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十七話

この小説には一部残虐描写があります。また、そこに比重を置いた作品でもないので過激な残虐描写をお好みの方の需要も満たしてはおりません。


ハチャメチャ鮫映画愛好家の方々に楽しんでいただければ幸いです。


 おばさんは革のカバーが付いたペーパーナイフを持ってきた、まだ包丁の方が使えそうだ。


 アフロの男性が持ってきたのは先の尖ったハイヒールだった、相手の隙を見て靴を脱いで相手に刺ばいいと主張したが、おばさんにポケットにナイフを隠し持てばいいと反論された。


 結愛が持ってきたのは催涙スプレーで、美咲によれば、鮫に使用するときは、目に当てれば効果があるだろう、ということなので、これは結愛が持っておくことになった。


 蓮は草刈り機の替え刃を持ってきた、フリスビーのように投げれば相手を怯ませるには十分な効果があるだろう。美咲に防刃手袋を渡すと、替え刃を手に持ってみたが彼女の細腕では上手く扱えそうになかった。


 美咲が持ってきたのはライターオイルだった。蓮には馴染みのないもので、ガソリンや軽油との違いもよく分からなかった。


「これで火をつけるの? 近づくと自分まで火を浴びそうだけど……」


「オイルをおもちゃ屋にあった水鉄砲に入れて撃つんです。着火は花火で行います」


「どちらにしても周りに女性がいると危ないですよ」


「あくまで最終手段です。これは蓮君の奇襲が失敗した時の切り札です、近くに湖もありますし、すぐ火を消せば軽いやけどで済むと思います。全員死ぬよりはいいでしょう」


 美咲は自信ありげに言うが蓮と結愛は不安の方が大きかった。


 ただ、他に使えそうなものもなかったので、再びおもちゃ屋へ戻ることにした。


 今回は結愛がいないので、美咲が川を再び渡れるように、ロープを延長する必要があった。


 電気屋でロープを見つけ、元のロープの先に付け、近くの店の柱に括り付けた。


 美咲はせっかく渡った川を往復しなければならないことに辟易していた。


 おもちゃ屋で水鉄砲と花火、着火用ライターを集めた後、川を渡り、電気屋で、花火を放り投げれるように、結束バンドと手ごろな棒を持ち帰った。


 蓮は棒に花火を束ね、結束バンドで固定した。これで花火に火をつければ、火花を飛ばす棒になる。美咲は水鉄砲にライターオイルを入れた。


 時間もあるので試し撃ちをやってみることになった。川の近くにあった木製の看板を目標にすることにした。


 蓮は近くにあった消火器を持ってきた。


 美咲は五メートルほど離れた場所から水鉄砲を撃ち、花火に火を付け、火花が飛び散りだすと棒を投げた。


 看板に火が付いた、木が固く丈夫なためか、すぐには燃え広がらず、小さい火がチリチリと燃えている。検証は十分だ、蓮は消火器で火を消した。


「もう少し遠くても使えそうですね」


「男は薄着でしたから、皮膚に直接オイルがかかれば効果は大きいでしょう」


「水も思ったより跳ねませんし、一人だけを狙い撃ちにできそうですね」


 二人は結愛の元に帰ると、三人は椅子に座って作戦をまとめることにした。


 おばさんと犬はおもちゃ屋にあったビーフジャーキーを食べている。アフロの男は近くの店にあった定員のカバンにあった頭痛薬を痛み止め代わりに飲んで、冬物のアウターを複数、地面に敷いて、その上で横になっている。


「まず、結愛が一人で男の前に出る、そして玉を見せて相手の気を引く。


 その間に結愛と反対の道から僕が近づき、湖の中にホホジロザメを出して、鮫を男に近づけ、鮫が湖から飛び出して男を倒す」


「ホホジロザメは水の中だと凄い早いんでしょ、接近すれば最強だし、上手くいけそうだね」


「失敗した時のことも検討してみましょう。たとえば、いきなり結愛さんが襲われた場合とか――」


「Bプランってやつだね。その時は、私はすぐ逃げて、追ってきた鮫を蓮が倒すってのはどう?」


「僕は反対の道にいるから間に合わないかもしれない。その場合は、結愛は近くの店の中に逃げ込むとかで時間を稼いで、その間に男をホホジロザメで倒すのがいいかも」


「後、考えられる可能性は、蓮君の奇襲が失敗したときですね」


「その時は今までと同じようになるのかな?」


「問題は周りにいる女性たちですね、彼女たちに私たちを敵だと思われれば厄介な事になるかも」


「私の友達だから大丈夫だよ、蓮の事を知ってる子もいるし」


「じゃあ、そのケースの時は、結愛は彼女たちを建物の中に避難させてくれ」


「男が一人なら隙をついて私が火を付けられますしね」


「OK。あとは……まぁ、結局、最悪の時は美咲さんの火計に頼るってことね」


「後は、接近の仕方ですが、男の位置を考えると、こちらから見て、湖を迂回しやすい左側の道は結愛さんと私、湖を間に挟んだ右側は蓮君になりますね。


女性達がすぐに男から離れてくれれば、私が男に近づけるのですが――」


「友達が皆、私に近づいてきてくれたらいいけどね」


「結愛の友達以外もいるし、男が自分から離れるのを黙って許すとも思えないな」


「……できるだけのことをやろ。私達もここで死ねないしね」


 結愛は自分に言い聞かせるように言った。


 最悪の事態、友達が目の前で死ぬ、その覚悟をしなければならない。


 三人は軽食を済ますと、湖へと向かうと、おばさんとアフロの男に告げた。


「僕たちが帰って来ないときは、川を渡って地下一階を目指してください」


「俺の足じゃあの岩を飛び移るのは難しい。お前たちが勝つことに賭けるよ」


「あの鮫がいなければ、マロンちゃんが怖がって逃げたりしなかったのよ。そしたら私は地下一階に上がれてたのよね。あの鮫をギャフンと言わせちゃいなさいよ!」


 二人の激励を受けて、三人は湖に向かった。


 結愛を先頭に左側の道を進む、先ほど美咲と蓮が隠れ見ていた場所にたどり着くと、結愛も同じように様子を伺った。


 結愛はこちらを振り向きうなずいた、あれから三十分ほどたったが変化はないようだ。蓮はうなずき返すと道を戻り右側の道に向かった。


 結愛は蓮の姿が見えなくなると湖に目線を戻した。友達の姿を見ると結愛は心臓の鼓動が早くなった、息が荒くなるのを感じ大きく深呼吸をした。


 胸に手を当てて、冷静に行動するように自分に言い聞かせ、三人で話した行動を一つ一つ思い出し、確認した。


 そして、勇気を振り絞り湖へと歩き出した。


 結愛は歩くのがこんなに難しいのかと、思うほど体は固くぎこちなかった。


 湖の側で座っている結愛の友達は、結愛の姿にすぐに反応した。


「えっ! あれ、結愛じゃない!」


「うそ! 無事だったの、良かった!」


 結愛の友達は指をさしながら言った。


 結愛は男の反応を伺ったが、チェアから上体を起こしただけで立ち上がってはいない。玉が反応するまではスムーズに事が運びそうだ。


「時子、百恵、大那、千枝、みんな無事だったの、良かった!」


 結愛は湖を左に回り、向こう側に向かう。友達は皆、笑顔だが結愛の顔は少し引きつっていた。


 男は結愛の後ろに目線を移した、結愛が一人かを確認しているようだ。


 結愛に近い時子と百恵が結愛に近づいてきた、千枝も立ち上がり近づいてくる。


 男の隣にいた大那が結愛に向かおうとすると、男は大那の腕を掴んだ。それを見て結愛は、男は油断していない、マズイかもしれないと思った。


「結愛、よく無事だったね、鮫に襲われなかった?」


「何度か襲われたけど、上手く逃げたの。ほら、私、足が速いから」


「アハハ、私達も足が速ければ……」


 百恵がその先は言わず黙った、結愛は横目で男を見た。男はチェアから立ち上がり、こちらに近づいてくる。


 左手は大那の手を掴んだまま、右手は短パンのポケットに入れている、きっと玉を握っているのだろう。


 結愛は蓮の姿を見たかった、上手く湖に近づけただろうか。しかし、ここで自分が蓮の方を向けば男も気づく、自分の役目は男の目を引き付けることだ。


 男が近づいてくると結愛のデニムスカートのポケットの中の玉が暖かくなった。もう後戻りはできない、ここからが勝負だ。


 男は立ち止まりポケットから光る玉を出すと、鮫が玉から出てきた。


 鮫に驚き、結愛の友達は悲鳴を上げながらその場から少し離れた。


 男の周りに人がいなくなるのは好ましいことだが、大那は手を掴まれて離れることが出来ない。大那が側にいる限り蓮は動けない。


 結愛は目の前の鮫を緊張しながら見つめた。


 ノコギリザメ、美咲がそう推測した鮫の姿は、黒に近い灰色で、聞いていた通り全長は四メートル以上、前に長く伸びるノコギリは、ヤリザメと違い、頭の先端に付いているというより、鼻が伸びているように見える。


 ノコギリザメはノコギリを結愛に向けている。一見しただけでは回転するようには見えないが、たとえ回転しなくても、触れれば大怪我をするのは容易に想像がつく。

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