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ひとつの光路 三つの星命  作者: 慧ノ砥 緒研音


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第24話 脳裏の音(暗躍の糸 : リュソカ編)


 惑星エルディアの遙か上空


 エルディア城からリュシアの救出に成功したミレイ達は、無事にセラフィム号に帰還した──


 リュシアは、ソフィア、カレン、そしてレオンとセラフィム号の会議室で話を重ねていた。



 「今回の一連の事件に関して、私はどんな処分でも受けます……」

 リュシアの瞳から、涙がこぼれ落ちた。

 その瞳は、ターコイズブルーの輝きが保たれていた。


 ソフィア「リュシア、処分はしないわ……裁判にもかけない。その代わり……」

 リュシア「その代わり……?」


 「この事件の黒幕を倒す為、知ってる事を教えてほしいの」

 「わかりました。ソフィア陛下。協力させてください」


 * * *


 リュシアは、今の状況に至るまでの経緯を、自分の覚えている限り伝えた。

 

 自分の中にいる、もうひとりの人格の認識はあるが、自分ではコントロールできない事。

 自分の知らぬ間に、時間が経っている事もあった事。

 コントロールできなかったり、知らぬ間での事とはいえ、カレンとレオンはじめ、エルディア国民にも酷いことをしてしまった事を詫びた。


 曾祖母リヴェリアの死の悲しみと孤独感。雨乞いで村の期待に応えられなかった時の辛さ。村人が自分に向けた視線の痛み。

 現実逃避から洞窟に逃げた事。そこで黒仮面と修行した事。黒仮面を確証はなかったがレオンだと思っていた事……そのレオンだけが自分の味方であり、心を癒してくれる存在だと思い、全てを捧げるつもりでいた事……


 しかし、もう一人のリュシアの行いは間違っていると気付き、なんとか“自分”を保とうとしていた事。その後、昏睡状態に陥ってしまった事……


 リュシアは、すべてを話してくれた。

 大粒の涙を流しながら……


 ソフィア「教えてくれて、ありがとう……リュシア。あなたは、もう一人のあなたに負けなかった。それだけで充分よ。よく頑張ったわね」

 ソフィアの言葉が、リュシアの涙に変わって雫が光った。


 カレン「リュシア。敵の正体を知りたいので、分かる範囲でおしえて。黒仮面と会った時やその後、気になる事は無かった?」


 リュシア「黒仮面が来る時は、いつも『キーン』っていう、高周波の音が聞こえて…… 後は、その音のせいなのか時々、頭が痛くなったわ……」


 ソフィア「黒仮面は、いつもどうやって洞窟まで来ていたの?」


 リュシア「いつも……気づくとそこに立っていたわ。どうやって来ていたかは見ていないの」


 レオン「黒仮面に触れた事や、触れられた事はある?」


 リュシア「そういえば……会話はするけど触れたりした事は無い。剣の練習の時も、実際に交えた事さえ無いわ」


 レオン「アンドロイドだから触ったりすると、ばれるのを避けていたのか……でも、謎が多すぎる……」


 * * *


 ハヤセ、ユリス、ナギサ、ミレイそしてファランが、部屋に入ってきた。


 「エルディア城の監視カメラデータ。ハッキングに成功したわよ」

 ミレイがモニターのスイッチを入れた。


 そこには、黒仮面がエルディア城を訪れた時の映像があった。


 門の衛兵が次々と倒れていく……

 ユリス「何? 指から何か出している? 人間じゃないの?」


 ハヤセ「人で無いばかりか、古代兵器やアンドロイドでも無いんじゃ……」


 ナギサ「人の形を模した別のもの…… まさに化け物ね……」


 最後の画像……黒仮面が煙のように無くなる画像が写し出される。


 レオンがつぶやいた。

 「スウォームだ…… これは何かの『群れ』だ……」


 ミレイ「そうね……これは…… たぶん超小型ドローンのスウォームだわ……」


 カレン『超小型ドローン?』


 ソフィア「何千個、いや何億個という超小型ドローンが集まり、それが人型を形成していたって事?」


 カレン「だから、ブラスターも通り抜ける。風と共に現れて、消えてなくなる……」


 ファラン『中空の外装シェルだけと仮定し、人物を形成した場合。0.1㎜大の超小型ドローンとすると、推定で300億個以上が必要となります」

 ミレイが続ける。

 「部位ごとに動的に量の再配分をして、光の反射や服が風で揺れる姿を形成していたのね」


 ソフィア

「私がリュミエールのパレードで目撃したノクティウスの姿も、スウォームだったのかも……」


 カレンが息を飲む。

 「見せる人に応じて姿も変える。 リュシアの時には仮面をしながらも、声や素振りでレオンだと信用させた訳ね。 素直な心まで騙すなんて許せない!」


 リュシアは、チラッとレオンを見つめると隣のカレンと目が合い、気まずそうに視線を落とした。


 カレン「脳内でニューロンをコントロールするだけではなく、人の心まで洗脳していた……」


 レオン「人を、脳というハードと、心というソフトの両面で操作しようとしていた…… なんて恐ろしい事だ……」


 ファラン『……その群体の一部が、今もリュシアの脳に入り込んでいるのです』


 皆がリュシアを見つめた──


 * * *


 セラフィム号 医療室──

 リュシアの脳内検査と超小型ドローンの分析が行われた。


 ファランが医療データと古代文明のデータとも照合した。

 『このドローンの大きさは約0.1㎜以下。神経回路に沿って移動し、信号を挿入・遮断しています。干渉波が届くと、脳内にもう一つの人格を模した幻覚回路を生じさせ意思を上書きしています』


 カレン「脳内だなんて…… どこから入ったのかしら?」

 ファラン『侵入経路は……おそらく耳から入ったと思われます。外耳道を伝って入った微粒子は、丸窓膜の薄さを狙いもぐりこみ鼓膜を破らずに、蝸牛の流体に混入し、狭小孔を経て髄液近傍へ移行したと思われます』


 ソフィア「ファラン、なんとか取り除けないの?」

 『残念ながら、セラフィム号では外科的に取り除く手段がありません……』

 

 『他の手段を調べます……』


 ミレイとファランの分析による、未知の兵器との見えない戦いは、時間を要した……


 * * *


 翌日、セラフィム号 医療室──


 フェイスガード付きのゴーグルを着用したミレイは、装置を起動させた。その隣にはファランがモニターをチェックする。


 部屋の中には、ソフィアとカレンもゴーグルで顔を覆って立ち会った。

 ミレイの額には汗が滲む……


 翠玉の剣の持ち手から抜き取った、鉱石の光がエメラルドグリーンに脈動する。それは、麻酔で眠るリュシアの額とこめかみに照射された。


 瞬間、麻酔で眠っているはずの、彼女の身体が大きく痙攣した。手が空を掴む。

 見守るソフィアとカレンが、その手を握った。


 ターコイズブルーの瞳は空を泳ぎ、喉からは押し殺した声が漏れた。


 その声は彼女の『 闇 』が、最後の足掻きを叫ぶように大きくなり、部屋中に響く……


 「負けないで! リュシア!」

 カレンが声をかけた……


 ソフィアとカレン、ふたりの『星祝のペンダント』が、同じように僅かに光った……



 ファランの声が冷静に響く。


 『ナノ照射は成功しました。粒子群の結合を切断しました……しばらく神経に一時的ですが乱れが生じると思われます』


 リュシアはしばらく目を閉じたまま震えていたが、やがて深い吐息とともに力が抜け、穏やかなオーラが彼女を包んだ。


 カレンは、握る手を緩めると安堵の涙をこぼす。

 「よかった……リュシア……」


 ソフィアも肩を落とし、ようやく張り詰めていた息を吐いた。

 レオン達は、部屋の外でモニター越しに、見つめていた。皆、安堵するように僅かに頷いていた。


 だが、沈黙の中でリュシアは、ふいに上体を起こし、顔を曇らせた

 「……ねえ、みんな……」

 震える声に、全員の視線が集まる。


 「頭の奥で……まだ、小さな何かが動いている気がするの……」

 ファランの診断パネルは、『異常なし』を示している。

 船内の空調音だけが静かに響いていた。

 誰もが言葉を失ったまま、視線を交わす。


 ──今、この時もセラフィム号のどこかに “見えない侵入者” が潜んでいるのかもしれない。


 その恐怖は、しばらくクルーの脳裏から離れる事はなかった。




 はじめまして……リュシアです。

こうしてお話しするのは、はじめてですね。

読んでくださって、本当にありがとうございます。


まだ、自分の中にある“もうひとりのわたし”のことを、うまく言葉にできません。

 でも、ソフィアさまやカレンさまが私を信じてくれたように、

わたしも少しずつ──自分のこと、そして誰かのことを信じてみたいと思います。


心の奥の暗い場所にも、きっと光は届くのだと……そう感じました。


これからも、見守ってくださると嬉しいです。

どうか……よろしくお願いします。


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