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第8話

ロザリアが捕縛されたという知らせを聞いたのは、公爵家から帰ったその日の夜だった。

ルイが慌てたように部屋にやって来て教えてくれた。


「念の為ロザリア嬢にフェルディを付けていたんですが、先程知らせが入ったんです」


「それで今、ロザリアはどこにいるんだ?」


急いで着替えながら尋ねる。


「男爵領の牢獄です。エヴァン様に言われた手紙の件で実家に戻っていたところを、影たちに捕らえられたようです」


『影たち』というのは、王家専属の隠密集団だ。

護衛もするし、今回のように容疑者の捕縛に動くこともある。


これは僕の失態だ。


王族が呪いにかかるという最悪の事態に、身近にいたロザリアが真っ先に重要参考人となることまでは予想できた。

しかし証拠もなく、また箝口令を敷いている状態で貴族籍の者をすぐに捕縛することはないだろうと考えていた。


「なぜ王都まで連れてこない?」


「分かりません。そもそもなぜロザリア嬢が捕らえられたかも分からないのですが……、エヴァン様が呪われていた件と関係あるのですか?」


彼女の香水に呪いが含まれているというのはあくまで仮説だったので、側近のふたり含め誰にも伝えていなかった。


「おそらく彼女がつけていた香水が呪いの原因だ。確証がなかったからお前たちにも言ってなかったが、王家の影が動いたとなると間違いないだろう」


もちろん、香水は関係なく彼女の持つほかの何かに証拠が見つかったという可能性もある。

けど僕の直感はあの香水が呪いをもたらしたと告げている。


「なるほど、甘ったるくて嫌な臭いでしたからね」


そ、そうだったのか。……僕はそこまで嫌な臭いじゃなかったが……。きっと彼らが呪いの対象ではなかったから、異物として嗅覚が正常な反応をしたのだろう。


「ですがあの香水はエヴァン様が送ったものだと彼女は言ってましたよね?」


着替えを終え、急ぎ廊下へ歩き出す私にルイが尋ねる。


「ああ。それが本当なら彼女も()められたんだ。けど影たちがそれを信じるとは思えない。僕が贈ったとされる手紙もほとんど燃やしてしまったらしいし」


一部の手紙は残されているというが、それがどんな内容なのか分からない。

僕が香水を贈ったと明言される言葉が綴られていれば、少なくとも呪いに関しては彼女は無罪であるという証明になるだろう。


その場合は僕の自作自演ということになってしまうが、時間さえかければ手紙が偽物であることに辿り着く。

父にもきちんと説明すれば、少なくとも聞く耳は持ってくれる。


「エヴァン様、もしかしてこれから馬で男爵領に向かうつもりですか!?」


僕が乗馬用のブールを履いていることに気づき、ルイが驚いたように言った。


「そうだけど」


「ちょ、ちょっと待ってください、すぐに馬車を手配しますから」


「しなくていい。御者たちも休んでいる時間だ。彼らの準備を待っているヒマはない」


時計の針は夜の10時を回っている。

御者たちのほとんどが酒を呑んで騒いでいるか眠っている頃だろう。


「明日ではダメなんですか? 審問会に間に合えば良いのでは?」


「……嫌な予感がするんだ」


男爵領に捕らえられている、というのが気になる。

今回は王家が直接動いて見つけた容疑者だ。なら尋問するにしてもまずは王都に連行するはず。


男爵領に留まっているのがおかしいのだ。

影は、もう夜だから更迭は明日にする、と言い出すような連中ではない。


もしかしたら……、王族が呪いにかけられていたという不名誉な事実を隠蔽するために、

ろくに調査もせず容疑者を片っ端から秘密裏に処刑する、なんて可能性もゼロではないのだ。


父である国王がそのような命令をするとは思えないけれど、王の周りには様々な思惑を持つ者たちがいる。

すべてを父が把握しているわけではない。


「分かりました……。でも夜道で馬を手繰るのは危険ですから、私が先導するので十分注意して付いてきてください」


「ああ、頼む」


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