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一話

この小説には一部残虐描写があります。また、そこに比重を置いた作品でもないので過激な残虐描写をお好みの方の需要も満たしてはおりません。

ハチャメチャ鮫映画愛好家の方々に楽しんでいただければ幸いです。


 腕時計の針が十二時を指していた、針が過ぎるのを男はしっかりと見届けると左腕を下ろした。


 男の背後には黒装束の者が複数人立っていた。男の目線は前にある台座に移った。目の前の台座には脇差が置かれていた。


 男は暗い空間の中でスポットライトに照らされた一角に立っていた。空間の奥は水面が広がっている。水面は波が立つことなく暗い水中は様子をうかがうことができない。


 水上には祭壇が設置されていた。赤と金色で装飾されて祭壇は殺風景な周囲の雰囲気から浮いていた。


スポットライトに照らされて祭壇の上に直径百四十センチの青く透き通った巨大な玉が祭られていた。


 男は脇差を抜くと刃はスポットライトの光を反射した。男は刀のの輝きに魅入られそうになったが、我に返り横に置かれた桶へ刀を入れた。


 桶の中には透き通った水が入っていた。男は水で刀を清めるとゆっくりと歩き、ストレッチャーの上で横たわる白装束姿の人の前に立った。


 白装束の人の首と手足は拘束されており、頭にも白い頭巾をかぶされていた。男は刀を逆手に持つと腕を上げた。


「わが偉大な鮫神よ、契約の儀式を執り行いたまえ」

 そう大声で叫ぶと刀を白装束の人の胸に突き立てた。


「うぐっ!」


 白装束の人は猿ぐつわをされていて言葉にならない苦悶の声を漏らした。男は刀を突きたてたまま白装束の人が動かなくなるのを待った。


白装束の人の動きが止まると男は刀を引き抜いた。刀からは血が滴っていた。


男は水の中に足を踏み入れ、祭壇を上がり玉の前に立った。刀を男は振りかぶり、巨大な玉に血を浴びせた。青く透き通った玉が血を浴びると赤い波紋が玉の中で起こった。


「成功だ、これで儀式を執り行える」

 男は息を吐くと、祭壇から降りて、台座の元へと戻り、後ろに立っていた黒装束に刀を差しだした。


「片付けろ」

 そう言うと周りの黒装束の者も動き出した。ストレッチャーや台座、水で血を洗い流した脇差などが素早くその場から運び出されていく。


男はそれを見届けて最後にその場を去った。


祭壇の玉は元の青く透き通った色に戻っていたが、一瞬、玉の中に黒い影が浮かんだ。


 佐藤蓮サトウハチスは着替えが終わると壁掛け時計に目をやり時間を確認した。針は九時十分を指していた。続けて腕時計を見た、腕時計に狂いはなかった。


 親戚の高橋拓也タカハシヒロナリから電話があったのは昨日の夜だった。伊藤デパートで朝十時に会いたい、とのことだった。


 また、自分と会うことは拓也の姉であり、蓮の母も含め誰にも言わないように、と念を押された。

 この電話は蓮にはとても不可解なことに思えた。


 一人っ子の蓮にとって拓也は年の離れた兄のような存在だった。幼少期からよく一緒に遊び、拓也の神社仏閣巡りに連れて行ってもらうことも何度となくあった。


蓮の部屋の壁掛けフックに、お守りが束となって釣られているのを見ながら、その時のことを思い出していた。


 拓也は学生時代から神社仏閣に興味があり、大学院でもその研究を続けていると言っていた。四年前にこの家へ訪ねて来たときは、本を持ってきて、この本の出版に協力したんだ、と研究の解説をしてくれた。


 しかし、毎年正月と夏には必ず顔を見せに来ていたのに、ここ二年は家に訪ねてこなかったのだ。

 高校入学祝に登山用のレインウェアを買ってあげる、拓也が蓮とした約束はまだ守られていない。デパートでそれを買うつもりとは思えない。拓也は登山用の道具類は専門店で買い求めるが、今から向かう伊藤デパートには登山の専門店が無い。


 家にくればいいのに、なぜデパートに呼ぶのだろうか? 母となにか揉め事でもあるのだろうか? 母からはそんな様子は見て取れないが……。大人の事情は蓮にはまだ分からないので、何かあったのかもしれないな、と思った。


 蓮は疑問に思いながらも拓也に会えることを心待ちにしていた。


 伊藤デパートまでは最寄駅から電車で二十分、駅からは徒歩数分で着く。少し早いが出かけよう、部屋から出て玄関へと向かう。気がはやっているのだろう、足取りも浮ついているように感じる。


 リビングで母にデパートへ出かけると声をかけた。気を付けて、と定形文にもちろんと答えた、いつもは何も答えないのだが自然と対応が易しくなるのは、拓也のことを秘密にする後ろめたさからだろうか。


 玄関で靴を履こうとしたときに登山靴のほうがいいだろうか、と思った。拓也と一緒に行った神社の中には山を登った先に立っているものも多かった。しかし、拓也は十分な準備もなく山登りをするような人ではなかった。もし山登りをするならば蓮に電話で伝えただろう。登山靴は止めたが、念のために動きやすい運動用の靴を履いて出かけることにした。


 外に出るとサンサンと太陽が輝いていた。雲一つ無い天気が、今日の気温が高くなることを約束している。まだ、夏にはなっていないが、外で遊ぶのはバテる時期になって来た。


 伊藤デパートの前に着ついたのは九時五十分頃だった。鉱山跡に作られた伊藤デパートは三年前に完成した地上一階、地下三階建の巨大デパートだ。


蓮はこのデパートを訪れる度に小学生の頃に社会科見学で、まだむき出しの鉱山に行った時のことを思い出す。


 鉱山後は観光地としての再利用を模索していたが、鉱山までのアクセスが悪く、思ったより観光客が訪れず、自治体は扱いに苦慮していた。それを地元出身の伊藤グループが買い取り、地域の活性化を名目にしてデパートを建てた。デパートの建設に合わせて、道の整備や駅の建設も伊藤グループの支援で行われ、地元の人たちが多く利用するデパートになった。


 デパートの地上と地下一階は整地工事の上に作られているので段差がなく平たいが、地下二階以下は鉱山の高低を利用しているので段差がある。さらに地下三階には観光用に本来の鉱山道が残っていて狭く入り組んでいる場所もある。


地下三階から下ると、鉱山後を観光化する時に名付けられた、地下水湖も見られる。社会科見学ではそこがゴールだった。今は事故防止のため一般客は立ち入りが禁止されているが、月に一回の頻度で、開放している。


 拓也との待ち合わせ場所はデパートの前にあるテラスだ。クレープのキッチンカーがすぐ近くにあるが、まだ開店はしていない。


 テラスの椅子に座るとデパートの開店時間になったようで開店待ちしていた客が中に入り始めた。


 その中に見覚えのある若い女性がいた。蓮の同級生だ、名前は思い出せないが見覚えがある。デパートの地下には女性用の衣服が多く売られている、そこが目当てだろうか。


 辺りを見渡しても拓也の姿はなかった。


 蓮は暇をつぶそうと、デパート前のパンフレットスタンドから、鉱山の解説が載っているパンフレットを手に取った。 


 少山石地下鉱山は大正時代から昭和後期まで六十年以上、少山石を採掘していました。少山石は軽く柔らかいという特徴があり、日本の建築素材として古くから利用されていました。少山石を掘るために広げられた地下空間は約五万平方メートル、東京にあるドーム球場を超える大きさです。


 広大な地下空間を下に降りると、地下水が溜まった地下水湖があります。その光景はとても神秘的で、観光地として地元の人たちに愛されていました。現在では伊藤グループがショッピングモールとして利用しており――。

 

 蓮がテラスの椅子に座り、パンフレットを読んでいると電話がかかってきた。発信者名は拓也と表示されていた。

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