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十話

この小説には一部残虐描写があります。また、そこに比重を置いた作品でもないので過激な残虐描写をお好みの方の需要も満たしてはおりません。


ハチャメチャ鮫映画愛好家の方々に楽しんでいただければ幸いです。


 蓮は拓也に玉を渡された時のことを思い出していた、確かに玉が拓也の手に張り付いているような感覚があった。


 拓也は何とかしてこの儀式を阻止しようとしていた、蓮はそれが分かって安堵した。拓也が決してこのような惨劇を望まない人間だと蓮は知っていたが、どう関係していたのかは分かっていなかった。


「この殺戮ショーがお前と兄貴が原因なのは分かったがよ――俺が聞きたいのは儀式と鮫の事だ」


 田中は本題になかなか入らないので焦れていた。


 美咲にとって今までの話は罪の告白に等しかった、その気持ちをあまりにもぞんざいに扱われたのは不愉快だった。


「それではお望み通り、儀式について私の知りうる限りのことをお話ししましょう」


「もったいぶらずさっさと話せ」


 美咲と田中の目線がぶつかり火花が散ったように見えた。蓮と結愛はどうしていいかわからず黙って見ていた。


「この儀式は百年ほど前の儀式の記録を元に行われています。百年前に儀式が行われた理由は伊藤家の当主――ひいては鮫神と契約を結ぶ者を決めるために行われました。その際の決まり事が、玉の保持者が全員指定の場所に集まること、三十三時間以内に玉を全て集めることでした。玉からは鮫が出てきて他の玉の保持者の鮫と戦い、玉を奪い合ったそうです。拓也さんの解釈では玉から出てくる鮫は鮫神の眷属であり、他の眷属と戦い勝つことで自分の強さを証明し、鮫神の信頼を勝ち取り神各を高めようとしている、とのことです。眷属は力を高めて新たな神として鮫神から独立したいと考えているのでしょう」


「こいつら、そんな野心家なのか」


 田中は玉を手の中で転がしながら言った。田中の玉は触れられたことで反応し光った、玉の中に〔貧〕の字が現れた。玉の光はすぐに消えた。


 玉は近くに他の玉があると光って教えるが、一定時間過ぎると消える。玉を集めることを考えると、同じ玉同士でずっと光っているのは都合が悪いからだろう。


「新たな神を目指しているというのは、あくまで拓也さんの見解ですけどね」


「あの小さい鮫はなんなんですか? あれは誰かが操っているようには見えませんが――」


「私にも分かりません。あんなの文献に載っていませんでしたから」


「載ってなくても予想はできるだろ。その、拓也みたいに」


「私は生物としての鮫の研究家で神とか霊や信仰は専門外です。鮫神の研究も拓也さん主導で、私は伊藤家の資料のまとめでしたから……」


「使えねえな、サメオタク」


「研究者として不確かなことは言いたくなかっただけです。確証がなくてもいいならお答えしますが?」


「予想でいいといっただろ」


 再び美咲と田中の間に火花が散った。結愛はレジの横に置かれているビスケットに手を伸ばしている。表情もどこか柔らかい。


「小さい鮫は眷属候補だと思います。前回の儀式は玉の所持者だけ、つまり十人だけでしたが、今回は玉の所持者以外も大勢儀式の場にいます。これは今回の儀式が鮫神の怒りを抑えるために行われたからです。鮫神の神格は人の鮫に対する恐怖で上がるわけですから、恐怖におののく人を殺せばいいわけです。

それを眷属候補の鮫に行わさせているのではないでしょうか、そう考えれば小さい鮫が協力して眷属の鮫を襲っているのも納得がいきます。眷属を喰ってその力を得られれば自分が眷属になれますからね」


「他の鮫を喰うと鮫は強くなるのか?」


「ええ、蓮君の鮫は他の眷属を喰った結果、姿が変わったそうです」


 田中は蓮を見つめた。その眼は「こいつは俺より強いのか?」と言っているようだった。


「美咲さん、鮫の事は大体分かりましたが、儀式を止める方法はないんでしょうか? 僕たちが――地下にいる全員が助かる方法はないんですか?」


「ありますよ。玉を全て集め、鮫神にこの場の人を殺さないように願えばいいのです」


「鮫神がそんな命令を聞くのか?」


「契約は絶対です。神とてそれを破ると大きく神格を失います。こちらはすでに契約に従い生贄を捧げていますからね……避けたかったことではありますけど――」


「だが、玉を手に入れるには殺し合うしかないんじゃないのか?」


「渡すだけなら死にません。拓也さんは蓮君に、私は結愛さんに玉を渡しましたが死んでいません」


「お前も玉を持っているのか?」


 田中はビスケットを頬張っている結愛を見ながら言った。結愛はポケットから玉を取り出して見せた。


「僕は二個持っていますから、ここには四個ありますね」


 蓮もポケットから二個の玉を取り出した。


「その玉、色が違うな」


 田中は眼鏡の男が持っていた玉を指さして言った。


 「その玉に入っていた鮫は蓮君の鮫が取り込んでしまったので玉に鮫が入っていません。それで色が変わったのでしょう」


 「色が変わった玉に新しい鮫が入ったりはしないのか?」


 「無いと思いますよ――そんなことをしても鮫神にメリットは無いですから。それに鮫同士で戦ってしまうので、一人で二匹の鮫を同時に扱うこともできませんし」


 田中は美咲の話を聞いて宙を見ながら黙ってしまった。情報を必死で頭の中で整理しているようだった。蓮や結愛も同様だったが、美咲はどこか誇らしげにその様子を見ていた。


 「気になっていたんですが、玉に浮かぶ文字に意味はあるんでしょうか?」


 「文字ですか? 過去の記録にはなかったような……」


 美咲は蓮の玉を覗き込んだ。蓮は玉に触れ、文字よ浮かべ、と念じた。すると、玉に〔有〕の文字が浮かび上がった。


 「本当ですね……他の玉も浮かびますか?」


 田中の玉は〔貪〕が、結愛の玉には〔疑〕の文字が浮かんだ。


 「なんかネガティブな文字が出るの嫌だなー」


 「これはおそらく煩悩を現しているようですね。拓也さんであれば説明できたでしょうが、私は詳しくありません」


 「鮫神と何か関係があるのか?」


 「いいえ、鮫神は独自の土着信仰ですから、煩悩の考えを持つ仏教とは関係はありません。玉を識別するために十個の文字を割り振っただけだと思います」


 「玉を十個集めた後の事ですが――鮫神との契約とはどんなものなのでしょうか?」


 蓮は美咲に聞いてみた。美咲は当然応えられますと言わんばかりの顔でこちらを向いた。


 「鮫神の加護を得ることができます。鮫神は海の神なので伊藤家は鮫神の力を漁業や海運業に使いました。船が沈没しないように守ったりです。あとは、まあ、その、ライバル企業の船を沈めたりとか、詳細な資料はないので、あくまで拓也さんの憶測ですけど……」


 美咲は自分の家のことでもあるのでとても歯切れが悪かった。


 「俺達には関係のない話だ。だが、この玉の鮫は違う。全部の玉を集めた人間はこの鮫も自由に使えるんだろ?」


 「いいえ、玉から鮫が出てくるのは儀式の最中だけです。そもそも、その玉は伊藤家に伝わっている物で、儀式の前に私や拓也さんも触れたことがありますが、光ったり鮫が出てきたりはしませんでした。


玉の鮫が宙に浮けるのもここが鮫神の結界の中だからでしょう。眷属は地上を自由に飛べるほどの力はないはずです」


 田中は明らかに落胆したように玉を指で突いている。その姿を見ている美咲の口角が上がったように見えた。


「確認ですが――玉を十個集めれば鮫神との契約ができ、同時に儀式も終わる。そして生きている人間は解放されるんですね?」


「そういうことです。ただ、兄は儀式が終わる前に全ての人間を殺そうとしています。その為に自分の部下に玉を渡し、鮫を使って人を殺させています」


「その部下はなんで命令を馬鹿正直に守っているんだ? 最後にお前の兄に殺されると思うけどな」


「……そういう人達ですから。伊藤家は歴史ある名家で、分家も多いんですし――家族の為に、という人もいるでしょう……」


 田中は不愉快そうにそっぽを向いた。


「――思ったんだが……すぐにでもお前の兄を殺した方がいいんじゃないか。ここにいるんだろ?」


 田中の発言の後、沈黙が流れた。蓮と結愛は田中を諫めることも美咲を慰めることもできなかった。二人が若くとても手におえなかったからだ。


「――私もそう思います。兄はきっと地下三階の下にある、地下水湖にいるはずです。そこで部下が全ての人間を殺すのを待っているのでしょう……」


「ちっ、自分は手を汚さず、安全な場所で高みの見物か」


「拓也さんが無事ならすでに地下水湖にたどり着いているかもしれません。ただ、もう儀式を止めるには玉を十個揃えるしか無いと思いますが……」


「残りの六個の玉はお兄さんの部下が持っていると思っていいんですよね?」


「おそらく、田中さんのように奪った人が居なければですけど……」


「あいつらに玉をよこせと言っても応じないだろう。やらねえとこっちがやられるな」


 その後は誰も話さなかった。美咲の話を聞いてこの状況からの脱出がどれほど大変なのかが改めて分かっただけだった。

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