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第11話 謀反の影(罪の性質 : リュカレ編)

 

 エルディア王国、金曜夜の二の刻──


 サディス、ガルスほか、エルディア王国軍隊のほとんどが王宮の入り口に静かに集結していた。


 その時、教会の方から大きな黒い影が近づいてきた。その黒い影は凄まじいスピードで王宮に迫る。それは、ノクティウスとの戦いでカレンが起動させた生物型戦闘兵器の群れだった。


 体長5メートルほどある、それぞれの兵器が地面を揺らす。

 蟹型兵器〈Cancer-068〉は鋏を打ち鳴らしながら、甲殻を軋ませて前進する。

 蠍型兵器〈Scorpius-26C〉は尾部をしならせるように高く掲げ、蟹型に続いた。

 そして……その先頭には、翡翠色の髪を月光になびかせて馬型浮遊機〈Equus-287S〉に跨がるリュシアの姿があった。


 サディスは、手を震わせながらひざまずき、頭を垂れる。

 リュシアが馬上で声を張り上げた。

 「待たせた! 真のエルディア王国の英雄達よ! 今こそ王国を取り戻すのだ! 悪魔から王国を奪い返せ! 偽りの女王──魔女カレンを取り押さえるのだ!」

 「オォォーッ!」

 兵士たちは戦いの雄叫びを上げ、剣を掲げて進軍する。

 城門を守っていた守衛は、おののくばかり。ある者は逃げ出し、ある者は影に隠れ、抵抗する者は軍隊の波に飲み込まれていった。


 * * *


 「カレン! カレン!」

 日々の疲れで深い眠りについていたカレンは、レオンの声で目を覚ました。

 「軍隊が攻めてきた! 逃げるぞ!」

 「うぅん……? 何? 軍隊?」

 「城門が壊された! 生物型兵器に周囲を囲まれている!」

 「何? ノクティウス?」

 「違う! エルディア王国の軍隊だ! クーデターだ!」


 ベッドから女王カレンは飛び降りた。

 「なぜ? 生物型兵器が動いているの?」

 「わからん! とにかく逃げるんだ!」

 レオンに手を引かれる。

 「逃げるの? 交渉は?」

 「軍隊はカレンの命を狙っている! 敵が多すぎる、戦えん! 今は逃げるしかない!」

 城の入り口では、激しい銃声と剣戟の音が響き渡っていた。


 城の入口──

 二体のアンドロイドが歩を進めた。 身長二メートルほどで、金属が剥き出しの両手には最新型のブラスターが埋め込まれている。

 このアンドロイドは、古代文明の研究が進み、その技術を応用した試作機として城の警備に従事していた。

 その姿を見て、サディス達は歩みを一旦止める。


 次の瞬間、少女が翡翠色の髪をなびかせて飛び出した。

 アンドロイドが撃ちだすレーザー弾を、彼女は舞うような動きの剣でいなし、風に溶け込むように間合いへ滑り込む。


 流れる水のような一閃いっせんで胴体を横に断ち割ると、その勢いのまま、片足を軸にしなやかに体を右に回転させ孤を描く。続けざまの斬撃ざんげきでもう一体の頭部を舞い落とした。鉄の残骸が地に崩れる音が響いた。


 月光の下、彼女の剣先から滴る光が、戦場を一瞬だけ静寂に包んだ。

 

 「続け! 魔女を逃すな!」

 リュシアが剣を掲げ、兵士たちに号令を飛ばす。

 「オォォーッ!」

 兵士達の雄叫びが再び響き渡り、軍勢は城内へなだれ込んだ。


 * * *


 カレンはレオンに手を引かれながら走り、城の裏手へと向かう。

 通路の先で兵士の怒声が轟いた。


 「こっちだ!」

 レオンは左の通路へとカレンを引き込んだ。


 レオンの左腕には、まだ一歳に満たぬオーロラが抱きかかえられていた。

 小さな身体が揺れるたびに、怯えた泣き声が通路に反響する。

 (オーロラ……静かに……今だけ頼む……!)

 レオンは歯を食いしばり、剣ではなく我が子を抱く腕に力を込めた。

 その泣き声を追うように、後方から兵士の足音が近づいてくる。

 「こちらだ! 魔女を捕らえろ!」

 松明の灯が壁に揺れ、影が迫る。


 その時──「レオン!カレン!」

 前方から現れたのは、カレンの義父バロックと、その妻エレーナだった。

 彼らの背後には、村から駆けつけた若者たちが弓を構え、王宮の裏口へ続く通路を押さえていた。

 「レオン、オーロラを!」

 バロックが両腕を広げ、震える赤子を受け取る。

 エレーナはマントを広げ、その胸にオーロラを抱き包んだ。泣き声が布にこもり、少しだけ小さくなる。

 「オーロラ!」

 カレンは母の瞳で涙ぐむ……

 「……ここは任せろ。お前たちは先に進め!絶対逃げ切るんだ!」


 バロックの声は低く、だが確固としていた。

 レオンとカレンは一瞬ためらったが、エレーナの真剣な眼差しに背を押され、再び走り出す。

 後方で矢が放たれ、追手の兵士が叫び声を上げた。


 バロックとエレーナは、馬の腹を蹴り、森の奥へと消えて行った。

 王宮の裏庭は、戦場となりつつあった。

 レオンとカレンは走る──

 裏庭の通路を抜けた先──

 

 月光の下に翠玉の剣が閃いた。

 「……ここまでだ」


 翡翠色の髪をなびかせ、馬型浮遊機〈Equus-287S〉から降り立つリュシアが立ちはだかった。

 その瞳はターコイズブルーに赤い輪郭が冷たく光り、二人を逃すつもりなど毛頭なかった。


 「リュシア……? なぜ君が……!」

 レオンの声は震えていた。


 その瞳を見つめたリュシアは、ふと柔らかに微笑んだ。

 月光を受ける横顔には、幼い頃から憧れ続けた英雄を前にした、乙女の面影がかすかに宿る。

 「……レオン様……」

 その声は震え、胸の奥からあふれた想いが混じっていた。

 だが次の瞬間、彼女はかぶりを振り、翠玉の剣を突きつける。

 「ん?いや、レオン! ここまでだ!」

 嘲るように口角を上げ、軍勢の前に立ちはだかる。

 兵士たちが一斉に飛びかかり、カレンとレオンを押さえつける。

 抵抗する間もなく両腕はねじり上げられ、口には猿ぐつわが噛ませられた。

 レオンの混乱の声も、カレンの驚愕の叫びも、呻きに変わる。

 リュシアはそんな二人を見下ろし、勝ち誇ったよう剣を掲げ、不適な笑みを浮かべた。


 * * *


 教会の広場には兵士の声と松明の光が渦巻いていた。王都の民衆もその騒ぎに集まり、ざわめきが夜気を震わせる。


 その中央──柱に吊るされるように、女王カレンは立たされていた。


 両腕は頭上に引き上げられ、縄で柱に固定され、足も膝下で縛られている。

 布で覆われた目は光を閉ざされ、ただ風と熱と群衆のざわめきだけが彼女を包む。

 夜の月明かりに照らされ、その白い肌が闇の中に浮かぶ……


 (……どうして……リュシアが……)

 脳裏は疑問で渦を巻き、現実が遠のく。

 だがすぐに、胸の奥から別の声が湧き上がった。

 (ここで、泣いてはいけない。私はエルディアの女王。……せめて皆を守らねば……!)

 カレンは唇をかみしめ、縛られた体を震わせながら声を絞り出す。


 「リュシア!……お願いです……」

 その声はかれていたが、しかし確かに届いた。

 「オーロラを、レオンを…… バロック父さんやエレーナ、村の人たちだけは…… どうか、命だけは……」

 群衆がざわめき、兵士たちが嘲笑ちょうしょうを漏らす。


 だがリュシアは翠玉の剣を掲げ、冷たい声で群衆に告げた。

 「偽りの女王、魔女カレンの処刑は、明朝十の刻! 古代の神々へ、生贄として火炙りとする!」


 その瞬間、広場にどよめきと歓声が広がった。


 松明の炎が高く掲げられ、夜空に不吉な赤い光を踊らせていた。



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