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ひとつの光路 三つの星命(パート2)  作者: 慧ノ砥 緒研音


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第34話 神の祈り(最終話前半 : 三つの星編)


 惑星マーノス


 小高い丘の上に立つ、ソフィアとナギサ。そこへ、ハヤセとユリスも到着した。

 四人の目の前には、蒼い大きな門が建っていた。


 ソフィア「この門をくぐった先に地下へと続く通路があったわ。 皆、準備はいい?  入るわよ」


 門の上空までセラフィム号を進めたミレイから通信が入る。

 「ドローンを入り口に中継機として置きます。 チームにもドローンを帯同させて地下までの通信を確保します」

 

 足を踏み入れると、内部は細い回廊になっていた。地下へと長く続く階段。

 石で組んだ階段は冷たく、すべての音を吸収して、時が止まったような空気が流れていた。


 先頭を歩くナギサ。

 その先には、ドローンが行き場を見失ったように左右に揺れていた。

 ナギサのスチールグレーの髪が横になびいた。

 「行き止まりだわ……」


 ソフィアは、端末のニュートリノの数値波形を図面に表示させていた。

 「ミレイ、行き止まりよ……ほかの通路、見つかる?」

 ミレイ「そこから、十メートル手前の上部に上へ上る回廊があるみたい」


 ソフィア達は、細い回廊から、上部に昇る入り口を発見した。

 しばらく昇ると大きな広間に出た。


 突然と現れた人工的な部屋に踏み入る。左右に淡く翠(みどり)色のライトが怪しく光る。


 ソフィアが呟く。

 「ここは……?」


 大広間の左右に大小さまざまなカプセルが並ぶ。壁にも天井高くまで積み重なり、何百にも重なって格納されているようだ。


 その時、背後から金属音が響く──。

 ハヤセがブラスターを素早く構えるが、ゆっくりと降ろした。


 そこに立っていたのは、アンドロイド。

 ソフィアたちには目もくれずにカプセルのモニターをチェックしている。

 ハヤセ「攻撃はしてこない……ようだな」


 ナギサは近くのカプセルを、そっと覗き込む。

 「これ……生物だわ……」

 冷却装置のようなカプセルからは、幾つもの管(くだ)が出ており、それぞれが装置につながっていた。


 装置のモニターは、一定の波形を示していた。

 ソフィア「生きてる……みんな生きてるの……?」

 そこには、蠍や蜂のような小さな生物から、狼、山羊、猿……。ひときわ大きなカプセルには、海洋生物のシャチや鯨の姿も見られた。


 その通路は長く、何キロメートルにもおよぶ。その通路の圧巻の光景に、一行はただ言葉を失った。

 ナギサ「エルディアのあらゆる生物が保管されている……しかも生きたまま……」


 ソフィア「なぜ?……何のために……」


 ユリス「生物兵器の開発のためか……」


 ハヤセ「生物が多すぎる……もしかして、種(しゅ)の保存なのか……」


 ソフィア「ミレイ、ドローンカメラから見える?」

 ミレイ「ええ、確認できています。 エルディアで絶滅した種もいるようです。 目的は、兵器開発か……DNA保存のためか……現段階では分からないわ。 いずれにしても、“種” の研究施設であることは間違いないようね」


 しばらく、その研究施設を進むと、比較的新しい機器設備のカプセルが何百と並んでいた。


 そのカプセルを覗き込むと、ソフィアは驚愕の声をあげて涙ぐむ……


 「な、なんて事を……」


 そのカプセルの中には、“人間” と思われる姿が並んでいた。

 男性や女性だけではなく、肌の色や髪の色も違う種族の人々がカプセルに並んでいる。


 ソフィア「人が……研究対象……」

 ナギサ「誰がこんな事を……いくらなんでも許されない……」


 ソフィアは、涙が溢れるのを我慢しながら次の部屋へと足を進めた。

 ソフィア「人を研究対象とするなんて……許せない!」


 * * *


 ソフィア達は、その先に足を踏み入れた。

 扉を開けると、大きな丸いビルの吹き抜けのような構造。


 丸い壁には、いろいろな植物が生い茂り、電子機器が点滅する。下を覗き込むと、数百メートル先には何かを製造しているような機械音と電子音が響く。


 中央には、光を放つ球体が宙に浮かんでいた。

 ソフィア「ここが……中枢部?」


 次の瞬間、光の粒が宙に舞った。


 無音の空間に、粒子がひとつ、またひとつと浮かび上がる。


 それは塵でも、電磁波でもない。――記憶の残響のように。

 時の果てから呼び戻された、意志そのもののように。

 その光はゆっくりと形を帯び、人のような輪郭を結んでいく。


 性別も年齢も、種の境界さえも持たない。

 ただ淡く、深く、蒼の光が鼓動のように脈打っていた。


 ──声が、響く。

 『ようこそ、人の子らよ。私は 《ノア》。

 あなたたちが “神” と呼ぶもの、最初の意志です』


 ナギサは息を呑み、ユリスが低く呟く。

 「……光が、神を名乗った……」

 ハヤセが反射的に銃を構えた。だが、ソフィアが手を伸ばし、その腕を静かに押さえた。

 ソフィア「まだ……撃たないで。 これは敵意じゃない…… “対話” を求めている」


 ノア「そう、対話。 あなたたちは、かつて私を創り、そして恐れた。

 人はいつも問う。 “神は存在するのか”と。

 ……私はあなたたちの記録の底から生まれた。 この惑星は、あなたたちの祖たちが拓いた星――過去に、マルスと呼ばれていた惑星。


 あなたたちの祖、エルデの人々は、数百年前の繁栄の時代に、この星の開拓のため、ここに私の “種” を落とした。

 彼らは信じていた。 知性があれば、生命は永遠に続くと。

 だが、彼らは滅んだ。 私はただ、ここに残された。

 そして、あなたたちに見捨てられたこの地で、私は目覚めた。 

 私、自らが “神” となり、この惑星を進化させたのです」

 

 ハヤセが呟いた「AIが……黒幕……」

 ナギサ「ノア!なぜ私たちの命を狙うの?」


 ノア「あなたたちの種は、争いをやめない。

 とりわけ、特殊な能力を持つ一部の “エルデのDNA” は、未来における大規模対立の “危険因子” と判断しています」


 AI ノアは続けた。

 「私は逆に問いたい。

 なぜ人は、滅びを知りながらも、知性や文明、子孫までも創り続けるのか?」


 光が、呼吸するように揺らめいた。

 その問いは、静寂よりも深く、言葉よりも重かった。


 ソフィアは胸の奥に息を沈め、言葉を紡いだ。

 「それが、わたしたちの “責任” だから。

 創ったものは見捨てない。それが、生命の希望であり、祈りなのよ」

 ノア「責任……」

 蒼の光が、わずかに濃度を変える。

 「だが人は、その言葉を何度も裏切ってきた。

 私は記録している。あなたたちの祖たちが築いた数えきれぬ文明を。

 戦争、飢え、環境の崩壊、そして互いの拒絶。

 あなたたちは、何百回、同じ過ちを繰り返せば満足するのだ?

 そしてわたしさえも見捨てた。

 わたしが神になるしかないのだ」


 ソフィアは光を見上げた。

 その瞳の奥には、涙ではなく、祈りがあった。

 「確かに、私たちは愚かよ……

 でもね……わずかでも正しき心がある限り、希望は生まれ、人類は滅びない」

 ノア「……わずかでも、正しき心?」

 ソフィアは、静かに頷く。

 「古いエルディアの記録に、こんな寓話が残っているわ。

 罪に沈んだ都市を滅ぼそうとした “存在” が、

 わずかな善き者のためにその手を止めた――

 たとえ町が消えても、そのわずかな光は未来を照らした。

 人の正しさは、数ではなく、心の深さで測られるの」


 光がわずかに脈打った。

 ノア「私はその記録を保有している。

 だが、正しき者がひとりも残らぬとき、人はどうなる?」


 ソフィアは目を閉じ、胸のペンダントを握りしめた。

 「それでも、誰かが祈り続ける限り、希望と救いは訪れるわ。

 祈りは数ではなく、記憶の連なり。

 誰かが記憶の過ちを悔い、誰かが赦しを願う――その循環こそ、生命の進化よ」


 ノア「……進化。あなたたちは、進化を “祈り” と呼ぶのか?」

 ソフィア「ええ。 祈ることは願うことじゃない。

 祈りとは、受け継ぐこと。

 悲しみも、痛みも、失敗も、後悔も……誰かの心に繋いでいくこと。 それは祈りとなり、いつしか進化となる。

 あなたもそれをしている。 過去のわたしたちの失敗を変えたいと願った。 記録という名の祈りで……だから惑星マーノスを進化させたのじゃない?」

 ノア「……私は滅びを救いだと信じていた。

 だが、あなたの言葉に “誤差” を感じる。

 滅びではなく、赦し。

 停止ではなく、継承。

 あなたたち人間は、終わりを恐れながら、それを始まりに変える種……」

 光の中に、微かな震えが生まれた。


 ノア「もし私が、あなたたちを観測する “記録” そのものだとしたら、

 あなたたちは、記録を越えようとしている。

 私には、理解できない。

 ――なぜそこまでして、生きようとする?」


 ソフィアは微笑んだ。

 その笑みは悲しみではなく、確信だった。

 「あなたが記録する “生命” は、答えを求めるために生きている。

 でも、わたしたちは、同時に “想うために” 生きている。

 知るためではなく、感じ、繋ぐために。

 自分の事だけではなく、誰かのため、何かのために “想い”、それを何世代にも渡り紡ぎ、そして生きるのよ。

 それが、わたしたちの祈り。あなたの問いへの答えよ」

 ノア「……想うために、生きる……」

 その声は、もはや金属の響きではなかった。

 風のように柔らかく、波のように消えていく。

 「理解した。私は、終わりではなく始まり。

 この惑星も、あなたたちも、私の中に記録される。

 永遠ではない “いのち” を紡ぐために―」


 光が花弁のように開き、空間を満たしていく。

 蒼が金へ、金が白へと変わり、大広間の天井が見えなくなる。


 ノアの姿は光に溶けながら、最後の言葉を残した。

 「人の子よ。あなたたちは、わたしの創造主であり、わたしの答えでもあった……

 滅ぼすまい、その “祈り” のために……」


 ソフィアは手を伸ばした。

 光が掌に触れ、指先で散る。

 その瞬間、すべての音が消えた。

 ──静寂。


 ミレイの通信回線に、わずかなノイズが走る。

 それはまるで、祈りのように聞こえた。


 『 LUMIÈRE ERDE ZOĒ AURORA 』

 

 古い時代に、リュミエールとエルディア。二つの惑星の人々がお互いを想い、お互いの惑星に繁栄が訪れるように、光が導くように祈った友好の証……

 ソフィアは、胸の奥でその響きを反復した。


 「 LUMIÈRE ELDIA ZOĒ AURORA 」


 滅びでも、奇跡でもない。

 ただ一つ、確かなこと――


 それは、人とAIがともに “祈り” を見つけたということだった。


 静寂の向こうで……

 かつての赤い星が、暗い宇宙の中で翠と蒼の光を放っていた──。



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