学生生活
「ほれほれ、凄いだろう湊!」
「ヨーヨーを自分の手足みたいに扱えるなんて、流石姉さん。服もセーラーだし、スケバン刑事みたいだね」
「うむ、湊は古い特撮番組だというのに、よく覚えているな。関心感心」
「う、うん……(姉さんと一緒にレンタルしてきたのは大体見てたからね)」
先日のモンスターハザードの騒動も落ち着き、今はいつも通りの日常に戻っている。
住民達も慣れた物で、何事も無かったかのように翌日には出社するのだから、逞しいものだ。
まぁ姫路市だけでなく、どこの都道府県、市町村でも起こりうる事だ。
対策は国や県が主軸となって行っているし、私が口を出す事でもない。
そも、私は魔王ぞ。人助けをする魔王など、前世のあやつらに知られたら絶対に笑われる。
「姉さん。僕の学校は今日休みだけど、姉さんの学校は今日あったよね? ゆっくりしてて時間大丈夫?」
「おっと、もうそんな時間か」
テレビでは子犬がじゃれているシーンが流れている。大体朝の7時55分から約5分間だけ流れるのだが、私は毎日これを見てから登校している。
占いもあるのだが、そっちに興味は無い。
「では行ってくる湊。私が居なくても良い子にしているのだぞ」
「うん。あと、僕も最上級生になるんだよ姉さん」
「はっはっはっ。そうだな、湊なら良い模範生になれるだろうな!」
ポンポンと頭を叩くと、湊は照れながらも可愛い表情をして、なにより嫌がらない。
この時間をずっと続けていたくはあるが、遅刻をするわけにもいかん。
湊の姉は不良なんて噂がされでもしたら、湊の人生に影が差すやもしれん。
私は何があっても生きれるが、湊はそうもいかんのだからな。
人間の幸せを享受させてやりたい。
立派な姉として振舞わなければ、魔王が廃るというもの。
「あ、姉さん! 先日はありがとうございましたっ!」
「おぅ」
「姉御っ! ウチが鞄持ちますよっ!」
「おぅ」
「「「揚羽様っ!」」」
「うるさい」
「「「すいませんっ!!」」」
学校に近づいたらこれだ。
なんだか番長にでもなった気分である。
ちなみに最初、鞄を持つのを断ったら泣かれたので、預けるようになった。
この学校には頭のおかしい奴しかおらんのか?
「お、揚羽ちゃんおはよう。相変わらずスケバンみたいだねぇ」
「センセ―、タイが曲がってましてよ?」
「おぐぐぐぐぐっ!! せ、先生が悪かった揚羽ちゃんっ!」
「まったく、お前らが集まってくるから変な噂のされかたしてんだろ、気ぃつけろ」
「「「「「ハイッ!! 揚羽様っ!!」」」」」
一ミリも気をつけそうにない返事を聞いた私は、深い溜息を吐く事になった。
それから席に戻って座ると、すぐにクラスの奴らが集まってくる。
「あーもう鬱陶しい! 散れ、散らんか! 授業が始まるぞ!」
「「「「「はーい!」」」」」
こういう時は従順なんだが、人の話を全く聞かない。
「あ、消しゴム忘れちゃった……」
「ほれ、使え」
「あ……! 揚羽様っ……私これ家宝にしますねっ……!」
「消しゴムだぞ、使え!」
「げ、シャー芯の替えがねぇ!?」
「戯け、普段から鉛筆を使わんからだ。見ろ、この先まで尖った鉛筆を。書きやすさを感じるが良い」
「あ、ありがとう揚羽さん! 俺、これから鉛筆使う!」
「「「「「(揚羽様って普段の言動と行動のギャップが凄いんだよなぁ)」」」」」
そんなこんなで昼食の時間だ。
この学校のお昼は給食センターから運ばれる食事を食べる者と、学食で好きな物を頼む者と、中庭や屋上、教室などで弁当を食べる者の三種類に分かれる。
当然私は湊が作ってくれた愛情弁当があるので、それを片手に持って屋上へと行く。
教室だとワラワラと人が寄って来るので、落ち着いて食べれないからだ。
「揚羽様どこぉ!?」
「一緒に食べましょうよぉー!?」
ほらみろ、また懲りずに私を探している。
弁当くらい一人で落ち着いて食べさせろと言うのだ。
屋上の更に上、梯子はあるが大体の者はここには危ないので来ない。
逆に言えば、私のような者にとってありがたい場所に腰を下ろす。
「どれどれ……おぉー! 湊め、分かっておるな!」
私の大好物のハンバーグに卵焼き、タコさんウインナーにミニトマトが所狭しと並べてある。
板を挟んで詰まっているご飯には、ふりかけがかかっており、食欲をそそる。
「いただきます」
手を合わせてそう言い、箸を片手にハンバーグを一切れ口に運ぶ。
冷めているのに、肉汁たっぷりの味が口の中いっぱいに広がり、幸せを感じる。
「うぅむ、もう湊はいつ嫁に出てもやっていけるな」
正確には夫なのだが、細かい事はどうでも良い。
すぐに弁当を平らげ、寝転がる。
屋上から見る空は、なんというか落ち着くものだ。
「姉御っ!」
せっかくゆっくりしていたのに、屋上の扉が開いたかと思うと、大声で私を呼ぶ声がした。
「ふぅ。なんだ」
「姉御!? 良かった、やっぱここだったんっスね!」
真柴 真人、中三の来年には居なくなる男だ。
私がここに入学する前は、この学校で番長をしていた男と補足しておこう。ちなみに私は番長ではない。
「私の平穏な休み時間を潰すだけの用件なんだろうなぁ?」
「へ、へいっ! 鷹学の奴らが、喧嘩ふっかけてきやがったらしくて……!」
「鷹学? あの学校の奴らは比較的大人しくなかったか?」
「あいつらはセントケルベロスが抑圧してたんで大人しかったっスけど、その、姉御がセントケルベロスを潰して首輪が外れちまったみてぇで……」
「成程な。子犬がキャンキャンと暴れ出したわけか。ったく、仕方ないな。放課後、そいつらの現場に案内しな」
「へいっ! 子分共も集めておきやすっ!」
「要らん。お前だけいればそれでいい真人」
「えっ(トゥンク) それってまさか……」
「私だと中一で締まらんからな。お前は曲がりなりにも最上級生だし、カッコもつくだろ」
「ああ、そういう……(しょぼん)」
怪物どもが現れるような現世でも、人間というのは変わらんな。
私に関わらないのならば、好きにさせておくのだが……湊の住むこの街でオイタをするのは見過ごせないんでな、『分からせ』てやるとしようか。