第24話
アルベルトは、ルイ、フェルディと共に城の上層階まで来ていた。
途中で何人かの「王家の影」と出くわしたが、ことごとくルイとフェルディによって制圧された。
「君らはずいぶん武芸に通じているんだな……」
なかば呆れたようにアルベルトが言う。
「エヴァン様をお守りするためですから。昨夜は不意打ちでやられましたが、正面からなら負けませんよ」
そういって力こぶを作って見せるルイとフェルディに、アルベルトが微笑む。
「素晴らしい仲間を持っているのだな、兄上は」
彼らの通った道すがらには幾人もの黒衣の者たちが倒れ込んでいた。
アルベルトが城の使用人たちに事情を伝え、倒れているひとりひとりを縄で縛り付ける。
影たちはもともと数は多くない。
おそらくこれで全部……残っていても一人か二人だろうというのがアルベルトたちの見解だった。
「談話室を抜ければ父の寝室だ」
そう言ってアルベルトが扉を開く。
三人はそこで立ち止まった。
「困った子ね……」
室内にはアルベルトの母である王妃と、影の筆頭であるランスが待ち構えていた。
「母上……。道を譲っていただきたい」
「なぜ?」
「国王陛下のもとに行くためです。あなたが幽閉しているのでしょう?」
「まだ夜が明けたばかりよ? テオドールは就寝中。幽閉なんて人聞きの悪いことを言わないでちょうだい」
「父は城で一番の早起きです。夜が明けたのですから目覚めているはず。さあ、そこをどいてください」
アルベルトが前に進み出ると、両脇からルイとフェルディも前に出る。
「そちらの二人はエヴァンの部下ではなくて? いつの間に取り込んだのかしら」
面白そうに王妃が笑う。
「彼らは兄上に忠誠を誓い、兄上のために動いてくれている。私とは、共闘した仲間であり友だが、その絆は兄上に及ぶはずもない」
「あの子をずいぶん買ってるのね。……でもね、私はあなたを王にしたいの。そこにあなたの意志がなくても構わない。この母のために、あなたは王にならなければいけないのよ」
「しかるべき者たちの判断において、私が王を継ぐべきという声があれば、従いましょう。しかし……呪いを使い大切な家族を蹴落としてまで得る玉座など、私は欲しくないのです」
「あなたは若いから、そう思うだけよ。いずれ私のしたことが正解だと分かる。いずれね……」
そう言うと王妃は、ちらりとランスの方へ目をやる。
ランスはいつの間にか窓辺にもたれかかり、静かに城下の様子を観察していた。
「ランス。もういいわ。アルベルトを捕まえてちょうだい。エヴァン王子のお友達は……処理方法はまかせるわ」
羽のついた扇子で自身を仰ぎながら王妃が言った。
アルベルトたち三人が緊張したように身構える。
だが、ランスは窓辺から動かなかった。
「……ランス。聞こえているの?」
少し苛立った声で王妃がランスを呼ぶ。
「……はい、聞こえております、王妃様」
ゆっくりとランスが窓の外から室内へ視線を移す。
「王妃様、残念ながらもう、ご命令を聞くことはできないようです」
一瞬、何を言われたか分からないというように、王妃は扇子を動かす手をぴたりと止めてランスを凝視した。
「城下を見てください。公爵様の兵と王国の騎士団が王妃様の直下兵と戦っています。あちらの方が数が多いので、こちらの兵は圧倒的に不利……というかもう負けていますね。公爵様たちが兵とともに城に入ってきます」
「……何を言ってるのよ!」
そう言って王妃が窓辺に歩み寄り城下を覗き込む。
ランスの言う通り、今は片手で数える程になった王妃の近衛兵の相手をするために僅かな騎士を残し、大勢の兵たちが城へなだれ込んでくる様子が見えた。
「馬鹿なっ……!! ランス、あなたエヴァンはどうしたの!? 捕まえて人質にするという話だったでしょう?」
「一晩中探しました。王都の中をくまなくと。その証拠に彼の部下であるそこの二人は捕まえてまいりましたでしょう? ……もっとも、檻からは逃げ出してしまったようですが」
「何を悠長なことを言っているのよ、あなたは!」
「公爵様がこれほど迅速に動いているということは、エヴァン様は公爵家の庇護下にあったご様子。どうりで見つからないはずです」
焦りを隠さない王妃と対象的に、ランスは落ち着いて答える。
それは王妃にとってこのうえなく腹立たしいものだった。
「しっかりしなさい!ランス! さっさと私をこの城から逃がすのよ!! それともあの人数と戦えるの? 捕まったら私もお前も終わりなのよ!」
「ご冗談を。終わりなのはあなただけですよ、王妃様」
「……なに?」
持っていた扇子を落とし、王妃が後ずさる。
その様子を、戸惑うように三人が見つめる。
「どういうことよ、私だけが終わり? だってあなたも……」
「私は王家の影です。命令に従うのみで、善悪を判断することはありません。命令遂行が私の唯一すべきことです」
「……お前は第二王子派として動いたのよ。あいつら……第一王子派が政権を握れば……」
「関係ありません。私は王家の道具でしかないのです。殺人者の使ったナイフに罪を問う者などいないでしょう?」
「くっ……、な、なら私の命令に従いなさい! 王家の道具なのでしょう?」
ランスは王妃を真っ直ぐに見つめて言った。
「アデライード様。今日をもってあなたはもう、王族では無くなるのですよ」
「ウソよ!!!」
取り乱す王妃と、影の男のやり取りを、アルベルトたちはなすすべなく見つめていた。
そのうちに階下が騒がしくなる。
公爵兵と王国の騎士たちが迫ってきている音だ。
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