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二十五話

この小説には一部残虐描写があります。また、そこに比重を置いた作品でもないので過激な残虐描写をお好みの方の需要も満たしてはおりません。


ハチャメチャ鮫映画愛好家の方々に楽しんでいただければ幸いです。


 一時間休憩したのち、結愛の様子を確かめたが、変わりはなかった。ラブカの玉を結愛の横に残して、二人は午前十一時にエステサロンを出て、三度地下三階へと向かった。


 地下三階のオナガザメのいた崖に着いたが、あるのは男の死体だけで、田中の気配はなかった。蓮は自分たちが入って来た崖から、男の死体がある崖に飛び移った。蓮は男の死体には近づかなかった、この場にある、なにもかもが、田中の仕掛けた罠に見えてくる。美咲が蓮に続いて崖を飛び移ると、二人は男の後ろにある、出口へ歩いて行く。


 出口の先の通路は短く、一分ほどで出られた。

 そこは北海道の弁当を扱う店だった。どこのデパートにもある、見慣れたカニやイクラで彩られた弁当のサンプル商品が飾られていて、安心を感じる。


「もうすぐお昼ですね。ここの弁当を持っていきましょうか」


「そうですね。ここは涼しいですし、昨日の朝に作られた物なら、傷んではいないでしょうけど、生の魚貝類を食べるのはやめておきましょう」


 二人は地図を書き、弁当をリュックサックに入れると、先に進んだ。一時間ほど歩いたが、田中や他の生存者とは出会わず、見つけた人間は全て死体だった。


 正午を過ぎたところで、二人は洋菓子屋の店頭に置いてある、商品を並べる棚に腰かけ、食事をとった。


「デパートでの食事はこれで最後ですね」


「無事に外に出れたら、蓮君と結愛さんに温かい食べ物をご馳走しますよ」


「グラタンかドリアが食べたいですね。魚はしばらく見たくありません」


「私も、魚介のスープスパゲティが好きなのですが、しばらくは遠慮したいです。それにしても、結愛さんがここに、一緒に来られなかったのは残念です。地下三階の食品を楽しみにしていましたから――」


「儀式が終われば地下の地形も元に戻るんですよね? 地下二階に戻るときに、お弁当を持って行ってあげましょう」


「ふふ、外から人が入ってきて、弁当どころではなくなりそうですけどね」


 二人は共通の話題である、拓也の事を、意図的に話さなかった。彼の生存が絶望的であることを、地下三階の探索を進めるほど、確信していた。ここに至るまでに、拓也の死体は見つかっていない。鮫は人を殺すために襲っており、食事のために襲っているわけではない。


 故に、命のついえた者は、死体となり、そこに残っている。拓也が死んでいるとしたら、死体が残っているはずである。拓也の生存の可能性はあるが、彼は鮫を使って戦うことができない。地下三階は水場が多く、蓮は探索中に、何度か小さい鮫に襲われた。


 探索を進めた先に、拓也の死体が転がっている、蓮と美咲はそれが当然のことのように思えてならなかった。


 二人は食事を終えると、地下三階の探索を再開した。一時間ほど歩くと、目的地に到達した。

 二人の目に映るのは、周りの白い壁とは違い、薄茶色のごつごつとした岩に囲まれた扉。凸状に扉が白い壁から突き出ている。その上には、白い枠に黒い字で〔地下水湖〕と書かれていた。地下三階の下にある地下水湖。そこに通じる道の、入り口があるエリアにたどり着いた。


 ここは元のデパートのエリアだが、自然の地形の影響を受けており、地下水湖に繋がる扉の周りにある、岩の隙間からは、海水が溢れ出ていた。扉の下には海水が溜まり、渦を巻いていた。海水は地下二階の川と同じように向こう岸との往来を妨害している。


「これでは地下水湖に入れませんね……鮫神の意図が分かりません――」


 蓮と美咲は扉のすぐ横の岸に立った。よく見ると、扉の前の水中に、石の柱が立っているのが見えた。柱は、一列に四つ、柱の半径は一メートルほどで、一メートル間隔で並んでいる。杭の用に尖った先端が水面に出ていた。地下二階のように柱を渡って反対岸に移動することはできない。


「蓮! 蓮か! よくここまで来てくれた!」


 蓮は対岸から聞こえてくる声に驚いた。声の聞こえてきた方向は、渦を挟んで反対岸の、地下水湖への通路で見えない位置からだった。そこからこちらを覗き込むように顔だけ出している男がいた。


「拓也さん! 無事だったんですね!」


「ああ。君たちが生きていれば必ずここに来ると思って、ここで待っていたんだ」


 蓮はジッと拓也を見た。拓也の姿は朝、別れたままだ。体格や声も間違いなく拓也だ。似た人が変装しているとかの次元ではない。間違いなく本物だ。


 蓮は念のため鮫の玉を取り出して確認したが、玉が反応しないので拓也は玉を一つも持ってないようだ。美咲いわく、拓也は鮫神に呪われているらしいので、伊藤グループの人間から玉を奪って手に持つことを避けたのかもしれない。蓮は嬉しかったが、内心では、拓也の生存を諦めていたので、どこか素直に喜べなかった。


「蓮、そっちにバルブがあるだろ。それを回すと上の橋が降りてくるはずだ」


 拓也はそう言って、指を上にさした。蓮は上を見上げると、石の橋が吊られていた。橋の底には丸い穴が四つ開いていた。水中の石の柱にピッタリはまりそうだ。おそらく反対岸にもバルブがあり、拓也がそれを回して、水中に柱を立てたのだろう。


 蓮はこちら岸を確認した、地下水湖の扉に注意を引かれ、こちら岸のことは見ていなかった。薄暗い照明で見落としていたが、柱を背後にして壁を見るとそこにバルブがあった。


「あったよ。すぐに回す」


 蓮はバルブに駆け寄り手をかけた。バルブは重く、ゆっくりとしか回せない。蓮は全力でバルブを回す、拓也を背にして。


 美咲はずっと拓也を見ていた、だからこそ、すぐに拓也の異変に気が付いた。拓也は向こう岸の端に立ち、蓮の背中を見つめていた。すると、拓也の姿が不気味に蠢き、人ではない、異形の姿になった。


「蓮君! 危ない!」


 蓮は美咲の声で、後ろを振り向いた。自分に向かって、大きな口を開け向かってくる、イタチザメの姿が目に飛び込んできた。蓮は自分の持つ玉が光りだしたことに気が付いたが、全く反応することができず、イタチザメに襲われた。


 その寸前で、美咲が蓮を突き飛ばした。蓮は美咲に覆いかぶされながら、後ろに倒れた。オナガザメの時と同じように、頭を打つわけにはいかない、蓮は何とか頭を上げ、体から地面に落ちた。


 倒れた蓮は、すぐにポケットから玉を取り出し、ホホジロザメを出した。蓮のすぐ近くで、こちらに体を向けた、イタチザメはホホジロザメを見ると、威嚇しながら少し距離を取った。


 蓮はイタチザメが離れたのを見て、美咲の方を向いた。地面に仰向けに倒れた美咲は、左肩を失っていた。蓮を庇って、イタチザメに食われたのだ。


「美咲さん……」


 蓮はそれ以上の言葉が出てこなかった。


「余計なことしやがって……じっとしてれば、楽に死ねたのによう」


 田中が、先ほど拓也が出てきた、奥の空間から現れた。別れた時より、大分くたびれているように見える。服やズボンは汚れ、右肩は骨折したのだろうか、紐で腕を吊っている。


「蓮君……イタチザメの姿に変化はありますか?」


 美咲はできるかぎり声を張って言った。呼吸は荒く顔は真っ白だ。

 蓮はあらためて、イタチザメを見た。最後に地下二階で見た時との違いを探した。


「体にコブラのような斑点が増えてます。それと、口の周りに小さいひげが付いてます。後は……尾びれは白くて丸くて太い、金属のように光る棒が付いたようになっていてます」


「……人に化ける能力を持つ鮫は……擬態型の鮫のはずです……髭が付いていることから……オオセ……だと、思われます……」


 美咲は眼を閉じ、かすれ声で、イタチザメの分析を話している。


「……尾びれが……棒のように太く、丸い、鮫は……存在しません……白い金属……おそらく……シュモクザメです……ハンマーヘッドと……呼ばれています……硬い尾びれに……ごほっ!…………気を付けて…………」


 最後の美咲の声は、消えるように、小さくなった。

 蓮は冷静に努めようとしたが、難しい状況だった。それでも、頭の中で必死に、田中の持っている玉の事を推測していた。美咲の見解では、イタチザメには、オオセとシュモクザメの特徴がある。さらに、オナガザメを操っていた男からも、田中が玉を奪ったはずだ。よって、彼が持つ玉は少なくとも四個。こっちが持っている玉は全部で五個。残る一つは美咲の推測では、地下水湖にいる、美咲の兄が持っている。田中が先に地下水湖に入り、玉を奪っていない限りはだ。


 イタチザメは、なぜ拓也の姿に化けれたのか? 蓮の頭の中は、何度となくその疑問で埋め尽くされる。


「……田中さん……貴方は拓也さんを殺しましたね?」


「ああ、お前たちと会う前に殺した。悪かったな、この玉に興味があったんだ」


「渡辺さん……今日の朝、エスカレーター前で貴方と、揉めていた女性も殺しましたね」


「へぇ……見てたのか。まぁ、それは正当防衛だ。あの女、俺を殺す気だった」


「僕を殺そうとしたのも、正当防衛ですか?」


「ふん、お互い様さ。お前だって、殺すつもりで俺を探してただろう。ところで、二人だけか。お前の彼女はどうした、死んじまったか?」


「生きてますよ。彼女は今の僕にとって――たった一人残った、絶対に死なせられない人です! 田中さん、玉は渡してもらいます。たとえ、貴方を死なせることになってでも!」


「いまさら回りくどいこと言いやがって! 殺して奪い取ると言えばいいだろ! お前を殺して、今度は鮫をお前に化かす。そうすりゃ、お前の彼女は簡単に殺せるだろうよ!」

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