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理不尽な選択を迫られる男子

※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

「ゔぉーーーー!」


 一切光が遮断された完全な闇の中で、死にきれなかった悔しさなのか何なのか分からない感情が込み上げ、気付いたら僕は叫んでいた。 



「……落ち着いたか? さっきも言った通り俺はお前に第二の人生を歩むチャンスを与えられる」 


 男は僕が叫び疲れたタイミングで、落ち着いた声で語りかけてきた。 


「ゴホッ……何……そ」


 喋れない……声ってどうやって出すんだっけ? 


 長い間声を出すことが無かった僕は声の出し方を忘れてしまっていた。 


「ゆっくりでいいから喋ってみろ。先ずはお前の自殺理由を聞こうか?」


 男は馬鹿にすることなく落ち着いた声で話してきた。 


「僕は……無実の罪を着せられた……」


 僕は学校でレイプしたと罪を着せられた事、幼馴染以外誰も自分の主張を聞いてくれなかった事を話した。


「成程な。まぁ、お前はレイプする玉じゃねぇよ」


「僕の言う事を……信じてくれるの?」


「信じるも信じないも、どっからどう見ても童貞じゃねぇか。セックスも知らない奴がどうやってレイプするんだよ?」

  

 初対面の男の方が僕を信じてくれるなんて……


「何で……僕なんか……の為に?」


「その答えはお前の選択次第だ。率直に言う。第二の人生を歩み、答えを知りたいならこの部屋の左の扉に入れ。現実に戻り、まだ死にたいと思うなら右の扉からさっさと出ていって死ね」


 その言葉を言うと男はどちらかの扉を開けて出て行く音がした。


 ふざけるな! 


 僕の人生を何だと思ってるんだ。第二の人生なんかいらない! 


 何度だって死んでやる!


 僕は迷わず右の扉を開けて出ていく事を決め、暗闇の中、手探りで右側の扉を探すとドアノブに手が触れた。


ガチャ


 扉を開けた瞬間、眩しい程の光が目に差し込み思わず目を瞑る。


 次の瞬間、パーン! と爆発音が鳴り「ようこそ第二の人生に」とクラッカーを鳴らした男が立っていた。


「な……何で? 僕は右の扉を開けたのに?」


「あー、悪い悪い。言い忘れた。お前から見たら《《左》》だったわ。まー、結果オーライだ。俺は高山だ、宜しくな」


 高山と名乗った男は一枚の紙を僕へ投げてきて「拾って内容を読め」と言ってきた。


 拾って見ると、4人の名前が書いてある。


不破後無ふわあとむ

田中圭三たなかけいぞう

千石勲せんごくいさお

富永浩介とみながこうすけ


「10秒以内にどれか一つ選べ」


 高山は説明なくいきなり僕に選べと言ってきた。


「そ……そんな、いきなり選べって」


 僕が迷おうがお構いなしに高山はカウントダウンを始めた。


「……4,3,2」

「不破後無……で」

「理由は?」

「えっ? 理由って……後無って、後が無いって意味に思えて……まるで自分みたいだから……」


 予想外の質問に僕はしどろもどろに答えた。でも、感じた事は素直に答えたつもりだ。


「分かった。今日からお前は不破後無だ。前の名前は捨てろ」


 そう言うと、高山は携帯を取り出して誰かに電話をし始めた。

 

「不破後無で決定だ。手続きを頼む」

『了解』


 携帯から微かに若い女性の声が漏れてきた。


「で、でも……僕はもう直ぐ死ぬと……思うし……全身転移の癌で……」


「はぁ? そんな事聞いてないぞ? 未だ15、6歳だろ? 医者にでも宣告されたのか?」


 高山が初めて感情的になった。

 っていうか、凄く怖い。


「い.....いえ ち、違うというか……ネットで調べたら.......同じ症状で……特に肘、膝が痛くて眠れなくて……」


 高山は僕を見て暫く考え込んだ後「お前の身長は?」と聞いてきた。


「引き篭もっていたから……分からない…..最後に測ったのは中学二年の冬......その時で確か155位……だったと……」


僕はそう答えると、高山は笑い出した。


「後無、俺の身長は175だ。その俺が目線を上へ上げてお前と喋っている。つまりお前は180はあるはずだ。お前はこの二年程ちょっとで二十五センチ程身長が伸びている計算になる。全身が痛かったのも急激な成長痛だな」


 僕は高山の言葉を聞いたら何故かホッとして膝から崩れ落ちた。


 あんなに悩んでいたのに……ただの成長痛? 僕ってそんなに身長伸びていたんだ。


「それにしても……コイツは化けるかもな。よし、プランBに変更だ。悪いが頭に袋を被せるぞ? この場所は秘密なんでな」


 そう言ったか言わなかった時にはもう僕は頭をすっぽりと袋を被せられ、視界は真っ暗になった。


 僕は高山に車に乗せられて何処かへ向かっているようだった。


「不安か?」 


時折、高山は運転しながら僕に話しかけてきた。


「別に……」


 僕は強がって否定した。

 本当は怖い。

 山に埋められるんじゃ無いかと頭の中でぐるぐる回っていた。


「後無、今なら質問があれば一つ答えてやるぞ」

 高山の口から意外な言葉が出た。


 どうしようか、と悩んで時間を掛けると高山が怒りそうだから直感で質問をした。


「もし僕が……右ではなく左の扉を選んでいたら?」


「……愚問だな。お前は右を選んだ。だからここに居る。結果が全てだ。たらればなんて考えても無駄だ。って言うとお前の質問の答えになってないな……」


 そう言うと、高山はタバコに火をつけて一口吸い「ふーー」と大きく吐くとこう答えた。


「お前が左を選んだとしても、お前はここに居るだろうな」


「えっ? どう……して」


「世の中理不尽な事だらけだ。頭を使えば黒を白にする事だって出来る。いいか? 頭を使って自分で考えろ、常識に囚われるな、行動に移せ」


この時の僕は、高山が何を意図して言っているのか理解出来ていなかった。


キキーッ! ガチャ


 車のブレーキ音がしたあと、車の扉が開けられる音がした。


 目的地の場所に着いたみたいだ。僕の中で緊張が走る。


「降りろ」


 高山の低い声が聞こえて、手を引かれて恐る恐る車から降りる。

 怖い、一体何をされるんだ?


「袋を取るぞ」


 高山がそう言いながら袋を取った。


 眩しい……って、 え?


 目の前の景色に僕は節句した。


 目の前には煌びやかな建物が建ち、その建物の入口には綺麗に着飾った、僕には全くと言っていいほど縁がない綺麗な女性達がズラーっと並んでいた。


「高ちゃん元気ー?」


 奥から一際目立つ綺麗な女性が高山に近づいてきた。


「おーチャミ、 久しぶりだな? 今やNo.1キャバ嬢のお前が直々に迎えにきてくれるなんてな?」


 高山とチャミと呼ばれるキャバ嬢が楽しそうに会話をしている。


「あら? この子は?」


 ボーッと立っている僕に気付いた彼女が高山に質問する。


「コイツか? コイツはこれからビックになる男だ。まー、コイツの身なりは……今日は多めに見てくれ」


「フーン 宜しくね❤️」


「あっ……よ、よろしく……っす」


◆◇


「はい高ちゃん、アーン❤️」


「ガハハ アーン。チャミ、俺を乗せるのが上手くなったな?」


 酒を立て続けに飲む高山はどんどん上機嫌になっていった。


「そうよー❤️ 私はナンバーワンのチャミ様なんだからね。あれー? ビックな男君は楽しそうじゃないみたいー、お酒は……もしかして、未成年かな?」


「あー、後無は未成年だから酒は飲めん。ジュースでも出してやってくれ」


「はーい」


 僕の横に座った綺麗な女性がボーイにジュースを持ってきてと、伝えている。


 どうして僕はここに居るんだ……


 僕はずっと俯いていた。

 恥ずかしいのは勿論だ。

 だって、ずっと引き篭もっていた男が突然華やかな場所に引っ張り出されたら、混乱して、縮こまってしまう……


「はいはーい、後無君の事知りたいから質問タイムに入りまーす!」


 チャミが立ち上がり、周りに賛同を求めた後、僕の顔を見てニッコリと微笑んだ。


 


———そう、このチャミというキャバ嬢が、俺をあっちの世界へ導いてくれたんだ。

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