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十二話

この小説には一部残虐描写があります。また、そこに比重を置いた作品でもないので過激な残虐描写をお好みの方の需要も満たしてはおりません。


ハチャメチャ鮫映画愛好家の方々に楽しんでいただければ幸いです。


「壁から抜けないでしょうか?」


「下にぶら下がるわけじゃねーし、大丈夫だろ」


 田中はロープの先に重りを付け反対側に投げた。


「それをどっかにつなげ」


 向こう岸の三人は辺りを見渡して言った。


「繋ぐ場所なんてない!」


「ちっ! 使えねぇ!」


 田中は小さい声で悪態をつくとハンマーとバールを持って岩に飛び乗った。岩は微動だにせずしっかり田中の体を受け止めた。


 田中は二つ目の岩に飛び乗った。向こう岸までは五つの岩を飛び越えていかなければならなかった。岩は一直線に並んでおり、さほど難しそうになかった。


 田中が三つ目の岩に飛び乗ったところで蓮は一つ目の岩に飛び乗った。


 その時、対岸のおばさんが抱いていた小型犬が飛び降り、川の上流に向かって吠え始めた。


 蓮が犬の吠える方向を注視していると、玉が光り始めた。前を行く田中も岩の上で動きを止め川を注視した。


 蓮は川の中に剣山のような棘の塊りが浮んでいるのを見つけた。棘の塊りは水面をスーと動き、下流に向かってくる。棘が水上に上がると、その下から丸い台座が姿を現した。


 棘が付いた台座は犬の方に傾いた、すると棘が五本、吠える犬に向かって飛び出した。


 棘は犬の頭をかすめ、後ろに立っていた長身の男の体に突き刺さった。


 棘の長さは十五センチ、太さは一センチほどで、男の胸に深く突き刺さっていた。彼は衝撃で後ろに倒れた。


 向こう岸から悲鳴が上がった。犬は後ろに逃げ出し、おばさんとアフロの男もそれに続いた。


「おい! あれも鮫か! 棘を飛ばす鮫がいるのか!?」


 田中は川を睨みながら大声で叫んだ。玉を握りしめて、鮫を出すタイミングを計っているようだ。


「……信じられませんが、おそらく、ステタカントゥスです」


 美咲は川から少し離れて身を屈めながら言った。後ろで結愛はうつ伏せになっている。


「ステ……なんだって?」


「ステタカントゥス、今から約三億年以上前に絶滅したとされている古代鮫です。背中にブラシのような、先端に棘の付いた突起がついています」


「で、そいつはどうやって倒せばいいんだ?」


「知りませんよ。だいたいあれが本物のステタカントゥスだとしたら、棘を飛ばせるわけないじゃないですか! それに大きさは七十センチほどだったと言われていますが、いまの突起を見るに、三倍の大きさはあるかも……」


 水面に再び棘の山が姿を現した、田中は玉からイタチザメを出した。


「あいつを二度とステなんとかと呼ぶな。あれは〔トゲザメ〕で十分だ」


 蓮はイタチザメを見て岩から岸に戻った、田中のイタチザメがいるときはホホジロザメを出すことはできない。ここは田中に任せ、蓮は事態を見守ることにした。


 田中は棘の動きを見ていたが棘は再び水中に潜った、それと同時に水中が明らかに慌ただしくなったのが水面に伝わる波紋や泡で分かった。


 田中は何事かと川を覗き込んでいると、上流から小さい鮫が飛び出してきた、トゲザメは小さい鮫に襲われ、逃げたのだろう。


 小さい鮫は田中に飛び掛かかってきた、田中は手に持っていたハンマーで殴り、打ち払った。


「雑魚が、鬱陶しい!」


 上流から二、三匹と続いて田中に向かってきた、田中はイタチザメを自分と小さい鮫の間に挟もうとしたが、小さい鮫に飛びつかれたイタチザメの体にのしかかられるような体勢になった。


「くそが! こんな足場じゃければ――」


 田中はボヤキながら岩から足を滑らせ川に落ちた。


 あっという間に彼は下流に流され、イタチザメがそれを追って水中に入り下流を下って行った。


 水中に落ちた田中の代わりに水面に上がってきたのは棘の刺さった小さな鮫だった、トゲザメに返り討ちにあったようだ。


「田中さん、大丈夫かな……」


「口では立派でしたけどね。それよりステ――あの、トゲザメですか。あれを倒さないと川は渡れませんね」


 蓮は川を見つめながら考えていた。鮫は目視せずとも操ることができる、しかし、鮫が見ているものを見れるわけではない。


 もっともトゲザメの視界が玉の持ち主にも見える能力があるのかもしれないが――ないとするならば、玉の持ち主はこちらの状況をどこからか見ているはずだ。


 だが、川のこちら側にはいないだろう。もし近くにいれば玉が反応するはずだ、トゲザメが近づいてくるまで玉は反応しなかった。


蓮は川の反対側を見ていると電気屋の店先に外側に向けて監視カメラが取り付けているのを見つけた、カメラのコードは壁などに埋め込まれることなく地面に垂れ下がっている、もとから店に取り付けられていたものではないのは明らかだ。


 カメラは川の方向を向き左右に首を振ったり止まったりしている。蓮はあのカメラの映像を見ながらトゲザメを操作しているのだろうと思った。


 鮫は自分の意思で動くこともできる、玉の持ち主は川に近づいてきたものに針を飛ばせと命令しているのだろう。


 カメラの映らないとこで戦えば勝てる、蓮は勝機が見えたような気がした。


「トゲザメの持ち主はあの電気屋にいるようです。川の中のトゲザメを倒すしか先に進む方法はなさそうです。おもちゃ屋に帰りましょう……なにかこの状況を打開する方法があるはずです」


「無視しちゃダメなのかな?」


「三十三時間以内に全ての玉を集めないといけませんから、あの鮫の玉もいつかは手に入れなければなりません」


「そっか――もしかして水中に引きこもって時間稼ぎ狙いかな」


「トゲザメの持ち主が慎重な人物なのは間違いないでしょう。私たちが固まっているところに棘を飛ばされていたら何人も死んでいたかもしれません。ただ、川から棘を飛ばせる角度では、複数人を同時に狙うことは出来ません。しかし、トゲザメは川から出てきませんでした」


「慎重というより臆病なんじゃない。自分は電気屋に引きこもって、鮫だけ外に出してさ」


 蓮はおもちゃ屋に戻り店の中をぶらぶらと歩き始めた。トゲザメを水中から出してしまえば、勝つのは容易だろう。もしくは棘を避けながら近づければ――。


「美咲さん、トゲザメは台座にしか棘がないのでしょうか?」


「ステタカントゥスでしたら頭にも棘があります。しかし、頭の棘も飛ぶんでしょうか?」


 美咲の疑問は戦ってみるまでわからない、そしてそれが致命傷になりかねない。相手は遠距離攻撃を持っている、長期戦は不利だ、できれば一気に仕留めたい。


 蓮は棚にぶら下がっている水中眼鏡とシュノーケルパイプを手に取った。水中はカメラに映らない、鮫がいる川に飛び込むのは危険だが、こちらにも鮫がいる。


 近くにあった水着を持って更衣室に向かった。蓮は水着に着替えながら水温はどのくらいだろうか、田中は今頃震えているだろうか、と思いにふけった。


 更衣室から出ると結愛が心配そうな顔で言ってきた。


「ホントに水に入るの? 鮫がいっぱいいるかもしれないよ」


「だとしても、全部倒さないと向こう岸に行けないだろ」


「まだ時間もあるし――もっと考えてみようよ」


「ここで一晩眠りたい?」


「それは――」


 美咲は黙って見ていた。顔は申し訳なそうにしていたが止めたりはしない、自分は鮫神の呪いで玉を使う事ができない、自分の命は蓮たちに託すしかない立場なのだ。


 蓮はおもちゃ屋から出るとロープを自分の腰に巻いた、田中の流され方を見ても水の流れは遅くはない、何かに捕まらないと下流に流されるだろう。


 ロープの長さを調整して川に向かうと玉が光り始めた、蓮はすぐに一つ目の岩に飛び乗ると上流にいるであろうトゲザメを探した。


 上流の岩の後ろから棘の山が姿を現した、トゲザメの居場所を確認した蓮は、水眼鏡を付け大きくを息を吸うと、パイプを口に咥えた。


「蓮君、危なくなったらすぐに逃げてくださいね!」


「棘が刺さらないように気を付けて!」


(僕がやるしかない!)


 覚悟を決め川に飛び込んだ。


 水中は思ったより冷たくはなかった、アドレナリンが出ているせいかもしれない。


 岩を背にし、水流に流されないように気を付けながら、トゲザメの姿を探した。


 水中は濁りがなく水上から見たよりも視界が良かった、二メートル程度だと思っていた水深は五メートルはゆうに超え十メートル近くあるかもしれない、蓮は南の海で泳いだ時の事を思い出した。


 海底は全て砂になっている。海藻や魚などの姿は見えず、まるで水槽の中のように無機質な感じがした。


 上流を見渡していると、ぼやけてはいるが上流からこちらに向かってくる鮫の姿が見えた。


 近づいてくるにつれてその異形の姿がはっきりとわかる。

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