第6話
*✤*✤*✤*✤*✤
城に戻ると、すぐに国王陛下との約束を取り付けた。
影たちの件で話を聞きたかったからだ。
王家の影を動かせる者は限られる。
しかも影は国王直属の部隊であるから、通常なら王の知り得ないところで彼らが動くことは無い。
「待たせたな、エヴァン」
執務室でひとり待っていると、父である国王陛下がやってきた。
「父上、すみませんお忙しいのに」
「いや、お前と二人で話をするのは久々だからな。かまわないさ」
どことなく嬉しそうに父が言った。
「呪いに関することで何か分かったのか?」
向かいのソファに腰掛けながら王が言った。
「えーと、実は……」
ここにくるまでの間に迷ってはいたのだが、僕は結局ロザリアとの出来事をすべて話すことにした。
いずれ誰かの調査で明るみに出るのであれば、僕の口から直接伝えてしまった方が早いし、ロザリアのこともフォローできる。
それにロザリアの安全を考えるとあまり時間はかけたくない。
まずは父から何とか協力を得たいのだ。もちろん、影たちを動かしているのが父ならば意味はないが……。
「……なるほど、件の男爵令嬢か……うーむ」
父は話をすべて聞き終わると、ぐうっと唸り腕組みをした。
「誰かによって踊らされていたようです。ロザリアも……僕も」
「……呪いが香水によるものというのは間違いないのか?」
「断言は出来ません……。可能性は非常に高いですが、肝心の香水をまだ見つけられていませんので」
「そうか。……くどいようだが、その令嬢の自作自演ということでは無いのだな?
ひょっとしたらお前を欺いているだけかもしれんぞ?」
「当初はそれも考えましたが、それなら王家の影たちの動きが説明できません。
あのとき彼らは証拠になる物や人物を処分するために動いていたというのが僕の考えです」
影たちの動向により話に真実味がある。
王もロザリアの自作自演をそれほど疑っているわけではなく、あくまで念の為に確認したといった様子だ。
「そうだな……。影たちのことだが、確かに先日動きがあったようだ。しかし私の方に話は来ていない」
「父上の許可なく影を動かせる人物は誰です?」
その質問に、王は片手を額に当ててうなだれた。
「……。アデライードだけだ」
「母上……ですか?」
「そうだ。お前の話がすべて事実だとすると、呪いを放っていたのは王妃アデライードということになる」
脳裏に、前の人生で失敗した私を冷たく見下ろす母の顔が浮かんだ。
「……理由が分からないのですが……」
「あくまで推測だが、弟のアルベルトを王にしたいのかもしれん」
小さな頃から弟びいきだったのは記憶している。
しかし僕を失脚させてまで弟に王位を譲りたいのだとしたら……。ショックだな。
「いずれ伝えようと思っていたが……あれはな、お前の本当の母親じゃないんだ」
「は? そ、そうなんですか?」
「お前の母は私の前妻だ。流行り病で死んでしまったが、アデライードはその後に嫁いだのだ」
「アルベルトは彼女の子供ですか?」
「そうだ。お前たちは腹違いの兄弟になる」
ここに来て意外な事実が重なり、なんだか頭痛がしてきた。
「アデライードにとって実子はアルベルトだけ。
だからお前を失脚させて我が子を王にしようとするならば、一応話の筋は通る……」
「私にとってはかなりキツイ動機ですが……」
「あくまで推論だ。すべては仮定の話ゆえ、本人に直接尋ねてみるしかあるまい……」
それが最も早いだろう。
同じ城の中に彼女もいるのだ。王妃を呼ぶため、父が立ち上がった。
「お待ちください」
そこへ、どこからか冷たい声がした。
僕と父しかいないはずの部屋だ。父が怪訝な表情で声の主を探す。
すぐに声の主を見つけた。
父のすぐ背後に、全身黒をまとった男が佇んでいたからだ。
「父上!」
とっさに叫ぶと、僕の視線を辿って父も男を見つけた。
同時に男の腕が父の首に絡まる。
「……ラ、ランス! っ貴様ぁ!!」
「お静かに願います、国王陛下」
男に見覚えはないが、身にまとう服装から、おそらく王家の影だろうと推測する。
「おい。影がなぜ主人を害するのだ?」
刺激しないように、しかし毅然と問いかける。
「いえいえ、私の主人から指示を受けておりましてね。国王に気づかれたときは、すみやかに対処せよ、と」
「気づかれたとは……、母上が呪いを放っていたことを言っているのか?」
「ええ、そうです」
男は、主人が王妃であることを隠そうともせず答えた。
「なぜ国王ではなく王妃に従う?」
「我々が仕えているのは王家です。国王より先に王妃殿下からの指示があったというだけのこと」
「最終的な権限は国王じゃないのか?」
「違います。王室規定に基づき、王妃殿下と国王陛下は同等の権限を保有しています。王族内で命令が異なる場合、最初に命令を下した方を優先する決まりになっています」
誰だ、そんな問題だらけのルールを決めたのは……。
せめて、王族を害してはならない、くらいの決まり文句は入れるだろ……。
「それに、王妃様のご計画だとこの方は近々、王ではなくなります」
「!? ……待て、何を言ってる」
「しゃべりすぎました……。とりあえず……引いていただけますか? エヴァン王太子殿下」
「このまま父を放っておけるわけないだろ!!」
「いえ。引いてください。さすがに王族が二人も同時にいなくなれば国が混乱します。あなた様は王になれませんが、それを許容する限りお命までは取りません。引いてください」
「エ、エヴァン……」
首をしめられながら、父が苦しげにつぶやく。
「私は……いい、この者の言う通りだ……部屋から……出ていけ」
「ダメです! 父上!!」
そのとき、背後から気配がして、ぬるりと短剣が首元に伸びてきた。
影は一人ではなかった。
「陛下のお言葉を聞き入れるべきです。何も見なかったことにしてください」
「頼む……父上を放してくれ。玉座を渡せば良いのだろう? 命まで取る必要はない……」
「もちろん、しばらく監禁するだけで命まで取ることはありません。我々は、ですが」
その口ぶりだと、まるで他の誰かが命を奪うことは容認しているようだ。
「……いいでしょう。ご自分で出ていかないのでしたら、強制的にご退出いただきます」
男がそう言うと、背後から衝撃が訪れた。そのまま視界が暗転し、意識が遠のく。
*✤*✤*✤*✤*✤
ぼんやりとしたまどろみの中で、夢を見た。
前の人生で歩んだ光景だ。
卒業パーティの後に廃位され、男爵領に押しやられた頃の夢。
しかしそれは、夢というにはあまりに生々しく鮮明なものだった。
僕はまるで鳥になったように空に浮き、僕自身を含めた人々を空から見下ろしている。
不思議なことにその世界で僕は自由に飛び回れる。
男爵領に着き、絶望の顔で馬車から降りる僕自身を置いて、王城へと飛んでいく。
「廃位など重すぎます! なぜそのような処罰を?」
王城の一室でアルベルトの声がした。
いつの間にか僕は部屋にいる。そこにはアルベルトと母アデライードがいた。
「公爵家の令嬢をたばかったのですから、当然の処遇でしょう?」
「それでも……! 王位継承権まで剥奪するのはやり過ぎではないですか? 私は……ただ兄に反省してほしかっただけです、これではまるで……」
「まるで意図して兄を玉座から追いやった……ということかしら?」
「っ……、私はこのようなことを望んでいません!」
「どのみち決まったことよ。公爵令嬢を差し置いて夢中になっていた男爵家の娘と結ばれるのだから本望でしょう。あなたが気に病むことはないわ。それとも、あなたより兄の方が国王にふさわしいとでも?」
「……そういうことではありませんが……」
「ならばいいじゃない。あのような短絡的なことをする人が王になれば国が傾くわ。あなたが王となり、ソフィアさんが影で支える。それで良いのではなくて?」
「…………」
アルベルトは悩み、それでも答えを出せず苦しんでいるようだった。
もっとすんなりと弟が王位を継いだのかと思った。けど、僕が知らないだけで弟なりの葛藤があったのだ。
「父上は何と言っているのです? 廃位を認めるとは考えられないのですが…」
「ああ、テオドールなら体調を崩しているわ。今回のことで自分の見る目がなかったことに気づいて、思わず熱でも出したのではなくて?」
「父上が……? そうですか……」
やがてアルベルトが部屋を出ていくと、王妃の傍らには一人の男が立っていた。
どこかで見た顔……そうだ、父上の背後にいたあの男だ。
「ランス、呪いが効いてるのかしら?」
「はい。さきほどご様子を見てまいりましたが、だいぶ弱っていらっしゃるようです。長くは持たないかと……」
「あまり早く死なれると困るわ。周りの貴族たちに第一王子を国王に担ぎ上げられたら困るもの。1年ほど時間をかけて地盤を固め終わった後で死ぬように調整して。できるわよね?」
「仰せのままに」
父は病死じゃない? 母とこの男の手によって殺されたということか?
何と恐ろしい……。
母上、いやアデライードがすべて仕組んだことなのだ。
いつの間にか場所が変わっている。
ここは公爵家の屋敷で、ソフィアとアルベルトがバルコニーで夜風にあたっている。
「……それではエヴァン様が廃位され、アルベルト様が王を継がれることになったのですか?」
「ああ。僕はそんなことまでは望んでなかったけど……、どうやら決定事項らしい」
「エヴァン様はどうされているのですか?」
「あれから一度も会ってないよ……。すぐに男爵領に婿入りが決まって城を出てしまったからね」
「もう、出ていかれたのですか……?」
ソフィアが驚きの声をあげる。
「あっという間さ。第一王子派の者たちが良からぬ企てを起こす前に、男爵領に追いやりたかったんだろうね。母上は……」
「アデライード様が?」
「うん。彼女が一番、僕を王にしたがっているように見えるよ。
今回のことで兄にずいぶん失望していたみたいだから。
それに、王位継承には貴族たちの利権も絡んでくる。
今回のことでゴタつけば王の権威も揺らぐし、仕方がなかったんだ」
「そう……ですか」
「悲しいかい?」
「え? ……いえ、そんなことは。なぜです?」
「僕は……。少しだけ、いや本当はかなり、兄に嫉妬していたんだ。……君のような素晴らしい婚約者がいることにね」
「アルベルト様……。……ふふ、でも私の婚約は白紙に戻ってしまいましたわ」
「その件なんだが……その……」
「何でしょう?」
ソフィアが優しく微笑むと、アルベルトがその場に跪き、ソフィアの顔を見つめる。
「僕と、結婚してくれないか? 僕は君より年下だけど、兄のような間違いはおかさない。きっと、あなたを幸せにしてみせます」
「……私で良いのですか? 浮気されて出戻った女ですよ?」
「君の魅力に気づかないなんてどうかしてる。僕は、君がいいんだ。どうかな?」
「……はい。私でよろしければ、あなたの妻にしてくださいませ」
「ソフィア……」
「アルベルト様……」
ふたりが手をとり見つめ合う。
不思議と、彼らを祝福する気持ちだけが沸き起こった。
数十年生きた人生で、僕の心はとうにソフィアから離れていた。
いや、もともと愛情なんて無かったのかもしれない。
彼女は親の決めた許嫁であり、それ以上でもそれ以下でも無かった。
きっと彼女にとって僕も同様だろう。
そんなソフィアが本当に愛せる人に出会い、その相手が心優しき弟なのだから、
僕にとって心から喜ばしいことだった。
再び場所が変わる。
見たことのない教会だ。
周囲には森林が広がっているから、王都から離れたどこかの領地だろう。
教会に集まった人々は悲しみに臥せり、
祭壇には2つの棺が置かれていた。
棺の蓋は開いており、花束に囲まれた亡骸が丁寧に収まっている。
ルイとフェルディだった。
「まだ若いのにねぇ……」
葬儀の参列者たちがつぶやく。
「こちらに帰る途中、馬車が事故に遭ったそうよ……」
「普段なら道が崩落するなんてこと無いのに……、なんて不運なのかしら……」
彼らは学院を卒業してすぐに死んでいたのだ。
僕はそんなことも知らず、それどころか彼らを思い出すことさえ無かった。
忠実な側近であった彼らは、王妃が嫌がる第一王子派の筆頭ともいえる。
偶然でないならこれは、王妃、あるいは王家の影が絡んでいるんだろう。
王族内の争いが原因で、ふたりは若くして命を失うことになった……。
深い悲しみが、胸に渦巻いた。
再び男爵領へと戻ってくる。
空から見る僕は、呆けたようにソファに腰掛け、ぼんやりと外を眺めていた。
無気力で、視線は虚ろだった。
その隣で、必死に僕に話しかける者がいる。
ロザリアだ。
「エヴァン、今日はお天気も良いですよ。たまには一緒にお出かけしませんか?
先日お話した泉をエヴァンにも見せたいの」
彼女は微笑んでいた。
何の反応も示さない僕に向かって、その日の出来事や、男爵領にある自然豊かな泉のことを語っていた。
記憶にない光景に困惑する。
記憶の中の彼女は、結婚後に口も聞いてくれず、冷たい表情を浮かべているだけの女性だった。
しかし今目の前にいるのは、無視を決め込んだように反応を見せない僕に対し、必死に笑顔を作る健気な女性だった。
ロザリアの両親は僕に呆れ、怒りを向けていた。
まともに口もきけず領地運営につゆほどの興味も抱かない私に対し、毎日のように悪態をついていた。
それをロザリアが必死にかばう。
「王都で色々あってまだ調子が戻っていないのよ。
いずれ時間が経てばもとの彼に戻るわ。もう少し待ってあげて」
しかし、義両親は次第に僕に暴力を振るうようになる。
僕をかばうロザリアに対しても。
ああ……やめてくれ。僕はいい。こんな死にぞこないのような男なら好きなだけ殴ればいい。
けどこんな男をかばう優しい人にまで手を出さないでくれ……。
やがて義両親は長期間家を空けるようになった。
旅行に出かけているらしい。それまでしばらくは王族の子を預かったことで自粛していたのだろう。
旅先で湯水のように金を使い豪遊する光景が見えた。
王家からかなりの支度金をもらったのかもしれない。
一介の貴族にしては度が過ぎる金遣いの荒さだ。
義両親がいなくなったことで、僕やロザリアへの暴力は無くなった。
ロザリアと僕はふたり慎ましく暮らしていた。
間もなく彼女の両親は、旅先で流行り病にかかり、あっけなく死んだ。
冷たくなった彼らを迎え入れ、ささやかな葬儀を行う。
ロザリアは気丈に振る舞っていた。
未だ無気力な僕に変わり、必死に領地運営に取り組んだ。
しかし、そこには問題があった。
決定的な財政難だ。
両親が残したのは財産どころか多額の負債。
王家の用意した支度金もとっくに底をついていた。
そして矢継ぎ早に届く借金の催促状。
ロザリアは僕に何度も相談を持ちかけた。
王家から何とか援助をもらうことは出来ないかと。
「僕はもう王家に関係ないよ」
ぼんやりとしながらもそう言って首を横にふるのを見て、彼女も諦めたようだった。
ロザリアは貸付を行った貴族のもとにひとりで出向いた。
返済を待って欲しいこと。そのうえでさらに資金を融通して欲しいことを伝えるために。
相手の貴族は、条件を飲めば追加の融資もやぶさかではないと言った。
その条件とは、彼女の体だ。
……やめろ!
ロザリア、だめだ……!
彼女は覚悟を決めていた。
自分がどれほどの辛酸を舐めようと、領地と僕を守り抜くと。
ロザリアは美しく気高かった。
だから、貸付を行った複数の貴族が一様に彼女に肉体を差し出せと迫っても、
決して弱音を吐くことは無かった。そして誰も見ていない屋敷の自室で泣いていた。
そのときの僕は彼女の苦しみも知らず、ただぼんやりと死体のように生きていた。
呪いに蝕まれ、思考も持たず、ただ過去の後悔と自分の不幸を憂いてばかりいた。
あるとき、彼女が僕に贈り物をくれた。
財政難な領地を何とかやりくりしながら貯めた金で買った、高価な万年筆だ。
僕のもとを尋ねる際、彼女はいつも香水をまとっていた。
自室の引き出しから大切そうに小瓶を取り出し、首筋や手に丁寧にこすりつける。
ああ僕はどうして思い至らなかったんだろう。
彼女はこの香水を、僕が贈ったものだと思い込んでいるのだ。
その香水をどんなときも纏っていたという事実が何を意味していたのか。
なぜ気づくことができなかったんだろう。
皮肉にも、彼女の行為は呪いの原因となって僕から理性を奪い、ますます彼女を孤独にしていく。
彼女はもう笑うことが出来なくなっていた。
あまりに多くの苦痛が彼女を襲い、笑顔を奪っていたのだ。
今の僕にはそれを眺めているしか出来ないなんて、これほど残酷な罰をほかに知らない……。
「エヴァン。……誕生日おめでとう」
小さな声でそう言って、ロザリアがプレゼントの箱を渡す。
僕は驚いたように目を丸くし「ありがとう」と言った。
箱を開けて万年筆を取り出すのをロザリアはじっと眺めていた。
久しぶりに笑顔を見せる僕を見て、ロザリアも微笑んでいる。
そして聞き取れないくらいの声で呟いた。
「エヴァン。あなたはどうか、幸せになって」
残念ながらそのときの僕の耳には届いていなかった。
彼女は涙を隠すように後ろを向いて、足早に部屋を出ていった。
僕が視線を彼女に向けたとき、見えたのは後ろ姿だけだった。
そして彼女が死んだ――
貴族の男に体を差し出し、歯を食いしばって耐えていたところへ、貴族の奥方がやってきたのだ。
激昂した奥方は兵を呼びつけ、ロザリアを斬り殺した。
貴族の男がヘラヘラ笑い許しを乞う中、裸の彼女の遺体はいつまでも床に置き捨てられていた。
憎い……。
この貴族の男ではない。
ロザリアを殺した兵士でもない。
彼女の両親でも、呪いを贈った王妃でもない。
……彼女のことを何も知らなかった自分自身が憎い。
自分の世界に引きこもり、ロザリア一人に苦しみを背負わせてしまった。
どこかの貴族と浮気していると思っていた。
その結果死んだのだから自業自得なのだと、事情を調べもしなかった。
屋敷に残った負債は彼女の散財によるものと決めつけていた。
もっと早く王家に助けを求めていたら……。
彼女と向き合っていたら……。
確かに僕は、呪いによって理性を奪われていた。
……だから何だというのだ。
自分自身を許す免罪符になど、なりはしない。
君のことを何も知らず、想いに応えることもなく、安穏と生き、そして死んだ……。
すまない……ロザリア。
*✤*✤*✤*✤*✤
薄暗がりで目覚めると、頬が濡れていた。
「夢……なのか?」
掌を見つめつぶやいた。
ぼんやりと記憶が蘇る。
執務室で父が影たちに捕らえられ、直後に僕は気絶させられた。
長い時間見ていたあの夢は……決して夢なんかじゃないのだろう。
過去に戻る以前の未来で実際に起っていたことだ。
それを、僕を過去に戻した存在が見せてくれたのだ……。
呪いに関して事情は分かった。
王妃と影の男が組んで僕を追いやったことも、父を死なせようとしていることも。
だからまずは、それを何とかしなければ。
このままでは父は死に、ルイやフェルディまで殺される。
今回の未来ではロザリアも影たちに追われる身だ。
立ち上がり、辺りを見渡す。
ここは幽閉塔のようだ。
どうしたものかと窓辺の格子に手を置くと、1羽のカラスが降り立った。
足元を見ると手紙が巻き付いている。
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