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第16話


城に戻ると、すぐに国王陛下との約束を取り付けた。

影たちの件で話を聞きたかったからだ。


王家の影を動かせる者は限られる。

しかも影は国王直属の部隊であるから、通常なら王の知り得ないところで彼らが動くことは無い。


「待たせたな、エヴァン」


執務室でひとり待っていると、父である国王陛下がやってきた。


「父上、すみませんお忙しいのに」


「いや、お前と二人で話をするのは久々だからな。かまわないさ」


どことなく嬉しそうに父が言った。


「呪いに関することで何か分かったのか?」


向かいのソファに腰掛けながら王が言った。


「えーと、実は……」


ここにくるまでの間に迷ってはいたのだが、僕は結局ロザリアとの出来事をすべて話すことにした。

いずれ誰かの調査で明るみに出るのであれば、僕の口から直接伝えてしまった方が早いし、ロザリアのこともフォローできる。


それにロザリアの安全を考えるとあまり時間はかけたくない。

まずは父から何とか協力を得たいのだ。もちろん、影たちを動かしているのが父ならば意味はないが……。


「……なるほど、(くだん)の男爵令嬢か……うーむ」


父は話をすべて聞き終わると、ぐうっと唸り腕組みをした。


「誰かによって踊らされていたようです。ロザリアも……僕も」


「……呪いが香水によるものというのは間違いないのか?」


「断言は出来ません……。可能性は非常に高いですが、肝心の香水をまだ見つけられていませんので」


「そうか。……くどいようだが、その令嬢の自作自演ということでは無いのだな? 

ひょっとしたらお前を欺いているだけかもしれんぞ?」


「当初はそれも考えましたが、それなら王家の影たちの動きが説明できません。

あのとき彼らは証拠になる物や人物を処分するために動いていたというのが僕の考えです」


影たちの動向により話に真実味がある。

王もロザリアの自作自演をそれほど疑っているわけではなく、あくまで念の為に確認したといった様子だ。


「そうだな……。影たちのことだが、確かに先日動きがあったようだ。しかし私の方に話は来ていない」


「父上の許可なく影を動かせる人物は誰です?」


その質問に、王は片手を額に当ててうなだれた。


「……。アデライードだけだ」


「母上……ですか?」


「そうだ。お前の話がすべて事実だとすると、呪いを放っていたのは王妃アデライードということになる」


脳裏に、前の人生で失敗した私を冷たく見下ろす母の顔が浮かんだ。


「……理由が分からないのですが……」


「あくまで推測だが、弟のアルベルトを王にしたいのかもしれん」


小さな頃から弟びいきだったのは記憶している。

しかし僕を失脚させてまで弟に王位を譲りたいのだとしたら……。ショックだな。


「いずれ伝えようと思っていたが……あれはな、お前の本当の母親じゃないんだ」


「は? そ、そうなんですか?」


「お前の母は私の前妻だ。流行り病で死んでしまったが、アデライードはその後に嫁いだのだ」


「アルベルトは彼女の子供ですか?」


「そうだ。お前たちは腹違いの兄弟になる」


ここに来て意外な事実が重なり、なんだか頭痛がしてきた。


「アデライードにとって実子はアルベルトだけ。

だからお前を失脚させて我が子を王にしようとするならば、一応話の筋は通る……」


「私にとってはかなりキツイ動機ですが……」


「あくまで推論だ。すべては仮定の話ゆえ、本人に直接尋ねてみるしかあるまい……」


それが最も早いだろう。

同じ城の中に彼女もいるのだ。王妃を呼ぶため、父が立ち上がった。


「お待ちください」


そこへ、どこからか冷たい声がした。

僕と父しかいないはずの部屋だ。父が怪訝な表情で声の主を探す。


すぐに声の主を見つけた。

父のすぐ背後に、全身黒をまとった男が佇んでいたからだ。


「父上!」


とっさに叫ぶと、僕の視線を辿って父も男を見つけた。

同時に男の腕が父の首に絡まる。


「……ラ、ランス! っ貴様ぁ!!」


「お静かに願います、国王陛下」


男に見覚えはないが、身にまとう服装から、おそらく王家の影だろうと推測する。


「おい。影がなぜ主人を害するのだ?」


刺激しないように、しかし毅然と問いかける。


「いえいえ、私の主人から指示を受けておりましてね。国王に気づかれたときは、すみやかに対処せよ、と」


「気づかれたとは……、母上が呪いを放っていたことを言っているのか?」


「ええ、そうです」


男は、主人が王妃であることを隠そうともせず答えた。


「なぜ国王ではなく王妃に従う?」


「我々が仕えているのは王家です。国王より先に王妃殿下からの指示があったというだけのこと」


「最終的な権限は国王じゃないのか?」


「違います。王室規定に基づき、王妃殿下と国王陛下は同等の権限を保有しています。王族内で命令が異なる場合、最初に命令を下した方を優先する決まりになっています」


誰だ、そんな問題だらけのルールを決めたのは……。

せめて、王族を害してはならない、くらいの決まり文句は入れるだろ……。


「それに、王妃様のご計画だとこの方は近々、王ではなくなります」


「!? ……待て、何を言ってる」


「しゃべりすぎました……。とりあえず……引いていただけますか? エヴァン王太子殿下」


「このまま父を放っておけるわけないだろ!!」


「いえ。引いてください。さすがに王族が二人も同時にいなくなれば国が混乱します。あなた様は王になれませんが、それを許容する限りお命までは取りません。引いてください」


「エ、エヴァン……」


首をしめられながら、父が苦しげにつぶやく。


「私は……いい、この者の言う通りだ……部屋から……出ていけ」


「ダメです! 父上!!」


そのとき、背後から気配がして、ぬるりと短剣が首元に伸びてきた。

影は一人ではなかった。


「陛下のお言葉を聞き入れるべきです。何も見なかったことにしてください」


「頼む……父上を放してくれ。玉座を渡せば良いのだろう? 命まで取る必要はない……」


「もちろん、しばらく監禁するだけで命まで取ることはありません。我々は、ですが」


その口ぶりだと、まるで他の誰かが命を奪うことは容認しているようだ。


「……いいでしょう。ご自分で出ていかないのでしたら、強制的にご退出いただきます」


男がそう言うと、背後から衝撃が訪れた。そのまま視界が暗転し、意識が遠のく。




お読みいただきありがとうございます。

面白いと思ったら評価をいただけると嬉しいです。

毎日19時頃に更新予定です*

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