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二十八話

この小説には一部残虐描写があります。また、そこに比重を置いた作品でもないので過激な残虐描写をお好みの方の需要も満たしてはおりません。


ハチャメチャ鮫映画愛好家の方々に楽しんでいただければ幸いです。


 世界最大の魚ジンベエザメ、その体長はホホジロザメの三倍以上だった。地下水湖が広がっていなければ、狭くてまともに動けなかっただろう。平べったい頭に、黒い体に白い斑点。大きさに比べて凶暴さは全く感じない。


 蓮は玉からホホジロザメを出した。大きさは大人と子供ほどの差だが、負ける気はしなかった。ホホジロザメの凶暴な顔に対して、ジンベエザメは、一見して歯があるか分からない口をパクパクとしている。


「その鮫の姿は、君の姿の鏡移しだと思わないか? 人を殺してでも目的を果たす……君そのものだ」


「貴方が人殺しの儀式を始めたからでしょ!」


 ジンベエザメが口を大きく開けると、中から小さな魚が大量に飛び出してき。

 蓮は昨晩、美咲が語っていた時の事を思い出した。これから戦うであろう、鮫の対策を話していた時の事だ。


「まだ出会ってない鮫の中で、戦う可能性の高い鮫は、ジンベエザメですね。ジンベイザメは現在地球上に存在する魚の中で、最も大きいといわれている鮫です。それを考えれば、ジンベエザメが十個の玉の中にいないとは考え難いです」


「しかし、かなり大きので戦うのに場所を選びそうですね」


「ええ、トゲザメと同じく、待ち伏せのような形で、自分の有利な場所にいるでしょう」


「水族館で見たことあるけど、性格は温厚なんだよね。戦ってるところをイメージできないね」


「ええ、しかし、これまでの鮫の傾向を考えれば、ジンベエザメの攻撃方法は推測できます」


「そうなの? ジンベエザメに武器になるような体の特徴ってあったかな?」


「ホホジロザメは噛みつきが凶器なので、武器を持つ必要はないのでしょう。ラブカは細い体で隙間に隠れたり、敵を締め付けるのを得意としています」


「ジンベエザメは大きな体を活かして、体当たりとか?」


「いいえ、違います。これまでに蓮君が戦った鮫で考えてみましょう。ミツクリザメと思われる頭に槍があるヤリザメ。古代ザメ、ステタカントゥスの特徴を持つ、棘を飛ばすトゲザメ。頭のノコギリをチェーンソーのようにして攻撃するノコギリザメ。これらの特徴は武器とした部位が金属化したように固くなっています」


「なるほど……金属ですか」


「ええ、ジンベエザメといえば、必ずコバンザメが付いているはずです。ジンベエザメの攻撃方法は、頭の小判が金属のように固くなったコバンザメを飛ばしてくる、そう推測できます」


「けどさ、鮫って一匹しか同時に出せないんじゃないの?」


「結愛さん、コバンザメは鮫ではなくスズキの一種です」


「小判鱸!?」


 ジンベイザメの口から飛び出してきた魚たちは金色に輝いていた。金の輝きの群れは天の川の様だ。輝く波がホホジロザメに次々とぶつかっていく。あっという間にホホジロザメはコバンザメに体中を覆いつくされた。


 その姿を見ても蓮は冷静だった。むしろ、想像した通りだった。


 ホホジロザメの動きを止めたジンベイザメは、蓮に向かって次のコバンザメを飛ばした。

 蓮に向かって飛んできたコバンザメは一匹だけだった。人一人殺すのには十分だと判断したのだろう。

 

コバンザメが蓮の頭にぶつかる直前、蓮はコバンザメを叩き落とした。蓮の拳がコバンザメの顔にめり込むと、コバンザメの顔はつぶれ、体は地面に落ちた。


 哲也はそれを見て顔をしかめた。


「貴方はずっとここに居たから知らないのでしょうけど、鮫は他の鮫を倒すと強くなるんです。鮫の玉を持つ人間も同様です」


 ホホジロザメが体を震わせるとまとわりついていたコバンザメは吹き飛ばされた。ホホジロザメは胸ビレを広げると、体を回転させ始めた。回転するホホジロザメはジンベイザメに向けて飛んでいく。


 ジンベイザメは口からコバンザメを飛ばして迎撃するが、回転するホホジロザメの角に当たると、コバンザメはバラバラになっていく。コバンザメの血で赤く染まった金色の小判が地面に落ち、カチャンカチャンと地下全体に金属音が響く。


 ホホジロザメはジンベイザメの大きい口に飛び込むと、ジンベイザメの体を貫いて外に出てきた。

 体に穴が開いたホホジロザメの巨体がゆっくりと地面に落ちていく。地下水湖の水面に落ちても、衝撃は広がらず、まるで海底に沈んだようだった。


「こんなものか――」


 哲也はそう言い残して倒れた。彼の手から玉が落ち、蓮に転がってくる。

 蓮はホホジロザメを玉に戻すと、哲也の玉を拾った。蓮はこれで十個の玉を集めた、三十三時間近くに及んだ長い戦いが終わった。


 十個の玉は全て光りだした、蓮の手を離れ宙に浮かぶ、背負っていたリュックに入っていた玉も飛び出し、蓮の周りを囲んで浮かんでいる。


 それに呼応するように祭壇の玉が光りだした。


「汝、鮫神との契約をするに値する力を示し者。我と契約を結べ」


 地下水湖に響く大きな声が玉から聞こえてきた。蓮は答えを決めていた。


「お前と契約はしない。二度と人の前に現れず、人を殺すな」


「その願いを聞き入れるには生贄が足らない。しかし、お前が生きている限り、という条件なら契約しよう。どうする?」


「……それでいい。僕は神を支配できるとは思っていない。だが、必要以上に人間に関わるな!」


「ハハハ、我は神の中ではどれよりも人に力を貸してきたが、これほど嫌われるとはな。まったく、人間とは面倒な生き物よ」


 十個の玉と祭壇の玉が激しく光ると、全ての玉にひびが入り、真っ二つに割れた。

 割れた祭壇の玉から巨大な鮫が現れた。大きさはジンベイザメの二倍。顔はホホジロザメのように凶暴で、開いた口には尖った歯が並んでいる。


「さらばだ人間よ。我を解放してくれたことには感謝しよう。精々長生きすることだな」


 鮫神が地下水湖の奥に向かって咆哮を飛ばすと、大穴が開いた。穴は太陽の光で照らされながら、海まで続いている。伊藤デパートから海までは相当な距離がある。とても肉眼では見えない距離だ。それでも蓮にはハッキリと海が見えた。


 鮫神は穴の中を飛ぶように高速で泳いでいく、鮫神の通った後に大きな水しぶきが上がる。鮫神は穴を抜けて海に出ると、その巨体を夕日で真っ赤に染めながら、海へと潜っていた。鮫神の姿が見えなくなると、大穴は閉じた。


 蓮は一人だけ地下水湖に取り残されたような気分で戸惑っていると、突然辺りが真っ暗になった。地面が揺れだし、蓮はその場にしゃがみこんだ。数秒の揺れの後、辺りは明るくなった。周りは昔見たままの地下水湖に戻っていた。スポットライトは煌々と光り、薄暗くなっていた照明が元の明るさを取り戻していた。


 蓮は今まで見ていたのは、夢だったのではないかと思ったが、地下水湖にうつ伏せで浮かんでいる哲也の死体を見て、現実なのだと実感した。


 蓮は地下水湖を後にして、ゲートを通り、地下三階への階段を上る。階段は元の変哲のない岩の壁に戻っている。蓮は足早に階段を上り、扉を開き地下三階に出ると、見慣れた地下三階が出迎えてくれた。蓮は明るい照明に照らされた、見渡す限りの店頭に飾られたカラフルな飾りに安堵し、エスカレーターへと向かった。


 地下三階のエスカレーターに着くと、上から結愛が覗き込んでいた。


「蓮!! 良かった! 無事だったんだね!」


 そう言って地下二階から降りてきて、蓮に抱き着いた。蓮は照れくさくてすぐに体を離した。


「早く地下一階に行こう」


 結愛の背中を押してエスカレーターを上る。地下一階に上がるとすでに警察が中に入ってきていた。


「走らないで! 順番に外に出てください」


 警察の誘導に従って、地下に取り残された人たちが外に出ていく。蓮と結愛もそれに続く。

 蓮は多くの悲しい思い出を胸に残して、地下デパートから出ていった。

最後まで読んでくださりありがとうございます

一人でも多くの方が満足していただけたら幸いです

お気が向きましたら感想をよろしくお願いします

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