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ひとつの光路 三つの星命  作者: 慧ノ砥 緒研音


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第15話 刃凪ぎる(二重の輪 : ソフィア編)


 リュミエール王国、教会二階の大広間──


 ソフィア、ハヤセ、ユリスと王国軍の選抜メンバーは、剣と格闘の訓練に励んでいた。


 その場所は、ソフィアが幼き頃、リュミエール王国の伝説ともなった忠臣ダリウスに剣を学んだ場所でもある。

 今は女王ソフィア自らが、仲間たちへ戦術と技を伝え、指導する立場となっていた。


 ──未知の敵によるソフィア女王、暗殺未遂事件。

 その恐怖に打ち勝つため、メンバーは汗を流している。

 かつてダリウスに仕え、今は王国軍の将校となったオルディン隊長も訓練に加わっていた。

 

 彼は女王と剣を交える。

 練習とはいえ二人の剣は激しく火花を散らし、周囲の兵士たちは思わず息を呑みながら見守った。

 やがて、オルディンが膝をついた。

 「参りました……女王。 剣筋が、まるでダリウス様そのもの。 とてもかなう気がいたしません」


 その時、広間の扉が開いた。

 背の高い女性が立っていた。髪はスチールグレーにして銀の光を帯び、頭の後ろに高く結ってある。それは、馬の尾のように長く風に揺れていた。

 褐色の肌には精悍な影が走る。黒の輪郭の中の群青の瞳は、深海のように澄み、手にした長柄の武器は、刃から柄まで流れるような曲線を描いていた。


 それは水面が凪いだように静かで、余計な装飾を削ぎ落とした、洗練された美しさをたたえている。刃はわずかに反り、青白い輝きを返していた。

 「私は、ナギサ・マリス。 ハヤセの紹介で来た」

 落ち着いた声。その身から放たれる隙のない気配に、広間の空気が一瞬で張り詰めた。


 ハヤセが駆け寄る。

「ありがとう、ナギサ。 ……紹介しよう。こちらがリュミエール王国、ソフィア女王」

 ソフィアは軽く頷いた。

 「初めまして、ナギサさん。 ソフィアです。よろしくお願いします」

 「こちらこそ。 腕を認めてくれたら、セラフィム号に乗れると聞いた。 私はリュミエール王国に力を尽くしたい」

 「ハヤセくんが腕を信じているのだから、間違いはないでしょう」


 オルディン隊長が、口を挟む。

 「ならば、私と手合わせ願おうか。 ……だがその武器、見たことがない」

 ハヤセが説明する。

 「これはナギサの血筋に伝わる《凪刀なぎがたな》。 片刃の槍に似ている。 間合いがまるで違うし、扱いは俺たちの剣よりもずっと難しい」


 ナギサは静かに一歩前に出た。

 「……一手だけなら」

 オルディンが構える。訓練を見守る兵士たちの呼吸が止まった。


 次の瞬間、鋭い金属音が響いた。

オルディンの剣が弾かれ、壁際まで転がっていく。

 ナギサはほとんど動いていない。ただ、『凪刀』の刃先が床に淡い光を残していた。


 オルディンは大きく息を吐いた。

「……見事だ。まるで風が凪いだ刹那に切り込まれたようだった」


 沈黙の中、ナギサは刃を静かに収めた。

ソフィアはその刃に目を留め、ふと口を開いた。

 「……その武器、少し見せてくださいません? ナギサさん」

 ナギサは一瞬だけ群青の瞳を細めたが、やがて無言で凪刀を差し出した。

 ソフィアは両手で受け取り、刃の重みと曲線を確かめるように撫でる。

 「美しい……水面のように澄んでいるのに、どこか鋭さを秘めている」

 ソフィアは、その滑らかな曲線の美しさに目を奪われながらも、何か違和感を覚えた。指先が、無意識に柄の内側を探る。わずかな継ぎ目……まるで、二つの部品を組み合わせたかのような跡。

 彼女の胸に、ある予感がよぎった。

 次の瞬間、そのわずかな継ぎ目から光があふれた。

 ──青白い光刃。

刃の反対側に、もう一つの刃が走る。光は柄を中心に双刃を形作り、空気を震わせながら展開していく。

 「……両刃なの?」

 ソフィアは驚きに息を呑んだ。


 ナギサは微笑みながら静かに頷いた。

 「気付かれるとは思わなかった。 陛下、さすがでらっしゃる…… これは《解放》の形。 意識に呼応して光が刃を成し両刃となる。私の一族に伝わる秘刀だ」


 ソフィアは光の揺らめきをじっと見つめた後、柄を返すようにナギサへと差し出した。

 「素晴らしい力ですね。きっと、リュミエール王国を守る大きな力になるはずです」


 ナギサは『凪刀』を受け取り、深く頭を下げた。

 「……感謝します。女王陛下」


 ソフィアは右手を差し出した。

 「これからよろしく、ナギサ・マリス」

 ナギサはその手をしっかりと握り返し、群青の瞳を伏せたまま、頭を深々と垂れた。


 その姿は武人の誇りと、礼節をあわせ持つ、静謐せいひつな光景であった。


 ソフィアとナギサの手が固く結ばれた瞬間、広間に静かな安堵の空気が流れた。

 新たな戦士が仲間に加わる──その事実を、誰もが肌で感じ取った。

 ハヤセが満足げにうなずき、ユリスも笑みを浮かべる。

 オルディン隊長は腕を組み、「これでセラフィム号はさらに強くなるな」と呟いた。


 ソフィアは仲間たちを見渡し、改めて言葉を告げる。

「ナギサ・マリスを、セラフィム号の一員として迎えます。皆で力を合わせて、必ず未来を切り拓きましょう」

 ナギサは深々と頭を垂れ、凪刀を胸の前に捧げた。その群青の瞳には、静かだが揺るぎない決意が宿っていた。


 こうして──セラフィム号に、新たな女戦士が加わった。

 その刃が、やがて幾多の戦場を駆け抜け、仲間たちを守る、切り札となることを……この時まだ誰も知らなかった。



 こんにちは、ソフィアです。

 いつも読んでくださり、ありがとうございます!


 今回は、新たな戦士・ナギサが仲間に加わりました。

 彼女の静けさと凪刀の輝きには、これまでの仲間たちとはまた違う強さを感じます。

 ナギサと《凪刃》の活躍、私自身もとても楽しみです。

 これからの物語を、どうか温かく見守っていただけたら嬉しいです。


 明日からは、妹のカレン編です。

 どうぞお楽しみくださいね。

 これからも応援、よろしくお願いいたします✨



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