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二十六話

この小説には一部残虐描写があります。また、そこに比重を置いた作品でもないので過激な残虐描写をお好みの方の需要も満たしてはおりません。


ハチャメチャ鮫映画愛好家の方々に楽しんでいただければ幸いです。


 イタチザメはホホジロザメに向かって来た。ホホジロザメの前で反転すると、尾びれをホホジロザメの頭に向けて、振って来た。ホホジロザメは、頭を上にあげて、かわした。


 イタチザメの背中に向かってホホジロザメは突進するも、イタチザメはひらりと横にかわした。角を当てようと、頭を振るホホジロザメの体の周りを、まとわりつくようにして、イタチザメは角を避け続けた。


 イタチザメは尾びれでホホジロザメの角を受け止めると、浮上し、ホホジロザメの背中に喰いつこうとした。しかし、ホホジロザメは背中の棘で受け止め、イタチザメの頭に、棘が刺さった。


「ちっ、うざってぇ!」


 怯んだイタチザメに、ホホジロザメが、追撃を加えようとしたが、イタチザメはホホジロザメの攻撃をかわし、水に潜った。


 動きの速いイタチザメをホホジロザメで捕らえるのは難しい、田中を狙う方が効果的だ。しかし、今、ホホジロザメが田中に向かえば、水中のイタチザメはこっちに向かってくるだろう、そうなれば先に死ぬのは自分だ。もう一撃、イタチザメに攻撃を加えることができれば、その隙に田中を狙える。


 蓮は田中を見ながら、チャンスを待った。田中はニヤニヤと笑ってこっちを見ていた。こちらを誘っているようにも見える。イタチザメが水中に潜ったのは田中の作戦かもしれない。しかし、イタチザメに遠距離から攻撃する手段はない。力ではホホジロザメが勝っている。尾びれの威力も、ホホジロザメを一撃で倒せるほどではなかった。尾びれを避けず、受け止めて、近づいてきたところを、ねじ伏せる。


 次の攻防で決着を付けようと、蓮は覚悟を決めた。田中もそれを警戒しているのだろうか。ホホジロザメを、水中に入れるべきか、蓮が思案していると、水しぶきが上がった。


 イタチザメの体は後ろ向きだ。尾びれのハンマーを向けてホホジロザメに突っ込んできた。蓮はホホジロザメの背中の棘で、尾びれを受け止め、イタチザメに噛みつこうとした、イタチザメは体をひるがえし、こちらに頭を向けるも、胴をホホジロザメに食いつかれた。


 蓮は勝ったと思った、ホホジロザメの顎の力なら、イタチザメの体を食い破れる。


 しかし、ホホジロザメがイタチザメの体に、歯を食い込ませる直前で、イタチザメの体は崩れ、光となって田中の玉に戻って行った。蓮はホホジロザメを、田中に向かわた、この距離なら、イタチザメの臨戦態勢が整う前に、ホホジロザメが田中に攻撃できる。


 ホホジロザメが田中に迫る寸前、ホホジロザメは宙で動きを止めた。蓮はその時、ホホジロザメの体から延びる、ロープに気が付いた。ホホジロザメの体に持ち手が木の金属の棒が刺さり、そこに括られたロープが水中へと延びていた。


 田中は玉からイタチザメを出すと、ホホジロザメを無視して、蓮に向かわせた。それを見て、蓮はホホジロザメを、玉に戻そうとした。ホホジロザメの体が崩れると、中から手銛が出てきた。


 田中はロープの一方を水中の石の柱に、もう一方を銛に括り付け、水中に隠し、イタチザメに咥えさせ、ホホジロザメに銛を突き刺したのだ。田中の狙いは、ホホジロザメを足止めし、その間に蓮を攻撃することだった。


 ホホジロザメは、光となって玉に戻って行くが、イタチザメの動きのほうが早かった。


「そっちが力なら、こっちは速さだ! 俺の勝ちだ!」


 イタチザメは口を大きく開け、蓮に向かって行く。蓮はそれを見ながら、左手をポケットから出した。左手をイタチザメに向けて突き出すと、左手に握られていた玉が光りだした。


 田中に勝つには、田中を出し抜く必要がある。田中が知らないこと、この鮫を見たことがないはずだ。蓮も田中に勝つことを考え、初めからこれを狙っていた。田中なら必ずこの状況を作り出すだろうと、そう確信していた。


 光に包まれながら、ブーンと音を立て、ノコギリザメが玉から顔を出した。蓮に向かって一直線に突き進んでくる、イタチザメの口の中に入っていくように、ノコギリザメは玉から飛び出した。

 回転するノコギリを、体の中から受けたイタチザメは、体を真っ二つにされ、蓮の目の前で、地面に落ちた。


 田中はそれを見て、言葉を発することもなく、前のめりに倒れた。


 蓮はノコギリザメを玉に戻し、美咲の横に跪いた。


「美咲さん――イタチザメは倒しましたよ」


 美咲は眼を閉じたまま、何も言わなかったが、顔は少し微笑んだ。美咲はそのまま息を引き取った。蓮は止まることなく眼から溢れ出る涙を手で何度も拭いながら、バルブに向かった。残された時間は少ない、ここで立ち止まっているわけにはいかない。


 蓮はバルブを回し、浮いていた石の橋を下ろした。橋を渡り、反対岸の田中の横に立つ。


 田中が息絶えていることを確認し、田中の体をまさぐった。田中は四個の玉を持っていた。光っている玉は一つだけ、おそらくオナガザメの玉だろう。蓮は地図も見つけた、田中の地図は自分が作ったものより情報が多く、帰り道に利用できそうだ。


 蓮は田中から離れ、橋を渡って、美咲の倒れている岸に戻った。美咲の背負っていたリュックを逆さにし、中の物を放り出した。田中から手にいれた玉と、自分の持っていたホホジロザメ以外の玉、合わせて七個の玉をリュックに入れた。そして、美咲を背負った。華奢な美咲が、左腕を失って、さらに軽くなっていた。玉の入ったリュックを手に持つと、地下二階に向かって歩き出した。


 今の状態で代り映えしない通路を通るのはとても精神的に辛かった。今までは結愛や美咲と話しながら歩いていたので楽だったのに、その思い出が背中で冷たくなっている美咲を重い荷物して、蓮の歩調を遅くする。

 それでも田中の地図のおかげでここに来るのにかかった時間より、ずいぶん早く地下三階のエスカレーターにたどり着いた。


 エスカレーターを上がり地下二階に戻ると、エステサロンの前で、結愛が座っていた。結愛は蓮の姿を見ると、すぐに立ち上がり笑顔で近づいてきたが、美咲の体の異常に気付くと、顔を曇らせた。


「美咲さん、どうしたの?」


「鮫に襲われたんだ……」


 結愛は蓮の背中でうなだれる、美咲の顔を見て、美咲が死んでいることを知った。


「そんな――美咲さんまで――」


 結愛は涙を流しながら、蓮と共にエステサロンに入って行った。


 蓮は美咲の遺体を、結愛の二人の友達の横に寝かせた。蓮と結愛は朝、エステサロンを出るときに、二人に必ず儀式を止めると約束していた。そのときはまさか美咲がここで眠ることになるとは思っても見なかった。


 蓮は美咲の顔を見ると再び涙が流れてきた。美咲を死なせたのは自分の不注意のせいだ。拓也の存在が不自然だと思いながら、生きていることを望んで、疑うのを止めた。美咲が助けてくれなければ、自分は死んでいた。蓮は美咲に手を合わせて、感謝と冥福を祈った。


「美咲さん、私と二人になると、ずっと謝ってたんだ。巻き込んで、ごめんって。美咲さんだって、怖くて、死にたくなかっただろうし、自分の責任じゃないって、言いたかったはずだよ」


 結愛は鼻水をすすりながら、美咲を見つめながら言葉を続ける。


「私、この儀式を止めることが、美咲さんを救うことになるだって思った。この儀式が終わって、私たちが生きて外に出たら、美咲さんは私たちの命の恩人だって言って、それから、友達になって……」


 結愛は涙があふれ出して言葉に詰まった。蓮は結愛の肩にそっと手を置いた。

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