだね、鮫に詳しくはないけど、こいつは知っているよ」


「小さい鮫は明らかに化け物って感じの存在しない鮫だけど……存在するホホジロザメの方が強いんだね」


「ホホジロザメは宙を飛んだりしないと思うけど」


「そっか、じゃあさ、ホホジロザメも人を襲ったりするのかな?」


「映画のイメージじゃそうだけど……こいつが人を襲うなら僕や結愛もすでに食べられてるんじゃないかな」


「うーん……分かった! 人を襲う鮫を玉を投げて中に封印したんだよ! 玉に封印された鮫は玉の持ち主の言うことに絶対服従なのよ!」


「……あながちないとも言い切れないけど、進化とかはしないと思うよ」


「分かんないよ、玉があるんだから、鮫を進化させる海の石とかもあるかも」


 結愛も話しぶりは明るいが、現実逃避をしているようだ。いつもと変わらぬ放課後に、同級生とくだらない話で盛り上がるデパートでの時間。それを手探りで思い出すようにふざけた話をしてくる。


 だが、薄暗いデパートの先から聞こえてくる人間の悲鳴がそんな気持ちを打ち砕き、現実へと強引に引き戻す。結愛の顔は固く引きつったままだ。


 目に入った死体の数が二十人ほどになったころ、非常階段が見えてきた。しかし、安堵より不安のほうが大きかった。


 この先が本当に安全なのだろうか、ここがダメなら地上へと出る道は他に無いのではないか。二人の顔は強張ったままだ。


 辺りに散らばってい肉片を踏まないように慎重に歩いていると、ピザ屋から鮫が二匹出てきた。口の周りは血だらけだ。鮫は蓮と結愛を見つけると、襲い掛かってきたが、ホホジロザメが玉から飛び出し瞬殺した。


「何匹いるんだろう……下にもいるのかな?」


「どうだろう……いないといいけど」


 蓮と結愛が立ち止まり話していると、目の前の牛丼屋から人が出てきた。


「鮫はいなくなったのか?」


 中年のスーツを着たサラリーマン風の男性が話しかけてきた。顔は脅え、汗を流している。


「後ろにはもういないようです。ただ、この先にいるかもしれません」


 蓮は落ち着いて答えた。もし、鮫が襲ってきても、こっちには拓也にもらったお守り、ホホジロザメがいる。他の鮫を寄せ付けない、圧倒的な強さ。小さい鮫をホホジロザメが食べるごとに、蓮は勇気と自信が湧いてきた。


 周りの店から数名の人が姿を現した、鮫から姿を隠していたのだろう。全員顔は恐怖で引きつっている、涙を流している女性もいる。


「なぜ、先に向かうんだ? 私は非常階段から鮫が出て来たのを見たぞ」


「シャッターが閉まってエスカレーターでは地上に出られないんです。非常階段なら地上に出られるかもと思って……」


 話を聞いてスーツを着たおじさんは一瞬絶望したがすぐに気を取り直した。彼の目線が結愛を捉えたからだ。自分より二回りほど年下の女性の前で取り乱すことを自制したようだった。


「そうか、では私が先に非常階段へと行ってみよう。鮫が出てくるかもしれないから、君たちは離れていなさい」


 おじさんの声は若干震えていたが、有無を言わさぬ大人の風格があった。年齢的にも管理職の立場として部下を指導したりしているのかもしれない。


 非常階段の前のホールにはパーテーションが置かれていた、床に転がっている旗には電話会社の名前が印刷されていた。あのパーテーションは契約の説明をする場所を作っているのだろう。なにかが隠れるのにはちょうどいい場所だ。


 蓮は玉をポケットから取り出した。おじさんが鮫に襲われたら助けたい、しかしホホジロザメは鮫だけを倒してくれるだろうか、おじさんも一緒に食べてしまうのではないか、蓮は悩んでいた。


 おじさんがパーテーションの前に差し掛かった時、蓮の玉が光りだした。何かがいる、蓮は玉を通じてそう感じた、蓮が望むと玉から再びホホジロザメが飛び出した、その姿を見て、後ろで見守っていた人たちが悲鳴をあげて店の中に逃げていった。


 鮫が人を襲う状況で、最も人に恐怖を与えている鮫、ホホジロザメが突如として姿を現したのだから当然の反応だ。


「うぐぅ!」


 前を歩いていたおじさんがうめき声を上げたのはそれと同時だった、彼の体は何かに貫かれていた。


 それは金属製の槍のようだった、おじさんの背中から血がにじみ出た、彼はピクピクと動いた後、だらりとうなだれた。体からは力が抜けているが倒れることなく宙に浮いている。


「おじさん!」


 結愛が声をかけるも、おじさんからの返事はない。もう息絶えたようだ。


 おじさんを貫いた槍が大きく左右に振れた。彼の体は槍から離れ床へと叩き落ちた。仰向けに床に倒れるその顔は、苦悶の表情で固まっていた。そして、宙に浮く槍がゆっくりと前へと進んできた。


 槍は頭についていた、四メートルほどの鮫の頭に槍が付いていたのだ。色は暗い茶色、槍と体色は同じ色だった。槍は一般的には角といわれるものだろうが、その角は金属的な輝きを放っており、とても生物のそれとは思えなかった。そして、ホホジロザメと同様に水中を泳ぐように宙を浮いていた。


 その〔ヤリザメ〕はホホジロザメに向きを変え、あきらかに威嚇してきた。ホホジロザメも胸びれを下ろし体を曲げ威嚇している。


「お前、玉を持っているな――」


 声と共にパーテーションから男が現れた。眼鏡をかけた紺色のスーツを着た細身の二十台後半の男だった。


 蓮はその眼鏡男を警戒した。男の目は泳ぎ、声からは興奮を感じた。息遣いは荒く、とても正常の精神状態とは思えなかった。


「その玉は我々の物だ、返してくれ――こっちに放るんだ」


 男は手をこちらに伸ばした。玉は拓也から託され、今は蓮の命を守る守護者だ、蓮には到底受け入れられない要求だった。しかし、即座に一蹴するより会話から情報を聞き出したいと思った。もっとも、話の通じる相手と期待はできないとも思った。


「この玉のことを知っているんですか?」


「言っただろ、俺の玉だ、早くよこせ!」


「なぜこの玉から鮫が出てくるんですか?」


「お前には関係ない! さっさとよこせ!」


「小さな鮫も貴方が操っているんですか?」


「ごちゃごちゃうるさいな! もういい――死ね!」


 蓮の薄い期待はあっさりと裏切られた。できるだけ落ち着いて声をかけたが、男は興奮状態から冷めることなく、むしろ熱くなった。


 男の隣のヤリザメは蓮に頭を向けた。そして、体を縮めた。

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