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二十四話

この小説には一部残虐描写があります。また、そこに比重を置いた作品でもないので過激な残虐描写をお好みの方の需要も満たしてはおりません。


ハチャメチャ鮫映画愛好家の方々に楽しんでいただければ幸いです。


「私たち二人で、オナガザメを倒すってこと? ホホジロザメが蓮の指示を無視してたけど、あれってなんなのかな?」


「……私も気になって、ずっと考えていたんですが、催眠術ではないかと思います」


「催眠術? 私たちに影響がなかったから、鮫だけに効く催眠術を使ったの?」


「尾びれの動きには何か意味があるはずで。それに、オナガザメが蓮君を襲った時、尾びれで攻撃しませんでした。尾びれの光が催眠をかけるのに必要なのではないでしょうか」


「尾びれで攻撃すると光らなくなるの?」


「ええ、尾びれで攻撃すれば、尾びれに返り血が付きますから」


「なるほど! 美咲さん頭いいね! じゃあ、尾びれを汚せば催眠は使えないね」


「そうだと思います。地下三階の探索は始まったばかりです、ここで躓いているわけにはいきません。彼を倒し、先に進みましょう」


「尾びれを汚す方法だけど、水鉄砲で撃つのはどう?」


「撃つのが衣服などであれば効果的ですが、鮫の尾びれでは、液体が流れ落ちる可能性があります。かといって、粘度を上げれば、水鉄砲が詰まります」


「そっか……じゃあ、カラーボール! あの、強盗とかに投げるやつ! 一回やってみたかったんだ!」


「電気屋と百円ショップには置いていませんでした。デパート地下の店には必要ないので、この辺りの店には置いてないでしょう。百円ショップに置いてあるもので、カラーボールの代わりを自作しましょう」


「催眠術対策はそれでいいとして、私のラブカで、オナガザメを倒せるかな?」


「蓮君の玉を借りて、ホホジロザメを使いましょう。玉に戻って、催眠が解けてると思いますけど――」


「確かめてみよう」


 結愛は蓮の持っていた玉を持つと、エステサロンから出て、玉の中からホホジロザメを出した。ホホジロザメはこちらを襲ってはこなかった。結愛の指示に従って、湖の上をゆっくり回った。結愛はホホジロザメを玉に戻した。


「催眠にかかってはないようだね」


「ホホジロザメを上手く使えれば、オナガザメに勝てるはずです。百円ショップでカラーボールの材料を集めましょう」


 二人は百円ショップで、透明のプラスチックカプセルを手に入れ、カプセルの中に絵の具を詰めた。


「絵の具を薄めなくていいのかな? カプセルにくっついて離れないかも」


「そうですね、少し水で薄めた物も作っておきましょう。後は、投げるときに開かないように、軽くテープで止めておきましょう」


 二人は完成したカラーボールを試しに投げてみることにした。百円ショップの前に置かれたパンフレットスタンドに向けて投げてみると、カプセルはぶつかった衝撃で割れ、スタンドに絵の具が付着した。


「後はこれを当てらるれかだけど……かなり近づかないといけないね」


「正直言って私には難しいかもしれません。特に、正面から尾びれに向かって投げて当てるのは、難しいと思います。横からなら、五メートルまで近づけば、結愛さんなら当てられるでしょう」


「崖の間にオナガザメは浮いているから、横に回り込むのは難しいよ」


「オナガザメは鮫に催眠をかけるために、鮫の方向に体を向けるはずです。それを利用しましょう」


「なるほど、ホホジロザメを囮にしてオナガザメを動かすってわけね」


 二人はカプセルを五つずつ持ち、透明のビニール製ショルダーポーチの中に入れ、地下三階の男の元に向かった。道中、二人は早歩きで、何も話さなかった。


 崖に着くと、男は先ほどと変わらず椅子に座っていた。


 結愛と美咲は男に近づいていく。男は蓮が近づいてきたとき同様、玉からオナガザメを出した。距離は二十メートルほどだ、ボールを当てれらる距離まで近づく必要がある。二人は立ち止まることなく男に近づいていく。


 男は二人の行動になにか意図があるのだろう、と思った。男はじっとしていてもいい結果にはならない、と判断し、オナガザメが二人に近づいてきた。


 結愛はオナガザメが動くと、玉からホホジロザメを出した。ホホジロザメは結愛から離れてオナガザメの横に回り込むように動いた。オナガザメはホホジロザメの動きに合わせて、体を向けながら、尾びれを横に傾け始めた。尾びれはピカピカと点灯している。


 結愛と美咲は走り出し、オナガザメに近づいた。崖の端から、オナガザメまでの距離は三メートルほどだった。二人はポーチからカプセルを取り出すと、オナガザメの尾ひれに向かって投げた。美咲のカプセルは、オナガザメの体に、結愛のカプセルは尾ひれの根元に当たった。オナガザメは尾ひれに衝撃を受けたことで、動揺し、尾びれの動きと光を止めた。


「今だ! やっちゃえ!」


 ホホジロザメは結愛の声に答えるように、オナガザメに突進していく。オナガザメは尾びれを振ってホホジロザメに攻撃した。ホホジロザメは頭の角でオナガザメの尾びれを受け止めた。力ではホホジロザメが勝っており、ホホジロザメが首を振ると、オナガザメの尾ひれは振り払われた。ホホジロザメはオナガザメの懐に入り、角を突き刺した。


「やった!」


 オナガザメはホホジロザメから離れると、腹に大きな穴が開き、そこから血があふれ出した。勝負はあったように見えたが、オナガザメは尾びれを回転させ横向きにすると、ホホジロザメの首元に突き刺した。鋭くとがったオナガザメの尾びれの先端が、深々とホホジロザメの体に食い込んでいく。


「うっ!!」


 結愛は呻き声を上げ、その場に跪いた。ホホジロザメの受けたダメージが結愛を襲い、立っていられなかった。


「結愛さん! ホホジロザメを玉に戻して!」


 結愛は美咲の声に、応えることができなかった。意識はあるが、体が重たい。力が抜けるというより、魂が抜けていくようだった。


 オナガザメの尾びれは、ゆっくりとホホジロザメの体に入っていく。ホホジロザメは動けば、尾びれで体が引き裂かれるため、動くに動けず、ただ、宙に浮いていた。美咲は結愛から玉を奪い取った、美咲は玉から鮫を出すことはできないが、玉を所持することはできる。玉の所持者が、結愛から美咲に移ったことで、ホホジロザメは体が崩れ、光となって、美咲の持つ玉に戻った。


「ここから離れましょう」


 美咲はそう言って結愛を担ぐと、結愛もよろよろと歩き始めた。出口に向かいながら、美咲はオナガザメを見ると、オナガザメも光となって玉に戻って行くところだった。玉が戻る先にいる男は、椅子に座っておらず、倒れていた。


 その男の後ろには、派手な服を着た、見覚えのある男が立っていた。彼の左手には血の付いた懐中電灯が握られていた。美咲は立ち止まることなく、急いでその場を後にした。


 エレベーターの前まで戻ると、結愛と美咲は地べたに腰を下ろした。


「結愛さん、大丈夫ですか?」


「……うーん、貧血みたい。ホホジロザメが出血したからかな……」


「エステサロンに戻りましょう。とりあえず、オナガザメは倒せたようですし――」


 結愛は美咲に支えられながら、なんとか地下二階のエステサロンに戻った。結愛と美咲が、蓮の眠る部屋に入ると、物音で蓮が目を覚ました。


「うーん……なにがあったんですか?」


「蓮君! よかった、目が覚めたんですね」


 蓮は痛みが残る後頭部をさすりながら、起き上がる。美咲に支えられて、結愛は蓮の横のベットに、倒れるように横になった。


「結愛! 大丈夫!」


「……ちょっと、ダメかも……あと、よろしく――」


 結愛はそう言って目を閉じた。気を失ったようだ。


「結愛さんは、ホホジロザメでオナガザメと戦いましたが、鮫が負傷したために、結愛さんの体力が大きく失われたようです」


 蓮は結愛の手を握った。手は暖かく、脈はしっかりしていた。


「今のところ、命の危険はなさそうですね」


「しかし、今日中は安静にした方がいいでしょう。……地下三階の探索は、私たち二人で行いましょう」


 蓮と美咲は部屋から出た後、蓮が気を失っている間の事を話した。


「ということは、オナガザメの玉は田中さんが持っている、ということですね」


「はい。彼は儀式の制限時間が三十三時間だと、知っています。彼が何個の玉を持っているかは分かりませんが、彼もこちらの玉の状況を知りません。時間を浪費させたくないでしょうし、逃げることなく、私たちを地下三階で待っているでしょうね」


「……そうでしょうか。彼は僕たちを、一番警戒しているはずです。絶対に勝てる、そう思える状況で戦うはずです。それに彼が、玉を五個持っていれば、こちらの持っている玉を五個と想定して、ぎりぎりまで時間を使うかもしれません。時間が少なくなり、こちらを焦らせ、交渉を持ちかける可能性もあります」


「……そうですね。どちらにせよ、私たちは地下三階を探索するしかありません。彼を二階に誘い出すのは難しいでしょう。彼が待ち伏せていたとしても、私たちから彼の元に行くしかないのです」


 美咲は口では勇ましかったが、顔色や息遣いからは疲労が見えた。彼女は蓮と結愛を続けて、地下三階から地下二階に運んでいる。蓮はこれからすぐに地下三階に行っても、探索の効率が悪いと判断し、美咲の体力が回復するまで、ここで休むことを提案した。


 美咲は少し渋ったが、蓮が「田中との戦いで結愛のように疲労するかもしれない、その時は美咲一人で自分を安全な場所に必要がある」、と言うと、美咲は納得して休憩することにした。

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