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十八話

この小説には一部残虐描写があります。また、そこに比重を置いた作品でもないので過激な残虐描写をお好みの方の需要も満たしてはおりません。


ハチャメチャ鮫映画愛好家の方々に楽しんでいただければ幸いです。


 結愛は男が自分を攻撃するつもりなら、それを止めなくては、と思った。


「貴方も玉を持っていたのね。私も持ってるの、ほら――」


 結愛は動揺を見せず、堂々と玉をポケットから出して男に見せた。こちらに敵対の意思がないことを示さないといけない。


 儀式の事も鮫の事も、詳しいことは何も知らないふりをしようと思った。


「……どこでその玉を手に入れたんだ?」


「小さい鮫に襲われた白衣を着た女性が持ってたの。


 私が拾ったら、玉が光って、中から鮫が出てきたわ。


 それで、小さい鮫を倒してくれて、おかげで私は今まで生き残れたの」


 男は黙って結愛の話を聞いていた。美咲が玉を奪ったのは儀式が始まる前だと言っていた。彼は美咲が玉を奪ったことを知っているはずだ。結愛の言葉は信頼するに値することだろう。


「その玉はお前が持っていると危ない。俺に渡せ」


 男は右手の玉をポケットに戻すと、こちらに手を伸ばした。左手はまだ大那の手を掴んだままだ。


 結愛は立ち止まって迷っていた。蓮は上手く近づけただろうが、もし、まだ近づいてないのなら、玉を渡せば蓮の鮫に反応してしまう。


 男は大那を掴んで離そうとしない、明らかに人質にしているように見える、慎重に行動しないといけない。


「――この玉、不思議ですよね。なんで、中から鮫が出てくるんでしょうか?」


 結愛は玉を目線まで上げて、しげしげと眺めた。周りの緊張感の中で浮いた行動だった。それでも、男は落ち着いて対応した。


「ふん、知りたいなら教えてやるよ。それはな、鮫の神が作り出した玉だからだ。


 その神ってのはヒデーやつで、自分の為に大勢の人間を生贄に要求するんだ。辺りをうろついてる小さい鮫も、その神が作り出したもんなんだろーよ。


 俺も知らされてはなかったが――どーせ、他にも俺に知らせてないことがあるんだろーが、ムカつくぜ」


 男は途中から結愛の存在を無視したように話し出した。彼の心の中に秘めた思いを、吐き出せる相手が欲しかったのかもしれない。


 結愛は美咲から聞いた事を利用して、男の話し相手を上手くできるのではないかと思った。


「皆も小さい鮫に襲われたんですよね、貴方がそれから守ってくれたんですよね?」


「ああ、まぁな。聞いてない話だったからとっさにな。――けど、どーせ、最後は皆、死んじまうんだろうけどな」


「大丈夫ですよ、皆で助かる方法を探しましょうよ」


 結愛は男の意外な反応に戸惑った。今まで襲ってきた人たちとは違い、まるで彼も被害者のようだ。


 美咲の話では全員が今回の首謀者の美咲の兄に忠誠を誓っているような言いぶりだったが――確かに彼はヤリザメやツノザメの玉を持っていた人物よりも若い、立場が他の人とは違ったのだろうか。


「助かるか……それもいいかもな。なんか、どーでもよくなってきたし。会長からお呼びがかかった時は出世街道に乗ったともったのに、これだもんなぁ……」


 結愛は上手くいけば彼を懐柔できるかもしれないと思った、


 が、湖から大きな水音が上がった、結愛は蓮がホホジロザメを動かしたのだと思った。


「きゃああああ!」


 悲鳴を上げたのは、鮫に驚いて後ろに離れていた、時子だった。時子の体には、小さい鮫が喰いついている。


 小さい鮫が近づけば玉が反応して教えるのだが、今は結愛の玉と男の玉が反応して、小さい鮫への反応に気付かなかったのだ。


「くそが! 俺の鮫に勝てもしねえくせに!」


 男がそう言うと、ノコギリザメは男の横から離れ、時子の前に移動した。


 ノコギリザメの頭に付いた鋭い短剣のような突起が回転し始めた、ノコギリザメは頭を左右に振りながら時子に向かって進んだ。


「やめて!!!」


 結愛の願いも虚しく、時子と小さい鮫はノコギリザメの餌食になった、血飛沫が上がり、バラバラになった体が床に散らばる。


 結愛はその光景を見て気が遠くなりそうになった、足から力が抜け、床に跪いた。床に倒れたのは結愛だけではなかった、男に手を掴まれた、大那も床でえづいている。


 遠巻きに見ていた女性たちは、悲鳴を上げながら逃げ、奥のエスカレーターを上がって行った。


「テメーがその玉を持ってきて、ごちゃちゃうるせーから、こーなったんだ、邪魔だから死んどけ!」


 ノコギリザメは体をひるがえし、結愛に向かう。男は今までの落ち着きから変わり、興奮している。


 ノコギリザメはノコギリを回転しながら結愛に近づく。


 その時、湖からホホジロザメが飛び出してきた。ホホジロザメとノコギリザメの距離は二十メートルほどだった。


「くそっ!! デカイのまでいやがったか!!」


 男は、湖から別の鮫が出てくるのでないかと警戒していた、そのため、ホホジロザメへの反応は早く、すぐにノコギリザメをホホジロザメに向けた。


 ホホジロザメの角とノコギリザメのノコギリが激突し、激しい火花を散らした。ノコギリザメが首を振るとホホジロザメの角は弾かれた。


 ノコギリザメは後ろに下がり距離を取った。


「なんだこいつ! 俺の鮫の攻撃を防ぎやがった!」


 男は大那を引きずりながら少しづつ後ろに下がっていく、ホホジロザメの動きを見極めようとしていた。誰かがこの鮫を操っている――まさか、伊藤グループの人間ではないか……。


 蓮は遠く離れた場所から様子をうかがっていた、これ以上、男が離れて見えなくなると、ホホジロザメで攻撃できなくなる。


 周りには結愛や友達がいるので、うかつには動けない。想定外の小さい鮫の出現により、蓮はホホジロザメで男を攻撃できず、結愛を守るためにノコギリザメを攻撃せざるを得なかった、そのために奇襲は失敗し、状況はかなり悪くなった。


 今はまだ、男が混乱している、時間が経てば経つほどこちらが不利になるだろう。危険だがこちらから仕掛けていくしかない。


 蓮はホホジロザメを男に向けて突進させた。


 男は後ろに引きながら、ノコギリザメでホホジロザメを迎え討った。再度、角とノコギリが火花を散らす、蓮はホホジロザメを無理に突進させ、ノコギリザメの腹に角を刺そうとした。


 しかし、ノコギリザメは食い下がり、角より長いノコギリのリーチを活かし、ホホジロザメの体にノコギリを当てた。


 体の左側を、ノコギリで引き裂かれたホホジロザメは大きくのけぞった。ホホジロザメは血を流しながら宙で動きを止めた、ノコギリザメと睨み合っている。


 蓮は自分の体から大きく力が抜たのを感じた、痛みこそ感じないが、これはホホジロザメの受けたダメージだ。


 これ以上ホホジロザメが傷つけば、自分は気を失い倒れるかもしれない。それは、ホホジロザメと自分の死を意味する、


 これ以上、負傷するわけにはいかない。蓮は一か八かホホジロザメを湖に入れた。特に考えがあったわけではない、ただ、男はまだ、蓮の事を発見できていない。


 こちらがどんな手を打てるのか、男は分かっていない。


 現状は最悪に近い状態だ、この状況を変えるには、あの男を動かす必要がある。


 男の手はまだ、がっちりと大那の腕を掴んでいる。こちらに恐怖を感じ、男が大那から離れれば、美咲が動けるはずだ。


「くっそ! 傷ついたら逃げるのか! かかってこいよ!」


 男は湖に吠えている。湖は静まりかえり、反応はない。


 男は結愛に目をやった。まさか、こいつの鮫じゃないだろうな。念のため殺しておくか。


 だが、また、鮫が飛び出してくるかもしれないな――。


 動きを止めていたノコギリザメが再び動き出した、ノコギリは回転させず、静かに向かった先は、結愛だった。


 蓮はもう躊躇していられなかった、湖からホホジロザメが飛び出し、三度ノコギリザメに飛び掛かった。


 角でノコギリザメの動きを止めて、その間に美咲に任せようと思った、他に蓮ができることも思いつかなかった。


「お前はこいつと遊んでろ!」


 男がそう言うと、ノコギリザメは大那に向かってノコギリを振りかざし、大那の体に叩きつけた。


「ぎゃああ!」


 回転が止まっているノコギリを体に受け、大那の細い体は吹き飛び、ホホジロザメの頭に付いた小さな棘の山に突き刺さった。


(しまった! 大那が棘に刺さったままじゃ戦えない!)


 蓮はホホジロザメの頭を振って、大那の体を落とそうとするが、棘に刺さって大那は離れない。


(だめだ! 玉に戻すしかない。結愛が危険だが、他に方法がない……)


 蓮は仕方なく、ホホジロザメを玉に戻した。ホホジロザメの体は崩れ、光となった。棘から解放された大那は湖に落ちた。


 男はホホジロザメの光の行く先を目で追った、光の行く先には、湖の側で地べたに伏せる、玉を持った蓮がいた。


「なんだ、あいつは……この女の仲間か?」

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