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第7話 消えた弾(黒の亡霊:ソフィア編)

 

 リュミエール王国──


 ソフィア女王暗殺未遂の直後、王都の警備隊に次々と通報が寄せられていた。

 「銃声のあと、現場近くの建物から男が出てきた」

 「顔に傷があって、足取りがおかしかった」

 「指名手配されている、シーフ(盗賊)の男に似た人物が、騒ぎの中で立ち尽くしていた」

 

 兵士たちが路地に駆け込むと、そこにはひとりの男が壁にもたれ掛かっていた。

 頬に裂傷を負い、荒い息をつきながら振り返る。

 「止まれ!」兵士が叫ぶ。

 男は応えず、懐から淡く光を放つ短剣を抜き放った。

 

 刃は光の束のように揺らめき、振り下ろされた瞬間、兵士の盾を焼き切った。

 「なっ……!」

 火花と蒸気が散り、狭い路地に金属音が響く。

 「囲め!」兵士たちが一斉に槍を突き出す。

 男は獣のような叫びを上げ、激しく振り回した。石壁に刃が当たり、熱で黒く抉られる。

 数人がかりで押し倒し、組み伏せてようやく武器をもぎ取る。

 光を纏ったナイフは地面に落ちると、光を失い蒸気を上げて崩壊した。

 「何だ、この武器は……!」

 兵士たちは荒い息を吐きながら叫んだ。

 「こいつ……ただのシーフ(盗賊)じゃない!」

 男は無言のまま縛められ、王都警備隊本部の地下牢へと連行された。

 

 * * *

 

 取調べ室──


 石造りの壁に冷たい灯りが反射し、鉄の机を挟んで兵士たちが立っていた。

 椅子には、先ほど捕らえられた男、シーフ(盗賊団)の残党と見られる人物が縛られている。

 顔に深い傷、荒んだ目つき。しかしその眼光は虚ろで、どこか焦点が定まっていなかった。

 「名前は?」

 尋問官の問いに、男は唇を震わせた。

 「……俺は……知らない……」

 掠れた声、額に浮かぶ冷や汗。

 

 王宮の監視室──

 壁に並ぶモニターが取調べの様子を映し出している。

 ソフィアとオルディン、そしてファランが映像を見守っていた。

 その時、ファランの瞳が青白く瞬き、電子的な声が響いた。

 「警告。尋問対象から異常脳波を検知。外部からの干渉波……極小の帯域です」

 オルディンがモニターに目を凝らす。

 「何だと……?」

 

 モニターの中で兵士が男の肩を押さえた。

 「しっかり答えろ!」

 だが男の瞳はさらに濁り、口元が痙攣する。

 呻き声が途切れ、次の瞬間──


 「……エルディアの血を……断つのだ……」


 その不気味な言葉がモニター越しに響いた直後、男の全身が激しく痙攣した。

 耳から黒煙が噴き出し、焦げた匂いが室内を満たす。

 取調べ室の兵士たちが悲鳴を上げて後ずさった。


 「自爆……!」ファランの声が鋭く響く。

 「脳内に微小ドローンを確認。自己破壊したようです!」

 モニターの映像には、椅子ごと崩れ落ちた男の姿が映っていた。

 床に血はほとんど残らず、ただ焦げた匂いだけが部屋に広がり、沈黙が監視室を覆った。


 ソフィアは拳を握りしめ、唇を結ぶ。

 「……人を操り、人ごと証拠を消した……」


 * * *


 リュミエール王国、直轄の科学捜査研究室。

 白い壁に囲まれた解析装置が低い音を立てる。

 ミレイとファラン達が、遺体から採取した微細なサンプルを顕微鏡にかけていた。

 「見て、ソフィア姉さん」

 ミレイがスクリーンを指差す。

 灰粒が光を受けて一瞬で崩壊していく様が映し出される。

 「これは普通の火薬や金属じゃない。分子構造そのものが自己崩壊するよう仕組まれてる “消えるために作られた物質” よ」

 ファランの声が続く。

 「ソフィア女王の傷痕からも、通常弾丸の成分は一切検出されませんでした。しかし発射音や硝煙は旧式銃と一致。矛盾しています」

 「つまり……」ソフィアが眉を寄せる。

 ミレイが頷いた。「旧式の銃に “消失弾” を仕込んだってこと」


 オルディンが低く唸った。

 「そんな技術、王国の兵器庫にはない。闇市場でも見たことがない」

 ミレイは頭を抱える。


 ファランがサーチモードに入った。瞳が青白く瞬く。

 『解析完了。残留した灰と、シーフを操っていた信号の波形──どちらも古代エルディア文明で記録されていた技術コードに酷似しています。再現率、およそ65%以上。ただし、リュミエール王国に伝わっている古代文明の記録には該当がありません── つまりこれは……エルディア遺跡に残された未解読の領域から持ち出された可能性が高いと思われます」

 「遺跡から……盗まれた?」ミレイが息をのむ。

 ソフィアは机に手を置き、低く呟いた。

 「エルディアの遺跡を漁っている者がいる……」

 オルディンは険しい目を向ける。

 「遺跡から情報を盗み出し、兵器に転用している…… 黒幕はそこに潜んでいるのか」


 静寂が走った。

 ソフィアは拳を握り、声を押し出す。

 「もう一度、エルディアへ行って調べる必要があるわね。遺跡を漁っている者が黒幕ならば、エルディアに居ると考えた方がいいわよね」

 その言葉に、誰も反論しなかった。

 古代文明の闇を暴かなければ、リュミエール王国を守る術はない。


 リュミエールの夜空。今日も、いくつもの星が輝いていた──




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